セガのクラシックゲームを現在に蘇らせるべく、完全移植はもちろん、令和のいまでもそのゲームが持つ魅力をより簡単に味わえるようにする追加要素を加えたことで、全世界のファンから熱狂的な支持を受けたプロジェクト“SEGA AGES”。

 2018年9月20日に配信された『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』、『サンダーフォースIV』で幕を開け、2020年8月27日配信予定の『ヘルツォーク ツヴァイ』をもって全19タイトルが出揃い、プロジェクトがフィナーレを迎える。

 そこで今回は、リモートにてコアメンバーへのインタビュー取材を実施。前半では、開発最終段階のタイミングにて、最終作となる『ヘルツォーク ツヴァイ』の見どころを熱意のまま存分に語っていただいた。追加要素の目玉である“ヘルツォークアカデミー”の驚愕の内容にも目を通してほしい。

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 さらにインタビュー後半では、本プロジェクトでプロデューサー/ディレクターを担当したセガの小玉理恵子氏にも加わっていただき、プロジェクト全体の振り返り、さらにセガのこれからのクラシックゲームの指針についても語っていただいた。クラシックゲームファンにとって嬉しい発言もあるので、最後までじっくりお読みいただきたい。

小玉理恵子氏

セガ SEGA AGESプロデューサー/ディレクター

奥成洋輔氏

セガ SEGA AGESスーパーバイザー

堀井直樹氏

エムツー 代表取締役

松岡 毅氏

エムツー 開発ディレクター

山本裕次郎氏

エムツー 企画担当

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左上から小玉理恵子氏、奥成洋輔氏、堀井直樹氏、左下から松岡 毅氏、山本裕次郎氏。

エムツーの溢れる愛情が注がれた『SEGA AGES ヘルツォーク ツヴァイ』

――まずは8月27日配信の『ヘルツォーク ツヴァイ』についてお伺いしていきます。本作が発表されたのは2019年の東京ゲームショウでした。

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1989年にテクノソフトよりメガドライブ用タイトルとして発売された『ヘルツォーク ツヴァイ』。機動歩兵にも変形可能な戦闘機を操り、自律行動する兵器を製造。兵器を配置して中継基地を取り合いながら敵本拠地の陥落を目指す。リアルタイムな展開に対応した瞬時の判断が必要なゲーム性から、根強いファンを持つ。

奥成はい。そもそも“SEGA AGES”はプロジェクト開始当初から19タイトルを選定していたので、減ることはあっても増えることは予定していませんでした。ですので、無事に19タイトルが出せたことにホッと安心しています。エムツーさんからは「『ヘルツォーク ツヴァイ』は時間がかかります」と聞いていたのですが……。収録しようと言い出したのは松岡さんでしたっけ?

松岡そうですね。言わなければよかったなと少し後悔しています。選出理由としては、やはりテクノソフト枠が『サンダーフォース』シリーズ以外にもあったほうがいいだろうということです。企画会議で『ばってんタヌキの大冒険』と言ったら全員から黙殺されたからでもあるのですが。

――そもそもメガドライブですらない(笑)。メガドライブだと『エレメンタルマスター』(※)でギリといったところでしょうか。

松岡その名前も挙がったのですが、『サンダーフォース』と同じシューティングゲームになってしまうということで、やはり“いぶし銀”が一本あったほうがいいだろうということで、『ヘルツォーク ツヴァイ』を提案させていただきました。

※『エレメンタルマスター』……テクノソフトより1990年に発売されたメガドライブ用縦スクロールシューティングゲーム。ファンタジックな世界観が特徴。

奥成結果、全19タイトル中3本がテクノソフトタイトルになりました。『サンダーフォースIV』についてはニンテンドー3DSで『セガ3D復刻アーカイブス3』に収録した『III』の続きということで、やはり皆さんから遊びたいという声があったので、すぐに決まって開発に着手しました。『サンダーフォース AC』と『ヘルツォーク ツヴァイ』に関しては、エムツーさんからのご指名ですね。たしかに「がんばって作り込みます!」という発言を聞きましたが、見事に最後のワンツーフィニッシュに輝きました(笑)。

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プレイヤーは自機での移動・攻撃、兵器の生産・運搬、拠点の侵攻・防衛などをパラレルに行う必要がある。刻々と状況が変化する戦場での一瞬の判断が勝敗を分けるゲーム性だ。

――いぶし銀という言葉がありましたが、1989年当時に『ヘルツォーク ツヴァイ』が発売されたときの印象はいかがでしたか?

