2021年4月30日に発売されたNintendo Switchソフト『New ポケモンスナップ』。本作は、1999年3月21日に発売されたニンテンドウ64ソフト『ポケモンスナップ』の22年越しとなる新作だ。

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 1999年というと、カメラ付き携帯電話がまだ普及していない時代。それに比べて、スマートフォンで簡単に高画質な写真が撮れるようになった現代では、写真を撮るという行為に対する人々の認識がまったく異なる。

 そんな時代の変化に『New ポケモンスナップ』はどのように適応しているのか。写真を撮ることがより手軽になった現代において、“写真を撮ること”をメインにしたゲームのデザインはどのようにアップデートされているのか? ポケモンの石原恒和社長と開発を担当したバンダイナムコスタジオの須崎春樹氏に話を聞いた。

石原 恒和(いしはら つねかず)

株式会社ポケモン
代表取締役社長・最高経営責任者

『ポケットモンスター 赤・緑』を始め、ポケモンのビデオゲーム全作品でプロデューサーを務める。また、株式会社ポケモンにおいて、ゲームのほか、カードゲームや映像・アプリなどのプロデュースとブランドマネジメントを手掛けている。

須崎 春樹(すざき はるき)

バンダイナムコスタジオ

2002年よりバンダイナムコに勤務(当時ナムコ)。ポケモンと鉄拳がコラボした『ポッ拳 POKKÉN TOURNAMENT』のディレクターを経て、今回の『New ポケモンスナップ』でもディレクターを担当。

『ポケモンスナップ』発売当時は写真を撮ることが日常的な行為ではなかった

――『New ポケモンスナップ』についておうかがいする前に、まずは1999年にニンテンドウ64ソフトとして発売された『ポケモンスナップ』のお話を聞かせてください。当時、石原さんは『ポケモンスナップ』にどのような関わりかたをされていたのでしょうか。

石原 『ポケモンスナップ』は“ジャックの豆の木計画”(※)というプロジェクトで生まれたチームが企画・開発を担当したタイトルです。写真を撮ってそれを評価する仕組みを盛り込んだゲーム、というアイデアはもとからあったのですが、じつは企画の当初はポケモンを題材にしたものではありませんでした。後に、その仕組みを使ってポケモンを撮影するゲームを岩田さんが持ってきてくれたことが、僕にとって『ポケモンスナップ』開発の始まりでした。

※ジャックの豆の木計画……コピーライターの糸井重里氏、ハル研究所代表(当時)の岩田聡氏、チュンソフト代表(当時)の中村光一氏、任天堂の宮本茂氏ら4名の評議員が、すべてのメンバーを公募で選んだゲーム開発プロジェクト。ファミコン通信(当時)にも募集の広告が掲載されていた。

――初めて岩田さんからお話を聞いたとき、どんな感想を持たれましたか?

石原 正直なところ、ニンテンドウ64向けで写真を撮るゲームと言われても、いまいちピンと来ませんでした。しかし、よくよく話を聞いてみると、カメラに対して被写体がどちらを向いているか、どんなふうに画角に収まっているかを計算して評価する仕掛けを軸としたゲームなのだということがわかり、それで「ああ、なるほど」と。

――技術的な部分はまったく異なるものだと思いますが、遊びの発想はいま盛んに技術開発が進んでいるAIによる画像認識に近いですよね。

石原 当時からその思想があったというのはすごいことだと思います。岩田さんと言えば、ニンテンドウ64のエキスパートともいうべき天才プログラマーでしたから、その面目躍如といったところでしょうか。

 要するにその画角に映っている情報のうち、どこからどこまでがポケモンで、それがどの種類のポケモンか、顔はどこにあるのか、どちらを向いているのかといった多くの情報を評価するというゲームですね。これはおもしろいと感じまして、ぜひやってみましょうとお返事しました。

――1999年当時は、“写真を撮る”という行為の意味合いがいまとはずいぶん違いましたよね。

石原 いまと比べれば、写真を撮ることのハードルが間違いなく高かったですからね。スマートフォンはもちろん、カメラ機能付きの携帯電話もまだ普及していませんでした。ちなみに、僕自身は大学時代に写真を勉強していたこともあって、その方面には少しうるさいのです(笑)。

――それは興味深いお話です!

