2018年8月22日~24日の3日間、パシフィコ横浜にて開催中の、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2018”。2日目となる8月23日には、ディライトワークスが『Fate/Grand Order』(『FGO』)に関するセッション“ディライトワークス、FGO PROJECTをプロデュースする。~ Fate/Grand Order 成長の軌跡 2015-2018 ~”を行った。

『FGO』のユーザー数が2.6倍、売上は5.3倍に。大ヒットを飛ばすプロデュースの側面から、制作陣がこれまでの軌跡を追う【CEDEC 2018】_01

 本セッションには、元開発責任者であり、現在は“FGO PROJECTクリエイティブプロデューサー”を務める塩川洋介氏と、プロデューサーの庄司顕仁氏、そしてマーケティングディレクターの石倉正啓氏(通称・バスター石倉氏)が登壇。大人気の『FGO』のセッションということもあり、座席はすべて埋まり、立ったままセッションを受講する人も多かった。

 セッションのテーマは、ディライトワークスが『FGO』をプロデュースした軌跡について。『FGO』がリリースされる前から、大ヒットを飛ばした現在にいたるまでのエピソードが、3つのパートに分かれて紹介された。

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『Fate』とは、奈須きのこである

 まずは、プロデューサーである庄司氏が登場。お話は過去にさかのぼり、まだ『FGO』の企画がスタートしていない2013年10月。ある日、『Fate』シリーズを統括するTYPE-MOONの武内崇氏から“スマートフォンゲームに詳しい人を紹介してください”という話を受ける。とりあえず庄司氏は、まず自分でその話を聞いたそうだ。

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庄司顕仁氏

 そこで受けた話が『FGO』の原型となる、『Fate』を題材にしたスマートフォン用ゲームの企画。当初の企画書がぼかし入りで公開されるとともに、当初の企画内容も公開。おおむね現在の根本とは変わらないものの、当初の企画ではシナリオがほとんどなかったのだという。TYPE-MOONとしては、奈須きのこ氏が忙しいこともあり、負担にならないようにするために、シナリオは最小限にしたかったそうだ。ゲームの内容も、当時主流だったゲームスタイルのトレンドにも合っているほか、『Fate』という強力なIPのおかげで、それなりに売れることは間違いないと、庄司氏は判断。「全体的に問題はありません」と答えたものの、TYPE-MOON側は納得がいかないようで、あまり反応が良くなかった。

 庄司氏はそれまで存在は知っていたものの、『Fate』自体には触れてこなかったので、勉強してから再度企画を見てみようと思い、ゲームやアニメなど、さまざまな『Fate』コンテンツに触れていった。そこから再度見直した庄司氏は、“コンテンツパワーに比べて販売実績が少ない”ということに気付く。『Fate』シリーズは基本的に全タイトル約20万本ヒットしているが、まだまだ売れると庄司氏は思ったそうだ。

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 考えても分からないので、「なぜそこそこ止まりなのか?」という疑問をTYPE-MOONに聞いたところ、TYPE-MOON側の認識がおかしかったと、庄司氏は語る。TYPE-MOONとしては、“『Fate』は超ニッチでコア向けのタイトルだから、コアユーザーは10万人程度”だと思っていたのだとか。庄司氏はそこからTYPE-MOONに“『Fate』はもっとたくさんの人に遊んでもらうべきゲーム”と言い続けて説得。だったらと、もう1度『FGO』のプロジェクトがスタートした。

 当初の企画は忘れて、ゼロからやり直すことになったこの企画。最初に庄司氏がやりはじめたのは、『Fate』とはどんな作品なのか、『Fate』ファンはどんな人たちかを知ることだった。そしてすり合わせた結果、“最も新しく、最も身近で、最も『Fate』らしい、100万人に届く『Fate』を作る”という開発の指標が生まれる。

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 しかしここで困ったのは、“『Fate』らしさ”とは何ぞや? ということ。らしさとは、キャラクターのビジュアルなのか、優れたシナリオなのか、ほかの人に聞いてもみんなバラバラの意見が返ってくる。考えてみれば、初代である『Fate/stay night』と、派生作品『Fate/EXTRA』を比較しても、ビジュアルもシナリオまったく違うのに、『Fate』らしさは間違いなく感じられる。また、試作として『Fate』のキャラクターをすべてカード化してみたところ、庄司氏は『Fate』らしさを感じられなかったのだという。そこで庄司氏は、『Fate』の根幹にはもっと大事なことがあると気づく。

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 その結論は、シナリオ担当の奈須きのこ氏の存在(スクリーンに名前がどーんと出てきた勢いで、参加者たちは大爆笑!)。奈須きのこ氏が、すべての『Fate』をリンクさせる鎖だったのだ。このことには、TYPE-MOONも、奈須きのこ氏も気づいていなかったそうだ。結果、当初の予定では奈須きのこ氏をほぼ起用しない、という方針のところを変えて、現在の『FGO』になったそうだ。

 最後に庄司氏は、当初はこれでオーケーと思っていたところ、さらに勉強をしたおかげで大事なことに気づけたことをまとめつつ“知人者智、自知者明”と、老子の言葉を引用。自分の限界を知らずにこれでいいと妥協するべきではないことを、『FGO』から知ったという。そして、プロデュースとは、クリエイターの想いや才能をビジネスとして成功させること、それをすべてのファンに届けることが大事だと語った。

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捨てる勇気がヒットにつながる

 続いては、塩川氏が登壇。リリース後から、今年3月開発責任者を担当していた塩川氏は、ここまで語られた庄司氏の話は知らなかったそうで、まだまだスタートしたばかりのプロジェクトに加わることに。

