探索要素がとにかく楽しい

 2018年9月20日(木)から9月23日(日)まで、千葉・幕張メッセにて開催中の東京ゲームショウ2018(20日・21日はビジネスデイ)。取材のあいまにライターの戸塚伎一さんと雑談していて話題になったのは、VRタイトルの充実ぶり。戸塚さんが、自身が取材した『ライアン・マークス リベンジミッション』を激賞していてそんな話になったのだが、プレイステーション VRなどが発売され、“VR元年”と言われた、2016年から2年。VRコンテンツの開発に対する知見やノウハウが溜まってきたことで、さらに上質なタイトルが生まれてきているとの印象だ。

 今回紹介する『DEEMO -Reborn-』も、そんなタイトルの1本。触らせてもらってみて、「これはいい!」と時間を忘れて楽しんでしまった1本だ。

『DEEMO -Reborn-』を初プレイアブル体験、VRと音ゲーの相性のよさがもたらすとんでもない没入感【TGS2018】_03

 そもそも『DEEMO』とは、台湾のゲーム会社Rayark開発による音楽ゲームだ。2013年にスマートフォン用アプリとして配信され、美麗で繊細なアートワークや高質な楽曲が絶賛された1作だ。同作はその後プレイステーション Vitaなどにも展開されファンをさらに拡大。Rayarkというゲーム会社を象徴するタイトルの1本となった。

 『DEEMO -Reborn-』は、そんな『DEEMO』の新作として2017年に発表されたタイトル。VRという新たなデバイスを得ての、『DEEMO』の“Reborn(生まれ変わり)”を示す新たなる展開となる。ソニー・ミュージックエンタテインメントのインディーゲームブランドUNTIESが立ち上げ時に目玉として発表したプロジェクトで、同ブランドの最重要タイトルの1本だとも認識している。

 発表以降、謎のヴェールに包まれていた『DEEMO -Reborn-』がついに試遊できるということで、喜び勇んで幕張メッセに近接しているホテルニューオータニ幕張まで赴いてきたわけだが、それが期待に違わぬデキ。

 何より楽しいのは探索要素。本作は、屋敷の中にある部屋を探索し、楽譜を発見。それにより演奏できる楽曲が増えていき、楽曲をたくさん弾くことで敷地内の中央にあるツリーが成長していくという構造になっているのだが、まずは楽譜を探す探索が楽しい。楽譜探しは謎解きスタイルになっていて、頭をひねるゲームが好きな人にとっては、たまらない趣向。おそらく、“謎解き”とVRというのは極めて相性がよく、「どうすればいいんだろう」と考えているうちに、とにかく没入していた……なんてことも。そして、自然に没入をうながすくらい、VRの描写がすぐれていて、「この世界をずっと探索していたい」と思わず感じてしまうほど。

 記者が今回体験できたのは、ひとつめの部屋を探索して、アンロックされたふたつ目の部屋に移るまで……だったのだが、具体的な数字は開示されなかったが、部屋はいくつか用意されているとのことで、製品版をプレイするのが楽しみ。

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 で、順番が逆になってしまったが、肝心の演奏パートがこれまた楽しい。さきほど“謎解き”とVRは相性がいいと書いたが、音ゲーとVRの相性もおそろしいくらいにいい。本作での演奏パートのプレイは、画面奥から出現してくるノーツを、手前の線に達するタイミングに合わせてプレイステーション Move モーションコントローラー2本を用いて叩くというもの。「まるでピアノを演奏しているかのよう」と書くと少し大げさになってしまうかもしれないが、直感的にMove モーションコントローラーを振り動かすことで、まるで演奏しているかのような気分が味わえる。知らず演奏に没頭していて、これがまた楽しい。

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 RayarkのCEOにして、ゲーム事業を統括するユウ・ミンヤン氏は、「『DEEMO』の世界観に没入していただきたくて、VR化を考えた」と発言しているが、『DEEMO』というIPと音楽ゲームというゲーム性、そして探索要素の相乗効果により、すばらしく没入感の高いコンテンツになっているように思う。

