2008年に任天堂よりWiiにて発売された、和風ホラーアドベンチャー『零』シリーズの4作目『零 〜月蝕の仮面〜』。そのリマスター版が2023年3月9日にNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)にて発売された。そこで、シリーズ作品すべてに関わり、オリジナル版ではディレクターを担当した柴田誠氏と、本作のプロデューサーを務める深谷裕氏に、今回リマスターにいたった経緯や、本作に込めた思い、さらにはオリジナル版の開発秘話をお話しいただいた。

『零 〜月蝕の仮面〜』プロデューサー深谷氏とオリジナル版ディレクター柴田氏に訊く本作に込めた思いや開発秘話

深谷 裕(ふかやゆたか)

テクモ時代よりさまざまなタイトルに関わり、『零』シリーズなどにも携わる。本作では、プロデューサーを担当。

柴田 誠(しばたまこと)

テクモ時代より『零』を作り続けてきたシリーズの立役者。本作でも、監修役としてさまざまなサポートをしている。

『零 〜月蝕の仮面〜』(Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『零 〜月蝕の仮面〜』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp)

ほぼイチから作り直したビジュアル表現

――『零 〜月蝕の仮面〜』をリマスターすることになった経緯を教えてください。

深谷零 〜濡鴉ノ巫女〜』を制作した際に、大きな反響をいただきました。その中で、さらに過去作をリマスターしてほしいですとか、新作を遊びたいといった声を、世界中からいただき、『零』シリーズのファンがこれだけたくさんいるのだなと、改めて実感できました。そこから、『零』シリーズの『零』らしい魅力をもっと届けたい。そして、海外では発売されなかった『零 〜月蝕の仮面〜』を、海外の人たちにも遊んでほしいという気持ちを込めて、今回リマスターすることに決めました。

――本作の制作チームは、具体的にはどのようなスタッフで構成されているのでしょうか?

深谷『零 〜濡鴉ノ巫女〜』のリマスター版を制作したスタッフが引き続き携わっているほか、『零』シリーズに関わってきたスタッフもいます。新人やガストブランドのスタッフも加わったりしました。基本はテクモ出身やTeam NINJAのスタッフで、ほかのスタッフも入り交じる形でした。

柴田社内にも『零』ファンがいまして、ほかのチームで働いていたけれども、『零』が好きだから関わりたい、というスタッフもいました。

――グラフィックが、オリジナル版よりかなりブラッシュアップされている印象を受けました。

深谷ほぼすべて作り直しに近い形でリマスターしています。3Dモデルはモデリングし直しましたし、テクスチャーもほとんど描き直しに近いです。そのまま使った素材はほぼないかと。

柴田UIなども画面比率16:9向けに変更しています。画面比率は、オリジナル版から16:9には対応していたのですが、発売当時はまだ画面比率4:3のモニターを使用している人も多くて。ですので、どちらにも対応できるように、基本的には4:3に合わせて作っていました。

『零 〜月蝕の仮面〜』プロデューサー深谷氏とオリジナル版ディレクター柴田氏に訊く本作に込めた思いや開発秘話
『零 〜月蝕の仮面〜』プロデューサー深谷氏とオリジナル版ディレクター柴田氏に訊く本作に込めた思いや開発秘話

――全体的な労力は『零 〜濡鴉ノ巫女〜』のリマスターよりもたいへんだったのでは?

深谷実際、そうだと思います。掛けたコストも正直増えています。ただ、それができたのも、皆さんの期待の声や応援があったからです。

――応援の声を届けるのは、やはり大事ですね。操作感はWiiリモコンを使ったオリジナル版と異なりますが、最初から決めていたのでしょうか。

深谷はい。Wiiリモコンはモーションコントローラですから、複数ハードで展開すると決めたからには、別の形に変える前提でした。

――ほかに、リマスター版でとくにここは変更したかったというポイントはありますか?

深谷キャラクター性を出すために、キャラクターのリマスターにはとくに力を入れています。今回、より登場人物たちの性格や個性が、見た目からも伝わるようにしました。また、演出にもこだわっていて、キャラクターたちの顔が歪んだように表示される“咲く”という、本作の物語に関わる要素・演出は、見どころです。

柴田あとは、“音”にも注目してほしいです。当時の技術では、音の表現は少し難しいところがありました。ですが昨今の環境ならば、より音も豊かに表現できるようになりましたので、サウンドの素材自体はほぼ変わらないながらも、聞こえかたが違うので、印象がガラリと変わって感じられるかと思います。

『零 〜月蝕の仮面〜』プロデューサー深谷氏とオリジナル版ディレクター柴田氏に訊く本作に込めた思いや開発秘話

約15年前まで遡るオリジナル版の開発秘話

――オリジナル版の発売後の反響として、どのような声が届いていたのでしょうか?

