コーエーテクモゲームスの人気和風ホラー『零』シリーズ。2014年にWii Uにて発売されたシリーズ5作目となる、『零 ~濡鴉ノ巫女~』のリマスタータイトルが、2021年10月28日に発売される。

 対応ハードはNitendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)。

 本作はホラーアドベンチャーゲームで、プレイヤーは霊感や特殊な力を持つ主人公・不来方夕莉や雛咲深羽、放生蓮といった人物たちの視点から、さまざまな怪異と遭遇していく。シリーズ通して最大の特徴は、“射影機”と呼ばれるカメラ。射影機は“ありえないもの”を映し出せる重要アイテムであり、怨霊の姿を撮影することでダメージを与えて除霊しながら、いにしえの儀式の謎に迫っていく。

 本記事ではKADOKAWAが主催するフィルムコンペティション“日本ホラー映画大賞”とのタイアップ企画として、『呪怨』シリーズで知られる映画監督・清水 崇氏と、『零 ~濡鴉ノ巫女~』の開発陣による対談が実現。ゲームに関してや、ホラーにまつわることなど、さまざまなお話が飛び出した、その模様をお届けしよう。

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『零 ~濡鴉ノ巫女~』対談。『呪怨』の清水監督とともに、ホラーを語る。柴田Dの心霊体験から数多くのシステムが誕生!? 各々の“日本ホラー映画大賞”への期待も!!

清水 崇(しみず たかし)

映画監督。ブースタープロジェクト所属。代表作に『呪怨』シリーズ、来年公開の新作『牛首村』も控える『村』シリーズなど(文中は清水)。

菊地啓介(きくち けいすけ)

コーエーテクモゲームス所属。『零』シリーズのプロデューサーを務める(文中は菊地)。

柴田 誠(しばた まこと)

コーエーテクモゲームス所属。『零』シリーズのディレクターを務める(文中は柴田)。

『零 ~濡鴉ノ巫女~』とは?

――対談前に、清水さんにPVを閲覧していただきました。『零 ~濡鴉ノ巫女~』の印象はいかがでしょうか。

清水僕はゲームには疎いですが、ホラーゲームって“脅かせる”のがメインみたいな印象があって、“ゾクゾクする”みたいなところを目指すタイトルがあるのはうれしくなりますね。僕も拙作では、なるべく“サプライズ”より“スケアリー”を狙っているので。また、実写映画もそうなのですが、アクションの方向性を強めると、もともと狙っていた怖さから外れがちです。たとえば銃で敵を撃つ、肉弾戦で相手を倒すような、直接的な攻撃手段を描くと、日本やアジア特有の怪談的な怖さから外れてしまうんです。それはゲームでも同じだと思います。
 
 エンタメの劇映画では、最後にはやはり物事を解決し、大団円を目指す必要性が出てきたりするのですが、そうするとアクションに寄ってしまうことが多いんですね。そこをどう表現するのか、いつも苦しんで描いています。たとえば骨を埋めて成仏、お札を貼るなど、さまざまな方法がありますが、本作は“射影機”という、ようはカメラを使うというのがすばらしいですね。しかも、敵を引き付けてから攻撃しないと威力が低い、というのもいいポイントだと思います。数年前に公開された『ポラロイド』というホラー映画を彷彿とさせられます。ゲームとしては攻撃アクションにはなると思うのですが、和風ホラーとしての情緒も残しつつ、うまくその解決方法を描いているのが、本当にすばらしいですね。

菊地ありがとうございます。『零 ~zero~』シリーズは、2001年に発売された『零 zero』からスタートしているのですが、そのときから柴田が世界観やストーリーを制作しています。最初に僕が柴田から言われたのは「カメラを使って除霊するんです」というアイディアで、思わず「何それ!?」って驚いたのを覚えています。たとえばお札を貼る、破魔矢を撃つなど、具体的な攻撃じゃないと、除霊してる感じが出ないと思ったんですね。

