2021年6月24日にNintendo Switch版が配信開始となった、ローグライクアクションRPG『HADES(ハデス)』。2020年にPC版がリリースされるや世界中で話題となり、“2020年最高のゲーム”の呼び声も高い傑作です。

 なお本作は、世界最大のゲーム見本市“E3 2021”にて、プレイステーション5版、プレイステーション4版、Xbox Series X|S版、Xbox One版の発売も明らかになっています。

 そんな『HADES』を生み出したスーパージャイアントゲームズに所属する、本作のクリエイティブディレクターであるグレッグ・カサヴィン氏へインタビューを実施しました。本作が世界中で愛される魅力に満ちたゲームになった理由から、スーパージャイアントゲームズという開発会社のことまで、いろいろとお答えいただきました。

グレッグ・カサヴィン氏

スーパージャイアントゲームズ所属のゲームデザイナー。『HADES』ではクリエイティブディレクターを務める。過去に手掛けた作品は『Bastion』、『Transistor』、『Pyre』など。

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ローグライクに深い物語を織り込んだ

――『HADES』というゲームがどのような経緯で生まれたのか、教えてください。

グレッグ『HADES』は小規模な独立スタジオとしての我々の4作目にあたるので、まったく新しい設定の中で過去の作品すべてのいちばんよいところを組み合わせようと考えました。プレイヤーの皆さんは過去作の世界観とキャラクター、そしてプレイスタイルの深さを楽しんでくれていたので、これまでのゲームよりも大きくて、より複雑な世界を作りたかったんです。

 また『HADES』は私たちとしては初となる既存の神話を題材にしたゲームなので、チームにとってとてもエキサイティングな挑戦でした。私たちは、ギリシャ神話に対してユニークなアプローチが可能だと感じていたのです。オリュンポスの神々が複雑な大家族だという発想です。それをこのゲームを通して表現したいと思いました。

 そして何よりもローグライクのジャンル、すなわちプレイするたびに異なるゲーム構造を経験する中に、より深い物語を織り込める可能性があるのでは、とも考えていました。そういったゲームは、大抵死んだらすべてをなくして、また最初からはじめなければなりません。

 そこで、自分が操るキャラクターが、プレイヤーたる自分と同様にすべてを覚えていていたらどうだろうか? と考えました。その結果がゲームオーバーのないゲームであり、ストーリーはつねに進行しているという感覚です。

『HADES(ハデス)』開発者インタビュー完全版。ダークな雰囲気に反した、意外とほのぼのとした物語は何故生まれた!?

――本作を改めて開発者自身の言葉で表現するとしたら、どのようなゲームになるでしょうか。

グレッグ『HADES』はローグライクのダンジョンクローラーで、ギリシャ神話の冥界から戦って抜け出て、悪名高き死者の神から逃れることが目的のゲームです。プレイするたびに、新たな挑戦とストーリーの一端を知ることになります。

 活気に満ちた雰囲気と美しく描かれたキャラクターたちを特色としています。そしてアクション満載の見下ろし視点のゲームで、ほんの数分遊んでも、何時間遊んでも楽しめる、そんなゲームです。

――ザグレウスがキビキビ動く操作性がとても気持ちよいです。このアクションを実現するために、開発中に気をつけたことはありますか?

グレッグありがとうございます! 私たちにとって、アクションの感覚は非常に重要で、開発中はつねに力を入れていました。我々自身の印象と、プレイヤーコミュニティーからのフィードバックに基づいて、感覚とバランスを絶えずチューンしたのです。それから、ちょうどいいアクションの感覚を得るために、テンポの速いアクションゲームや格闘ゲームに多くのインスピレーションを得ていますね。

 強い敵に敗れたときは、何が起こったかわからなかったり、どうすればよかったのかわからないと感じるよりは、避けられたはずの攻撃によってそうなってしまったと感じる必要があります。

 ゲームの中のアクション性を的確にするひとつのキーポイントというものは存在しません。たくさんの小さな解決法と些細なことの積み重ね、ですね。

『HADES(ハデス)』開発者インタビュー完全版。ダークな雰囲気に反した、意外とほのぼのとした物語は何故生まれた!?

――ザグレウスの強化による戦闘スタイルのバリエーションの豊かさによって、何度も遊びたくなります。各能力のバランス調整はたいへんだったのではないでしょうか?

