アクションがかなり面白くなっている
最初に言っておく。「須田ゲーだもの、アクションより雰囲気重視だろ?」と手に取ることをためらっている人がいたら、それは誤りだ。『ノーモア★ヒーローズ3』は、過去のシリーズに比べてバトルのバランスやテンポ感がかなり向上。さらにボスバトルに至るまでのザコとのエンカウント方法が変わったため、物語の先見たさに惰性でザコバトルをプレイするのではなく、ひとつひとつの戦いにきっちりと充足感が行き届き、アクションゲームとしての楽しさが底上げされた作品となっている。詳しくは追って解説していくが、そこに須田ゲーテイストがガッチリと噛み合い、唯一無二の作品として仕上がっているのだ。
あらためてゲームを解説しよう。ナンバーの付くシリーズ新作としてはじつに11年ぶりの『ノーモア★ヒーローズ3』は、2021年8月27日発売のNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)用“殺し屋”アクションゲームだ。西海岸の片田舎の街“サンタデストロイ”に住まう、オタクで冴えない殺し屋のトラヴィス・タッチダウンが、謎の美女シルヴィアにそそのかされ、全米殺し屋ランキングの頂点を目指す、というのがこれまで2作のおもなストーリーだった。
『ノーモア★ヒーローズ3』(Nintendo Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp)ところが最新作の『3』はというと、ある日突然、凶悪宇宙人FU率いるガッデムな銀河系スーパーヒーロー軍団が、地球侵略の手始めにサンタデストロイを襲撃。いろいろあってサンタデストロイに舞い戻ってきていたトラヴィスが、地球を、愛する街を守るため彼らに立ち向かうという、ヨタ話のスケールがアップしたものになっている。
このスーパーヒーロー軍団は、週刊ファミ通2021年9月9日号(通巻1708号・8月26日発売)の、須田剛一氏と敵デザインを担当した牛木匡憲氏へのインタビューでも語られているが、宇宙人だからこそ誰も見たことがないようなデザインを狙ったもので、その奇想天外なフォルムからは戦いかたを想像するのが難しい。それゆえバトルのひとつひとつでプレイヤーは戦いかたを模索しながら攻略法を見つけ、試行錯誤の中でプレイヤースキルを上げ、トラヴィスの成長と合わせて、最終的に敵をねじ伏せるという達成感のあるものになっている。
そもそも『ノーモア★ヒーローズ』は、シリーズを通じてボス戦のひとつひとつが、そのキャラクターに合わせて戦いのルールを根底から切り替えるなど、物語とゲーム性を不可分にした唯一のものとなっていた。これが『3』では宇宙人という、ある意味タガを外した設定によって、その天衣無縫っぷりがさらに甚だしくなっているのだ。
今回の発売直前となるインプレッションでは、
- バトルアクションはどう心地よくなったか
- フィールドマップやミニゲームはどう変わったか
- 物語や須田ゲーらしさはどうなっているか
について語っていこう。
ゲーム体験としての驚きを損なわないように、今回はアクション部分がいかに改良されたかに文字数を割いている。須田ゲーらしさの部分などが知りたいという向きは、読みたい部分だけ読んでいただいてもかまわない。
ちなみに今回のレビューにあたってのプレイでは、難度をBITTER(デフォルトは“BERRY” SWEET、BITTER、SPICYの3つ)、Joy-ConをNintendo Switch本体から取り外したJoy-Conふたつ持ちスタイルでプレイしているが、本体に取り付けたままやNintendo Switch Lite、あるいはプロコントローラでもプレイできる。ただ、よりトラヴィスと一体となってアクションを楽しみたいなら、Joy-Conふたつ持ちをおすすめしておこう。
また、攻略をよりラクにするためのガイドは、追って別の記事を予定している。
※以下に公開した。
