首相みずからプログラミングに挑戦! ゲーム産業に力を入れるカナダ

 2017年12月6日、在日カナダ大使館にて“日本・カナダ ゲーム・サミット 2017 in 東京”が開催された。ゲームを中心に、カナダの技術や最新情報が紹介される毎年恒例のイベントで、5年目となる今年は“VR(仮想現実)/AR(拡張現実)”がテーマ。その開発の現状や、日本とカナダのパートナーシップなどについて、4つの講演が行われた。

 講演に先立ち、カナダ大使館のアルン・アレクサンダー公使が挨拶。「カナダ政府はデジタルメディア産業に力を入れている。たとえば、トルドー首相は昨年、自分でゲームをプログラミングしたり、モントリオールのユービーアイソフトでVRについて勉強したりした」「日本の影響力は大きく、カナダの開発者に話を聞くと、ほとんどが日本のビデオゲームで育ったと話す」と、カナダのゲーム産業や日本との関わりについて、簡単に触れた。

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アルン・アレクサンダー氏(カナダ大使館 公使)

『アサシン クリード』もカナダ生まれ! 世界第3位のゲーム産業大国

 最初のセッションは、カナダ大使館のアニータ・パン二等書記官による“カナダのデジタルメディア産業とゲーム産業の概要”。カナダのデジタルゲーム産業が世界第3位の規模であり、エレクトロニック・アーツやマイクロソフトをはじめとする多くの有名企業がスタジオを置いていることや、これまでに2100以上のタイトルが開発され、そのなかには『FIFA』や『アサシン クリード』などのベストセラーも含まれることなどが説明された。

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アニータ・パン氏(カナダ大使館 二等書記官)
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 後半では、ブリティッシュ・コロンビア州やケベック州、オンタリオ州など、ゲーム企業が拠点とする各エリアを写真で紹介。「このピアノは、モントリオール銀行の本社前に置かれています。ビジネス街で、誰でもピアノを自由に弾くことができます。こうしたカナダのクリエイティビティは、ゲーム産業に大きなプラスとなっています」「建国記念日に、オタワの国会議事堂前広場を撮影したものです。こうした重要な場所でも、人々が自由にくつろぐことのできる、安全な街です」などと、ビジネス面でもメリットとなり得るカナダの特徴をアピールした。

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モントリオール銀行本社前
オタワの国会議事堂前

梅田ジョイポリスで240分待ちの大人気! 日本のVRゲーム事情

 次に、VR専門開発会社である“よむネコ”の新清士代表が登壇し、“日本における仮想・拡張現実開発の概要”をテーマに講演を行なった。もともとゲームジャーナリストで、『VRビジネスの衝撃』という著書もある新氏。現在はよむネコでVRコンテンツ開発事業を手掛けるほか、VRベンチャーに対して支援を行なうTokyo VR Startupsの取締役も務める。スクリーンでは、よむネコが開発したVR脱出ゲーム『エニグマスフィア』や、Tokyo VR Startupsが過去に支援したプロジェクトが紹介された。

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新清士氏(株式会社よむネコ 代表取締役社長)
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よむネコのVR脱出ゲーム『エニグマスフィア』
Tokyo VR Startupsの支援先、InstaVR株式会社によるアプリ『InstaVR』

 自己紹介に続き、新氏はIT系情報サイト“ベンチャービート”のニュースを引用し、VRビジネスの成長について「2017年下半期の投資金額は、昨年の同時期に比べて79%もアップしている」というデータを示した。もちろん、ユーザーも増加しているとして、「アメリカのVRユーザーは本格的なゲームを遊びたがっていることが、調査でわかった。この年末には『Skyrim VR』(発売中)や『Fallout 4 VR』(今月発売予定)などがリリースされるが、これらがどれだけハードウェアの販売台数に寄与するかが、来年以降のVRの普及に大きく影響するだろう」と展望を述べた。

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 新氏によると、VRが普及するために解決しなければならない問題として“値段が高い”、“設定が複雑”、“ケーブルがわずらわしい”の3点が挙げられるという。これらはハードメーカーも把握していて、解決の方向に向かっているとのこと。とくに価格は“2016年に798ドルだったOculus Touchが、今年は半額の399ドル”、“来春発売のスマートフォンVR、Oculus Goは199ドル”と、かなりのスピードで下がっている。この流れについて、「Oculusが“Oculus Dash”(VR空間上でFacebookやGoogle ChromeなどPCのアプリを開くことのできる新インターフェイス)を導入するなど、VRを使ったOS競争がはじまっている。そのため、値段を下げてでもユーザーを獲得しようという動きがある」と、新氏は解説した。また、来年にはケーブルレスな一体型でルームスケール(VR空間を自由に動くことができる)タイプのVR“Santa Cruz”がリリース予定で、新氏は「最終的にVRのハードは、ルームスケールタイプの一体型に集約されていくのではないか」と予測しているそうだ。

