手越祐也さんと言えば、その圧倒的な歌唱力と表現力で世界中を虜にするアーティスト。また熱心なゲームファンとしても知られており、2020年6月に独立と同時に設立した株式会社AVALANCHEの社名は、『ファイナルファンタジーVII』(以下、FF7)の主人公・クラウドが傭兵として所属する組織が由来になっている。
ファミ通.comでは、先日そんな手越さんのゲーム史についてインタビューをさせていただき、想像以上に濃厚なゲーム遍歴を知ることができた。
初めての取材から数ヵ月後。
筆者の目の前には『FF7』を愛するアーティスト・手越祐也さんがいた。ふたたび取材をする機会に恵まれたのだ。
ところで、今回の取材陣のパーティー編成はこちら。
- 世界三大三代川(ファミ通.com編集長。『FF7』が大好き)
- ミス・ユースケ(ファミ通.com編集者。『FF7』がけっこう好き)
- 竹内白州(筆者。『FF7』未プレイ)
筆者は未プレイのにわかだ。言い訳をさせてもらうと、名作には興味があるし、遊んでみたい気持ちも当然ある。だが、何となく機会を逃していた。
そんな折、ミス・ユースケが「せっかくだから手越さんから『FF7』のことをプレゼンしてもらおう」と言い出した。楽しい話を聞けば遊びたくなるはずだ、と。
理屈はわからなくもないが、手越さんも忙しい身。そんな時間を取れるのだろうか。
ユースケ『FF7』についてめちゃくちゃ話したいって。
まじかよ。狐に化かされたような気持ちのまま、プレゼン(インタビュー)当日を迎えることになった。
ユースケ取材はすごく楽しみなんだけどさ……。
ユースケ他社さんのゲームの服、着てきちゃった(三代川:『スーパーマリオブラザーズ』、ユースケ:『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』。
話を聞くのが楽しみで、朝から夢見心地だったとのこと。ベテラン編集者のやることか。
ふたりの服装はともかく、結論から言ってしまうと、当の企画者ふたりが手越さんの『FF7』愛にあてられてテンションが上がりすぎてしまった結果、『FF7』を愛する男たちの楽しい楽しい雑談企画へと変化した。
筆者は一応インタビュアーという立ち位置なのだが、その役割が消失したのは言うまでもない(楽しかったです)。
手越祐也(てごしゆうや)
熱心なゲーム好きとしても知られるアーティスト。文中は手越。
世界三大三代川(せかいさんだいみよかわ)
ファミ通.com編集長。文中は三代川。
ミス・ユースケ(みすゆーすけ)
ファミ通.com編集者。文中はユースケ。
『FF7 リメイク』でティファの姿にビックリ!?
――『FF』シリーズの中でもとくに『FF7』が好きとのことですが、率直にどんなところに惹かれたのでしょう?
手越まず、『FF7』ってディスクが3枚組ですよね。1本のソフトが3枚のディスクで構成されている。ふつうは1枚で1本じゃないですか。その斬新さに心惹かれました。しかもディスク1だけでもRPGとしてお腹いっぱいになるくらいの容量があったんです。これがあと2枚ぶん続くっていうことがとにかく衝撃的で。
ユースケ単純計算でゲーム3本分のボリュームってことですからね。どれだけ要素が詰め込まれていたかがわかる。
手越実際、ストーリーはもちろんですけど、やり込み要素もめちゃくちゃありました。ゴールドソーサー(カジノ)やチョコボレースみたいなミニゲームとか、マテリア(装備アイテム)の収集・成長とか。とくにマテリアはものすごい種類があって、マップのいたるところに隠されているんですよね。1回取り逃すともう取りに戻れないやつとかもあって、ゲームとしてけっこうハードだったと思います。戦闘の難度も高めで、攻略に時間はかかるし頭も使う。だからこそハマったんですよね。
三代川そもそも『FF7』って1997年発売ですけど、当時何歳でした?