戦闘中の判断で攻撃を切り替えつないでいくループは、進藤塾の煉獄のよう──バトルアクションはどう心地よくなったのか
『ノーモア★ヒーローズ3』は、バトルを防衛ミッション、指定試合、ボス戦と完全に分け、該当エリアに踏み込んで選択することで初めてそれぞれのバトルが始まる仕組みとなっている。防衛ミッションは金策のため、指定試合はボス戦に挑むため、ボス戦は物語を進めるための戦いで、それぞれに目的は異なるが、基本は共通だ。
とりわけ本作では、過去作にあったバトル中のアクション要素が整理され、ひとつひとつの意義がより明確になったことで、シリーズがもともと持っていた気持ちよさの土台の上に、さらに軽快な操作のリズムが生じている。プレイを続けているとトラヴィスだけでなく、プレイヤー自身のテンションまで上がるようなグルーヴ感が生まれたのだ。この気持ちよさを構成する技をそれぞれ解説しつつ、それらがどう組み上がってグルーヴとなるのかを説明していこう。
バトルアクションの基礎は過去2作とほぼ共通だが、Joy-Conの向きによる上下段の攻撃の区別はなくなり、Yボタンによる小攻撃、Xボタンによる大攻撃に変化している。大攻撃はボタンを押したあとの制御不能な時間がやや長く、状況によって小攻撃との使い分けが必要だ。また、パンチ・キックなどの打撃の代わりに、本作ではBボタンによるジャンプが導入され、XYボタンと組み合わせることで攻撃のバリエーションが増している。
こうしたボタンの連打による攻撃で敵を追い詰め、最後の一撃としてトドメスラッシュを放つ。これは画面に表示される方向指示に従って右のJoy-Conを振り抜けばいい(ほかの操作モードではRスティックで方向を決定)。Joy-Conをトラヴィス愛用のビーム・カタナに見立てているわけだが、すべての攻撃で振りっぱなしだとプレイヤーへの負荷が大きくなってしまうところ、モーションセンサーを使った攻撃をスラッシュのみに限定することで、負荷を抑えつつ、敵を倒したときの爽快感を確保しているのだ。
さらにそのトドメスラッシュの出始めは全体がスローになり、プレイヤーのアクション入力後にスピードが戻ることで、対象にカタナがグッと食い込み、ズバッと抜き去ったような、気持ちいい手応えがある。
ロックオン兼ガードはZLボタン。そのまま攻撃できるため、ほぼ押しっぱなしになると思っていいだろう。ロックした敵の切り替えはロックオン中にRスティック。Aボタンを押せば回避行動も出る。また、敵の攻撃が当たる寸前に回避をキメると、トドメスラッシュ同様にゲーム全体がしばらくスローとなり、残像を残しながらトラヴィスが無敵の状態で敵の背後に回り込むジャスト回避となる。このスローのあいだ、好きに攻撃を畳み掛けられるようになるのだ。攻撃手段としてはあくまでボーナスだが、この回避をキチンと使えないと、序盤以降はザコですら敵が手強くなる本作では、戦いが成立しにくくなるだろう(後述する救済策もある)。
と言っても、ここまでは過去2作にすでにあった挙動の延長。『ノーモア★ヒーローズ3』では、トラヴィスが左手に装着したデスグローブによるスキル4種がここに加わる。手始めのデスキックを入手後、物語のある時点でこれらが出揃う。そこからがこのゲームのアクションの真骨頂だ。デスレイン以外は、近づく、吹き飛ばす、自分だけが自由に動き回れるなど、相手との位置関係を強制的に修正できる性質があるため、複数の敵に取り囲まれたときにこれらがよく効くのだ。それぞれのスキルは、一度使うとクールダウンに時間を要するが、これがビーム・カタナの充電状態とは関係なしにくり出せるため、かなり使い勝手がいい。
プロレス技は敵に隙があるときに、近づいてZRボタン。相手が気絶、いわゆる“ピヨり”中にこれが成功すると、ビーム・カタナの充電が満タンになる。本作で初めて導入されたこの仕組みがじつはバトルを大きく変化させた。というのも、そもそもビーム・カタナは電源で動いており、攻撃やガードを続けているとだんだんと残量が減り、ときおり攻撃を止めて充電する必要があるシロモノ。充電中はどうしても無防備になるので、その時間が不要になるプロレス技によるトドメが、戦闘中に大きな意味を持つわけだ。
