和風ホラーアドベンチャー『零 ~濡鴉ノ巫女~』のリマスタータイトルが、2021年10月28日に発売された。 2021年11月11日にはアトラスの『真・女神転生』シリーズより、最新作となる『真・女神転生V』が発売を控えている。

 本記事ではハロウィンにちなんで、『零』×『真・女神転生』の対談が実現。両タイトルともに、これまでも開発中の“怖い話”などが開発者から語られたり、プレイヤーたちからウワサされることもしばしば。ホラーやオカルトにまつわるトークから、開発中に実際に起きた怪談話などを、両タイトルのキーマンたちにたっぷりとお聞きした。

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柴田 誠(しばた まこと)

コーエーテクモゲームス所属。『零』シリーズのディレクターを務める(文中は柴田)。

山井一千(やまい かずゆき)

アトラス所属。『真・女神転生III-NOCTURNE マニアクス』などでディレクターを務め、『真・女神転生V』では原案として関わる(文中は山井)。

『零』×『真・女神転生』

――まず山井さんは、『零』シリーズについてどんな印象をお持ちですか?

山井率直に言うと、怖くてプレイできないゲームです(笑)。小さいころからオバケや幽霊というものは大好きでして、年代としても中岡俊哉さんの心霊写真本や、新倉イワオさんの心霊番組などをよく見ていました。オカルトに囲まれながら大人になっていったわけですが、どうしても僕は“ホンモノ”がダメでして。ホンモノの話やホンモノを見てしまうと、感化されてしまってその日1日は気分が優れなくなってしまったりするんです。

 ホンモノをちょくちょく見ることがあるのですが、『零』シリーズの幽霊の表現は好きだけどホンモノすぎてダメなんです。もちろん、いつも少しだけ遊ばせてもらっています。

柴田ありがとうございます。『零』の幽霊表現は、あくまで僕が見た体験が元です。ただ、もっとちゃんと見える人たちからは「幽霊はこんな感じではない」と言われることもあって。僕は「ああ、僕ってそんなに見えてないほうなんだ」と思っていたのですが、ホンモノっぽいと言われるとうれしいですね。

山井幽霊って見えるときに、一瞬だけスッと見えたりすることのほうが多いですが、そういう表現が『零』はうまいですよね。もうホントにホンモノみたいで怖いなぁと。ただ、今回の『零 ~濡鴉ノ巫女~』は予約させていただきました。早期購入特典のライザコスチュームがあるので、これを使えば怖くないんじゃないかなと(笑)。怖くて手が出せない、という人もぜひ僕といっしょにライザコスで遊んでみましょう!

『零』×『真・女神転生』ハロウィン対談。開発中に起きた怪奇現象から、ホラーにまつわるトークまで。あの都市伝説や実際の心霊体験もたっぷりと語られた

――予約もされた、というところで『零 ~濡鴉ノ巫女~』の印象はいかがでしょうか。

山井バランスがいいですよね。恐怖と綺麗な女性という、魅力的なモノと恐ろしいモノが融合されていて。ホラー作品というのは恐怖表現がすべてを包んでいるのではなく、そこにギャグやセクシーな要素が練り込まれていることが多くて、見ている側の心を巧みに刺激してくれるんですよね。どっちの要素でも触れて楽しめるモノになっていると思うので、これから遊ぶのが楽しみです。

『零』×『真・女神転生』ハロウィン対談。開発中に起きた怪奇現象から、ホラーにまつわるトークまで。あの都市伝説や実際の心霊体験もたっぷりと語られた

――では柴田さんは、『真・女神転生』シリーズについてどんな印象をお持ちでしょうか。

柴田骨太なRPGで、それに何といっても特徴的な世界観を持っていますよね。正義と悪が戦う王道的なRPGではなく、悪魔を使役して戦うというのが斬新で。そして、物語や設定で何かしらの“タブー”に触れるという挑戦がおもしろいです。「ここを超えたら、何か言われてしまうのでは?」という部分に果敢に挑んでいる、という印象があります。初代『真・女神転生』が発売されたのが1992年で、もう約30年も毎回タブーに斬り込んでいるというのがスゴイいですよね。

――まだPVなどからの事前情報しかないとは思いますが、『真・女神転生V』についてはどんな印象をお持ちですか?

