2018年12月3日、東京都・品川のグランドプリンスホテル新高輪にて開催された“PlayStation Awards 2018”。ふだんは来日する機会のあまりない、世界に名だたる開発スタジオのキーパーソンたちも駆け付けた本授賞式に合わせて、ファミ通.comではインタビューを敢行した。本記事では、ユーザーズチョイス賞(※1)、Gold Prize(※2)の2部門で受賞を果たした『Marvel's Spider-Man(スパイダーマン)』(PS4)の開発スタジオであるインソムニアック・ゲームズのテッド・プライス氏に行ったインタビューの模様をお届けする。

※1 2017年10月1日~2018年9月30日の期間中に発売・配信されたタイトルの中で、ユーザーの投票数がもっとも多かった10タイトルに贈られる賞。
※2 日本を含むアジア地域で累計出荷数(配信数) 50万本を超えたタイトル。

※PlayStation Awards 2018受賞タイトルの詳細はこちら

インソムニアック・ゲームズ

 1994年設立。カリフォルニア州バーバンクにオフィスを構える。1998年にリリースされた『スパイロ・ザ・ドラゴン』で注目を集める。『ラチェット&クランク』シリーズでもおなじみ(都合11作をリリース!)。そのほか、『RESISTANCE』シリーズも開発している。

『Marvel's Spider-Man(スパイダーマン)』

 おなじみ『スパイダーマン』をモチーフにしたオープンワールドのアクション・アドベンチャーゲーム。ゲームオリジナルのストーリーが展開されるのが特徴。日本でもウェブ・スイングでの移動の爽快さなどが話題を集め、数多くのプレイ動画が公開。大ヒットを記録した。

インソムニアック・ゲームズのCEOに聞く。25年目のタイトルとなる『Marvel's Spider-Man』は、スタジオの集大成になった_01

テッド・プライス氏

インソムニアック・ゲームズのファウンダー&CEO。1994年に同スタジオを設立以降、事業のハンドリングをしている。(文中はテッド)

インソムニアック・ゲームズのCEOに聞く。25年目のタイトルとなる『Marvel's Spider-Man』は、スタジオの集大成になった_05

スパイダーマンとインソムニアック・ゲームズは似たものどうし?

――ユーザーズチョイス賞、Gold Prizeの受賞おめでとうございます。『Marvel's Spider-Man(スパイダーマン)』は日本でも非常に多くのプレイヤーに遊ばれました。どの点が評価されたと思いますか?

テッド主人公のピーター・パーカーという人物が、地域や文化に関係なく共感しやすいキャラクターであることが大きな理由だと思います。
 というのも、我々は日常で難しい決断を強いられる場面に遭遇することもあるわけですが、決断した結果うまくいかないこともあります。ピーターも最善を尽くそうと奮闘しますが、結果はその努力にともなわないことがあります。そうした完璧ではないところが、多くのプレイヤーの共感を呼んだのではないでしょうか。

――『スパイダーマン』のゲーム化を進める際には、そうした部分に注力されたのですか?

テッドそうですね。それから、大人のピーター・パーカーを描くということにも重点を置きました。彼はふだん若いキャラクターとして描かれることが多いのですが、そうではなく、大人ならではの苦労や悩みも見せることで、大人のゲーマーでも共感できるような『スパイダーマン』の世界を作りたかったんです。

――映画などの『スパイダーマン』作品との差別化という目的もあったのでしょうか?