松岡ソフト日照りのメガドライブに新しいタイトルが増えたな! と嬉しく感じたのを覚えています。しかも、それまでセガさんが作っていたタイトルとかなり毛色が違ったので。

堀井しゃぶり尽くすほど遊んだわけではないですが、それでも「新しいジャンルが始まったな!」という認識でいました。アーケードゲームを作っているメーカーでは出にくい発想だよね。

奥成リアルタイムストラテジー(RTS)というジャンルは海外でも先行していたでしょうし、日本でも『ボコスカウォーズ』という先駆者がありました。ただ、初めて遊んだジャンルという体験をしたのは『ヘルツォーク ツヴァイ』でしたね。

松岡当時はルールすらあまりよく理解しておらず、遊びあぐねていたので、「僕にも勝てる『ヘルツォーク ツヴァイ』を作りたい!」というのが“SEGA AGES”に選んだ理由のひとつで、スタート地点に立てるまでのフォローをするために、“ヘルツォークアカデミー” という、このゲームの基本プレイを教えてくれるモードを作りました。

“SEGA AGES”最大級の追加要素!? 誰でもスタート地点に立てる“ヘルツォークアカデミー”

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“ヘルツォークアカデミー”の画像。インパクトありすぎ!

奥成当初は“プラクティスモード”って名前だったんですよね。

松岡作っていくうちにどんどんボリュームが増えて、練習というより教習と呼ぶべき内容になったので、小玉プロデューサーの鶴の一声で変更になりました(笑)。女の子の教官が、皆さんを一人前の『ヘルツォーク ツヴァイ』プレイヤーへと導きます。ちなみに教官の名前をいくつか考えたのですが、どれもピンとこなくてボツになりました。開発チームでは、ただ“教官”と呼んでいましたが、プレイする際は、お気に入りの名前で呼んであげてください。

奥成余談ですけど、最初にMSX2で『魔導物語1-2-3』が出たころの主人公にまだ名前はなくて“ボク”って一人称だけなんですよね。たぶん、アルルと名がついたのはその後のPC-98版が出たころだったかな? ですので、この女の子にもエムツーさんが新規で開発する『ヘルツォーク ドライ』が登場するころには名前がついているのではないでしょうか(笑)。

松岡松岡は昔コンパイルにいて、『魔導物語1-2-3』の開発も隣のブースで見て勉強していたので、そういうところの影響もあったかもしれませんね。

――では仮にテクノギャル(仮名)としておきます(笑)。“ヘルツォークアカデミー”では彼女からゲームプレイのレクチャーを受ける形で進行していくのでしょうか。

松岡そうです。彼女がまず文字や絵で基本的な説明を行ったうえで、ゲームを触ってもらって理解してもらう仕組みです。まったくルールを知らない状態から、1面のクリアー、もしくは惜しいところまでは行けると思います。そこから先はユーザーさんの努力になるのですが、見落としやすい箇所やミスしやすい箇所もなるべくレクチャーするようにしたので、プレイのセオリーを組み立てて、自分で考えられるようになるだろうと思います。

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開発中に描かれたラフスケッチのテクノギャル(仮名)。完成形にかなり近い。イラスト担当はエムツー“ろみゅ”こと高橋直樹氏。

――『ヘルツォーク ツヴァイ』は状況判断に加えてハンドスキルも大事なゲームですから、そこはユーザーさんにがんばってもらうと。

松岡そうなります。展開が慌ただしいのに加えて、(メガドライブの)ボタンを3つすべて使うタゲームですので。

――“ヘルツォークアカデミー”はどのように開発していったのでしょうか?