グレッグ『HADES』では、私たちが思い付く以上の、数百万通りの組み合わせが可能です。ここでもプレイヤーからのフィードバックの恩恵を受けました。正しく機能しない組み合わせの特定を手伝ってくれたのです。

 『HADES』はシングルプレイヤーゲームなので、私たちが求めるバランスについてのゴールは、格闘ゲームの開発者が求めるそれとは異なります。このタイプのゲームの楽しみには、ときどきとても強力な組み合わせに出くわして、通常よりも簡単に、より深い場所まで進めるというものがありますよね。

 もし、強力すぎるアビリティや、逆に使いたくないアビリティが多すぎた場合、選ぶ楽しみが減ってしまい、長い目で見るとゲームのリプレイ性も減じてしまいます。

 私たちはまったく異なるプレイスタイルを実現するために、異なる武器や能力をいくつもデザインしました。遊べるキャラクターはザグレウスだけですが、異なるタイプの武器や能力が手に入ることで、まったく違ったスタイルの遊びかたへと繋がります。それはまるで、RPGで別のキャラクタークラスが存在するようなものです。

『HADES(ハデス)』開発者インタビュー完全版。ダークな雰囲気に反した、意外とほのぼのとした物語は何故生まれた!?

――ストーリーテリングの手法も高く評価されています。ローグライクに素晴らしいストーリーを組み合わせる現在の手法は、どのように確立していったのか、教えてください。

グレッグ本作のストーリーを創り上げることや、多くのプレイヤーが各キャラクターと楽しみながら触れあっていることに、歓びを感じています。ストーリーテリングは私たちのゲームにおいてつねに重要ですし、ゲームだからできる物語の手法を模索しています。

 出発点は、ローグライクジャンルにはストーリーテリングの大きな可能性が秘められていると認識することでした。たとえば、何度も対戦することになるボスキャラが、自分のことを覚えているようなゲームとはどんなものだろう? 永遠に遊べるようなゲームにおいて、どの程度のストーリーがあるべきか? そして何より重要なのが、ギリシャ神話の冥界において死んでしまうと、どこに行き着くのか? こうした疑問に、『HADES』で答えることは刺激的でした。

――ダークな雰囲気に反して、ウィットに富んだ会話劇が楽しめる、意外にもほのぼのとしたストーリーですが、なぜこのようなテイストになったのでしょうか?

グレッグふたつほど理由があります! まずは、冷徹なストーリーが昨今の巷には多くあり、そのようなストーリーはやりたくないと感じました。残忍に見える設定で、じつは想像以上にほのぼのとしている、とプレイヤーをビックリさせたかったのです。

 もうひとつは、ローグライクゲームとは本質的におかしいものだと感じていた、ということです。 ほんのちょっとした不注意が恐ろしい惨事へと繋がるのですから。でも、それほど悪いことではありません。またすぐにやり直せばいいのです!

 『HADES』は挑戦しがいのあるゲームなので、プレイヤーには何度も失敗することで怒りやフラストレーションを感じてほしくありませんでした。それに、冥界では失敗による死でさえも、生きることの一部だと思ってほしかったのです。

『HADES(ハデス)』開発者インタビュー完全版。ダークな雰囲気に反した、意外とほのぼのとした物語は何故生まれた!?

――キャラクターたちの人間臭さも魅力的です。とくにお気に入りというキャラクターはいますか?

グレッグ自分の子どものうちでお気に入りが誰かを選ぶようなものなので、難しい質問ですね……。すべてのキャラクターを愛していますし、いちばん嫌われているキャラにもそう感じます。たとえばハデスとか!

 多くのプレイヤーが主人公のザグレウスや、主要キャラクターであるメガイラやタナトスを気に入ってくれたことが、私はうれしく、また安心もしました。勇者アキレウスにも強い愛着を覚えますね。ギリシャ神話での彼の活躍は、心を捕らえて放しません。

『HADES(ハデス)』開発者インタビュー完全版。ダークな雰囲気に反した、意外とほのぼのとした物語は何故生まれた!?

――アートスタイルも特徴的ですが、影響を受けた作品はありますか?