さて、ここまでバトル中のアクションを分解して説明してきたが、実際のプレイになると各要素が絡み合い、分岐を含んだループができ上がる。これが過去のシリーズとは決定的に違う部分で、具体的には、XYボタン連打>攻撃されたらジャスト回避でスロー発生>有利な状況から追撃>相手がピヨったらプロレス技で充電という流れだ。そこに状況に応じて4種のデスグローブスキルをクールダウンするたびに挟み込んでいく。
こうして生まれる戦闘のリズムが、過去のシリーズに比べてもアクションゲームとしての心地よさを確実に引き上げており、プレイヤーは、いつどのデスグローブスキルを使うかの判断を、そして相手が気絶したときに、連打を続けてそのままトドメスラッシュまで持ち込むか、攻撃の手を一度止めてプロレス技に切り替えて充電するかの判断を、さらにボーナス的にチャンスの訪れるアーマーモードに変身するかなどの判断を瞬間瞬間に求められる。この判断のスリルと、判断が正しかったときに得られる快感が数珠つなぎとなり、独特のグルーヴとなってプレイヤーを包み込むのだ。
そしてもうひとつ。バトル中にトラヴィスが倒されてしまうと、リトライするか、拠点であるモーテルに戻るかの2択を迫られる。このとき前者を選ぶとルーレットが登場し、プレイヤーがボタンを押して回転を止めた位置で、攻撃力1.5倍やテンションMAXスタートなど、トラヴィスが強化された状態でバトルを再開できるのだ。さらにリトライをくり返すと、このルーレットはどんどんと回転の速度を落とし、やがて誰でも目押しができるほどになる。これがアクションの腕前で壁にぶつかったときの救済措置となっており、前述のようにバトルが充実した一方で、力不足を感じたときもクリアーを諦めてしまうことなくゲームを続けられる発明と言えるだろう。
ファストトラベル活用もよし、須田ゲー独特の練り歩きを堪能してもよし──フィールドやミニゲームはどう変わったか
『ノーモア★ヒーローズ3』では、1作目以来のフリーマップが復活している。以前のサンタデストロイの街が全体マップの一部となり、訪れられるフィールドはかなり拡大しているが、広さに対して相変わらず人の気配が少なく、よく言えば、それが却ってアメリカ的な冗長な広さと退廃的な雰囲気を非常に醸し出している。ゴミだか資材だかよくわからないものが積まれるばかりの路地裏や、街はずれのハイウェイの高架下の、ブッシュ程度しかない巨大なエリアのリアリティたるや。
だから海外のオープンワールド系ゲームのようなフィールドを期待すると、いつものようにはぐらかされる。それでもフィールド上にはボランティアミッションと呼ばれるミニゲームへの入り口があちこちに設けられており、これらの成功報酬で金策をすることになる。挑戦が即報酬につながる一時的なミッションのほかに、フィールド全域に散らばったアイテムを捜し集める継続的なミッションも多く、それらを丁寧に歩き回って捜し始めると、トラヴィスが退屈に生きる街の広さが実感として得られ、その歩き回った距離やかかった時間が街への愛着をプレイヤーの中に生み出すのだ。
とはいえその広さが利便性の低下にはつながらない。愛車デムザンティガーに跨がれば、エリア内の移動はあっという間だし、一度訪れたエリアへの移動には、今回はファストトラベルが用意されている。これはマップ画面からすぐに呼び出せるので、トラヴィスの住まうモーテルの部屋からでもロードのみで指定のエリアへの移動が可能なのだ。
結果として、プレイスタイルによってプレイ時間は大きく異なってくる。物語の骨子だけを見たいのであれば、最低限のミッションクリアーで参加費を貯め、指定試合を攻略し、ボスバトルに突入すればいい。このくり返しで10~15時間程度でクリアーできるだろう。だが、世界全体を味わいながらひたすら歩き、捜し物をして回ると、ゆうに30、40時間はかかるだろう。コンプリートを目指すならそれ以上だ。だがこれは、クリアー後のステータスを維持したまま2周目に突入できる仕組みがあるので、それからゆっくりと楽しむので構わない。