柴田アクションゲームのような派手なPVになっていて、テンションの高いタイトルですよね。ただ、いきなり“神になる”というワードが出てきて、驚きました。『真・女神転生』シリーズって、悪魔の種類としての神などは出てきますが、“神”そのものになる、というのはどういうことなんだろうと。このシリーズはもちろん悪魔を扱うんですが、悪魔を語ることは神を語ることになるし、神を語ることは人間を語ることになる。神とは何か、人間とは何か。また根源的なテーマに斬り込むんじゃないかと、とワクワクしています。

山井『真・女神転生』シリーズでは“唯一神(Y・H・V・H)”もいますが、基本は全部悪魔という括りでしたね。そういった中では、たしかに異色な設定かもしれませんね。 

『零』×『真・女神転生』ハロウィン対談。開発中に起きた怪奇現象から、ホラーにまつわるトークまで。あの都市伝説や実際の心霊体験もたっぷりと語られた

――『零』シリーズはホラーゲームとしての怖さがあり、『真・女神転生』シリーズは骨太な難易度で、ゲームオーバーに対する恐怖をプレイヤーに与えていると思います。怖いものを乗り越えても、さらに先に進みたい、とプレイヤーに思わせる、その原動力やポイントはどこにあるのでしょうか。

山井恐怖を求めている場合と、恐怖を乗り越えるべき場合、の2種類があるかと思います。恐怖というのは甘いお菓子と同じで、甘いものを食べているとまた甘いものが食べたくなるような中毒性があります。『真・女神転生』シリーズは、プレイヤーの決断によって、世界の行く末や人々の結末を味わってもらう、一種の人生シミュレーターとも言えます。その道中には、数々の恐怖が散りばめられています。そこを乗り越えたときに、描かれるドラマがより感動できるのかな、と考えています。

 ドラマを追い求めて簡単な道を進めてもらうよりは、より困難な道を体験してもらい、その結果得られる物語のほうが、印象がよりグッと強くなると思うんですね。ただ、ゲームバランス的には難しいところではあります。もちろん『真・女神転生V』もより幅広いプレイヤーに遊んでほしいので、誰にでも楽しんでもらいたい気持ちはありますし、『真・女神転生』シリーズならではの“やり応え”というのも重要だと思っています。そこは昔から、大事にしている部分ですね。

柴田達成感、大事ですよね。ただ、ホラーゲームにおいては、その答えはないんです。怖すぎて先に進めない、もうゲームを辞めたい、と思わせたらもう、ある意味勝ちなんですが、開発者としては当然クリアーまで遊んでほしいわけで。そのジレンマがケンカしながら開発しています。

 ですから、ストーリー性や設定の細かさ、女の子のかわいさやコレクション要素など、とにかく先に進んでもらう要素を置いていくしかないんですね。よくたとえに出していたのは、“辛いカレーを作ろう”という話です。ただ辛いだけでは食べたくなりませんが、辛いカレーというのは辛い中にも旨味があり、また食べたいと思わせてくれます。辛味=恐怖要素で、旨味=ほかの要素、という感じでしょうか。

 達成感という部分では、RPGは成長要素や戦略もあるので、乗り越える感覚を得やすいと思うんです。ホラーゲームはなるべく逃げようとする。その先に、物語が待っているみたいな感じなので、達成感というよりホッとする気持ちですよね。なので、少し感じ方に違いがあるのかなと思います。

『零』×『真・女神転生』ハロウィン対談。開発中に起きた怪奇現象から、ホラーにまつわるトークまで。あの都市伝説や実際の心霊体験もたっぷりと語られた

好きなホラータイトルは?