グレッグアートディレクターのジェン・ジーがすばらしいキャラクターデザインをすべて手掛けました。

 彼女はギリシャ神の古典的肖像画から、マイク・ミニョーラ(漫画『Hellboy』で知られる)、そしてビデオゲーム業界で活躍する多くの日本人アーティスト、吉田明彦、西村キヌ、小島文美、新川洋司などなど、多様なソースから着想を得ています。ジェンと私は、日本のゲームやゲーム制作者から多大な影響を受けていますね。

「子どものころに遊んだゲームのような、想像力を呼び覚ますゲームを作ろう」を合言葉に

――スーパージャイアントゲームズについても教えてください。会社の規模はどれくらいですか? 成り立ちや、社風についてもよろしければ教えてください。

グレッグスーパージャイアントゲームズは、サンフランシスコに居を構える、小さな独立スタジオです。20名の社員の中には、大手スタジオでAAAタイトルに携わった経験を持つものや、過去にまったくゲーム開発経験がなかったものもいます。

 「子どものころに遊んだゲームのような、想像力を呼び覚ますゲームを作ろう」を合言葉にしています。これは、永続しうる、ポジティブな影響を残す可能性のあるゲームを作ろう、という意味です。

 私は『サムライスピリッツ』や『ファイナルファンタジータクティクス』といったゲームを発売当時に遊びましたが、いまでも頻繁に、それらのゲームについて考えています! ほかのメンバーも、誰かにとってそのような経験となり得るゲームを作りたいと思っているはずです。

 7人のコアメンバーは、2009年の開設当初、私たちが最初のゲーム『Bastion』の開発をスタートしたころからいっしょに働いています。どのプロジェクトも学びは多いです。できる限りいっしょにゲームを作り続けたいと思っているので、開発に関する責任と自分たちの生活に関して、しっかりバランスを取ろうと心掛けています!

 ゲーム作りはエキサイティングですが、ともすればとても長い時間が掛かるものです。限度を見極めて、その中で最善を尽くすことが重要です。そうすることで、この仕事を長く続けられるのですから。

『HADES(ハデス)』開発者インタビュー完全版。ダークな雰囲気に反した、意外とほのぼのとした物語は何故生まれた!?

――スーパージャイアントゲームズのゲームは、システムや世界観を毎回一新しています。次回作も『HADES』とはまったく異なるタイトルになるのでしょうか? また、過去作の続編をつくりたいと思うことはありますか?

グレッグ私たちはプレイヤーを驚かせることが大事だと考えています! 意外性のないことは望みません。でも、各ゲームの世界観が好きですし、それぞれの世界でのまた別のストーリーの可能性についてもつねに思い描いています。

 これまで過去作の世界に立ち戻る機会はありませんでしたが、未来はわかりません。自分たち自身を驚かせることができるなら、それこそがプレイヤーを驚かせる近道でしょう!

『HADES(ハデス)』開発者インタビュー完全版。ダークな雰囲気に反した、意外とほのぼのとした物語は何故生まれた!?

――『HADES』は“The Game Awards 2020”で並み居る大作とともに“Game of The Year”にノミネートされるなど、世界中で非常に高く評価されています。こういった評価を得て、どのような気持ちでしたか?

グレッグ『HADES』に与えられたすべての賞に対して、畏れ多く、光栄に思います。昨年中、世界的パンデミックの中でも、開発を続けられたことはとても幸運でした。またこの困難な時をやり過ごすのに、本作が助けになったとの声をプレイヤーの方からいただき、本当にありがたく感じています。

 プレイヤーが時間を費やす価値を感じるゲームを作りたいといつも思っているので、多くのプレイヤーに『HADES』に時間を注ぎ込んでいただけて、とても嬉しいです。

『HADES(ハデス)』開発者インタビュー完全版。ダークな雰囲気に反した、意外とほのぼのとした物語は何故生まれた!?

――“The Game Awards 2020”開催時、『HADES』は“Game of The Year”ノミネート作の中で唯一、日本語で遊べないタイトルでした。また、膨大な量のテキストを非常に高いクオリティで日本語化してもらえたので、待った甲斐があったと感じています。同じように楽しみにしていた日本のゲームファンに向けて、メッセージをお願いします。

グレッグ私たちはやっと日本でも『HADES』を発売できて、とてもうれしく思っています。また私たちの素晴らしいパートナー、ハチノヨンが注意深く、ゲームの膨大な脚本を忠実に日本語に訳してくれたことにも感謝しています。

 日本のゲームが『HADES』と私たちの人生にもたらした影響の大きさは、言葉に表せないほどです。このゲームを通して、日本の皆さんに少しでもお返しできるということが、とてもうれしいですね。

 (日本語で)本当にありがとうございました!