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塩川洋介氏

 最初にスライドに映し出されたのは、サービス開始時なのにメンテナンス時間がそのほとんどを占める、有名な表。この時期は、誰もが道を見失いながら必死にもがいていたそうで、スタッフ全員このゲームをどうにかしたい思いはあるが、どうしたらいいのかわからない。その状況で、まず塩川氏がやったのは“『FGO』とは?”というテーマを、再定義したこと。リリース前に考えていたことが実現できたこと、できなかったことがある中で、なにが『FGO』なのか見失っていると、塩川氏は判断した。

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 そこで開発理念に掲げたのが、5つのコンセプト。まずは“脱・予定調和”。つねにほかのゲームとは違うような事件を巻き起こして、これまでにない体験を味わってもらおうと考えた。『FGO』では、新キャラクターの発表だけで、どんな芸能ニュースよりも大きな話題になることも。どうやって発表すれば、ユーザーが盛り上がるのか計算しているそうだ。スライドでは、1000万ダウンロードを突破した際に実施された“マーリン”ピックアップのバナーが映し出されていた。

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 続いて“ソーシャルゲームの皮をかぶった、昔ながらのゲーム”を目指し、ソーシャルゲームで当たり前になっていたことを見直したという。たとえば、“画面操作はこれくらいの操作量でバトルにいかなくてはならない”、“シナリオはこれくらいのボリュームでなくてはならない”という、ほかのゲームでは当たり前だったお決まりを、どんどん消していったそうだ。シナリオについては、大量の文章量になろうと気にせずに取り組んだという。

 3つ目が、“『Fate』らしさ”を重視すること。本作のユニットである、英霊(サーヴァント)は全員が主役であるという理念のもと、すべての英霊を引き立てることを考えた。ゲーム的な部分ではレアリティなどの違いはあるかもしれないが、シナリオやアニメーションなどの開発コストは全員同じように対応したそうだ。

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 そして、“自分自身との戦いを楽しむ”ゲームに『FGO』を設定。当初は対人戦コンテンツなども考えていたそうだが、『FGO』らしさを出すにはと、自己満足を突き詰めるゲームスタイルに定めたそうだ。また、“『FGO』はユーザーのためのもの”ということで、積極的にイベントを開催したり、ユーザーが驚くようなコラボを考えていったという。

 これら5つの指針で運営していった結果ということで、MAU(月間アクティブユーザー数)を初公開(実数は非公開)。2015年からどんどん右肩上がりに増えるユーザー数は、2016年は2015年の1.4倍、2017年には2015年の2.6倍にまで膨れ上がった。さらに、月別の売り上げ利益も2017年には2015年の5.3倍という数にまで成長した。

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 爆発的な成長を実現できたことに塩川氏が感じたのは、“捨てる、プロデュース”ということ。ありきたりで定番の企画、ほかのソーシャルゲームがやっていること、『Fate』らしくないこと、対人戦などのコンテンツ、現在『FGO』を楽しんでいないユーザー、そのすべてを捨てることで成長したと、塩川氏は語る。『FGO』らしさを取り戻し、『FGO』らしくあり続けるために奮闘した塩川氏。最後は塩川氏から「孤独な仕事でしたが、愛と勇気だけが友だちでした(笑)」と、冗談めいた言葉でふたつ目のトークテーマを締めくくった。

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アクティブユーザー数を“マツリ”で更新!

 最後に登壇するのは、マーケティングディレクターの石倉氏。石倉氏はマーケティングの方法を“魔法(マ法)”と称した、ユニークなセッションを披露した。

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石倉正啓氏。バスター石倉氏として登場する際はサングラス姿のため、素顔はなかなかレア。
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 マーケティングの手法として最初に重要なのが、情報発信。日々の情報はツイッターで発信することで、こまめな情報をユーザーに伝えることができた。些細なことでも毎日発信していたおかげで、年間Twitterトレンド賞を受賞することができたと、石倉氏は語る。

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 また、日々の情報を淡々と伝えるだけでなく、驚きを提供することも重視していたそうで、たとえば大型周年イベント“FGO Fes.”では着ぐるみを制作したり、ホログラムやプロジェクションマッピングによる演出などを披露。さらに、VRタイトル『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』や、エイプリルフール専用アプリ『Fate/Grand Order Gutentag Omen Adios』のリリースなど、プレイヤーを驚かせる施策を数々取り入れていった。

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 そして、自身がバスター石倉として登場したことも重要だと、石倉氏は熱弁。スマートフォンの画面という世界だけには留まらず、ユーザーと触れ合って直接やり取りすることにしたそうだ。なお、石倉氏は各イベントなどで、来場者に“バスター”(ゲーム内のアイコン)のシールを手渡しで配布している。これまでに手渡ししてきた人数は、なんと約7000枚以上にのぼるそうだ。

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 最後に、マーケティング最大の奥義を“大魔法 マツリ”と称して今年も開催された大型イベント“FGO Fes.2018”ついての話題へ。今年の来場者は2日間通して34972名になり、Twitterのトレンドには1位から19位までが『FGO』の用語に。生放送の中継は来場合計340万人となり、ニュースは1700記事以上にもなったとのこと。

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 そして“FGO Fes.2018”のおかげで、1日の最大アクティブユーザーを数が過去最高を記録したとのこと。石倉氏は、さらなる記録更新を狙うには、ゲーム以外のことをどんどんプロデュースしていくべきだと述べつつ、自ら企画して、自ら伝えて、自ら実施し、自ら会いに行くという、自分で動くことが大事だと語っていた。

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 セッションのラストには再度、塩川氏が登壇。“『FGO』をプロデュースする人間はこれから変わっていくこともあるかもしれないが、ディライトワークスの企業理念である“ただ純粋に、おもしろいゲームを作ろう”という根本は変わらずに、『FGO』を作っていく”と、セッションを締めくくった。

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