石原 1980年代の話ですが、授業では蛇腹付きの大判カメラに8×10(エイトバイテン)と呼ばれるシートフィルムを入れたものを使っていて、露出計や三脚などもろもろ含めると20キログラムくらいにもなるセットを担いで撮影へ行っていました。そして夜に真っ暗な風呂場で現像するんです。いまになって振り返ってみると、たいへんな時代でしたね(笑)。

――まさに隔世の感があります(笑)。しかし、写真を撮ることにある種の特別感があったからこそ、当時はそれをゲームとしての遊びに落とし込むことにおもしろさがあったと。

石原 当時ならではのタイトルだったと思います。

石原社長&須崎Dに聞く『New ポケモンスナップ』開発秘話。写真を撮ることがより手軽になった2021年、ゲームデザインは前作からどう進化した?
※画像はWiiUバーチャルコンソール版『ポケモンスナップ』のものです
石原社長&須崎Dに聞く『New ポケモンスナップ』開発秘話。写真を撮ることがより手軽になった2021年、ゲームデザインは前作からどう進化した?
※画像はWiiUバーチャルコンソール版『ポケモンスナップ』のものです

異常なほどに作り込まれた『ポッ拳』の背景が『New ポケモンスナップ』開発のきっかけに

――そんな中、ニンテンドウ64版『ポケモンスナップ』の発売から20年以上が経ったいま、『New ポケモンスナップ』が制作されることになったのはなぜなのでしょうか。

石原 ニンテンドーゲームキューブやWiiといった新たなハードが開発されるたびに続編を作ろうという話自体は出ていたのですが、まさに前述の通り、写真を撮ること自体が日常化し、特別な行為ではなくなってきた時代に、“写真を撮ることを目的としたゲーム”が成立するのかというところで議論があり、なかなか開発に踏み切れませんでした。

 それでも試行錯誤を長年ずっと続けてきた結果、今回、Nintendo Switchでようやく納得のいく形が見えてきたので、開発を進めることになったわけです。

――まさにそのあたりをお聞きできればと思います。開発はバンダイナムコスタジオの須崎さんのチームが担当されているのですね。

石原 須崎さんとは『ポッ拳 POKKÉN TOURNAMENT(以下、ポッ拳)』からの付き合いですが、このチームであれば『ポケモンスナップ』の新作を作れるという期待がありました。というのも、『ポッ拳』自体の出来栄えもあったのですが、本当にちょっと異常なくらい背景に凝っていたことが印象的だったのです。

 そこまでやる必要があるのかと思ってしまうくらいに、すべてのステージにメインの対戦とは関係ないポケモンや背景のオブジェクトが山のように配置されていて。遊んでいると、背景に目を取られているうちに攻撃されることもあり、もはやそれを狙っているのかと勘ぐってしまうほどで(笑)。

――確かに、背景の描写や作り込みには目を見張るものがありました。あの凝りまくった作りにはどういう意図があったのでしょう?

須崎ポケモンはたくさんの種類が存在することが大きな魅力だと思っているのですが、『ポッ拳』はバトルがメインのゲームです。そんな中で、より多くのポケモンを登場させるべく、バトルはもちろんのこと、背景にかなり注力したというわけです。

石原 それにしてもすごいこだわりでした。テルルタウンの伝説のポケモン・ユクシー、エムリット、アグノムや育て屋さんのアーチの上にいるオニスズメやポッポなど、Nintendo Switchのアップデートでズーム機能が追加されてようやく気づけるくらいのサイズで、本当に細部まで作り込まれていて。『ポッ拳』のステージにレールを引くだけで、そのまま『New ポケモンスナップ』のステージになるのではないかと思うくらい(笑)。

石原社長&須崎Dに聞く『New ポケモンスナップ』開発秘話。写真を撮ることがより手軽になった2021年、ゲームデザインは前作からどう進化した?
 『ポケットモンスター』シリーズと『鉄拳』シリーズのコラボレーションとして開発された『ポッ拳 POKKÉN TOURNAMENT』。2015年にアーケードでの稼働が開始され、2016年にはWiiU版、2017年にはNintendo Switch版が発売された。実際に戦うポケモンたちはもちろん、本作ではプレイアブルとして使用できなかったポケモンたちが背景とともにたくさん登場。

――意外なところに新作開発のきっかけが(笑)。それほどにポケモンへの表現についてこだわりを持たれていた須崎さんですが、『New ポケモンスナップ』の話を最初にお聞きになったときはどう思われましたか。

須崎 ニンテンドウ64版『ポケモンスナップ』が発売されたころは、ゲームのグラフィックが3Dになり始めたばかりで、いろいろなチャレンジがされている時代だったと思います。

――1990年代の後半というのはそういう時代ですね。

須崎 そのうちのひとつとして写真を撮るゲームが作られたわけですが、いまやゲームのオプション機能として“フォトモード”が搭載されていることは珍しくないですよね。そんな状況下で、リメイクではなくて新作を作るということでしたので、最初は少し戸惑いました。いまでも根強いファンがいるタイトルだということも知っていましたので、プレッシャーもありましたし……。