――今回の対談がハロウィンにちなんで、というところで、とくにお好きなホラーゲームはありますか?

柴田MSX2のRPG『死霊戦線』ですね。超能力を持つ部隊が、とある村に現れたクリーチャーたちと戦っていくというホラーRPGです。システムが、バトルがアクションだったり探索中に睡眠ができたりと独特でした。なによりストーリーの語り口がとてもおもしろくて。映画的な方法ではなく、俯瞰視点のRPGでも想像力を掻き立てるような物語が描けるんだなと、影響を受けました。

 あとは『弟切草』です。遊ぶたびにシナリオが変わるということに驚きました。ホラーですが、違うテイストのシナリオまで用意されている。ランダムでシナリオが決定されていくことを最初は知らなかったので、最初は分岐をメモったりしていましたね。文章量がわからない新しい小説の形だなと思って、とても楽しめました。

山井ホラーなのかと言われると怪しいですが、『源平討魔伝』は、当時やはりインパクトがありました。巨大なキャラクターグラフィックもイイですし、何より不気味で暗い、和風の世界観がすばらしかったです。

 もうひとつは2008年に発売された、スクウェア・エニックスさんの『ナナシ ノ ゲエム』です。プレイすると1週間後に死んでしまうゲームを、プレイヤーが体験するという設定なわけですが、時代的にはモキュメンタリー、フェイクドキュメンタリーのような仕掛けが流行っている時期で、なかなか斬新なゲームでしたね。『ドラゴンクエスト』シリーズのスクウェア・エニックスさんが、ホラーパロディとして『ドラゴンクエスト』要素を取り入れているのも好きでした。

 あと柴田さんが言うように、『弟切草』いいですよね。ぜひ柴田さんが手掛ける、テキストアドベンチャーというのも見たいです。

柴田当時はソフト1本に収められるテキストも決まっていましたが、いまはインターネットにもつなげるので分岐も追加できるし、当時できなかった人とつながる仕掛けも入れられる。そういうゲームがあってもと、いま思いました。

山井コーエーテクモゲームスさんが8割、うちが2割資金出すので、ぜひ作りましょうよ(笑)。

柴田少し出してくれるんですね(笑)。

――(笑)。では、好きなホラー作品を、メディアを問わずに教えてください。

山井1974年の映画『悪魔のいけにえ』です。人生にすごく影響を与えた映画でして、具体的にどこがと言うのは難しいのですが、『悪魔のいけにえ』はSF映画に近い恐怖を持っています。殺人鬼であるレザーフェイスは人間ではあるのですが、話がいかにも通じない異常な男で、かつ本人はふざけているわけではありません。でも、悩むシーンがあったりもするんです。こんなワケのわからない存在も、一生懸命生きているんだと思って。

柴田『悪魔のいけにえ』に対抗できる作品と言うと……そうですね。日本では「決してひとりでは見ないでください」というキャッチコピーで話題を集めた、1977年の映画『サスペリア』ですね。コピーが怖すぎて当時は見ずに、あとから見たんです。そんなに怖いわけではなかったのですが、映像が綺麗なんです。美術も登場人物の死んでいくシーンも綺麗で、こんな綺麗なホラーもあるんだなと。やはり当時は『悪魔のいけにえ』もそうですし、グロテスクな世界観で描くホラーがメインでしたし。

山井綺麗なホラー、というところであげると1987年の映画『ヘル・レイザー』ですかね。ピンヘッドのキャラクター性もそうですし、あとはボンテージ姿をホラーに持ち込んだりと、画期的でした。また、快楽とは苦痛であるというようなSM的な要素がホラーに絡むのも斬新で。ただ腕が斬り飛ばされて「キャー!」みたいなスプラッタ映画と違って、むしろ腕を斬り落として欲しい人たちが出てくるわけです。“怖さ”という分野に、何か崇高なものを持ち込んだ作品だと思います。決して褒められる考え方ではないんですけどね(笑)。