 ただ、心霊写真というものがあるように、心霊現象とカメラというのは親和性があります。最終的には射影機を採用することになりましたが、実際に形になるまでは不安だったのを覚えています。

清水怖いものって、目を逸らしたくなるじゃないですか。しっかりとカメラを構えて、それと対峙しなくてはならない、というのは怖いのが苦手な人にはなんとも怖いことでしょう。柴田さんはなぜ、カメラで除霊するというシステムを考えたのでしょうか。

柴田ゲーム的に言ってしまうと、銃の射撃とさほど変わらないんですけどね。ただ、霊の瞬間を切り取る、というところの“ショット”が、幽霊との戦いにマッチすると思ったんです。
 
 あと、これは古い話になってしまいますが、僕の住んでいた家が、幽霊の通り道に面していたんですよ。なので、幼少期によく幽霊的なものを見ていたんです。夜になると道幅いっぱいに声がしていて、百鬼夜行みたいでした。でもそれを見ると、僕はどこかに連れてかれると思っていて、見なかったんです。
 
 その後、父親から壊れたカメラを貰ったんです。子どもの理屈なのですが、カメラのファインダー越しにその幽霊たちを見たら、見たことにはならないのでは? と思っていました。だから、幽霊に対抗できるアイテムはカメラしかないと思い込んでいたんです。ひとつ、フィルターを挟んでいるので……みたいな。

『零 ~濡鴉ノ巫女~』対談。『呪怨』の清水監督とともに、ホラーを語る。柴田Dの心霊体験から数多くのシステムが誕生!? 各々の“日本ホラー映画大賞”への期待も!!

清水ああ、そういうのありますよね。子どもとかって、「幽霊が怖い」ってなると、まあ布団を被って怖さを抑えますよね。でも、幽霊だと別に布団の中だろうと関係ないのかな?っていう(笑)。じつは、そんな幼少期の妄想が『呪怨』のワンシーンにつながったりしてるわけですが。

 あと、幼少期の記憶というのはたしかに大事ですね。たとえば、映画『リング』の脚本家:高橋 洋さんは、テレビっ子だったのに、ある日を境にテレビに近づかなくなったらしく……その原因となったおぼろげな記憶……小さいころに映画『シェラ・デ・コブレの幽霊』を見たときの体感から、『女優霊』やブラウン管の画面からはみ出してくる幽霊などの発想を得たと言っていましたから。原作の『リング』では貞子は出てきたりしませんしね。

柴田先ほどアクション性を高めると怖くなくなってしまう、というのは清水さんのおっしゃる通りで、ゲーム的にもバンバン除霊できたり、カンタンに逃げられたりすると、怖くないんです。なので、すべてのアクションが怖さを保つギリギリの速度になるように調整しています。プレイヤーとしてはちょっとゆっくりとしたアクションに感じるとは思いますが、主人公たちは女の子がメインですし、ゲーム全体の雰囲気も保てているのかなと。

――『零 ~濡鴉ノ巫女~』はリマスタータイトルとなりますが、リマスターについてどのような点を心掛けていたのでしょうか。

菊地今回のリマスターはグラフィックを美麗にしているだけでなく、衣装や新モードなど、追加要素はありますが、まずは多くのプレイヤーに『零』シリーズに触れていただきたい、というところからストーリーやバトルの基本の要素は変えないリマスターにしています。

柴田もう一度見ると、やはりどうしてもストーリーやゲームシステム、演出に手を加えたくはなるのですが、そこをやってしまうと全部作り直したくなってしまうので、我慢しました(苦笑)。

菊地20周年記念作品なのに、そうなると25周年のときに発売とかになってしまうので、そこはこらえてもらいました。

清水そうなるともう、シリーズ6作目になってしまいますね(笑)。追加衣装に、水着があるのがいいですね。映画だったら水着の女の子出てきたら「これはプロデューサーか監督の趣味で出てるだけだろ!」とか「妙なサービス的選択で怖い雰囲気台なしに…」なんて違和感しか生み出しませんが、ゲームだったらプレイヤーの自由ですし。