――開発にあたって、石原さんからゲームの方向性について要望は出されたのでしょうか。

石原 具体的に指示や要望を出すようなことはほとんどしていません。ただ、やはりニンテンドウ64の『ポケモンスナップ』はジャックの豆の木計画によるタイトルですから、コンセプトなどを共有するために、当時の開発陣と本作の開発陣で話をする機会は設けました。

須崎 ニンテンドウ64の『ポケモンスナップ』から20年以上経っていることもあって、続編とはいえコンセプトを変更したほうがいいのか悩んでいました。そんな中でそういった機会をいただけたことは、開発に大きな影響があったと思います。当時の開発に懸けた想いをお聞きしていくうちに、やはり根底のコンセプトは変えずにいくべきだろうと。そのうえで、いまの時代に合わせてどこを拡張していくかを検討する方向で話が固まっていきました。

――具体的にはどんな点を時代に即したものにされたのでしょうか。

須崎 最初に議論になったのは、ひとつのステージで撮影できる枚数の上限についてでした。いまの時代、写真撮影に対し、フィルムの残り枚数を意識する人はそう多くはないと思います。しかし、時代に合わせて1000枚くらい撮影できるようにすればいいかといえばそうではなく、制限があるからこそゲームとしておもしろいという側面もあるわけです。ゲームとして気持ちよく遊べるということを重点的に考えた結果、本作では72枚という結論になりました。

石原 72枚というのは、当時は36枚撮りフィルムなどが主要だったので、その倍くらいのイメージという感じです。撮った写真を後から加工できる“エクストラ撮影”も、時代に合わせて変化させた部分と言えますね。

須崎 いまは撮影した写真を後で加工することが珍しくないですから、それに合わせて本作ではステージ終了後に撮影した写真の加工や位置の調整ができるようにしています。

 ほかにも、撮影した写真はSNSで共有されることをあらかじめ想定していまして。エクストラ撮影で満足のいく写真を撮影した後は、フレームやフィルタを変えたりスタンプを押したりして、さらにプレイヤーがオリジナリティーを追加できます。SNS自体は外部のサービスを各々利用していただければと思いますが、SNSを利用していないという方向けに、ゲーム内でほかのプレイヤーの写真を楽しめるサービスも用意しています。

石原 ゲームでの体験をもとに現実世界でのコミュニケーションを生み出すやりかたは、『ポケットモンスター 赤・緑』のころから大事にしていることです。ゲーム内のコンピューターとポケモン交換をするからこそ、現実世界の友だちともポケモン交換をしようと思える。『New ポケモンスナップ』でも同じように、ゲームの中で写真を評価される体験をもとに、その写真を現実世界でも共有してお互いに評価し合うようなコミュニケーションが生まれてくれることを期待しています。

石原社長&須崎Dに聞く『New ポケモンスナップ』開発秘話。写真を撮ることがより手軽になった2021年、ゲームデザインは前作からどう進化した?
石原社長&須崎Dに聞く『New ポケモンスナップ』開発秘話。写真を撮ることがより手軽になった2021年、ゲームデザインは前作からどう進化した?

――なるほど。そのあたりも『ポケットモンスター』シリーズで大事にしてきたことを活かしつつ、いまの時代に適応したものになっているわけですね。ほかにニンテンドウ64版『ポケモンスナップ』から変更された部分はありますか。

須崎 ニンテンドウ64の『ポケモンスナップ』では、写真を撮影する際には必ず、カメラを構えて(ズームをして)シャッターを押すという2段階の動作が必要でしたが、本作では、ズームをせずただボタンを押すだけでも撮影が可能です。この変更もスマートフォンのように、いま見えている画面をそのまま撮れるほうが自然だろうと考えたからです。なお、ズーム機能を使うことももちろん可能で、この場合は2段階の動作になります。

――逆に、ここはあえて変えないように意識したという部分は?

須崎 先ほども少しお話しましたが、“ポケモンの暮らす世界を覗きに行く”という根底のコンセプトです。また、マルチプレイができるわけではありませんが、誰かがプレイしている画面を横から見ながらわいわいコミュニケーションが取れる点も、ニンテンドウ64版『ポケモンスナップ』を踏襲している部分です。

根底のコンセプトは『ポケモンスナップ』のまま 時代に合わせて進化した『New ポケモンスナップ』

――石原さんから見て、ズバリ本作の手応えはいかがですか?