柴田物語やキャラクターについては手応えを感じていました。その流れで同じシステムを使って『零 〜紅い蝶〜』を作ろう、という話になり、2012年には『零 〜眞紅の蝶〜』と、結果的にはリメイク作が発売されたほどです。

――任天堂さんとタッグを組んで開発することになったのは、どんな経緯があったのですか?

柴田当時、Wiiの開発者向けの試遊会がありまして、単にいちゲーマーとして遊びに行ったんです。そこで任天堂の方から「柴田さんなら、Wiiでホラーゲームを作れるのではないですか?」と言われまして。軽い冗談めいた言葉だったかもしれませんが、実際遊んでみるとホラーと合うなと。怖いゲームを任天堂さんに持っていったら怒られるかな、と思いつつ企画を提出してみたら、意外にも許可をいただけて。それが、任天堂さんとの協力開発の発端になります。

――任天堂の開発協力というのは、どれくらいの密度で関わっていたものなのでしょうか?

柴田オリジナル版当時から、かなり細かくチェックしていただいて、物語やゲームのフィーリングも議論しながら作っていたので、なかなか密な関係でした。リマスター版も、オリジナル版を見てくださっていた方が担当されたので、「オリジナル版ではこうでしたよね?」と、鋭い指摘をしていただくこともありました。

――なるほど。それまでのシリーズ作は、基本俯瞰視点でしたが『零 〜月蝕の仮面〜』からは、主人公の背後にカメラがある、ビハインドビューが採用されました。思い切って視点を変更しようと思った理由はあるのでしょうか。

柴田もともと俯瞰視点を採用していたのは、日本家屋の写真を眺める楽しさのような要素をゲームに落とし込みたかったからです。『零 〜月蝕の仮面〜』は、懐中電灯で照らしながら進む、体感的ホラーを表現したかったので、体感するならばキャラクターの背後であるべきだろうと判断しました。ただ、そのまま背後の視点で『零』シリーズらしく日本家屋を舞台にすると、視点が高すぎるという問題点がありました。日本家屋は床座りがメインですから、物も床に近くて、見てほしいものを見てもらえなくなるんです。ですので、和洋館の形にしました。

『零 〜月蝕の仮面〜』プロデューサー深谷氏とオリジナル版ディレクター柴田氏に訊く本作に込めた思いや開発秘話
『零 〜月蝕の仮面〜』プロデューサー深谷氏とオリジナル版ディレクター柴田氏に訊く本作に込めた思いや開発秘話

――遊びをひとつ作ったところから、物語の舞台設定まで決まっていったんですね。

柴田ちなみにですが、本作のシナリオにも関わっている、グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一さんのひと声も、要因です。あるとき須田さんとお話する機会がありまして、そのとき須田さんは「なぜ『零』シリーズはあんなに主人公とカメラが遠いんですか? 僕は女の子の匂いを嗅ぎたいんだ!」と豪語して(笑)。後者は冗談だと思いますが、前者はきっとカメラが近くてもホラーは作れるというお話を、野性の勘のようなもので感じ取っていたのでしょう。

――柴田さんといえば、実体験を『零』シリーズに取り入れているとよくお話されていますが、『零 〜月蝕の仮面〜』ではどんなことを……?

柴田じつは任天堂さん、グラスホッパー・マニファクチュアさんと、他社さんとの協力開発タイトルということもあり、このときだけお祓いに初めて行ってしまいまして。ですので、数えるほどしか入っていません(苦笑)。

――シリーズ2作品がリマスターされたとなると、ファンは初期3作のリマスターですとか、続編などを期待するのも無理はないと思います。今後の展望などがあれば教えてください。

深谷申し訳ありませんが、ここで具体的にお話できることはできません。ただ、我々としてもこれで終わりだとは思っていません。いろいろと考えていることはありますので、まずは本作を手に取っていただいて、『零』シリーズを応援していただければと思います。

『零 〜月蝕の仮面〜』プロデューサー深谷氏とオリジナル版ディレクター柴田氏に訊く本作に込めた思いや開発秘話