止まった時の中で生まれる“奇跡”の物語

 それは、本当に美しい世界だった。

 風によって舞い上がるカーテン、空に浮かぶ落ち葉や雪までも、すべては静止している。目に入るすべての景色が1枚の絵画のような重厚かつ静寂な空間の中を、ボクは探索する。

 ささやかで、ありふれた奇跡を起こすため。

『Déraciné(デラシネ)』そして時は動き出す。“奇跡”を紡ぐ注目のアドベンチャー作品をプレイレビュー_01

 2018年11月8日に発売されるプレイステーションVR専用ソフト『Déraciné(デラシネ)』。
 本作はソニー・インタラクティブエンタテインメントとフロム・ソフトウェアが共同開発した作品で、ディレクターを務めるのは『Bloodborne(ブラッドボーン)』や『DARK SOULS(ダークソウル)』などを手がけた宮崎英高氏。

 宮崎氏というと硬派なアクションRPGのイメージが強いが、もともとフロム・ソフトウェアと言えば、死者の無念を取り除いていく物語が大きな感動を呼んだ名作『エコーナイト』などアドベンチャーゲーム開発にも定評がある。久々にフロム・ソフトウェアのアドベンチャー作品が楽しめるということで、『Déraciné(デラシネ)』を楽しみにしているファンも多いだろう。

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 “臨場感”に力を置いた、動きの多いゲームが発売されるVRタイトルの中で、本作はあえてアクションを最小限に留め、世界の“存在感”を際立たせている異色の作品だ。

 プレイヤーは、止まった時間の中でのみ活動できる“妖精”となって、異国の山深い土地にある寄宿学校の内外を探索。そこで暮らす6人の生徒と校長先生の慎ましい生活に少しだけ干渉し、“ささやかな奇跡”を起こしていく。それは、シチューにハーブを入れるイタズラだったり、寝ている人を起こしたり、カギを探したり、壊れたオルゴールを修理したりと、さまざまだ。

 そしてその“小さな奇跡”の連続が、ひとつの“大きな物語”に……、と、本作の物語も大きな魅力だが、発売前なのでストーリーについてはここまで! ゲームのシステムや魅力について見ていこう。

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プレイヤーは“奇跡”を演出する妖精に

 本作に登場する妖精=プレイヤーは、以下の特徴を持っている。

  • 妖精が動けるのは止まった時間の中だけ
  • 妖精は、現実世界の人たちからは見えない
  • 妖精は、現実世界の音は聞こえるが、人とは話せない
  • 妖精は、壁を通り抜けたり、ドアを開けたりできない

 このゲームにおけるプレイヤーは、時の流れが止まった世界で生きる妖精であり、プレイ時間の9割が、時が停止した中で進む。物音がしない静寂な世界を、時間や敵に追い立てられることなく、自分のペースで探索できるのは大きな魅力だ。

 移動は、妖精らしく画面に青白く光るポイントに瞬間移動するワープ方式で行うため、VR酔いの恐れも少なく快適。移動した先で“生徒たち本人”や、彼らの“幻影”、“アイテム”などを見つけたら、両手に見立てた2本のPlayStation Moveモーションコントローラー(以下、PS Move)を使って、怪しいと思う場所を文字通り手探りで探っていく。

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 探索していると、言霊(光の玉)が見つかることがあり、それをPS MoveのTボタンでつかめば、生徒たちの声が聞けたり、目の前で一瞬だけ時間が動き出したりと、イベントが発生する仕組みだ。

 言霊は、意外な場所に隠されていたり、特定のアイテムなどに触れることで出現するケースもある。探索時には、しゃがんだり、横から見たりと、あらゆる方向から見ることを意識することが重要で、これはVR作品ならではの楽しさと言えるだろう。また、時が動くときに、廊下などに設置してある時計の針の音が聞こえてくるなど、細やかな演出も没入感を高めてくれる。

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舞台となる寄宿舎は、章ごとにドアの開閉状況が異なる。それによって行ける場所が変化するため、章ごとに“驚き”と“発見”があり、探索を飽きさせない。

 ワープ方式で移動しながら“発見”をくり返し、物語を進める形は、ゲーム黎明期にPCで発売された『ミステリーハウス』が確立したアドベンチャーのクラシカルなスタイルだ。しかしそこに、VRの技術が加わることで、遊びやすさはそのままに、世界に深みがもたらされている。

 移動した場所で辺りを360度見回すことで気づく発見、調度品などの小物までも作り込まれた3D空間自体の現実感、PS Moveを使った触感を刺激する操作、距離や位置で聞こえてくる方向が変わる音など、VRだからこそできる体験が圧倒的な没入感をもたらしている。謎解きに行き詰まると総当たりになるというのは、ある意味古いスタイルではあるが、そうしたオーソドックスなアドベンチャーとVRは、じつはかなり相性がいいことに気づかされた。

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なんと言っても女の子がカワイイ!!

 硬派で骨太なゲームを作るイメージが強いフロム・ソフトウェアだが、本作に登場する生徒たちは美男美女ぞろいだ……ひとりの男を除いて(ごめんよ、ルーリンツ!!)。
 そんな彼、彼女たちが「妖精さん! 妖精さん!」と慕ってくれる姿を見ると、自然と力になってあげたくなるだろう。

 生徒たちには妖精が見えないため、ときに見当違いな場所に向かってしゃべっていたりもするが、それも自分が知覚されない存在であることを強く意識させる演出となっている。まさに、「自分が透明人間だったら何をする?」という妄想が現実になったような感覚。これも探索の一環なので……と生徒たちをいろんな角度から見たり、顔を近づけたりしていると、ちょっとした背徳感が味わえる、かもしれない。

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最初はユーリヤという名の少女以外、妖精(プレイヤー)の存在を信じていなかった生徒たちも、つぎつぎと起こる奇跡を目の当たりにすることで、妖精の存在を信じるようになる。

タイムリープ要素もあるんです!

 “小さな奇跡”ばかりと言うと、「地味なのかな?」と感じる人もいるかもしれない。しかし、妖精にはもうひとつ大きな能力がある。じつは、妖精は“ある力”を使うことで過去に戻ることができるのだ。

 4章では、足の不自由な生徒ロージャの足を治すため、ケガをした当日にタイムリープして、彼女がケガした行動を防ぐことに尽力する。また、あるときは眼鏡のニルスが狩っていたネズミの命をその場で蘇らせることも。

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 本作の物語は章仕立てで進み、舞台となる日時は、章ごとに大きく異なる。章が変わるといきなり翌月になっていることもあるが、章と章のあいだに何が起こったのかはプレイヤーには直接知らされないため、停止した時間の中で得られる断片的な情報やアイテム、そして小さな変化から、寄宿舎で起きたことを推測していく必要がある。

 寄宿舎の棚の中に置かれた写真や、黒板に書かれた文字、生徒たちが読んでいる本など、作中には手がかりが数多く存在する。プレイヤーが能動的に物語を楽しむ形が、ゲームをさらに魅力的なものにしている。

 

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手がかりを見つけるごとにふくらむ、かすかな違和感……。気になる方は、ぜひきちんとクリアーすることをオススメする。

 静かな寄宿舎で紡がれる心温まるエピソード、そしてそこで起きるミステリアスな物語を描く『Déraciné(デラシネ)』。時が止まった世界を舞台にしている作品だけど、時代の最先端を行っているアドベンチャーだ、と言えるかもしれない。

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