柴田いいですよね。あとは純粋なホラーではないのですが、1977年のデヴィッド・リンチ監督による『イレイザーヘッド』が好きです。僕はホラー映画を怖いと思って見ることはありませんが、『イレイザーヘッド』は怖くて、途中で見るのを何度も止めました。ストーリーは理解不能のまま進んでいくし、不気味な映像で構成されていてだんだん耐えられなくなってくる。こんなことができる人がいるんだと、驚きました。

山井『イレイザーヘッド』はアトラス社内でも人気ありますね。ちなみに、『真・女神転生III-NOCTURNE マニアクス』で、覗き窓から覗いてみると、車椅子の老紳士がいるというシーンがあります。それはもう完全に『イレイザーヘッド』に影響を受けて取り入れたものです。絶賛発売中の『真・女神転生III NOCTURNE HD REMASTER』でも見れますので、まだ見てない人はぜひお買い求めを!

――まさかそこから宣伝につながるとは(笑)。もちろんほかにも好きなタイトルはあると思いますが、お話しが終わらなくなってしまうので、今回はここまでということで。ホラーというのは恐怖を味わう、という一風変わったエンターテインメントだと思います。ホラー作品の魅力、というのはどいったところにあると思いますか?

柴田疑似的な臨死体験や死に近づくという行為は、帰って来れたときにリフレッシュするんです。産まれ直しといいますか。1度死や恐怖に近づき、そこから解放されるというのはある意味快感なんですよね。ホラーゲームではそこを体験してもらえますが、RPGも同じだと思うんですね。それこそ、『真・女神転生III-NOCTURNE マニアクス』の魔人たちとの戦いとか(笑)。

山井強いですからね(笑)。ありとあらゆるオカルト要素もホラーと呼んでいいのであれば、自分としてはホラーというのは日常では起きない超常現象を扱うSFだと思います。また、そこには必ず人間ドラマが絡んでいて、なぜその幽霊が出てきたのか? ということを解明するミステリー要素もありますよね。根底にあるドラマ性があるからこそ、ホラーの魅力があるんだと思います。もちろんスプラッタが好き、みたいな人もいるとは思いますが、破壊衝動を満たすための要素であって、ホラーの魅力の根源ではないのかなと。

柴田たしかに。そもそも、ダークな世界観に入ることがホッとする人もいると思うんです。『零』も『真・女神転生』もそうですが、王道とは言えない世界観なんですよ。絶望的で陰がある。そこに魅力を感じている人も少なくないのではないかと。

山井ああ、そうですね。たとえば、僕も大好きな『鬼滅の刃』は、鬼を退治するというある意味オカルト要素を含んだ作品です。ですが、そこに陰の要素を感じるかというとそうではなく、最終的には痛快な冒険活劇が描かれていて、ここで言うダークな世界観ではありませんよね。『零』も『真・女神転生』も、そういったダークな空気が好きな人たちに受け入れられてきた点は似ているのかなと思います。

『零』×『真・女神転生』ハロウィン対談。開発中に起きた怪奇現象から、ホラーにまつわるトークまで。あの都市伝説や実際の心霊体験もたっぷりと語られた

実際あった、怪奇現象……

――柴田さんは以前、「心霊体験を求めているので、お祓いをしない」とお聞きしました。山井さんは、お祓いというものはされないのでしょうか?

山井『真・女神転生』では1作目から、鬼子母神堂さんにいつもお世話になっています。そういう形で、毎回ごあいさつさせていただいているんですね。神社ではないので、結果的にはお祓いはしていません。どちらかというと、ゲームの成功祈願の意味合いが強いですね。お祓いをするのか、お祓いをしないのか、というのはそのときどきの責任者が決めています。

――では、これまでにはお祓いは一切していないと?