 ちなみに、『DEEMO -Reborn-』はプレイステーション VR対応タイトルであり、VRなしでもプレイできる。これは、プレイステーション VRを持ってないユーザーに対する配慮で、プレイしてみての感想は、「これはこれでありかな」といったところ。ひとつだけ言えるのは、難易度はプレイステーション VRのほうが格段にプレイしやすいということ。VRがMove モーションコントローラー2本を使うのに対して、通常のコントローラーでは、6つのボタンを駆使しなければならないからだ。ゲームの腕前がからっきしな記者は、断固プレイステーション VR派だ。

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ノーツは6つ。プレイステーション VR版と比べると難易度が高く感じてしまうのは無理からぬところ。

 デモ版が試遊可能になり、徐々に全貌が明らかになってきた『DEEMO -Reborn-』。ここでは、東京ゲームショウに合わせて来日したRayark CEO ユウ・ミンヤン氏に、『DEEMO -Reborn-』の魅力を聞いた。

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少女の顔は納得のいくまで、発売直前まで調整していく

――改めての質問になりますが、なぜ『DEEMO』というIPをVR化することにしたのですか?

ミンヤン もともとスマホアプリ版『DEEMO』のファンタジーの世界観はユーザーの皆さんから高い評価をいただいていました。「この世界に入れたらなあ」というご要望をたくさんいただいていたんですね。そんなご意見をいただく中で、ちょうどプレイステーション VRが発表されて、VRが盛り上がってきたんですね。それを見たときに、「これだったら『DEEMO』の世界に入れるのでは」、「『DEEMO』の世界をより楽しんでいただける」ということで、VR化を決意しました。

――ということは、『DEEMO -Reborn-』の軸足はあくまでもVRということになるのですね?

ミンヤン というわけでもありません。もちろん、VRではより没入感のある世界を体験していただけますが、プレイステーション4のユーザーさんは誰でもプレイステーション VRをお持ちなわけではありませんので、よりたくさんのお客様に『DEEMO』の3Dの世界を楽しんでいただくために、プレイステーション VR専用ではなくて、対応とさせていただきました。

――幅広くファンに楽しんでもらいたいということですね。

ミンヤン VR化をしたもうひとつの理由として、もともとオリジナル版を開発するときに、「ピアノの演奏感を音楽ゲームで再現したい」との思いがありました。とはいえ、スマホのタッチスクリーンでは、そこまで高い再現度を実現することはできなかった。それが、もちろん本当にリアルなピアノというわけにはいかないのですが、プレイステーション Move モーションコントローラーを使うことで、ピアノの演奏感により近い感覚で楽しめる。それはVR化したひとつの大きな理由です。

――たしかに、それは強く感じますね。「『DEEMO』の世界に入りたい」というファンの要望に応えるために、いちばん心掛けたことは?

ミンヤン いちばん心掛けているのは、オリジナルの再現度です。オリジナルは2Dなのですが、ファンタジーの世界観をいかに3Dで再現できるかというのが、いちばんのポイントでした。そこを守らなければ、いざリリースしたときにユーザーさんのイメージとかけ離れていってしまうことは、IPにとっては決していいことではありません。一方で、それとは矛盾するようですが、オリジナルをまったく同じように再現するだけだと、区別がつかないことになってしまう。そこで、あえて真逆に要素を入れることにしました。モバイル版は2Dの手描きタッチが特徴だったのですが、3Dではできるだけリアルな世界を描写することにしたんです。リアルな世界で、本当にそこに入り込んでいくような表現を心掛けています。
 たとえば、さきほどプレイしていただいたときに部屋に油絵がかかっていたと思うのですが、それをよく見ると絵の具の厚みもしっかりと再現しているんです。あと、ソファの質感とか。そういうところまで、できるだけリアルに、『DEEMO』の世界を再現するようにしています。それによって、ファンタジーの世界に入り込んだかのような感覚が出せればいいなと思っています。

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――2Dを3Dに再現するにあたっては、少女がファンの方はいちばん気になるポイントだと思うのですが、3Dでも違和感がないように苦労された?

