そのむかし、“刺身は料理か否か”で、友だち数人と議論をしたことがある。

 食事の席でのたわいない会話から生まれた問いだったが、料理で“ある派”、“ない派”に分かれて、みんなで談ずることになった。

 “ない派”の意見は、食材を切るだけで煮たり焼いたりといった加工がされていないから“料理ではない”という理由が主。

 逆に“ある派”は、食材を包丁で切るという技術が加えられているので“料理である”という考えだった。

 ちなみに、ボクは“刺身は料理である”と思っている。魚をいちから捌くことなく、たとえ刺身のサクを買ってきて切るにしても、包丁を入れる角度やその引きかた、また一片の厚さなどによって味が変わるからだ。

 その技術やセンスによる味のよし悪しも含めて、刺身は料理だと思うのである。

 ――だからこそ、料理人は聡明だ。

 料理は手間がかかるうえ体力を伴う作業だが、それ以上に頭を使うことも多い。

 たとえば、さきほどの刺身の話に通ずるが、食材をどのように切って、どの順番で、どう組み合わせれば思いどおりの味に仕上がるか、といった創造力が必要となる。

 また、時間配分を考えて作業をしないと、ときに料理を焦がしてしまったり、煮詰めてしまったりすることも。それゆえに手順や段取りを考える大局観も大切だ。

 そして、料理はトライ&エラーである。細かい失敗をくり返しながら、さまざまな物事を微調整していく判断力が求められる。

 そういう意味では、まさに料理は知的な作業といっても過言ではないのかもしれない。

『シェフライフ レストランシミュレーター』レビュー。本当に料理をしているような感覚になる、料理好き・料理が上手になりたい人に遊んでほしい1本 
大きな食材を運んだり切ったりと、料理人には体力も必要だが、それ以上に頭を使う仕事でもある。

飲食店でアルバイトをしていたころを思い出す、現実味溢れる調理工程の数々

 3gooより、Nintendo Switch版が2023年3月9日に、プレイステーション5、プレイステーション4版が4月13日に発売の本作『シェフライフ レストランシミュレーター』(以下、『シェフライフ』)は、そんな料理人の魅力を、とてもリアルに体験できるシミュレーションゲームだ。

 プレイヤーはレストランを経営するシェフとなり、料理を作って客に提供するだけではなく、食材の仕入れから、店のインテリア選び、テーブルセッティング、はたまた厨房機器の発注や、スタッフの運用まで、多岐にわたって手掛けることができる。
 
 そして日々、店を切り盛りしながら理想のレストランを目指しつつ、ミシュランガイドの星を獲得するのが本作の目的のひとつだ。

 なお、ゲームは調理師学校を卒業したふたりの若者(主人公は男性・女性から選べる)が、自分たちのレストランをオープンする3日前からスタートする。

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右が主人公(男女選択可)、左が調理師学校時代の友だちであるカシム。
『シェフライフ レストランシミュレーター』レビュー。本当に料理をしているような感覚になる、料理好き・料理が上手になりたい人に遊んでほしい1本 
ゲームが進むと共同経営者であるカシムが調理補助としてキッチンをサポートしてくれる。

 まずはチュートリアルも兼ねて、“ステーキ、エシャロットと自家製フライドポテトを添えて”を作ることになるのだが、ここで、料理に詳しい(得意な)人なら、パッと頭のなかに調理工程が思い浮かぶはずだ。

 まず、下ごしらえとして、エシャロットとじゃがいもを洗ってから皮を剥き、エシャロットはみじん切りに、そしてじゃがいもは拍子切りにする。

 そして温めたフライパンにビーフステーキを投入し、そこにエシャロットを和えつつ、火加減に注意しながら両面を丁寧に焼く。途中で入れるスパイスの分量にも注意だ。

 それとは別にステーキソースが必要なら、同時にソース作りも並行して行い、またフライヤーなどで焦がさないようにじゃがいもを揚げてフライドポテトを調理する。

 ステーキ、ソース、フライドポテト、それぞれができたら、皿にきれいに盛り付けて完成だ。

 ゲーム中では、食材を洗う、ステーキソースを作る、といった細かな工程は省かれているものの、それ以外は実際の調理の流れとほぼ変わらない。

 さらに本作では、食材選び(産地や鮮度)から、調理する順番(段取り)、火加減の調整、調味料の分量、そして皿への盛り付けかたまで、すべてプレイヤーの手腕にかかっている。