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――(笑)。『零 ~濡鴉ノ巫女~』は水の恐怖をフィーチャーしたタイトルですが、なぜそこに着目されたのでしょうか。

菊地1作目から柴田はずっと言っていたのですが、和風ホラーは“湿り気”が重要だと思うんです。

清水ええ、湿度は重要ですね。日本や韓国などのアジア圏って湿度の高い国じゃないですか。そこに憧れるリドリー・スコットなんてハリウッドの映画監督もいたりしますが……。そういう環境で生まれ育ってきたからこそ、DNAに空気感が浸み込んでると思うんです。

菊地たしかに。海外の建物や場所って、どこか乾いている印象があって、和風ホラーは日本家屋を彷彿とさせるような、どこか湿度の感じるシチュエーションだと思うんです。ですから、初代『零 ~zero~』から水の要素は重要視していました。ただ、当時は技術的なハードルが高かったんです。2014年発売の『零 ~濡鴉ノ巫女~』から、それがようやく実現できそうだと思い、チャレンジすることができました。

柴田雨に濡れたら女の子の髪も濡れるし、衣服も透けるという見た目にセクシーな要素でもあるのですが、濡れれば濡れるほどに死の世界に近づいていく、というホラー要素にもつながっているんです。幽霊に触れたときのダメージも大きいですが与えるダメージも大きい。ゲーム的にも、危険な要素でもあるわけです。

清水なるほど。PVではいろいろなホラースポットが登場していましたが、なにかモチーフはあるんでしょうか?

菊地ええ、あります。本作は日本全国のホラースポットをひとつの山に集めよう、というテーマがありまして。

清水それは便利なロケ地ですね。現実でもほしいなあ。

菊地(笑)。ただ、それをそのまま実現すると、スポットそれぞれがバラバラの印象になってしまうので、なにかひとつ、まとめ役が必要でした。そこで、日上山に降る雨や流れる川といった水を用いることで、一貫性のある舞台を作り上げることも、水の役割のひとつでした。

柴田昔海外から帰ったときに、日本の湿度の高さに気づきました。同時に、日本は水分や湿度で、全体がつながっているし、死の世界や幽霊ともつながっている感覚があったんです。つまり、もっと湿度が上がれば、より幽霊とつながっている世界設定にできるんじゃないかと考えて、水でつながった舞台設定を考えたんです。川があり、滝があり、その源流となる水は何なのか? というゲーム的に探りたくなるようなところも狙っています。

清水いいですね。水は目に見えるものですし、飲まないと死んでしまうし、体内にもすでに存在していて、植物も動物も全部水でつながっています。生きている限り排除できないものだから“通じてしまう”という怖さがあります。

『零 ~濡鴉ノ巫女~』対談。『呪怨』の清水監督とともに、ホラーを語る。柴田Dの心霊体験から数多くのシステムが誕生!? 各々の“日本ホラー映画大賞”への期待も!!
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和風ホラーの怖さとは?

――映画とゲームと分野は違いますが、お客さんを怖がらせる点では、同じエンターテインメントのひとつだと思います。具体的にどのような点を意識して、ホラー要素を高めているのでしょうか?

清水僕は雰囲気と気配です。まず雰囲気についてですが、廃墟、学校、病院、いろいろな心霊スポットがあります。使われなくなって人が寄り付かなくなった場所って、何も事故や現象が起きていないのに、尾ひれが付いて勝手に心霊スポットになるんですよね。地球規模で見たら、確実に人害です。勝手に作って放置した挙句、勝手に怖がるっていう風に、その場所を心霊スポットにしてしまう周囲の人間の心理があると思うんですね。そういった話が立つことで、何かが宿っていくんだろうと思います。そこを大事にしています。