手越10歳くらいです。たぶんリアルタイムでプレイしていたと思うなぁ。
ユースケお話はけっこう重めなのに、10歳でプレイしてたんですか? どのキャラが好きでした?
手越やっぱりクラウドとセフィロスがダントツですね。女性キャラだと当時はエアリスが好きでした。
三代川エアリス……まさかあんなことになるとは思いませんでしたよね。
手越いや本当ですよ。あのシーンで泣いたもんなぁ。その後のシーンでもめちゃくちゃ感動させられて。「エアリスはもうしゃべらない…」、「もう笑わない、泣かない、怒らない。」っていうクラウドの名台詞は本当に心に残っています。
ユースケ僕は当時高校生でしたけど、そういうキャラクターの心の機微ってちゃんと理解できていなかったかも。この歳で『FF7 リメイク』をやってようやく理解が深まった気がします。
手越2年に1回くらいのペースで『FF7』を遊んでいたので、プレイするたびに新しい発見はあったと思います。
三代川すごい頻度ですね。累計で何周くらいしてます?
手越たぶん10周くらいしたんじゃないかなぁ。
三代川10周はすげえ……。『クライシス コア -ファイナルファンタジーVII-』(※)とかもプレイしました?
※『クライシス コア -ファイナルファンタジーVII-』:2007年9月13日に発売されたプレイステーション・ポータブル用ソフト。クラウドの親友・ザックスを主人公に、『FF7』の7年前に起きた事件が描かれている。
手越もちろんプレイしましたよ。こっちは1周だけなんですけど。
三代川いやそれがふつうですから(笑)。ところで、当時はエアリスが好きだったということでしたけど、いまは別のキャラが好きなんですか?
手越『FF7 リメイク』をプレイしたら、ティファが好きになっちゃいました。
ユースケあー、わかります。その気持ち、すげえわかります。
手越めっっっちゃかわいいです! ティファが好きになりすぎて、いま飼ってる犬の名前もティファにしちゃいました。これは『FF』ファンを代表しての意見として聞いてほしいんですけど……『FF7 リメイク』のティファって………………めっっっちゃかわいくないですか?
三代川インタビューの序盤からたっぷり間を使って2回も言うとは。
ユースケ大切なことですので。
手越当時は年齢的にもグラフィックの表現的にも気にならなかったので、余計にビックリしましたね。家に来るシーンとかプレイしながらドキドキしちゃいましたよ。こんなかわいい子、現実にはなかなかいないっすもん。
ユースケ『FF7 リメイク』では「新たなヒロインとしてジェシーが追加された」というファンの声もありますね。
手越あー、わかります。ジェシーもすてきなんですよね。何かこう、“大人のいい女”という言葉が似合いそうで。
三代川ティファが実際にいたらどうします?
手越結婚するでしょうね。残念ながらいないんですけど。このティファを見ちゃったせいで、僕の中の理想が一段と高くなっちゃいました。YouTubeとかでも、ティファの恰好してピアノとかギター弾いてる人の動画はついつい見ちゃいます。
ユースケこのシーンとか最高じゃないですか?
手越ここ最高ですよね! カウンターでウイスキーとか作ってほしいですよ。あとコルネオの館に行くシーンも最高なんだよなぁ。
三代川『FF7 リメイク』ではティファの衣装が3パターンありましたけど、どれになりました?
手越青っぽいチャイナ服でした。かわいかったなぁ。クラウドの女装もかわいかったですけど(笑)。
三代川『FF』といえば召喚獣が大事じゃないですか。どれが好きですか?
手越何だろう……。けっこうベタに強いやつが好きなんで、そういう意味ではナイツオブラウンドかなぁ。手に入れるのに苦労したぶん、初めて召喚したときは感動しました。攻撃の演出もカッコイイし。あとはシリーズ通してバハムートも大好きですね。
三代川(画像を見ながら)これがバハムート改で、こっちがバハムート零式。これがナイツオブラウンドで……。
手越やっぱカッコイイなぁ。あれ、これなんでしたっけ?