松岡企画を担当したのは山本ですね。

山本最初は、まず『ヘルツォーク ツヴァイ』をやり込むことからスタートしました。何しろ自分が生まれる前に発売されたゲームでしたので。その上で初心者に必要であろうという説明項目を並べた最初のバージョンをテストプレイしてもらってみたところ、まったく理解できないと言われまして(苦笑)。そこ情報を整理して第2稿を制作したところ、今度は「表現が堅苦しい」、「もうちょっとギャグを入れたら?」などと言われ、これもまた散々でした(苦笑)。そこで橋本に助言をもらってできあがったのが現在のバージョンです。

 決定稿は橋本がふざけきったものに振り切っていますので、そこも楽しんでもらえたらありがたいです。余談ですが、橋本は『セガ3D復刻アーカイブス』シリーズのときにアソビン教授のテキストを担当していたので、言葉の端々に教授っぽさがにじみ出ているかもしれません。

――開発途中までは、ガチの教則本みたく味気ないものだったと。

山本そうですね。アカデミーのテキストは松岡からは「もっと簡潔に刈り込むんだ!」と言われていたのですが、気がついたら3倍くらいに増えていました(笑)。根っここそ僕が考えたものですが、大部分を橋本がすごく楽しく味付けしてくれています。教官も最初は男だったんですよ。

松岡最初はゴツイおっさんか、ギャルかを選べるようにしようと思っていました。ですが、気がついたらいつの間にかギャルだけになっていました。

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開発途中まで登場予定だった男性教官。こちらのバージョンも見たかった気はする。

――となると、テクノギャル(仮名)の絵は何パターンか用意されているのでしょうか?

松岡それがなんと、E-mote(※)を使っていてアニメーションします!

――ええー! まさかしゃべったりも!?

松岡フルボイスではないのですが、しゃべります! ボイスは、えもこ先生(※)の声を担当してくれている声優さんにお願いしました。

※E-mote(エモート)……エムツーが開発・サポートをするキャラクターアニメーションツール。2Dイラストを立体的にアニメーションさせることができる。えもこ先生はそのマスコットキャラクター。

堀井まさかE-moteを“SEGA AGES”で使うとは思わなかった!

――別ゲームがもう1本収録されているかのようなボリュームですね……これはすさまじい。

奥成僕が見ていてエムツーさんががんばったなと思ったのは、パスワードセーブを廃止していることですね。『ヘルツォーク ツヴァイ』って8つのマップごとに各難易度が4つ、赤組と青組のどちらかを選ぶかで、合計64パターンあるんです。当時はセーブが面倒なので、パスワードを取らずにプレイを続ける人が多かったほどですが、それがパスワードが自動セーブされることで、かなりラクになったのではないでしょうか。

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原作のパスワードを自動で保存。ユーザーはメモを取ることなくプレイに集中できる。

松岡仕組みとしては、ゲームを終了するときにパスワードを自動でセーブするので、再起動するとそれが自動で入力されるので面倒がないということです。

――ゲーム画面の周囲にあるのは、いわゆる“ガジェット”でしょうか?

松岡そうです。弊社“エムツー ショット トリガーズ”シリーズにあるのと同じガジェット機能で、ゲーム内のパラメーターなど役立つデータを画面の左右に表示しています。

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画面の左右に表示されているパラメーターがガジェット。全体マップや資金、拠点の数などが常時表示される。

奥成移植が決まった当初はエムツーさんから「ソースコードをくれ」という依頼を受けてテクノソフトさんから譲り受けた何十ギガバイトにも及ぶデータを探してみたり、当時の関係者にも声をかけてみたのですが、残念ながら見つからずでして。それがあれば16:9のワイド画面ができたかもしれなかったのですが、それが不可能となった段階でガジェットの採用が決まりました。しかも開発が進むにつれてどんどん進化していって、「これって、バイナリからどこまで解析したんだろう」って。

松岡解析はスタッフふたりがかりで述べ8ヵ月くらい使っています。

――それはまた尋常でない(笑)。“セガ3D復刻プロジェクト”のとき並に解析に手間を掛けているわけですね。

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拠点での兵器生産時には選んでいる兵器の詳細データが表示される。

――もうひとつの追加要素であるヘルパー機能は?