石原 ニンテンドウ64版『ポケモンスナップ』のコンセプトを踏襲してもらったとはいっても、20年以上経てばハードの性能も開発技術も何もかも変わっていますから、まったく別のゲームになるかもしれないという思いもありました。

 ですが、実際に仕上がったものを触ってみて、これは間違いなく『ポケモンスナップ』の新作だということが実感できる仕上がりになっているなと。それでいて、いまの時代に遊んで違和感のない“写真を撮るゲーム”になっていると感じています。

――確かに、プレイフィールは前作をしっかりと踏襲しつつ、体験としては新しいゲームですよね。ちなみに、ニンテンドウ64版『ポケモンスナップ』をプレイしていない方のためにも、改めて『New ポケモンスナップ』でいい写真を撮る方法を教えてください。

須崎 基本は、主役のポケモンを画面の中心にして大きく写すと高得点がもらえます。また、ポケモンの向きによっても点数が変わるので、なるべくこちらを向いている写真を撮るとさらに点数が高くなります。ですが、今回はポケモンの種類が増えたこともあり、向きについては例外が存在しています。

――それはおもしろいですね。

須崎 たとえば、ドデカバシは真正面からより、横から見たほうがなじみがあって魅力的ですよね。そうしたポケモンは、横向きに撮ることでも点数が高くなったりします。ほかにも横向きの評価が高いポケモンがいるので、実際にさまざまな角度から撮影して確かめてみてください。

石原 本作では、写真の評価方法が従来の点数だけではありません。珍しい仕草を取っている瞬間を撮影すると評価が高くなり、こちらは星の数によって4段階で評価されます。ポケモンフォト図鑑にはそれぞれの星の数ごとに、別々の写真が登録されるので、全ポケモンの4段階の星をコンプリートすることもゲームの目的のひとつとなっています。

須崎 珍しい仕草を引き出すには、どうぐを使っていただくといいと思います。たとえば、ふわりんごを投げるとふわりんごを食べる仕草が見られたりするように、さまざまなアクションを引き出せるはずです。

石原 ポケモンが食べ物を食べる仕草はニンテンドウ64の『ポケモンスナップ』にもありましたが、本作ではポケモンの種類によって食べかたも異なります。ここはハード性能の向上が如実に表れている部分です。「このポケモンはどういう風に食べるんだろう?」というふうに、想像しながら楽しんでもらえたらと思います。

須崎細かいテクニックですが、ズーム機能を使っているあいだはネオワン号(主人公が写真を撮影する際に乗る乗り物)の移動速度が少しだけ遅くなります。ふつうに進むと撮り逃してしまうシーンも、これを利用すれば撮影できる可能性があるので、タイミングの調整に使ってみてください。また、ズーム機能はどうぐを使用する際にも使えます。ふわりんごのように投げるどうぐは、ズーム中に投げることで飛距離が少し伸びるので、遠くに投げたいときはズームしながら投げてみてください。ぜひズーム機能やどうぐを活用して、ポケモンたちのいろいろな側面を見ていただきたいです。

石原社長&須崎Dに聞く『New ポケモンスナップ』開発秘話。写真を撮ることがより手軽になった2021年、ゲームデザインは前作からどう進化した?
石原社長&須崎Dに聞く『New ポケモンスナップ』開発秘話。写真を撮ることがより手軽になった2021年、ゲームデザインは前作からどう進化した?
時代とともに進化したグラフィックの向上により、ポケモンたちがより自然に、その場にいるかのように感じられる本作。前作の“ポケモンフード”にあたる“ふわりんご”の食べかたの表現も、ポケモンにより個性が出る形になっている。

――最後に、本作を楽しみにしているファンの皆さんにメッセージをお願いします。

須崎 『ポッ拳』は、それぞれのポケモンを最大限魅力的に表現しようというコンセプトで作っていました。本作では、ポケモンたちが暮らす世界全体を魅力的に表現することを意識して作っていますので、没入感を存分に味わってもらえたらと思います。

 また、ニンテンドウ64版『ポケモンスナップ』に対するオマージュ的な要素をさまざまなところに散りばめていますので、ぜひ探してみてください。ファンの皆さんの大きな期待に応えられるだけのものを作ったつもりですので、当時を思い出しつつ、新たな要素も楽しんでいただけますと幸いです。

石原 写真を撮って、加工して、共有する。そんな現代人の日常がしっかりとゲームに落とし込まれていることを味わってもらえる作品になっています。また、ポケモンの種類も含めて楽しみかたが幅広くなっていますので、ボリューム感にも期待してもらえたらと思います。

 ポケモンは今年で25周年を迎え、『ポケットモンスター 赤・緑』から『ポケットモンスター ソード・シールド』にいたるまでに数多くの進化を続けてきました。『ポケモンスナップ』シリーズは作品の数こそ2作目ですが、『ポケットモンスター』シリーズと同じだけの経験値を得て『New ポケモンスナップ』へと進化しました。いま、ポケモンの最前線はここであると、自信を持って言えるタイトルですので、ぜひ存分に楽しんでいただければと思います。

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