山井2006年の『デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 超力兵団』のときは、神田明神さんでお祓いをしました。

柴田神田明神さんといえば、まさにマサカド公ですよね。

山井ええ。『デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 アバドン王』では、マサカド公にご出演願いましたね。ちなみに、僕は必ずマサカド“公”と呼ぶようにしていますね。若手スタッフが「マサカドが~」と言うと、「コラ!」と割と本気で怒ってますから(笑)。

――マサカド公と言えば、当時マサカド公に関わった書籍スタッフが手を負傷した。何かが起きて、ミシャクジをミシャクジさまと呼称した、なんてウワサもありますが……?

山井昔から語り継がれていますが、具体的に何かあったか……というと、そこは信じるか信じないかは、アナタ次第ですというところですね(笑)。まあでも、たとえば『デビルサマナー ソウルハッカーズ』のときは、お教えできないようなことまで、とくにいろいろなことが起きたと聞いたりしています。ただ、やはり神物を扱うタイトルですから、そこを敬う気持ちは大事にしていることだけは、お伝えしておきたいです。

――わかりました。では、『真・女神転生』シリーズなどの開発中に、何か心霊現象のようなことを体験したことはありますか?

山井現在の大崎にオフィスを移してからはほとんどありませんが、以前の飯田橋のオフィスでは結構ありましたね。PCのキーボードの音が勝手に鳴るのは、よくありました。奥のPCから順番にカタカタカタカタと鳴ったり。あと、社内にサウンドブースがあったのですが、よく幽霊が出るとウワサされていました。僕も実際に、通り過ぎる幽霊の下半身だけ見たことがあります。僕しかいない状況だったので、絶対に人ではなかったです。

 いちばん酷かったのは『デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 超力兵団』の開発中のときですね。ゲームの開発現場とは関係ないのですが、夜中にゴミ捨て場にゴミを捨てに行ったのですが、真っ黒な人が立ってたんです。ただそれだけなんですが、見てわかるんですよ。絶対人間じゃありませんでした。後日、知人と散歩していたら「黒い人がいる!」って言い出したので、間違いなくいたんですよね。まぁ、ただ驚いただけなんですが。

柴田ああ、そうですよね。幽霊を見るときって、大体前触れがないんで、ただ驚くだけなんですよ。

山井『デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 アバドン王』のときには、もう幽霊の見かたのコツをつかんでしまったようで、霊感ある人のいう「ここにいる」がわかるようになってきて。先ほど言ったように感化されてしまうタイプなので、意識的に遠ざけるようにしました。

柴田いまの開発現場では、ほとんどないと言っていましたが、あるにはあるんですか?

山井たまにあるといいますか。わかってもらえると思いますが、何か視界が暗くなってきて、ここヤバいな、みたいに感じるときがあります。具体的に何が起きたか、というのはいまのところありませんね。というのも、ゲームの開発って、昔は深夜まで残業して当たり前みたいな風潮でしたが、いまはクリーンな開発現場です。夜遅くまで開発することもなくなったので、機会が減ったんだと思います。コーエーテクモゲームスさんはどうなんですか?

柴田コーエーテクモゲームスは、みなとみらいに新社屋ができましたが、オリジナル版の『零 ~濡鴉ノ巫女~』を開発していた市ヶ谷の事業所では、いくつか体験がありました。
 
 オフィスの非常口に近いところに、使わなくなったホワイトボードがあったのですが、ホワイトボードってクルっと回るように隙間があるじゃないですか。夜中になると、その隙間からだけ人が立ってるのが見えるんですよ。毎回気になってはいたのですが、害もないし開発で忙しいので無視していたんですね。派遣で来てくれたスタッフの中にしっかり霊が見える方がいて、開発が終わったあとに「非常口の前にずっと男の人がいましたよね?」って言われて。ああ、僕がホワイトボードの隙間から見えていたのは、その男だなと思いました。

 そのスタッフが言うには「その霊はずっと立っているけど、あるスタッフが帰るときだけスーッと付いていく。でも、朝また非常口の前に立ってるんです」って言うんです。その話をしていたら「まさか僕じゃないですよね!?」って騒ぐ別のスタッフがいたんですが、見えるスタッフは「違いますよ!」って答えて、安心させていました。……ただ、そのあと僕にだけボソッと「あの人です……」って教えてくれて。