松岡ざっくりいうと、えこひいきができる公式チート機能です。最大までバランスを傾けると僕でもラクに勝てるようになります(笑)。ヘルパーを用意したのは、ゆるく遊んでもらうのに加えて、オリジナルを遊んだ方の「CPUが弱い」という声に応えるためなんです。いまさらCPUを賢くすると、完成するまでさらに時間がかかってしまうので、ヘルパー機能を自分に不利になるよう使ってもらえれば、高難度のしばりプレイが楽しんでもらえます。

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ヘルパーの設定画面。機能をオンにすることで本拠地・自機の耐久力、兵器開発予算を加減できる。

――そして待望のオンライン対戦が搭載されます。

松岡ネットワークの基本部分は『ぷよぷよ』から流用しているので、そこまで苦労はありませんでした。ただ、『ヘルツォーク ツヴァイ』の対戦って、うまい人どうしだと延々と終わらないんですね。そこにも手を入れたいという気持ちはあったのですが、公平に遊んでもらうため素の状態のみでのプレイとなっています。ヘルパーモードを使えるようにして、それがケンカの原因になってしまったら辛いので。

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対戦モードの画面。左右に分割された画面の中でお互いが雌雄を決する。

――前半のまとめとして、どんな方に『ヘルツォーク ツヴァイ』を遊んでほしいですか?

松岡当時「ルールがわからない!」と投げ出した人に疑問を埋めるのに全力を注ぎましたので、僕のようによく分かってなかった人に遊んでほしいですね。ルールを理解さえすれば、中身のおもしろさは格別ですから。

堀井そのとおりです。「わからない」の壁を超えた先には、楽しい世界が待っているゲームなのです。ですので、社長としては、それをやるために松岡が手を尽くしているのを、あえて止めずにいました。その結果、E-moteでギャルが動き出したのですが、その目的が果たされたので満足しています!

奥成当時のメガドライブは決してメジャーなハードではなかったためリアルタイムで遊んだ方は少ないかもしれませんが、1000円足らずで楽しめるRTSとしては貴重な存在です。「1980年代にこんなゲームが存在したんだ」という歴史を知る意味も含めて、ぜひ遊んでいただきたいです。

 ひとつ思い出話をすると、僕がこのゲームをいちばんやり込んだのは、2000年ごろに先輩から「対戦しよう」と誘われて、昼食後に毎日プレイしていたときなんですね。毎日30分くらいなので、ほとんどの場合は決着がつかずでお開きになったんですけど、その後先輩が作ったのが、セガ内作で初めて開発したRTSの『ハンドレッドソード』なんです。おそらく(『ハンドレッドソード』が)いちばん大きな影響を受けているのは『エイジ オブ エンパイア』なのですが、そうした系譜の中に『ヘルツォーク ツヴァイ』があると知ってもらえたら、また違った見えかたがするかもしれません。

――それもまた、日本におけるRTS史である、と。

奥成ひとつ言い忘れていましたが、“ヘルツォークアカデミー”のためにエムツーコンポーザーのChibi-Techさんが新曲を描き下ろしています。当時のテクノソフトサウンドと聴き比べても遜色ない仕上がりなので、そこもぜひ楽しみにしてください。

 さらにもうひとつ、WAVE MASTERからテクノソフトCDの第2弾として『ヘルツォーク』、『ヘルツォーク ツヴァイ』のサントラCDがリリースになります。PC-88SR版とX1版の『ヘルツォーク』、メガドライブ版『ヘルツォーク ツヴァイ』の楽曲が2枚組に収録されています。MSX2版にしか入っていなかった曲や、今回の“SEGA AGES”版の曲なども入っていて、非常に濃い仕上がりです。高西圭さんによるアレンジメドレーも収録されています。

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――それはマニアック!

