アメリカのカリフォルニア州サンノゼで行われた技術カンファレンス“Oculus Connect”で発表された、一体型VRヘッドマウントディスプレイ“Oculus Quest”向けの新アップデート“Oculus Link”を体験してきた。

 Oculus Linkは、QuestをUSB-CケーブルでハイエンドPCに接続することで、PC用VRヘッドマウントディスプレイであるRiftシリーズの対応タイトルを遊べるようにするというもの。11月よりアップデートとしてパブリックベータ版が提供予定で、年内に全長5メートルの公式ケーブルも発売される。

大型タイトル『Stormland』が普通に動作

 会場で体験したのは、11月14日に発売が決まった『Stormland』。『Marvel's Spider-man』などで知られるInsomniac Gamesが開発する、FPSスタイルの大作VRアドベンチャーゲームだ。

 さてその感想は、“完全に実用的なレベル”と言えるだろう。“同スペックのPCで同じバージョンの『Stormland』を遊んだ場合”と比較できたわけではないので厳密に言うと違うのかもしれないが、明確な遅延や画質の低下はなく、至って普通かつ自然に遊べてしまった。

質の低下を抑えつつ効率的に処理する技術

 しかし注意しないと気づかないレベルとはいえ、Rift/Rift Sの場合とまったく同じ体験が提供されているわけではない。その背後にある技術を紹介する講演があったので、そちらもご紹介しておこう。

 まずOculus Linkの仕組みは、ゲームと映像の処理を“母艦”となるハイエンドPC側で行い、それをさらに映像データとしてエンコードしてUSBケーブルで転送。それを受け取ったQuest側でデコード処理を行って投影するという形になる。

 Riftシリーズの場合はHDMIケーブルやDisplay Portケーブルを通じて映像そのものを送っているのだが、Oculus Linkの場合はそうではなく映像データを変換するエンコード/デコード処理が入るのがポイントだ。


Oculus QuestでPC用のRift対応VRタイトルが遊べる“Oculus Link”を体験! 完璧ではないが驚きの実用的レベル_01

 ここで問題になってくるのが、いかにQuestに採用されているモバイル系チップで(VR体験にとって致命的な)遅延を起こさず、かつ画質の低下を抑えて処理できる形にするかだ。

 まずエンコード/デコードで扱うデータ量の削減として、全体の解像度を下げるAADT(Axis Aligned Distorted Transfer)と呼ぶ処理を採用。プレイヤーが注視することの多い中心部のディテールはそのままに、逆にあまり重要ではない周縁部の画像を歪めて圧縮してしまって全体の解像度を下げ、デコード時にターゲット解像度に戻すような処理をしている。

 VR技術に詳しい人は“Fixed Foveated Rendering”という技術について聞いたことがあるかと思うが、アレと同じような発想だ。VRではプレイヤーは周縁部はあまり見ないし(人間が普通やるように、顔を少しそっちに向ける方が楽だからだ)、どっちみちレンズによって歪めて表示されるので綺麗に見えない。ならば中心部の質を低下させなければ、周縁部は同じ質を持っていなくても体験の質はそう低下しないということになる。

Oculus QuestでPC用のRift対応VRタイトルが遊べる“Oculus Link”を体験! 完璧ではないが驚きの実用的レベル_02
黄色の中心部分の解像度は維持し、周辺部は圧縮しちゃって全体の解像度を下げるという手段。

 もうひとつ遅延低減のために行っているのが、各フレームの分割エンコード/デコード。1フレームをいくつかに分割してしまい、エンコードが終わった部分から分割して送ってしまってデコードさせていくことで、1フレームを完全にエンコードしてから送って一気にデコードさせるよりも早く処理できるという。

Questの可能性が広がるのは大歓迎

 このようにOculus Linkでのプレイは、さまざまな技術を駆使しつつRift/Rift Sでの体験にできるだけ近似するよう作られたものだ。実用的に問題ないレベルを実現しているものの、首を上下にヘッドバンギングしてみると結構黒い縁(描画が間に合ってないので省略処理された部分)が見えたりと、完璧ではない。

 また本誌で行ったゲーム/コンテンツ部門のトップであるジェイソン・ルービン氏とマイク・ベルドゥ氏へのインタビューでも回答されているように、Rift Sにはセンサーの安定性などのメリットが他にもある。これはあくまでPCVRならではのハイエンドの質を求めるか、それとも実用的なレベルで少し妥協して利便性を取るか、という選択肢の問題なのだ。

 それを踏まえた上でOculus Linkを評価するならば、ポータブルで単体動作するQuestの可能性が広がるのは大歓迎だ。まずQuestでVRをスタートさせ、PCVRならではのコンテンツをやりたくなったらハイエンドPCを用意してLinkで遊ぶ、という段階がつけられるのは普及機として素晴らしいアップデートと言えるだろう。