山井それは恐ろしい(笑)。

柴田そのスタッフは本当に霊感が強いようで、「柴田さん霊が見えるんですよね。開発中に柴田さんの頭の上に浮いてた女の人、誰ですか?」って質問されたこともあって。でも、頭上にいたら僕に見えるわけなくて(笑)。開発中に気が付かなかったので、残念でした。

『零』×『真・女神転生』ハロウィン対談。開発中に起きた怪奇現象から、ホラーにまつわるトークまで。あの都市伝説や実際の心霊体験もたっぷりと語られた

――残念、というのが柴田さんらしいですね(笑)。実際体験したことで、開発への支障などはあったのでしょうか?

山井とくに困ったことはないですね。まるで幽霊が通り抜けたかのように、PCがつぎつぎとシャットダウンしていくようなこともありましたが、いまはクラウド上でデータ管理していますから、PCが落ちた程度では困りません。プリンターが変なものを印刷したりすることもありましたが、まあ故障か誤作動かと。

柴田旧テクモ時代のオフィスでも、それありましたね。変な文章がびっしり書かれたものが印刷されたりして。

――なんだかこう、起きたことを気にしないというか、おふたりは図太いですね……。

山井いやもう、確かに怪奇現象は起きてるんです。ただ「開発が間に合わない!」、「明日までにこれやらなきゃ!」とかで頭が一杯なので、そんなことを気に掛けてる余裕がないんですよ(笑)。幽霊が出ようが、かまってられないんです。

柴田わかります(笑)。幽霊はマスターアップしてくれませんから。

――お強い(笑)。ちなみに、『真・女神転生』は都市伝説的なエピソードの“すぐにけせ”があります。いまなお語り継がれている事象ではありますが、実際山井さんはどう捉えているのでしょうか?

山井過去のソフトが過去のソフトとしては終わらずに、いまなお語られているのが、ありがたいことですよね。アトラスとしては純粋にうれしいことです。ただ、プレイヤーの皆さんが気になるのは、やはりそこの真実だとは思います。ですが、これは幽霊と同じことだと思うんです。人によってはいるし、いないと言う人もいます。それと同じことで、やはり深くは語らないほうがいいのかな、と考えています。本当に体験した人がいても、本当のことだと思います。この世に悪魔がいる、いないとも言えません。『真・女神転生』シリーズを遊んで、たとえば家にクー・フーリンが来てしまうことだって、あるかもしれませんから!

柴田クー・フーリンならうれしいのでは?(笑)。

『零』×『真・女神転生』ハロウィン対談。開発中に起きた怪奇現象から、ホラーにまつわるトークまで。あの都市伝説や実際の心霊体験もたっぷりと語られた

――では、さまざまな怪奇現象エピソードを持つ柴田さんですが、まだ話していないとっておきの体験を教えてください。

柴田『零 ~濡鴉ノ巫女~』は神隠しの物語なので、神隠しにあった話を。僕が小学生のとき、なぜかピクニックという言葉が大流行したんです。その流れで、友だち数人でピクニックに行こうという話になって、ちょっと離れた小山に行きました。頂上まで10分くらいですし、ピクニックと言っても山を登ってお弁当食べたら、やることないんですよね。

 なので、じゃあ山を探検してみようという話になって山道を回っていたら、昼間なのに段々と周囲が暗くなっていって、後ろから何か音が迫ってきたんです。最初は風の音かと思っていたけど、近づいてくると泣いている声がたくさん固まって後ろからやってきてたんですよ。

 そこで、友だちのひとりがワーッと走り出したんですね。「絶対この声に捕まったらマズイ!」と思って、僕たちも走りだしたんです。ひとりだけ聞こえてない友達がいて、「なんで走るのー?」といいながらついてきてました。周囲が真っ暗になりながら走っていると、向こうのほうに小さな光が見えたんです。「そこまで走れば大丈夫だ!」と、光の中に飛び込んだら、あたり一面が墓場だったんです。