奥成メガドライブしか持っていなかった方は知らないと思いますが、『ヘルツォーク ツヴァイ』の楽曲って、初代のアレンジ曲なんです。ですので、PSGとOPN、OPMと、音源の違いによるバージョンを楽しんでいただけたらと思います。これまでテクノソフトのタイトルを何本かリリースしてきましたが、今後もCDやゲームを出せていけたらなと機会をうかがっていますので、ご期待いただけたらと思います。

――これまで以上に楽しみにしています。

足掛け3年の“SEGA AGES”プロジェクトを振り返って

――ここからは“SEGA AGES”フィナーレに向けての総まとめをお伺いしていきます。ついに全19本タイトルが発売となりますが、いまのお気持ちは。

小玉思ったより時間がかかってしまい、プロジェクトの開始からすると足掛け3年ですか。アメリカのスタッフとは、「独立記念日を三回祝ったね。僕はまだ続けていたいので4回目でもOKだよ」なんてやり取りがありました。今後もエムツーさんとのタッグを含めてセガのクラシックゲームを復刻していきたいという考えはありますが、いまこの瞬間は「やっと当初予定の19本が揃った!」ということを喜びたいと思います(笑顔)。

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“SEGA AGES”立ち上げ時の2018年7月に撮影したインタビュー写真。左から、奥成氏、堀井氏、小玉氏、下村氏。

――これまでを振り返って、反響が大きかったタイトルはどれでしょう?

小玉国内ではやはり『バーチャレーシング』になります。売上本数的なことに加えて、エムツーさんの技術力を皆さんに知っていただくこと、そして弊社において「この時代すでに最先端なもの(ポリゴンゲーム)を作っていた」ということを知っていただけたと思います。

 海外はさまざまになってしまうのですが、本数的には圧倒的に『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』ですね。とくに『1』を発売した以降に『ソニック・ザ・ムービー』の公開があったことに引っ張られて伸びたようです。2番目は『アウトラン』で、とくにヨーロッパの皆さんにはたくさん遊んでいただきました。

奥成『アウトラン』は“セガ3D復刻プロジェクト”のときに続き、ヨーロッパで非常に高い評価をいただきましたね。日本では『ぷよぷよ』の2作も高い評価をいただきました。最新版も持っているけれど、“SEGA AGES”版も買ってくださった根強いファンの方もいらっしゃったようです。

小玉国内外問わずにSNSでの反響がすごく大きかったのは『バーチャレーシング』ですね。

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『SEGA AGES バーチャレーシング』。

松岡ツイートの数で言えば、『バーチャレーシング』以上に『ファンタジーゾーン』がすごかったです。根強いファンの方がいてくれるのに加えて、“SEGA AGES”版ではタイムアタックモードを用意したので、それで盛り上がっていただけたようです。

――プロジェクトの展開中に、メガドライブミニの発売など、クラシックゲームが広く見直される出来事もありましたが、それらがプロジェクトに影響を与えることはありましたか?

小玉他社さんを含めてクラシックゲームが見直されている中、セガとしても過去の資産を生かしていこうということで始めたプロジェクトですので、そうした機運に乗っていけたのはよかったです。ゲーム以外でも、『ソニック』を映画化したりといったメディアミックス的な部分は相乗効果があったかなと思います。……ただ、本当はもっと短くやる予定のプロジェクトだったので(笑)。

奥成そこは強く言っておいたほうがいいですね(笑)。

小玉当初はこんなに追加要素を増やす予定はなかったのですが、 「新たに世に出すならこれくらいの追加要素を盛り込まないと!」という思いがあり、今回のプロジェクトが発進しました。 単にクラシックゲームを復刻するだけでなく、現代向けにより遊びやすさを主眼において作ってきたので、そこについては100%ではないかもしれませんが、やり遂げられたと思っています。

――“セガ3D復刻プロジェクト”のとき以上に、後半のタイトルが尻上がりに盛り上がっていったように感じます。

奥成僕がエムツーさんとの仕事を少し振り返ると、オリジナルを忠実かつスピーディーに移植するのがバーチャルコンソール、単なる移植ではつまらないから「ここをもう少しいじればおもしろさがより伝わる」というコンセプトを伸ばしてくれたのが“SEGA AGES ONLINE”、その方向性が開花したのが“セガ3D復刻プロジェクト”なんだと思います。