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“ステーキ、エシャロットと自家製フライドポテトを添えて”のレシピ。必要な食材および調理方法などを詳しく教えてくれる。現実で料理する際の参考にもなる。
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本作では、火加減を始め、スパイスの量、ステーキを裏返すタイミングなどが味のよし悪しの決め手となる。
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味には直接影響はしないが、料理は見た目も大事。皿の種類や盛り付け方法も細かく決めることができる。

 さらには、使い終わった調理器具(このレシピの場合はフライパン)もきちんと洗わないといけない、という部分まで、非常にリアリティーのあるゲーム性に仕上がっている。

『シェフライフ レストランシミュレーター』レビュー。本当に料理をしているような感覚になる、料理好き・料理が上手になりたい人に遊んでほしい1本 
後片付けも含めて“料理”。手際のよい人は料理をしながら調理器具を洗っていく。

 ここまで(チュートリアルを)プレイして、ふと思い出したのは、学生時代に飲食店でアルバイトをしていた体験だ。

 だいぶ前に亡くなってしまったが、筆者の父は料理人兼、飲食店経営者であった(本作の主人公と同じ立ち位置)。都内で、いくつかの飲食店を経営していたのだが、そのうちのひとつにフレンチレストランがあり、高校3年間ずっとそこで皿洗いのアルバイトをさせてもらっていた。

 皿やワイングラスはもちろん、調理器具を洗ったり、はたまた簡単な調理補助として、じゃがいもの皮を剥いたり、エビの背ワタ取りをしたり、そんなことをほぼ毎日のように行っていたのである。

 そのときから、料理人(父ではなく、当時雇われていた料理長)の手際のよさや 頭の回転の速さなどをひしひしと感じており、「料理人ってかっこいいな」と思っていたのだが、実際に本作でシェフの仕事を体験してみると、そのすごさやたいへんさがありありと伝わってきたのである。

料理が上手になりたい人、また料理で人を喜ばせることが好きな人に遊んでほしい1本

 『シェフライフ』は、調理工程の数々が実際のそれに近く、“本当に料理をしている気分”を味あわせてくれるのが最大の特徴だ。

 たとえば、客から複数のオーダーが入った場合、何から先に作るかはプレイヤー次第。

 どの食材から切るか、どの料理から火にかけるか、どのタイミングで調理器具を洗うかなど、段取りを考えつつ、複数の作業を同時にこなさなければならない。

 ひとつの料理を作る工程は、実際の調理過程を簡略化しているとはいえそれなりに多く、メニューによっては店のオープンまえに、ある程度“仕込み(下ごしらえ)”までやっておく必要もある。

 さきほどの“ステーキ、エシャロットと自家製フライドポテトを添えて”で言えば、あらかじめエシャロットとジャガイモをまとめて切っておくことも可能だ。

 なお、下ごしらえした食材は、店がオープンするまで冷蔵庫に入れておかなければいけないのだが、冷蔵庫の容量の関係でいくらでも入れられるわけでなく、より多くの“仕込み”を行いたい場合は、新たな冷蔵庫を購入しなければならない(温かい食材の場合は店のオープンまで保温機に置いておく)。

『シェフライフ レストランシミュレーター』レビュー。本当に料理をしているような感覚になる、料理好き・料理が上手になりたい人に遊んでほしい1本 
あらかじめ切った食材を冷蔵庫で保管。オーダーが入った時点でじゃがいもを冷蔵庫から取り出し、フライヤーで揚げればフライドポテトに。
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レストランのメニューは日々自由に変更することもできる。得意料理でまとめてもよし、高価格のメニューで利益を追うのもよしだ。