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 話題は日本のVRゲーム事情へ移り、「ふたりプレイを前提として開発したこともあってか、期待したほど売れなかった『エニグマスフィア』だが、ゲームセンターだと最大240分待ちとなるほどの大人気」と、梅田ジョイポリスにおける事例を紹介。ファッションビルの最上階というロケーションも手伝ってか、プレイヤーの40%は女性で、「黙々とクリアーしようとする男性と違い、ワイワイキャーキャーとボイスチャットでコミュニケーションを取りながら、ふたりで協力して遊んでいる」のだとか。このケースから、VRを体験してみたいと思っていたライトユーザー層にフィットしたことや、ソーシャル性が重要なことが判明。それらを考慮した新バージョン『エニグマスフィア:ライブラ』をリリースし、好評を得ているとのことだ。「初体験でビックリ、という段階はいつか終わると思うが、しばらくはライトユーザーのニーズが強く、日本のアーケードVR市場はもっと広がっていくだろう」と結んだ。

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バンクーバーのゲーム会社社長が思い描く、VRの未来とは

 ここで、今回の基調講演のスピーカーとして、アーキアクト・インタラクティブのデレク・チェン社長が登場した。お題は“カナダにおける仮想・拡張現実開発の概要”である。デレク氏は中国出身で、ソフトウェアエンジニアリングを学ぶためにカナダへ留学。その後、SAPとAmazon.comで10年間働き、約4年前にアーキアクト・インタラクティブを知人とふたりで設立した。アーキアクト・インタラクティブとは、バンクーバーに拠点を置くVRゲーム開発会社。これまでにモバイルVRゲーム『Hidden Fortune』など40タイトルをリリースし、現在はPC/コンソール向けのVRシューター『Evasion』を開発中だ。

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デレク・チェン氏(アーキアクト・インタラクティブ 社長)
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『Hidden Fortune』
『Evasion』

 デレク氏は、なぜバンクーバーでビジネスをしているのかについて、「人材が豊富で、ストーリーテラーからプログラマーまで揃っている」「数週間で起業でき、デジタルメディア税額控除などの産業支援も充実」「任天堂やカプコンといった大手ゲーム企業のスタジオがあるほか、ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスをはじめとする映画会社や、アップルやIBMなどのIT企業、そしてVR関連企業もたくさんある」との理由を挙げた。この10月には数社と共同で、VR/AR専門のビジネスインキュベーター“THE CUBE”もバンクーバーに設立。新しい企業を助け、VR産業の成長を促進しようと動いているという。

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 さて、“2Dのスクリーンに制限されない”VRでは現在、何ができるのか? また、将来は何ができるようになるのか? デレク氏はスライドで、“エンターテインメント”、“トレーニング”、“教育”、“ソーシャル”、“デザイン&プランニング”の各分野における、VR技術の応用実例を示した。たとえば“トレーニング”ではNASAの宇宙飛行士の訓練に用いられれ、“デザイン&プランニング”では都市計画にも使われているという。そして将来的には、デジタルの世界で、時間やスケール、スピードをコントロールするといった“神様のようなこと”ができるだろう、とデレク氏。「どうするかは完全に私たちに委ねられている。5GやAI、IOTといった技術と組み合わせる必要もあるだろう」と、VRの未来を思い描いた。

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日本のVR企業もバンクーバーですぐに仕事をはじめられる!?

 セミナーの最後には、カナダのデジタルメディア関連企業によるディスカッションが行われた。パネリストは、基調講演でも登壇したデレク氏、3DCGツール『フーディニ』で有名なSide FX(本社:トロント)のクリス氏、eコマース事業を展開するShopify(本社:オタワ)のマーク氏。Shopifyは、たとえばゲーム内でネットショップにアクセスできるなど、ゲームとeコマースとの融合に力を入れている企業だ。

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左からデレク氏、クリス氏(Side FX)、マーク氏(Shopify)、進行役のリアン氏(カナダ大使館 投資担当)
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Side FXの『フィーディニ』はVRコンテンツ開発にも活用されている
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Shopifyによるeコマースとゲーム『Alto's Adventure』との融合事例

 カナダと日本とのパートナーシップについて、デレク氏は「VRのコンテンツには強力なIPが必要。日本は強力なIPをいっぱい持っている。それとカナダの技術とを結びあわせれば、業界を成長させていくことができる」と発言。クリス氏は「日本のアーティストと仕事をするのは楽しい。技術と芸術のバランスが取れていて、クオリティが高い」と、日本で働く欧米人アーティストからの意見を紹介した。また、「グローバルマーケットにアクセスできるのが私たちの強さ。日本で輸出入のお手伝いをしたい」と語ったのは、今年から日本に本格進出をはじめたShopifyのマーク氏だ。

 そして、カナダへの進出を考えている日本のVR関連企業にメッセージを送ったのは、基調講演でビジネスインキュベーターTHE CUBEを紹介していたデレク氏。「カナダでの起業を考えている方はお問い合わせを。バンクーバーのTHE CUBE施設内に机があり、すぐに仕事をはじめることができる。歓迎します」と、聴講者に呼びかけた。

 閉会にあたっては、在日カナダ ブリティッシュ・コロンビア州政府事務所のアブロム・サルスバーグ代表が挨拶。「カナダへ進出するのなら、マーケットとして見るのではなく、北米市場へのゲートウェイとして考えて。アメリカのシアトルにはクルマで2時間、ロサンゼルスやサンフランシスコとも同じタイムゾーン」と、ビジネスについての情報を提供し、約3時間にわたるサミットを締めくくった。

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アブロム・サルスバーグ氏(在日カナダ ブリティッシュ・コロンビア州政府事務所 代表)