 そういった意味では、小玉たちが舵取りをしてくれたSwitchの“SEGA AGES”は、それらのいいところ取りをすべく、「シンプルなモノはスピード感を持って出す。凝るものは凝る」ということで始まりましたが、エムツーさんとしては一度手掛けたものを超えなければならないという意識があって。だったら、僕なんかは(スーパーバイザーとして)横からそこまでエムツーさんがやってくれるなら「こういう機能はどうですか?」とツッコミを入れまくった結果、仕込みから数えて足掛け約3年のプロジェクトになるという(笑)。不思議ですねえ、堀井さん。

堀井はい!(中に入っている)仕様の量と時間は比例します。松岡とは、本当は19本を1年で出しきるつもりだったねとよく話すんですけど、そこらへんをぶっ飛ばして全タイトルにそのときやれることを全力でやったということです。それでもSNSでは「以前にあったこの要素はどこへ?」と言われてしまうので、あとになるほど苦しくなる。

奥成ですので、今回はオリジナルのおもしろさが半分、エムツーさんが注いた愛情が半分くらいを占めているのではないかと思います。

堀井かつてプレイステーション2時代に奥成さんが「一作出すごとに真綿で自分の首を締めている」とおっしゃっていましたが、その言葉をやっと本気で実感しています(真顔)。

奥成リモート画面越しに、松岡さんが青い顔をしているのが見えてきそうです(笑)。でも、プレイステーション2時代はスケジュールがあってないような状態ではありましたが、“SEGA AGES ONLINE”から松岡さんにディレクターとして参加してもらってからは、エムツーさんのスケジュールがみるみるちゃんとしてきたんですね。「松岡さんすごい!」と思っていたのですが、その松岡さんをしても愛情が上回ってしまうのが、今回のプロジェクトだったのかなと。もしご本人が当時手掛けた『ぷよぷよSUN』が入っていたら、もう1年かかったかもしれない。

松岡(食い気味に)ルールを変えます! 最近思いついた新ルールがあるのでぜひ作り直させてください!

(一同爆笑)

――こういう直訴がいつか花咲く種まきになっているのかもしれませんね。さて、つぎの質問ですが、リリースした中で思い入れのあるタイトルや、苦労話などをお聞かせいただけますでしょうか。

小玉私自身の話としては、クラシックタイトルを復刻させるプロジェクトに関わるのが最初で、何をやったらいいかがわからない中、エムツーさんとROMやプログラムのソースコードを探しにいったのが印象深いですね。皆さんにとっては慣れた段取りでも、私にとっては知らない世界だったので、どうやって復刻がなされていくのか、何をしたらいいのかを学んでいきました。

 そういった思い入れがあるのは、最初に出した『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』、『サンダーフォースIV』です。当初は日米同時リリースとしていたので、ひとつのROMの中に日本語版と英語版両方が入っていたんです。この2タイトルのみ、日米欧の同日配信を行えました。仕切り直してからはなるべく月イチで発売できるようにしましょうと話し合いました。

 あとは、その直後に『ファンタシースター』と自分が最初に開発に関わったRPGを復刻するにあたって、松岡さんから「当時やり残したことはないのですか?」と聞かれたものの、自分はディレクターズカット的なものが好きではないので「(いまさら何かを足すつもりは)ないです」と答えたんです。それに対して松岡さんは、当時遊んだユーザー感覚として、「こういう機能があったほうがいいのではないか」とプラスアルファしてくださいました。それが好きな方、新しいお客さんの両方に受け入れられていたので、すごくいい形の追加をしていただいたと思って感謝しています。