 また、レシピによっては、ミキサーやオーブンレンジなど新しい調理機器が必要になり、その都度、経費をやりくりしつつ購入することになる。

 こういう細かい流れや演出も含めて、“本当に料理をしている気分”を味あわせてくれるのだ。

 さらに、料理人兼経営者として、自分が作った料理の評価はもちろんのこと、レストランのサービスのよし悪しまで、プレイヤーの能力やセンスにのしかかってくる。

 たとえ料理の味がよかったとしても、提供するまでの時間が遅ければ客は怒り出してしまいレストランの評判はがた落ちに……。逆に、急いで料理を作ってすぐに出せたとしても、味がまずいと客は離れていく。

 そういった部分をどうやってバランスよく切り盛りしていくかも含めて、遊び応えのある作品に仕上がっている。

 なお、料理人(&経営者)としての評価が上がれば、新レシピが解放され、作れる料理のバリエーションが増えていく。提供できる料理が増えれば客足も増え、店の収入も上がる。収入が上がれば、よりよい食材や、新しい調理機器やレストランの内装に費用を割くことができる、という流れでゲームが進んでいく。

『シェフライフ レストランシミュレーター』レビュー。本当に料理をしているような感覚になる、料理好き・料理が上手になりたい人に遊んでほしい1本 
レストランの内装(椅子やテーブルなど)、テーブルセッティングもお好みどおりに。予算があれば、さまざまな設備を購入することもできる。
『シェフライフ レストランシミュレーター』レビュー。本当に料理をしているような感覚になる、料理好き・料理が上手になりたい人に遊んでほしい1本 
依頼やチャレンジをクリアーするごとで、経験値や資金を得ることが可能だ。

 全体を通して、さまざまなことに目をかけなければならないことが多く、マルチタスクのスキルが求められる本作。

 もしかしたら最初はあたふたしてしまうかもしれないが、経営要素はけっこうゆるくて煩雑さはなく、また料理に関しても“焦げたり煮詰まったりしないモード”や、“いくら料理の提供が遅くても客が怒らないモード”も用意され、ゆっくりと時間をかけて調理に専念することも可能だ。

『シェフライフ レストランシミュレーター』レビュー。本当に料理をしているような感覚になる、料理好き・料理が上手になりたい人に遊んでほしい1本 
プレイヤーの腕まえに合わせて、ゲーム体験をカスタマイズすることもできる。
『シェフライフ レストランシミュレーター』レビュー。本当に料理をしているような感覚になる、料理好き・料理が上手になりたい人に遊んでほしい1本 
なお、食材を仕入れるときは、予算を考えながら仕入先を選ぶ。品質や生産地などが異なり、レストラン(シェフ)の責任性にも関わってくる。

 筆者も含め、世のなかには料理好きな人は星の数ほどいるけれど、本作そんな人たちにぜひ一度触ってもらいたいシミュレーションゲームである。

 最高においしそうに表現された各種食材および料理のビジュアルはもちろんのこと、細かい部分まで再現された調理工程の数々、そして本当に料理をしているような感覚になるゲーム性は、“料理好き”にはハマるはずだ。

 『ザ・シェフ』の味沢匠、『美味しんぼ』の山岡士郎、あるいは『クッキングパパ』の荒岩一味などに、一度は憧れたことのある人には、ぜひオススメしたい1本である。

『シェフライフ レストランシミュレーター』レビュー。本当に料理をしているような感覚になる、料理好き・料理が上手になりたい人に遊んでほしい1本 
シェフのレベルが上がれば、作れるレシピも増えていく。なおメニューのほとんどはフレンチとイタリアンだ。
『シェフライフ レストランシミュレーター』レビュー。本当に料理をしているような感覚になる、料理好き・料理が上手になりたい人に遊んでほしい1本 
ラーメン屋の店主同様、完成した料理を目のまえに腕組みをするシェフ。料理人の腕組みは万国共通か!?

シェフライフ レストランシミュレーター

  • プラットフォーム:Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4
  • 発売日:Nintendo Switch/2023年3月9日発売、プレイステーション5、プレイステーション4/2023年4月13日発売
  • 発売元:3goo
  • 開発元:Cyanide Studio
  • 価格:各5280円[税込]
  • ジャンル:シミュレーション
  • 対象年齢:CERO 全年齢対象
  • 備考:プレイステーション5版はダウンロード専売 PC版はNaconより配信 

※画面写真はすべてプレイステーション4版のものです。

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