テッドそれもひとつの目的でした。ただ、もともと作り始める最初期の段階から、どの映画ともコミックともまったく違う、独立した自分たちだけの物語を作ろうという意図がありました。

――それには23歳がもっとも描きやすい年齢だったと。

テッドええ。恋人であるMJことメリー・ジェーン・ワトソンとの仲がうまくいっていなかったり、彼自身が経験を積んだスパイダーマンであるというところから、新しいストーリーが生まれると考えました。
 あと、これは少しネタバレになってしまうのですが、仕事の面でオットー・オクタビアス博士といっしょに働いて新しいものを作っていく中で、いろいろな問題が起き、ピーターが圧倒されてしまうという状況を作ることで、現代の新しいスパイダーマンのストーリーを作ることができるのではないかと思ったんです。

インソムニアック・ゲームズのCEOに聞く。25年目のタイトルとなる『Marvel's Spider-Man』は、スタジオの集大成になった_04

――ところで、『Marvel's Spider-Man』はどのような経緯で開発が始まったのでしょうか?

テッドまず、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)のほうからインソムニアック・ゲームズにアプローチがあり、そのときに「マーベルがインソムニアック・ゲームズといっしょに仕事をすることに興味がある」と伝えられたんです。

――マーベルのほうからオファーがあったんですね。

テッドそのときはマーベルのどのキャラクターを題材にしてもいいという話で、スパイダーマンが主人公だとは決まっていなかったんですよ。ただ、その申し出を聞いたとき、私の反応は肯定的でも否定的でもなく、フラットでした。なぜかというと、インソムニアック・ゲームズは20年以上にわたってオリジナルのIP(知的財産)でゲームを作ってきたので、ほかの会社が保有するIPでゲームを作ることを考えたことすらなかったんです。
 でも、ふたつのことが私の決断を変えました。ひとつは、マーベルから「これまでの物語にとらわれず、まったく新しい物語を作っていい」と言われたこと。もうひとつが、スタジオに帰ってマーベルからの提案をスタジオのスタッフと共有したときに、全員が熱狂的に「絶対にやったほうがいい!」と言ったことです(笑)。

――(笑)。ちなみに、スパイダーマン以外ではどのようなヒーローが候補に挙がったのですか?

テッド最初はデアデビルが候補に挙がっていました。すごくいいキャラクターですし、スタジオのみんなも好きだったので。ほかにもいくつか候補が挙げられました。それでも結局、かなり早い段階でスパイダーマンに決まりました。

――デアデビル! それはそれでプレイしてみたいです。なぜスパイダーマンに決まったのでしょうか?

テッドスパイダーマンもインソムニアック・ゲームズも、巨大な組織の側ではなくむしろそれに立ち向かう立場で、とても立ち位置が似ているように感じたからです。なんとか正しいことをしようと努力するピーター・パーカーの姿は、我々のスタイルにすごくマッチすると思いました。
 それから、もうひとつ付け加えるとするなら、インソムニアック・ゲームズは、“世界にポジティブな影響をもたらして、ずっとプレイヤーの印象に残るようなゲームを作る”という信条を掲げているんです。『Marvel's Spider-Man』はその信条に沿った作品になるだろうと考えました。

――スパイダーマンはインソムニアック・ゲームズを仮託する存在だったというわけですか。『Marvel's Spider-Man』が世界中のプレイヤーに遊ばれたことは、インソムニアック・ゲームズが世界に認められたとも言えるのではないでしょうか。

テッドそう言っていただけてうれしいです。ただ、我々はつねに自分たちのことをまだまだ足りない存在だと思っているんです。いままでスタジオが成長できたのは、その精神があったからこそだと思うので、これに満足せずにまだ上を目指していきたいと思います。

インソムニアック・ゲームズのCEOに聞く。25年目のタイトルとなる『Marvel's Spider-Man』は、スタジオの集大成になった_02

インソムニアック・ゲームズはつねに成長の最先端へ

――日本のプレイヤーからの反響はテッドさんのもとに届いていますか?

テッドはい、届いていますよ。日本の方は『スパイダーマン』という作品も、ピーター・パーカーというキャラクターも大好きなんだなと感じています。
 また、日本語版のピーター・パーカーを演じてくださった興津和幸さんが『スパイダーマン』のファンで、収録のときは毎回スパイダーマンのアクションフィギュアを机に置いて挑まれていたらしいんです。そのエピソードはとてもすばらしいなと思いました。

――日本ではゲームのプレイ動画がSNSで拡散され話題を呼んでいましたが、それはご存じでしたか?