三代川うわ、思い出せない……。
ユースケあれ、なんでしたっけ。
手越うわー、もやもやする。えっと……。
(横からマネージャーさんが)ハーデス。
ハーデスだ!!!!!!!!!
名前を思い出してスッキリしたのか、顔を見合わせて笑う姿は完全にただのゲームファンだった。
ひとしきり笑った後、筆者に対して「(話題に)ついて来れてる?」と確認が入ったが、わりと序盤からついていけてない。ただ、話している内容は完全に理解できずとも、楽しそうに話している姿を見ているとこっちも楽しくなってくる。推しが幸せそうにしている、ただそれだけで尊い。そんなファン心理を、少し理解できたような気がした。
ゲームが教えてくれた教訓「楽をすると手に入らないものがある」
――キャラクターの話でけっこう盛り上がりましたね。ほかの『FF7』の好きなところも教えてほしいのですが。
手越(家庭用ゲームで)たぶん3D CGをここまで本格的に導入したのって『FF7』が初くらいですよね。ほんとに衝撃的でした。とくに神羅ビルの作りがすごい。当時はタワーマンションみたいな高いビルも多くなかったのに、現代の建物と比べても遜色ないデザインでカッコイイなって思います。
三代川神羅ビルはエレベーター派と非常階段派どっちでしたか?
手越非常階段派です。
ユースケあー、やっぱり。ガチ勢は非常階段派のイメージがあります。
――あの、それは何が違うんですか……?
三代川ストーリーで神羅ビルを59階まで上がっていくときに、エレベーターを使うと途中で何度か戦闘が発生する代わりに短時間で上がれて、非常階段を使うと戦闘が発生しないかわりにけっこう時間がかかるんだよね。
手越『FF7』って隠し要素が多かったから、エレベーターで途中の階を飛ばして行っちゃうといいマテリアとかを見逃すんじゃないかと不安なんですよ。これはほかのゲームをやるときもそうで、正しい道順がわかったら、あえてそうじゃない道をひと通り見て回りますね。楽するといいことがないので、必ず回り道するようにしています。
ユースケあれ、人生の話だっけ?
手越実際、(最初にオリジナル版を遊んだときに)いろいろ取り逃したんですよ。スノーボードの後で取れる召喚獣とか。あれ名前なんだっけな……。
マネージャー (食い気味で)アレクサンダーね。
手越そう!
――一瞬で出てくるじゃないですか。マネージャーさんも手越さんの横に座って話しませんか?
マネージャー 同い年なんで、僕もめっちゃやり込んでました(笑)。
手越なんてったって僕らの会社名、株式会社AVALANCHEですからね。どれだけ『FF7』が好きなんだっていう。
三代川たしかに。社名はどんな経緯で決まったんですか?
手越約20年間テレビの世界でお世話になってきて、いいところもそうでないところもたくさん見てきました。コロナ禍においてもそうですけど、メディアはさまざまな情報を人々に届けてくれる一方で、一歩間違えれば多くの人を相手に洗脳のようなこともできてしまう。
ユースケ実際に洗脳しているかどうかは置いておくとしても、それが“できてしまう”という事実はあると思います。
手越それを防ぐためには、地球をよりよい世界にするためには、誰かが声を上げていかないといけない。そうした想いが、神羅カンパニーという巨大な組織を相手に星を救うため少数ながら対抗するアバランチの行動理念と重なる気がして、名前を使わせてもらったんです。僕が独立直後に作った最初の名刺には、「俺は俺の現実を生きる」っていうクラウドのセリフを入れていました。
ユースケ深い……。
三代川アバランチのリーダーという意味では、手越さんはクラウドではなくバレットの立ち位置ということになりますね。
ユースケそうか。ビジュアルは完全にクラウドなのに。
手越たしかに(笑)。バレットは見た目はゴツイですけど優しくていい漢ですから。
これまでの無邪気な笑顔から一転、社名の由来について話す表情は真剣そのもの。そのギャップに思わず見惚れてしまった筆者は、ここである事実を思い出してハッとする。「そうだ、この人の本職はカリスマアーティストだった」。
ロック界のスクウェア・エニックス!? TERUとHYDEの共演に衝撃
――『FF7』といえば音楽の評価も非常に高いですよね。
手越音楽もマジで最高ですね。曲を聴いただけで、そのシーンがすぐに浮かび上がってくるくらい場面にピッタリ合っていて、本当にクオリティが高いです。音楽をメインにやっている身としては、どうやって作っているのかが気になっちゃいますね。
三代川とくに好きな曲はどれですか?
