2021年5月27日に配信された“『バーチャファイター×esports』プロジェクト正式発表放送”にて、シリーズ最新作となる『Virtua Fighter esports』が正式発表。2021年6月1日にプレイステーション4版がPlayStation Plusでの期間限定フリープレイ、PlayStation Nowで配信されるほか、翌日の6月2日よりアーケード版も稼動開始となる。

 本稿では、『Virtua Fighter esports』のチーフプロデューサーを務める青木盛治氏へのインタビューをお届け。『バーチャファイター』シリーズをeスポーツタイトルとして再始動することになった経緯や、 開発にあたっての注力ポイントなどをうかがった。

青木盛治チーフプロデューサーに聞く、『Virtua Fighter esports』が目指すものとは――

青木盛治(あおきせいじ)

『Virtua Fighter esports』のチーフプロデューサー。『ボーダーブレイク』シリーズを始め、『シャイニング・フォース クロスエクレシア』、『ぷよぷよeスポーツ アーケード』などのプロデューサーも担当している。

『バーチャファイター』を知らない世代にも手に取ってもらいたい

――ついに『Virtua Fighter esports』が発表されましたが、本プロジェクトの企画や開発はいつごろからスタートしたのでしょうか。

青木社内では定期的に『新作バーチャファイター』の話は出るのですが、うまくプロジェクト化に至らないというケースがよくありました。そんな中、2019年に再び話が出たときに“セガ設立60周年記念プロジェクト”の後押しもあり「やりましょう!」と。それから2020年2月にプロジェクトが本格的にスタートした矢先に、新型コロナウイルスの影響で在宅環境になったり、初めての龍が如くスタジオとAM2(※)の協業だったり、欧米やアジアといった海外の拠点との連携などもあったり、ものすごく困難が多いプロジェクトでした。

 ですが、60周年記念プロジェクトとして動き出したからには、設立記念日となる6月3日より前のプロジェクトイヤー内には出さないといけないということで、ありえないスピード感で開発し、ギリギリ60周年記念イヤーのリリースに間に合いました(汗)。

※AM2:『バーチャファイター』シリーズを開発していたセガの開発スタジオ。『アウトラン』、『スペースハリアー』、『初音ミク Project DIVA』シリーズなども手掛けている。

――さきほどのお話の中で、本作は龍が如くスタジオとAM2の協業とのことでしたが、どのような体制なのですか?

青木プランニングやプログラマーはおもにAM2が担当していて、 過去の『バーチャファイター』シリーズに携わったメンバーもいます。 また、“ドラゴンエンジン” (※)でのリメイクにあたり、 龍が如くスタジオはおもにデザインを担当しています。 ただ、 プログラマーもドラゴンエンジンを知る必要があるので、そこはしっかりと連携しつつという感じですね。

※ドラゴンエンジン:龍が如くスタジオが使用しているグラフィックエンジン

――スタッフの中には、過去の『バーチャファイター』シリーズを担当された方もいらっしゃるのですね。

青木そうですね。シリーズ開発に携わっていた人にもしっかりとみてもらっていますし、プログラマーには前作の『バーチャファイター5 ファイナルショーダウン』を家庭用に移植したメンバーも入っていて、『バーチャファイター』を知らない人はほぼいない体制でした。

――家庭用版とアーケード版の『バーチャファイター』を作られていた方の、コラボレーションタイトルということでもあるのですね。

青木私自身も『バーチャファイター4』の開発に携わっていたんです。当時はデザイナーとして、ステージデザインをしていたのですが、もちろんプレイもしていますし、『ボーダーブレイク』で家庭用とアーケードの両方のタイトルを作った経験もあって、手を挙げさせてもらいました。あと、私がアーケード版『ぷよぷよeスポーツ』のプロデュースをやっていたこともあるので、社内的に「eスポーツと言ったら青木」みたいな勝手なイメージがあったのかもしれません(笑)。

――(笑)。本作はPlayStation Plusのフリープレイ、PlayStation Nowで同時配信とのことですが、無料配信にした狙いや意図を教えてください。

青木端的に言うと、「多くの人に手に取ってもらいたい」という思いからこのプロジェクトは始まっています。『バーチャファイター』って聞いたことはあるけど遊んだことがないという世代の人も多いと思うんです。そういう人たちに知ってもらって、プレイしてもらうにはどうすればいいのだろうと考えたときに、手に取りやすい価格設定にしよう、というコンセプトは最初から決まっていましたが、まさか無料にするとは当時思ってもいませんでした(笑)。