テッドそれは知りませんでした! 我々からも、日本の方に『Marvel's Spider-Man』を気に入っていただけて非常にうれしく思っているということをお伝えしたいです!
 大好きなキャラクターのスパイダーマンが受け入れられたということもありますし、20年にわたって協力関係を築いているSIEと作り上げた集大成である本作が気に入っていただけたということが何よりうれしいことです。

――ちなみに、ローカライズの際に日本のチームに何か注文されたことはありますか?

テッドいいえ、谷口新菜さん(※SIE JAPAN Studio シニアローカライズスペシャリスト。本作のローカライズを担当。)を始めとするローカライズチームをすごく信頼しているので、台本を渡せば最高の日本語版を作ってくれると思っていました。
 1998年に『スパイロ・ザ・ドラゴン』をリリースしたときから20年間、SIEのローカライズチームならば、我々が作ったゲームをこだわりを持ってローカライズしてくれるだろうと、ずっと信頼しています。

――ローカライズに関しては20年のあいだSIEを信頼してきたと。

テッド単にセリフを翻訳するだけでなく、地域ごとに根付いた文化を踏まえて、しっかりと内容を理解できるようにローカライズされることで、我々のゲームが世界中で楽しんでもらえるようになるので、インソムニアック・ゲームズとしても、ローカライズをすることの重要性は認識しています。
 また、ローカライズされることで、オリジナルのゲームでは届かなかった地域、文化圏の方にも遊んでいただけるようになるのは、現代のグローバル化されたゲーム業界のすばらしいところですね。

――日本と欧米とで、評判となった箇所に違いはありましたか?

テッド評判の違いはあまりありませんが、地域ごとにプレイスタイルは違うのかもしれません。ただ、その違いも近年ではほとんどなくなってきていて、以前であれば、高速のアクションゲームに対する反応は日本、アメリカ、ヨーロッパでそれぞれ違っていたので、地域に合わせて調整していたのですが、『Marvel's Spider-Man』は全世界で共通の内容になっています。
 ゲーム業界が成長するにつれて、プレイヤーもいろいろなゲームをプレイしてどんどん経験を積んでいて、そういったゲームに慣れてきているからだと思います。

――ゲームとともにプレイヤーも成長していますからね。

テッドとくに顕著な違いとしては、チュートリアルの部分ですね。以前は、ゲームに慣れてもらうために、地域ごとにかなり内容を変える必要があったのですが、いまでは共通のチュートリアルでどの地域のプレイヤーでも楽しめるようになっています。
 それはやはり、プレイヤーが「こういう種類のゲームはこうプレイすればいい」と学習しているからだと思います。
 ただ、その一方で、アクセシビリティに対応して障害を持った人でもプレイできるようにするということの重要性は高まっていますし、これからもそうした取り組みはますます大切になっていくはずです。

――『Marvel's Spider-Man』が多くのプレイヤーに受け入れられたのは、インソムニアック・ゲームズが25年間そういった“成長”の最先端にいたからでもあると言えそうですね。

テッドそうですね。25年間のインソムニアック・ゲームズの歴史が『Marvel's Spider-Man』というゲームを作らせてくれたと思っています。
 『Sunset Overdrive(サンセット オーバードライブ)』では、オープンワールドを作り込みましたし、オープンワールドでの快適な移動も研究しました。『ラチェット&クランク』では“ガラメカ”というユニークな武器を作りましたが、その成果は『Marvel's Spider-Man』の“ガジェット”に表れていると思います。

――本作は25年の集大成であると。ところで、続編について何かお聞きできることはありますか?