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『SEGA AGES ファンタシースター』。

小玉苦労したのは、前提として全部なのですが(笑)、内幕で言うと『ぷよぷよ』、『ぷよぷよ通』でのネットワーク対戦の部分です。通常、 できあがったゲームのチェックはエムツーさんだけではなく、セガの社内でも行います 。セガ社内のゲームのチェックや品質保証、マニュアルを作る部署を交えて毎週定例の“SEGA AGES”ミーティングを行って、チェック体制を確立していったんです。オンライン対戦では、国内のセガと海外のセガ、エムツー社を繋いで接続テストをくり返し行いました。その甲斐あって、発売後にお客様が楽しんでくださったのが嬉しかったです。

奥成プロジェクトのスタート時から好き勝手を言わせてもらった中で採用になってうれしかったのは、『バーチャレーシング』の“グランプリモード”です。ネットワーク対戦がふたりまでではありましたが、ローカルで8人同時プレイが実現できたので、いまとなっては遊べる環境がほぼないであろう仕様を後世に残すという意味で意義があったと思います。高解像度化も含めて新たな移植の方向性を提示してくださったことを含めて、エムツーさんには感謝しています。

松岡ネットワーク絡みでいうと、当初は『ゲイングランド』も通信対応するつもりだったのですが、海外版が3人プレイだと判明して断念したのが悔やまれます。技術上は不可能ではないのですが、通信対応をしようと思うと、開発にもう半年必要になってしまうので。

堀井まあ誤差ですよね。

奥成・小玉 (苦笑)

堀井『ゲイングランド』はこれまでユーザーさんから何度も要望をいただいてきたので、あのチクチクした楽しさが世に知らしめられたのはよかったなと思います。

松岡セガさんには悪いのですが、『ゲイングランド』は売上的にはそんなに振るわなかったんです。なにしろ、ネームバリューがない上に、動いている様子がものすごく地味で。反面、喜んでくれている人のが喜びかたがすごく深いんですね。そういう濃いファンの方たちからしても「ありえない」と思っていたものを送り出せて、喜んでもらえたのは、本当にやった甲斐があります。

奥成今回は欠席していますが、シニアリードプロデューサーの下村(一誠氏)も『ゲイングランド』の名前を挙げるんじゃないですかね。彼もプレイステーション2の“SEGA AGES 2500”のときから思い入れが強いタイトルだと語っていたので、当時は不可能だった完全移植がエムツーさんの手によってできたのは喜ばしいことです。

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『SEGA AGES ゲイングランド』。

――これまで伺った中では、エムツーさんには「セガのシステム基板をすべて再現する」という野望がありましたが、今回システム24(『ゲイングランド』)とMODEL1(『バーチャレーシング』)が動いたということで、また達成に一歩近づきましたね。

堀井着々と野望達成に近づいています。じつはシステム32(のエミュレーター)を作るには作っていたんですけど、まだ出る幕がなかった。

松岡小玉さん、つぎにやりましょう!

そして“ネクスト・メガドライブミニ”へ

――すっかりおなじみとなった勝手移植が、またなされていたと(笑)。さてまとめに入りますが、“SEGA AGES”は『ヘルツォーク ツヴァイ』をもってフィナーレとなります。

奥成小玉という大ベテランがプロデューサーに就任したり、最初にテクノソフトのライセンス譲渡があったりとミラクルの多かったプロジェクトです。スーパーバイザーとして横で見ていた立場からすると、どのタイトルにも一定以上のリスペクトがありつつも、明らかに思い入れの強すぎるタイトルがいくつかあったなと。セガでいうと『G-LOC』、テクノソフトの2本については苦戦と思い入れの両方があったのかなと。『G-LOC』はとくにそうですけど、ベタ移植だとゲーム本来の持つおもしろさが伝わりにくいんです。おもしろいと言っている人と、知らない人の差を埋めていくのに苦心した3年間だと思います。

堀井もうちょい短期間で終わるプロジェクトだと思っていたんです。すでに話にありますけど、当初は約1000円の価格に見合った、毎月リリースできる手軽なものをと考えていました。ところが、できあがったものを見ると、「しゃあないな」と高笑いできるくらいのラインアップにもなったと思います。『ゲイングランド』や『バーチャレーシング』、今回の『ヘルツォーク ツヴァイ』など、いまの時点でできる無茶を全部詰め込んだものをやれてしまったのは、しっかりとした開発期間があってのことだと思います。あとは受け手のプレイヤーの皆さんに堪能してもらえれば言うことはないです!