 気配についでですが、何もないガランとした部屋を映すよりも、「さっきまで人が居た?」と感じさせたり、カレンダーの止まった月日で「いついつまで住んでいたんだ」と感じさせるような、誰か? 何か? の気配を置いています。人間は何かの気配をどうしてもつなげたくなってしまうもので。見ている人の意識をどこにつなげるのか、と考えるのは毎回楽しいですね。

柴田映画はひとつの空間をじっくり映し出せるのですが、ゲームはプレイヤーの操作で戻ったり進んだりできるので、ひとつの空間を魅せるという意味では、ゲームのほうがやりやすいのかもしれません。『零』シリーズは怖さがありつつも、プレイしていくうちに居心地がよくなってくるんです。なんだか懐かしい場所だなぁ……と感じたりして。

菊地それは、柴田の幼少の体験がゲームに反映されてるからじゃないかな(笑)。

柴田ああ、たしかに(笑)。僕、幼少期にはよく心霊現象を体験していたのですが、あるときからなくなって、ホラーゲームを作るようになってからまた体験するようになったんです。だから、居心地のよさを感じてしまうのかも。

――では、和風ホラーというのは、たとえば突然ゾンビが飛び出してきたりと、ビックリさせるような演出をふんだんに盛り込むのではなく、清水監督の言うようなジト~ッとした雰囲気で魅せるようなスタイルが、人気の秘訣かと思います。和風ホラーを演出していく、そのコツはありますか?

清水いやぁ~、コツがつかめたらなぁっていつも思っています(苦笑)。たまに、意図していた方向性とは違う雰囲気になる、魔の空気感っていうのがあるんです。意識を越えたところで、何かが宿ってしまうような。たとえば、故トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』を、もし監督本人がもう1度撮っても、2度とあの映画にはならないでしょう。それは、再度同じ状況でも、当時とは違う潤沢な予算や時間があっても、です。そういった、魔の空気感のようなものを、瞬間的にでもいいので、いつかつかまえることができたらいいなと思っています。

 いつも狙いに行ってはみますが、なかなかうまくはいかなくて。そしてたまたまうまくできたとしても、またそれをグレードアップできるのかといったらそういうものではなかったりして。そこがかなり難しいところです。人にはコントロールできないからこそ放たれる魅力なんですが。

 またおっしゃるように、往年の和風ホラーを求めている人や映画やホラーに長けた人たちは“サプライズ(脅かし)よりもスケアリー(びくびく)”を好みます。ですが若いファンや、プロデューサーからは「わかりやすい脅かしがほしい!」という声も挙がるんです。正直、僕はもうサプライズは要らないんですけどね、自分自身が仕事柄もう何(他作)を見ても狙われたサプライズでは、まったく驚けないですし、それを怖いとも思えないから。それよりも「さっきからアレずっと映ってるけど何?」みたいな、ゾクゾクする、おどろおどろしい描写で怖がらせたいし、怖がりたいです。もちろん、不特定多数の方へ向けたエンタメとしての怖さには、サプライズも大事なの重々わかってるんですが。

柴田本作にも、もちろん驚かせポイントみたいのがあります。なるべく我慢したほうが効果的なんですが、いまプレイすると「ああ、当時の自分はここで我慢できなかったんだな」と、ちょっと後悔するところもありますね。きっと当時、誰かに「ここに驚かせる演出を入れてほしい」と言われて実装したんだな、と。

清水まあでも自分の10代のころを思い返すと、分かりやすいサプライズ演出でも驚いたし楽しめていたので、大事なことだったんだと思います。その中でも僕が好んだのが、「ギャー!」より「ゾッ……!」だったんですよね。

 映画や本、ゲームなどを見て、家に帰って、トイレに入るときやお風呂に入るとき、寝る前などにふと思い出されてしまう恐怖を、僕は “おみやげ”と呼んでいます。出来のよいホラー映画や怪談、小説って、おみやげが多いんですよ。あとで思い返して、さらに恐怖が倍増するといいますか。あれを見たせいで、似た状況に陥るたび、また日常でトイレや寝るなどのひとりになる度にそのシーンが脳裏に巡ってきて……みたいな。それが本当にうまい恐怖の演出なんだと思います。