 さすがにずっとフリープレイはきびしいので(笑)、PlayStation Plus会員の方は2ヵ月間を対象としました。また、PlayStation Nowの対象タイトルになりますので期間限定ですが、会員の方は追加料金なしでプレイできます。同時にDLCとセットになったパックを有料販売するという形にしています。

――フリープレイで少しでも『バーチャファイター』に触れてもらいたいですね。その中でアーケード版もリリースされますが、こちらについても狙いや意図を教えてください。

青木そもそも『バーチャファイター』はアーケードで生まれているので、アーケードをやらないという考えはなかったのですが、コロナ禍でアミューズメント施設の方の作業などを考えると、「アーケードを出しても普及できるのか」と心が揺らいだこともありました。ですが、『ぷよぷよeスポーツ アーケード』でも使用している“ALL.Net P-ras MULTI バージョン3”のような、ひとつの筐体に複数タイトルが入る仕組みを活用すればいいのではないかと。

 すでに筐体をお持ちのアミューズメント施設さんはこの筐体を使っていただけば、複雑な作業もいりませんからね。筐体を新造することはできませんでしたが、アーケードで生まれたものはアーケードでも最新版を出すべきだろうと初めから考えていました。

――タイトルに“esports”が付いていたので、家庭用ゲームのイメージがありました。

青木なかなかアーケードでeスポーツや賞金制の大会は難しいですからね。 とはいえ、 アーケード版をやらないという選択肢はありませんでしたし、 やるからにはプレイステーション4版と同じタイミングで出さなければと。

 ただ、これがまた難しくて、アーケードは通信環境等を確認するために、市場でのロケテストをしなければならないということがありまして。ロケテストを行うとプレイステーション4版より前に情報が出てしまうので、今回はロケテストをやらずにリリースすることになりました。

――アーケードでリリースするのに、ロケテストは行わないのかな? と思っていました。

青木その社内調整もたいへんで、「やるべきものなんですよ」と各所から言われました。本来、ロケテストは実際に市場で稼働したときをシミュレーションして行うことが目的なので、それであれば、「市場でなくてもできるんじゃないですか?」ということを各所に説得して、市場と同じ環境に見立てて社内でロケテストを行いました。セガでは初の試みかもしれません。

――サプライズですね。ちなみに、アーケード版は『ファイナルショーダウン』からのデータの引き継ぎはあるのでしょうか?

青木すごくアナログなのですが、『ファイナルショーダウン』を遊んでいた当時のICカードをセガに郵送で送っていただくと、そこから戦績や特殊称号のデータを引っ張り、Aimeカードに紐付けるというキャンペーンを行う予定です。あとは、“VF.NET”のように月額440円[税込]で戦績の確認やカスタマイズ、称号の付け替えなどが行える“VF esports.NET”というサービスもありますので、アーケード版はこういうものとセットで、昔の『バーチャファイター』と同じように楽しんでいただけるとうれしいです。

――アーケード版のプレイヤーにはうれしいサービスですね。本作の開発でとくに意識されたところはどこでしょうか?

青木前作『ファイナルショーダウン』のグラフィックは当時では高い水準でしたが、いまの時代にはマッチしているとは言えません。本作ではドラゴンエンジンを使って、前作のイメージや雰囲気は残しつつ、ほとんどすべてのグラフィックを一から作り直して刷新しました。ですが、皆さんの頭の中にある前作のグラフィックは、キャラクターセレクト時のハイエンドCGの記憶が強く残っていて、リメイクしても変化量になかなか気付いてもらえないのではと感じていたんです。

 先日、古参プレイヤーさんに遊んでいただいた際に「キレイになった」と感想をいただき、我々がやってきた方向性は正しかったんだと確信に変わりました。また、eスポーツと名付けるからには、eスポーツシーンに特化した新機能“トーナメント戦、リーグ戦、観戦機能”を強く意識して開発しました。コロナ禍によってすべてがオンラインで完結できるようになるときを見越して、オンラインで大会の開催や観戦を行えるようにもしています。まだやりきれていないことがあるので、今後アップデートなどで追加していきたいです。

青木盛治チーフプロデューサーに聞く、『Virtua Fighter esports』が目指すものとは――
青木盛治チーフプロデューサーに聞く、『Virtua Fighter esports』が目指すものとは――
青木盛治チーフプロデューサーに聞く、『Virtua Fighter esports』が目指すものとは――

――やりきれていないこととは、具体的にどのような機能になるのでしょうか?