 昼間だったはずなのに夕暮れで。僕たちはもう「完全に終わった」という感じで茫然としていたら、何も感じていない友だちが「なにしてんの? 早く帰ろうよ」って言って。そこで空気がパッと変わりました。帰り道は、だれもその話をしませんでしたね。そのつぎの日から学校でも、一切その話はしませんでした。もう、誰も触れないようにしたんです。

 話は現代に戻り、友人のお葬式で帰省したことがありました。地元の話になったときに、小山の公園がリニューアルされた、という話になりまして。そのときに「でもあそこに墓場があったよね?」って僕が聞くと、誰も墓場の存在を憶えてなくて。あの山に墓場なんかあるわけがない、と言うんです。そのときに、みんなでGoogle Mapで調べたのですが、やっぱりないんです。

 その後、またその場所へ行ってみたんです。今度はちゃんと正気を保ったままでした。でも、やはり墓場はありませんでした。変な場所に出てしまった、という体験はいくつかあるのですが、この体験もあって『零 ~濡鴉ノ巫女~』では神隠しにあう話にしようと思ったんです。

山井お墓の風景はゲーム内に取り入れられているんですか?

柴田はい。山の上に墓場があります。記憶の中の景色なので正確ではないかもしれませんが、採用しています。

山井それを聞いて思い出しました。変な場所に出てしまった話ではなく、変な場所から出てきた話なんですが、最近あったことです。子どもを送り迎えするときに、自転車のシートから子どもを降ろすために、子どもを持ち上げたんですね。子どもは両手にオモチャを持っていたんです。降ろしたら、「オモチャがない」って言い始めて。もちろん、自転車の周囲にもなくて、子どもが隠してるわけでもないんです。そしたら、何もないところから、いきなりそのオモチャが現れて、僕の靴にコツンと当たったんですよ。もう、完全に別の空間から出てきたんです。

柴田ああ、僕もその体験あります。失くしたものがどうしても見つからない、でも何か知らないけど出てきたみたいな。小さい神隠しですよね。そういう体験から『零 ~濡鴉ノ巫女~』では、失くしたものを探すために、カメラで合わせると出てくるというシステムを採用しました。

山井へぇ~。異世界から出てくる、失くすってよくあるんですね……!?

――普通の人は体験しなさそうですが……! 怪奇現象以外で体験した、いちばん怖い話はありますか?

山井いちばん怖いのは、「開発が間に合いません!」、「予算が足りません!」と上に言いに行くことですかね(笑)。

柴田それは怖い(笑)。

『零』×『真・女神転生』ハロウィン対談。開発中に起きた怪奇現象から、ホラーにまつわるトークまで。あの都市伝説や実際の心霊体験もたっぷりと語られた

『真・女神転生V』、“おそらく”発売

――ちなみに今回の対談を機会に、両作品がコラボして何か……とかあったりするのでしょうか?

山井予算さえあれば、可能かと(笑)。

柴田ですね(笑)。残念ながら、今回は間に合わないかも……。

山井いまのところ予定はありませんが、何かあってもおもしろいですよね。

――わかりました。では最後に、おふたりから読者の方々へ、メッセージをお願いいたします。

山井2021年11月11日に、ようやく『真・女神転生V』を、“おそらく”発売することができます。開発はもう完了してはいますが、それまでに東京が現存しているのかはわかりませんので、“おそらく”です(笑)。『零 ~濡鴉ノ巫女~』はすでに発売されていますから、ぜひ遊びながら発売をお待ちいただければと思います。

柴田ありがとうございます。『零』シリーズは今年20周年を迎え、ようやく『零 ~濡鴉ノ巫女~』のリマスターをお届けすることができました。ここから、“つぎ”につなげられたらうれしいなと思っています。『真・女神転生V』、東京が死んでなければプレイします!