菊地『零』シリーズを最初に作り始めたとき、人が感じることでなにがいちばん怖いのかと柴田に聞くと「人の想像力がいちばん怖い」と答えました。何かを感じたあとに、ふと想像力を働かせて倍増したものが、いちばん怖いんですよね。そこを意識してゲームに取り入れているので、ゲームを遊び終わったあとも、何かふとしたところで怖がってもらえるような演出などを採用しています。

清水ちなみに、そこのさじ加減って、本当に日本人独特と言いますか。アジア圏の人たちには結構伝わりやすいバランスなのですが、欧米人にはかなり理解してもらうのが難しくて。ハリウッドリメイク版の『THE JUON/呪怨』を作ったときは、毎日のようにプロデューサーとケンカしてましたよ。「ぼんやり立ってるだけなんて、何が怖いんだ」とか言われたりするのですが、こっちはこっちで「悪魔を出すようにしろ」とか言われても、怖くないわけで(笑)。それこそ環境や文化、宗教感の違いなどもありますが、互いに「考えるな! 感じろ!」の部分なので。

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やはりある、リアル心霊体験……!?

――ホラーものの現場では、よく心霊現象が起きる……なんてエピソードを聞いたりします。実際にお三方が、体験したことはあるのでしょうか。

菊地僕は霊感がないのでないんですが、柴田はよくあります。

柴田幽霊に触られたことがあって、自慢していますね。

清水それはすごい! この業界では、本当に自慢できます。

菊地もともと『零』シリーズって、柴田の心霊体験をゲーム化したみたいな側面があるんです。よく心霊モノを扱うタイトルはお祓いに行きますよね。でも、柴田の心霊体験がもとになってるから、柴田はお祓いに行かないんです。開発チームからは不安なので「お祓いに行かせてください」って言われて(笑)。

柴田もし幽霊が出なくなったら、もったいないですからね!

菊地3作目の『零 ~刺青ノ聲~』までは、本当にお祓いに行ってません(苦笑)。こっそり連れていこうとしたときには、柴田に怒られましたね。ただ、『零 ~月蝕の仮面~』からは、ほかの開発会社さんなども関わるようになったので、それにかこつけて、一部スタッフとお祓いに行ったりしました。

清水そうそう、お祓いなんてやっちゃいけませんよ! むしろ招き入れないと(笑)。そもそもこの手の話って、ホラー系だから表に出て宣伝や話題に使われるだけで、コメディや感動ドラマの裏でも、ホラー映画以上に奇妙なことや事故とか起こったりしているのありますよ。ただ、ネガティブな印象を与えがちなので、ふつうは「不謹慎だから、やめろ」、「逆効果だから口外禁止」みたいなことになりますしね。だってたとえば“戦争ドラマの感動大作”の舞台裏で関係者の事故死とかがあったら言えないし、ましてや宣伝に使うなんて、人として神経疑われるでしょ? ホラーでも、というか、ホラーだからこそ……その辺の一線は越えてはならない部分があります。

 お祓いについてもよく訊かれますが、撮影前のお祓いは、あれはヒット祈願、撮影の安全祈願であって、霊を追い払ってるわけじゃないですし……ホラー以外の作品でもふつうは行っていることですから。

菊地安全祈願としてお祓いをしていたのですが、1回だけ柴田に「僕の代わりにお祓いの予約しといてくれ」と頼んだら、柴田が商売繁盛祈願に変更してて(笑)。

柴田安全より商売繁盛の方が重要でしょう。そしてヒットするためには、本物の力が必要ですから!