奥成僕は、『セガ3D復刻アーカイブス』の『1』を終えて、社内部署的には監修などの一歩引いたスタンスで関わっていのですが、そこから数えての4年間は下村や小玉、エムツーさんが支えてきてくれたことに感謝しています。ユーザー視点的には出てほしいゲームが出たので嬉しいです(笑)。

 セガの視点、中でも我々クラシックゲームを受け持ってきたチームとしては、メガドライブミニのように複数のタイトルをまとめて提供することでの手のとりやすさ、“SEGA AGES”のようにひとつのタイトルに込めたこだわりを感じてもらえるというふたつの形でユーザーの皆さんに商品を提供していきたいです。今後も、その両軸で仕掛けていけたらいいなと思っています。

小玉全タイトルを発売したわけではないのですが、2年目の段階で19タイトルの発売がここまでかかってしまったことについては、たいへんお待たせしてしまったという思いがあります。『ヘルツォーク ツヴァイ』については、「愛情が大きいがために作り込みたい」ということでトリを飾ることになりました。エムツーさんが注いでくれた愛情を、みなさん楽しみにしていてください。レトロタイトルすべてがセガの大事な資産、宝物ですので、これからも大事に扱っていきたいですし、皆さんにまた遊んでいただくチャンスはあると思います。その時までお待ちください。

――とはいえフィナーレは寂しいですね。

奥成セガとエムツーさんという大きな括りでは、シリーズが続いている中でも、メガドライブミニやゲームギアミクロ、『龍が如く』内のミニゲーム、ALL.Net P-ras MULTI(※セガのアーケード用ネットワーク対応マルチシステム基板)などいろいろと案件がありましたからね。

堀井きっと今後も何かやっていくと思います。いまもしゃべれないだけで考えていることはたくさんありますから!

――そういえば、奥成さんは今年の春からグッズ制作の部署に異動になったと聞きましたが、今後にいい影響は?

奥成2016年の『セガ3D復刻アーカイブス』以降は、『ファンタシースターオンライン2es』やアジア圏向けタイトル開発という本業がありつつ、クラシック案件をお手伝いしていたました。そんな中で昨年エムツーさんと手がけたメガドライブミニが、おかげさまで大成功しまして、会社が方針を変えたんです(笑)。この春からは物販チームへと部署異動をして、ゲームギアミクロのコンテンツ統括を担当させていただいています。ですので、僕がいまやっている仕事は“メガドライブミニのつぎ”をやることです

――えっ、ちょっと待ってください! 爆弾発言じゃないですか! ええと、それは手に取って形に残るものなのでしょうか。

奥成いろいろな形がありますから、さてどうでしょう(笑)。これまでのインタビューで僕は、「メガドライブミニみたいなものは一度限りのお祭りだからいい」と言ってきましたが、そこはファンの方々の反響次第ということで、現在はほぼ専属として“つぎのミニ”をやる人になっています。せっかくなので現状を説明しておくと、ゲームギアミクロも無事開発も終わりまして、かなりよい感じのものができました。予約も会社の予想を遥かに上回る数字をいただいていますので、いまのところは順風満帆ですね! ちなみに、“アストロシティミニ”につきましてはセガトイズ制作なので、僕もエムツーさんも開発にはノータッチです。

――なるほどー。専属になられたということで、これまで以上にクラシック案件に力を注げる、エムツーさんにもムチを入れられるということですかね(笑)。

奥成僕の100%がどれくらいのポテンシャルかはわからないですが、メガドライブミニの大ボスである宮崎が不敵な笑みを浮かべているので、続報にご期待ください。もちろん下村、小玉とエムツーさんとの関係も続いていくでしょうし、エムツーさんもいろいろと企んでいるでしょうから、クラシックタイトルの火はまだまだ消えません。これからをお楽しみにしていてください。

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奥成氏が現在てがけているゲームギアミクロ。果たして“そのつぎ”とは何なのか。いまから気になって仕方がない!