青木『バーチャファイター』のアーケードシーンではよく使われていたチーム戦や、eスポーツ運営をしていくうえでの機能を充実させていきたいです。

――トーナメント戦で負け残りが入っているところが、コミュニティのニッチな要望に答えているなと思いました(笑)。

青木一度負けても、まだワンチャンある。となると俄然燃えますよね(笑)。これもルール的には、主流になりつつあるダブルイリミネーションになりますし、最初から入れようと考えていました。

――ユーザーの要望に出そうなものを汲み取って入れている印象がありました。今後もアップデートは行われるのでしょうか。

青木さきほどお話させていただいた、やりきれていない機能もありますし、リリース後にこういうものが欲しいといった要望が出てくると思うので、なるべくそれには応えていきたいです。キャラクターカスタマイズアイテムもシリーズを通してものすごい種類なので増やしていきたいですね。

――コスチュームも新しく作られているのでしょうか?

青木そうですね。グラフィックは全部フルリメイクしているので、コスチュームも一から作り直しています。今回は厳選したものを収録しているのですが、まだフルリメイクしていないアイテムが山ほどあるので、順番に出していきたいです。あとは、新しいアイテムも作りたいです。お話があればコラボコスチュームとかもいいかもしれないですね。

青木盛治チーフプロデューサーに聞く、『Virtua Fighter esports』が目指すものとは――

盛り上がりによって『バーチャファイター6』の開発もある!?

――今後、本格的にeスポーツに取り組んでいかれると思いますが、ビジョンやテーマはあったりするのでしょうか?

青木『バーチャファイター』でも大会はたくさん開催したいですし、世界的な大会もやりたいですね。公式としては、まず“チャレンジカップ SEASON_0”として大会を開催していきます。今年の8月~10月の大会をファースト、来年の1月~3月の大会をセカンドとして行います。

 そして来年から正式に“SEASON_1”として始めていき、最終的にはプロプレイヤー化を進めていきたいですね。また、プロだけではなく実力によってレイヤーが分かれるような形にして、日々上を目指してゲームをプレイしていただけるような環境も作っていきたいです。その辺は『ぷよぷよeスポーツ』での実績があるので、それに倣う感じでいけそうだなと思っています。

――eスポーツとは別に、100人組手や鉄人といった『バーチャファイター』ならではの施策も考えられているのでしょうか?

青木100人組手は少し形を変えて行う予定です。ただ、過去のものにフューチャーしすぎると新規の方が入りづらくなってしまうので、バランスが難しいなと。

――長い歴史を持つ『バーチャファイター』にはファンコミュニティがありますが、公式としてそういったコミュニティとどのように関わっていくのでしょうか?

青木『ボーダーブレイク』のときはゲームセンターを回って店舗イベントを行い、プレイヤーさんとコミュニケーションを取っていました。開発者としてそこで得るものがたくさんあったので、生の声を聞くのはすごく大事だなと。ただ、オフラインでコミュニケーションを取るのは難しい状況が続くと思うので、オンライン中心で何かできないかなと考えています。

――『Virtua Fighter esports』の発表直後ですが、『バーチャファイター6』についてもお聞きできればと。

青木まだ何も決まっていないので明言はできませんが、 作りたいか作りたくないかで言うと、私は作りたいです。新作を作るにあたり、『バーチャファイター』というタイトルにはまだ需要やポテンシャルがあるのか。それを知る一歩が本作だと思っているので、つぎにつながるくらい盛り上げていきたいです。

――最後に、『バーチャファイター』ファンや、新規の方に向けてメッセージをお願いします。

青木気軽に手に取ってもらいたいという思いから、PlayStation Plusのフリープレイとしてリリースしました。『バーチャファイター』を遊んだことがないという方は、まずダウンロードしていただき、『バーチャファイター』ってこういうものなんだと理解していただき、そこから興味を持っていただけたら、ぜひ深く遊んでいただければ幸いです。

 また、レジェンドプレイヤーや古参プレイヤーにお願いしたいのは、先輩として新規の方にはやさしく(笑)フォローしていただき、『バーチャファイター』コミュニティの拡大に向けて、我々といっしょにお手伝いしていただけると、“スモイ”うれしいですね。