――本物の力、ですか(笑)。柴田さんは具体的に、どのような体験をされたのでしょうか。

柴田いろいろありますが、いちばん思い出深いのは幽霊がゲームに出てきたことです。たとえば収録音声に、幽霊の声が入ったりして。でも音なら、なんとなく分かるんですよ。機材トラブルかもしれないですし。ただ、ゲーム内のグラフィックとして心霊現象が起きたことがあって。
 
 『零 ~zero~』のムービーで、真正面に鏡がある長い廊下を歩いていくシーンがあるのですが、そこを作っているときに、鏡にチラリと映るものがあったんです。気になってコマ送りで見てみると、鏡に足がぶら下がっていたんです……。ゲームなので、そのグラフィックを作っていないとゲーム内に反映されるわけないんですよ。でも、どうしても1コマそういうシーンがあって。
 
 「これ、削除できないの?」ってスタッフに相談しても、そもそもゲーム内にそんなデータはないし、削除できなくて。で、どうしようもないので、もう製品版に反映することにしたんです。ただ、発売前の直前でその足が消えたんですよ。いや、惜しかったです! 幽霊が出演したゲームになったかもしれないのに(笑)。

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――実現していたら、まさに伝説級のホラーゲームですね……!

柴田実際にゲームデータに採用されたものもありますよ。『零 ~紅い蝶~』では霊石ラジオという、幽霊の声が聞こえるラジオがありました。その音声収録では、声優さんのボイスを実際に電波で飛ばして、鉱石ラジオで拾って録音したものを使用しています。声優さんの演技や、ラジオを挟んだフィルターもあり、かなりいい感じに仕上がりました。ただ、何やら苦しむ声がサウンドに入っているんですよ。
 
 「すごい演技だな」と思って聞いていたのですが、サウンドスタッフは「この声、収録してないです。昨日から削除してるんですが、すぐ復活するんです。どうします?」って聞かれて。だったらもう、本編に入れてしまおうと。いやもう、機材の電源とかプラグとか全部抜いてもそのうめき声が鳴るんですよ。そのときもどうするのか聞かれて、とりあえず録音しようと。結局『零 ~紅い蝶~』ではそのサウンドが実際に使われています。

菊地サウンドスタッフからしてみればたまったものではなくて、本当に困り果てていたんですよ。削除しても、そのサウンドがつぎの日になったらまた復活してるんですから。

清水ホラーの現場としては、いい風が吹いてますね!

柴田なにより、出演料がいらないですからね!

――ものすごい出演者ですね(笑)。

柴田あと、制作中にセリフを言われたことがあります。幽霊のセリフっておもしろくて。自分でセリフを考えるとなると、ちゃんと説明したり、何かを解説しておかないといけません。でも、幽霊のセリフは計算がないんですよ。

 あるとき、“飛び降り自殺した女性の霊がいて、その飛び降りた先を見たら霊と目が合う”というシーンを見ながらミーティングしていたんですね。データ実装中だったので、そのスタッフが「この人ちゃんと崖から落ちてくれますかね~」って、フラっと言ったんですよ。そのとき、全然違う角度のところから「殺してない」という歪んだ声が聞こえてきて。

 僕は言ってないので「どういうこと?」ってなりましたし、スタッフも聞いたけど、誰もそんなこと言ってない。まったく脈略なしに「殺してない」って幽霊に言われたわけで。

清水それはいいセリフですね! その一言にドラマが含まれていると思いますが、まあ伝わりにくいですよね(笑)。映画でもやはり、そういう意味不明なセリフを採用したほうが恐怖に感じると思うのですが、それが伝わらないんですよね。意味不明だから怖いのに「どうして? どういう意味?」みたいな受け取りかたをされてしまうし、理解できないと「つまらない」と認識し、投げ出されてしまうから。やはり「考えるな! 感じろ!」の分野に……(笑)。

柴田そうなんですよ。あと、笑ってしまうようなことを言われたこともあります。いまはないですが、昔のゲーム開発では会社に泊りがけで作業することが多かったんですね。そのとき、会議室のようなところで横になって寝るわけですが、その会議室には本がたくさん積んでありました。