ただ一点、物を捜すとなるとバイクを降りたダッシュでの移動が多くなるが、その際のLスティック押し込み+方向入力という操作が、長引くとつらいところではある。
けっきょくのところ、物語や須田ゲーらしさはどうなっているのか
『ノーモア★ヒーローズ3』には、いたるところにビデオゲームやアニメ、マンガ、映画、音楽などのネタやオマージュが詰め込まれている。そもそもシリーズ全体がトラヴィスというオタクが主人公であることにより、融通無碍かつこれらが許されやすい土壌にあるが、それでいて不快のかけらもない。
それは扱われている対象すべてへの愛やリスペクトが非常に素直に溢れているからだろう。どれもこれも自分の好きなもので固めていたい。須田剛一は強欲なのだ。これだけいたるところにネタを詰め込んだ形が許されるのは、昨今なら『レディ・プレイヤー1』か『ノーモア★ヒーローズ』くらいであり、須田剛一は日本のスピルバーグだと言い張ってもいいのかもしれない(よくないかもしれない)。そういえば、今回の敵FUはETを一文字ずつズラした名前だ。
妄想はさておき、もしあなたが『ノーモア★ヒーローズ3』に、過去のシリーズのようなボンクラテイストを期待しているなら、大丈夫。荒唐無稽だった外伝『Travis Strikes Again: No More Heroes』を経て、今回はさらにそれが極まっている。物語もプレイヤーの予想を裏切る形で二転三転し、あっけに取られることだろう。そもそも今回は全体がテレビアニメシリーズのような章仕立てになっており、アバンタイトル>オープニング>本編>エンディング>アイキャッチという流れをだいたい踏襲している。この流れの隅々まで仕込まれたネタを、ぜひ実際のプレイで味わってみてほしい。筆者はオープニング後にしばしば挟まるトラヴィスとビショップの映画談義がツボにハマった。語られている映画も8割がた観ていたので大いに共感したのもあるが、表示されるアイコンに「ここまでする!?」と声が出たのだ。
そうしたネタの数々と同時に、キャラクターデザインのコザキユースケ氏、敵デザインの牛木匡憲氏、ゲストキャラクターデザインの浅野いにお氏、それから神風動画、AC部、ドット絵などのさまざまな絵柄が混じり合うさまは、蠱毒レベルのカオスっぷり。そこにメインコンポーザーの金子ノブアキ氏はじめ、開発会社であるグラスホッパー・マニファクチュアのイベントではおなじみのコンポーザーの面々が、前述のアクションのグルーヴに負けぬほど最高にクールな楽曲を重ねてくる。
発売後、半月もしないうちに物語だけをかいつまんだ動画などがアップされるのかもしれない。でも『ノーモア★ヒーローズ3』の魅力はそれだけで語り尽くせないだろう。バトルのあのグルーヴや、ときおりフォーマットすらブチ壊す戦いの数々への驚嘆、フィールドで途方に暮れる感じ、説明なしに「そういうものだから」と承服させられる設定へのとまどい、そしてクリアー後に、2周目に向けてセーブができるようになるその寸前まで何が起こるかわからない感覚などは、プレイした者でないとわからない。
ド安定の任天堂タイトルやAAAタイトルのディナーにもし食傷気味であるなら、ぜひこの知る人ぞ知る名店のカレーでありラーメンである、男どアホウどアクションを味わってほしい。食後に「3000種類のスパイスを嗅ぎ分けられるこのおれの鼻でさえ、あのカレーのスパイスはわからなかった」だとか、「ラーメンとチャーハンを頼んだら、ラーメンにチャーハンが入ってきてビックリした」などと誰かに言わずにはいられなくなるところまでが、このゲームの楽しさだ。
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