ミンヤン はい。かなり苦労しています。オリジナル版は2Dのイラストで、少女が3Dになったときのイメージはそれぞれお持ちだと思うんですね。それで、いざ3Dを出すと、ユーザーさんの思っていたイメージと少しでも違うと違和感を感じさせてしまう。100人が100人に納得していただくのは非常に難しいです、じつはプロジェクトが始動してからいまに至るまでに少女の顔は30種類以上変わっておりまして、非常に試行錯誤しています。それがようやく、ちょっと2Dのかわいらしさは残しつつ、3Dの世界にいても違和感がない顔ができてきたかな……と、いうのが今日体験していただいたバージョンなのですが、じつは私たちの中ではまだ満足していなくて、これは最終型ではありません。発売日直前まで、少女の顔は調整していくつもりです。より多くのファンの皆さんに納得していただけるような形にしていきたいと考えています。

『DEEMO -Reborn-』を初プレイアブル体験、VRと音ゲーの相性のよさがもたらすとんでもない没入感【TGS2018】_02

――そこはいちばんのこだわりポイントになるということでしょうか?

ミンヤン そうですね。ところで逆にうかがいたいのですが、実際に今日体験していただいて、少女の顔はいかがでした?

――あまり気にならなかったですね。世界観に没入していたということもあるのかもしれませんが……。あと竹達彩奈さんの声が耳もとで聞こえてくるので、それだけでテンションが上がってしまう(笑)。VR空間においては、とくに声は偉大なのかもしれません。

ミンヤン それを聞いてちょっとホッとしました。

――ただ、好きな人は気になると思うので、こだわるのは必要かもしれませんね。ところで、以前お話をうかがったときに、演奏シーンは「ノーツはもっと広い範囲から飛んでくるようにするかもしれない」とおっしゃっていましたが、けっきょくはいまの形になったようですね。

ミンヤン そうですね。背景を動かしたりするなど、いろいろと議論したのですが、最終的にはいまの形に落ち着きました。演奏シーンは、今日体験していただいたものが、基本的に製品版と同じになります。

――いまの形に落ち着いた理由は?

ミンヤン 演奏シーンに関しては、いろいろな人にテストしてもらったのですが、背景を動かしたりすると比較的VR酔いになりやすいんですよ。もうひとつは、周りが動いていると、実際ノーツが落ちてくるときに、タイミングに合わせて正しくやりづらくなるという声が、社内から上がったんです。何回も話し合いを重ねて、いまの結果に落ち着きました。ノーツが落ちてくる列は遠近法に従いつつ、ほかは動かないようにしました。そうすると酔わないし、演奏できるようになるので。

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――ゲームプレイを第一に考えたUI(ユーザーインターフェース)だということですね。そのほか、VRならではのこだわりポイントはありますか? 先ほど試遊させていただいたときに体験できた、カメラ視点が複数から設定できるというのは、その一例だと思うのですが……。

ミンヤン いちばんこだわっているのが、探索モードですね。探索モードには謎解き要素があって、けっこう長く楽しんでいただけます。そうすると、一般的なキャラクターの操作とフレーム数でやっていくと、長時間遊んでいるとさすがに少し疲れてくる。いまでているVRコンテンツは、比較的短い体験のものが多いように思います。私たちは、「比較的長時間のプレイに耐えるような操作方法はなにか?」ということをいろいろと試行錯誤した結果、カーソルをポイントさせて移動するという方法に行き着きました。複数のカメラを固定させておいて切り替えられるようにするというのがいちばんVRに合わせた調整です。こういった方法は、いままでのVRコンテンツにはあまり多くなかったように思いますので、本作のポイントのひとつになるかとは思います。とにかく、「できるだけ快適にプレイしていただけるように」ということは心掛けています。

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――最後に1問だけ。先ごろ、『DEEMO -Reborn-』の主題歌とゲーム内楽曲をEGOISTが担当すると発表されましたが、それに対してひと言お願いできますか?

ミンヤン まだじつは作曲中でして、どういう楽曲になるのか、私たちも知らない状態です。ですので、非常に楽しみにしています!

――『DEEMO -Reborn-』のために新曲を作ってくれるんですね。

ミンヤン はい。非常に楽しみです。その曲に応えるために、弊社も実際のゲーム内で収録するにあたっての演出なども含めて、『DEEMO』ファンにもEGOISTのファンにも満足していただけるように最大限の努力をしていきます。そういう意味でも非常に楽しみにしています。

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