 あるとき寝ていたら、バーッと子どものような足音で、走り回っている音が聞こえて。もちろん、会社には僕が寝ているだけです。その足音は、机にある本をボンボン落としながら、走り回っているわけです。「うるさいなぁ」とバッと起きると、誰もいないんですよ。再び横になると、また本を落としながら走り回る音が聞こえて。そしたら、こっちに気づいたみたいなんです。近づいてきて「寝てないの?」って聞かれたので、「寝てねーよ!」って答えたら、フッとそれが消えたんですよ(笑)。

――なぜ確認したんでしょうかね……。清水監督は、そういった体験はありますか?

清水僕自身は霊感がないのか、直接はないんです。ただ、ちょっと不思議だなとか、偶然にしてはおかしいな、みたいなことはちょっとだけ体験したことがあります。昔、富士急ハイランドの“戦慄迷宮”というアトラクションをお借りして、映画を撮影していたときの話です。

 一般のお客さんが帰ったのちの閉館後、夜の時間を使っていたので朝まで撮影は続くのですが、ラストシーンを朝まで撮らないといけない、とてもバタバタした1日でした。動き出したマネキン人形がゾンビのようにワラワラと出てくるシーンで、そのためのエキストラを東京からバスで手配し、用意していたんです。

 全員で20人居たのですが、人形のようなメイクをする必要があり、特殊メイクさんや衣装さん、演出部(助監督チーム)なども各パートがひとりずつ確認しながら準備していったんです。それで全パートで20人ぶん終わりました、と報告あがった時点で、エキストラがひとりだけなぜか余ってしまって。でも、特殊メイクしているから誰が誰かわからないけど頭数は20人いる……名前まで確認している間もなく、だったらひとり増やして21人でやっちゃえと、最後のひとりもメイクなどを済まして、本番に臨んだわけです。

 それで撮影が終わり、エキストラさんのメイクや着替えを終えてみたら、20人に戻っていたんですよ。ただ、それを僕自身は知らずに撮影していたんです。あとになってから、助監督やメイクさん、衣装さんといった各パートから同じ証言があがってきて「それ、そのとき教えてよ!」って(笑)。確実に21人居たのに、終わったら20人だった、という話です。そのときのスタッフに会うと、いまでもたまに「あれ何だったんでしょうね?」と言われます。

柴田きっと出たがりが居たんですよ。無料のエキストラなんて、美味しいじゃないですか。

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一同 (笑)。

柴田ほかにもありまして、ちょっと長い話になります。恐山がモチーフのゲームなので、取材で恐山に行ったときの話です。朝イチで青森から出発し、バスに乗りました。恐山って、バスで向かうのですが、基本的に恐山に行く人しか乗っていません。女の子と体の大きな男3人の外国人バックパッカーの集団、若いカップル、おばちゃん2人連れと私というメンバーでした。
 
 到着すると順路が書かれていて、バスに乗ってきた人は同じルートをぐるっと回るわけです。とても綺麗な山で、空気も美味しく「想像していたような恐ろしい山とは程遠いな」と思っていたら、ふと順路から離れたところに脇道があって。そこに入ると両側に木が立っていて、奥に神社が見えたんです。「順路じゃないのに、すごく綺麗な場所があるじゃないか」と近づくと、神社の奥から子どもが遊ぶ声が聞こえたんですね。
 
 そのとき、ふと「あっ、順路から離れるとよくないな」と思って、とりあえず順路に戻ったんです。で、集団で順路を辿っていくと、宇曽利湖という湖にたどり着きます。そこでみんな一端休憩するような雰囲気でした。
 
 そこでいきなり、いっしょに歩いてきたバックパッカーの女の子が「キャーッ!」と叫びながら走り始めたんですよ。からかってるんだろと男たちも笑って見ていたのですが、あまりにも真剣だし泣きだしたので「本当にヤバいのでは?」という空気になり、なんとか女の子をみんなで取り押さえました。
 