テッドいままさにダウンロードコンテンツ(以下、DLC)シリーズ“摩天楼は眠らない”の第3弾“白銀の系譜”を仕上げているところです。すでに配信中の2つのDLCではすごくいい反応をいただけているので、この第3弾を出して、皆さんの反応を見てみたいなと思います。
 ただ、スタジオ内ではつねに新しいアイデアも募集していますよ。いろいろなところからアイデアが生まれてこそゲームはいいものになっていくと思いますし、それこそがインソムニアック・ゲームズのいい文化だと思うので、この試みは今後も奨励していきます。

インソムニアック・ゲームズのCEOに聞く。25年目のタイトルとなる『Marvel's Spider-Man』は、スタジオの集大成になった_03

――じつは今回、サンタモニカスタジオとノーティードッグにもインタビューを行ったのですが、両スタジオとインソムニアック・ゲームズの関係は?

テッド両スタジオとはかなり頻繁にコミュニケーションを取っていて、アイデアや技術を共有しながら、互いに進歩していけるようにしています。
 サンタモニカスタジオの『ゴッド・オブ・ウォー』は今年発売されたものの中でいちばん好きなゲームのひとつですし、ノーティードッグの『The Last of Us(ラスト・オブ・アス)』は自分の生涯の中で最高のゲームに数えるくらい好きです。
 そうしたゲームをプレイするたびに、「非常に難しい問題を解決して、とてつもないことをやってのけたな!」と思い、触発されますし、さらに彼らに直接「これはどうやったの?」と聞いたりすることもあります。

――では、両スタジオに負けていないと思うポイントはどこでしょうか?

テッド開発体制ですね。インソムニアック・ゲームズは何年にもわたって体制を強化していて、いまでは家庭用ゲーム機だけでなく、VRやARのゲームの開発も行っています。
 それぞれのプラットフォームに対してひとつの同じエンジンを使って開発を行っていて、なおかつ、体制強化で大規模なゲームを扱う能力も増しているので、そうした点は強みかなと思います。

――VRやARのコンテンツの開発にも意欲的に取り組んでいるのはなぜでしょう?

テッドやはり、最新技術の発達の最先端にいられるというのが大きな理由です。我々がVRコンテンツの開発に着手したときには、VRが誕生したばかりのころで、家庭向けのゲームだけを開発していたのでは得られないような知見や経験が得られました。
 インソムニアック・ゲームズはそうして新しいことを試すのがとにかく好きなんです。我々がワールドワイド・スタジオの一員にならず、独立したまままでいるのは、いろいろなことに挑戦できる機会が得られるからなんですよ。

――なるほど。ところで、最近の日本のゲームでとくに印象に残っているものはありますか?

テッド最近はあまりゲームをプレイできていないのですが、『モンスターハンター:ワールド』はコンセプトが気に入っていますし、個人的にSFの世界に出てくるようなモンスターが大好きなので絶対にプレイしたいです。
 レビューでもすごく高く評価されているほか、インソムニアック・ゲームズ内でもたくさんのスタッフがプレイしているので、彼らの声を聞いてすごくプレイしたいと思っています。

――最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

テッド『Marvel's Spider-Man』が日本でも人気であるということを聞くのは喜ばしいことですし、とくに自分たちが作り上げたスパイダーマンの物語が日本の方にも響いたというのは本当にうれしいです。
 また、オープンワールドのゲームだと、必ずしもストーリーがしっかりしたものではないこともあるのですが、本作では、単に街を飛び回るだけでなく、スパイダーマンとして、ピーター・パーカーとして、責任のある大人が直面するいろいろな悩みをどう解決していくのかという物語を体験していただけます。まだプレイされていない方はぜひプレイしてみてください! 「スパイダーマンになってみたい」、「ヒーローになってみたい」と思っているのであれば、その夢はこのゲームで叶うことでしょう!

インソムニアック・ゲームズのCEOに聞く。25年目のタイトルとなる『Marvel's Spider-Man』は、スタジオの集大成になった_06

【関連記事】