手越ボス戦の『更に闘う者達』。あとはセフィロス戦の『片翼の天使』も印象的です。当時のBGMで歌詞があるって珍しかったですよね。
ユースケたしかに。
手越ほかにもチョコボが走るときにかかるチョコボのテーマとか、『FF7』の曲はどれも大好きで、いまでも移動中とかによく聴いています。
ユースケ名作と呼ばれるタイトルって、必ず楽曲も高く評価されている気がします。
手越たしかにそうですよね。『FF』シリーズとおなじくらい『ドラクエ』シリーズも大好きなんですけど、やっぱりどの作品も名曲揃い。改めて考えると、スクウェア・エニックスって半端じゃないですよね。合併した当時は本当に衝撃でしたよ。『FF』と『ドラクエ』の会社がひとつになるなんて、嘘だろって思いました。
三代川僕が考えた最強のRPGメーカーみたいな(笑)。
ユースケぜんぜん冗談にならないのがすごい。
手越僕がこれまでに同じレベルの衝撃を受けたのは、GLAYとL'Arc~en~Cielがライブで共演したときくらいですね。TERUさんとHYDE兄さんが並んでステージに立っているのを見たときと同じくらいの衝撃。そんなのもう最強じゃんって。
三代川GLAYとL'Arc~en~Cielはロック界のスクエニだった……?
ユースケたとえのチョイスが最高。ゲーム業界のインタビューだと絶対に出てこないワードだ。
手越でも本当にそれくらいすごいことだと思いますよ。
ユースケいやぁ、おもしろかったです。取材でここまで笑いながら話したの、久々かもしれない。
三代川開発者へのインタビューとかはまじめな話になるからね。もちろんそれもおもしろいんだけど。
手越楽しかったですね。好きなゲームの話は無限にできちゃいます。
ユースケ今回は『FF7』でしたけど、前回のインタビューではたくさんのタイトルが挙がっていましたから、別の機会にまたお話を聴きたいくらいです。
手越ええ、まだまだ好きなゲームいっぱいありますよ。つぎは何にします?(笑)
前回のインタビューでも重々分かっていたことではあるが、やはりゲームに対する熱意や愛情は本物だ。世界で活躍するトップアーティストという表面を見ると、はるか遠い存在のように感じられるが、ゲームについて語る彼は、むしろ親近感を覚えるくらい“こちら側”の人間だった。
あっという間に時間が来てしまったため取材はここで終了となったが、現場ではすでに“つぎの機会”について前向きに検討がなされていた。手越くんとただただ好きなゲームについて語る会、まさかの定例化もあり得るのか……!?
楽曲情報
手越祐也さんは2021年7月より6ヵ月連続で新曲をリリース中。前回の記事のタイミングでは第1弾『シナモン』と第2弾『ARE U READY』が配信されており、第3弾『LUV ME, LUV ME』、第4弾『ウインク』と、その勢いは留まるところを知らない。
『LUV ME, LUV ME』はダンスチューンをファンキーに、『ウインク』ではボカロP・すりぃ氏による楽曲を妖しく歌いあげている。ゲーマーとしての手越祐也に興味を抱いた人、アーティストとしての一面にもふれてみよう。