 そしたら女の子は「何かあったの?」みたいな表情でケロっとしていて。すると、なぜか僕が倒れて、身体が動かなくなったんです。身体が棒のようになってしまって。よくわからないまま、近くの食堂に運ばれて寝かされたんです。
 
 口は動くので、食堂のおばさんと会話はできました。おばさんから、「私は霊感ないほうなんですけど、厨房で白い影を見たりしたこともありますし、ここの人はみんな見てますよ」とか、思いもよらぬ心霊体験が聞けたりして「おおっ!?」って思っていたら「こういうことになった人、過去にもいたんですよ」って言われて。
 
 「その人どうなりました?」って聞いたら、おばさんが「いまも治ってなくて。毎年お参りにきてますよ」って。ええっ~~!? これ、治らないの!?(笑)と衝撃を受けていたら、自転車で日本一周しているというおじさんが「どうしたんや?」とやってきたんです。
 
 「この人、身体が動かなくなったみたいで」と若いカップルが説明すると、おじさんが「そうか~。まあクッキーでも食って、元気だせや!」と、僕の口にクッキーを突っ込んだんですね。そうしたら、身体がパッと動くようになったんです。
 
 あとから思い出すと、あの脇道の神社の子どもの霊が僕について来て、外国人の女の子に移り、そして僕に戻ったんじゃないかと。そして、お菓子を食べたら治ったというのも、子どもだからお菓子を食べさせてもらったから、気が変わってくれたんじゃないかと。ということで、オチがぜんぜん怖い話ではないんです(笑)。

――おじさんのクッキーが、というところで笑い話にも見えますね(笑)。その神社というのは、実在するんですか?

柴田その神社は、とても綺麗で周囲に音もないくらい静かで。雰囲気がいいからゲームにもこういう場所が出せればと思ったんですよ。あとからGoogle Mapで探したんですが、その順路から離れたところを見ても、その神社がないんです。だから、まだ見つけられていない、または存在しない……のかもしれません。
 
 ゲームでは記憶を頼りに再現しました。あの体験は、きっと神隠しみたいなものでしょうね。順路を離れた私がヒュっと消えて、子どもを連れて戻って来たような。あの体験から、神隠しにあった人物を探すために山へ登り、“残影”と呼ばれる白い影を追っていくと、神隠しにあった人たちを探せる……というようなシステムを考えたというゲームにつながるお話でもあります。

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日本ホラー映画大賞について

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 最後に、日本ホラー映画大賞についてご紹介。KADOKAWAは、令和の新たなホラー作家の発掘・支援のため、フィルムコンペティション“日本ホラー映画大賞”を実施する。大賞受賞者には、受賞作品のリメイク版または完全オリジナル作品の新作映画の監督権が与えられ、2022年劇場公開を目指すという。さらに、アニメ部門賞のほか、さまざまな賞も用意されている。

 応募期間は2021年11月30日までと、残り時間はあとわずか。プロ・アマチュアを問わず、気鋭の作品を待望しているとのことなので、もし気になる人がいたら、いまからでも応募の準備を始めてみよう。

清水 崇

 こんなホラー映画があってもいいじゃないか、なんで先陣や既成作品はこんなことをやらないのか、と思っている人がきっといると思います。そんな人たちの作品を、ぜひ見てみたいです。

菊地啓介

 ホラーというジャンルの中において、垣根がなくなるといいなと思います。ホラーというジャンルに自分から触ることで、また違う怖さが感じられるはずです。たとえば『零』シリーズファンも、ちょっとショートフィルムを送ってみようとか、チャレンジしてみてほしいです。

柴田 誠

 打席に立ってみないと、神が降りてこないことは多々あります。『零』シリーズの開発を始めたときから、怖い体験をするようになりました。始めないと怖い体験もできませんから、まずは打席に立ってみてください。そうすれば、アッチのほうからやってきます。

日本ホラー映画大賞 公式サイト
日本ホラー映画大賞 公式ツイッター
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