ゲーム業界を縁の下から圧倒的な存在感で支えるVirtuosとは?

 東京ゲームショウ2017に合わせて来日を果たした、Virtuos(バーチャス)の創業者にしてCEO、ジル・ランゴリ氏へのインタビューをお届けしよう。中国・上海に本社を構えるVirtuosは、2004年の設立以降、数多くのタイトルを手掛けた世界有数の開発スタジオ。その高い技術力は世界中のゲームメーカーから厚い信頼を集めるものとなっている。

 ファミ通.comがランゴリ氏にインタビューをするのは、東京ゲームショウ2015に次いで2年振り。インタビューでは、同社のこの2年の歩みを導入部としつつ、最新作である『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』の開発秘話や、“中国独自IP”として注目されている『Monkey King Hero is Back The Game(仮題)』の開発に参加した経緯などを聞いた。

 いまの世界のゲーム業界を縁の下から圧倒的な存在感で支えるVirtuosの秘密に迫る。

世界屈指の受託開発会社VirtuosのCEO ジル・ランゴリ氏に聞く 『FFXII ザ ゾディアック エイジ』開発秘話や中国市場にかける思い_06
ジル・ランゴリ氏(中央)と、Virtuosに在籍する日本人日本人クリエイターの橋口浩之氏(右)と中川亮氏(左)。

日本メーカーも技術力やセキュリティー面で高い評価

――ジルさんに取材をさせていただくのは、東京ゲームショウ 2015以来になるかと思いますが、この2年間のVirtuosの展開に対する手応えをお教えいただけないでしょうか。あわせて、この2年間で、とくに“成果”だと思われるタイトルをお教えいただけるとうれしいです。

ジル Virtuosはこの2年間で間違いなく成長していまして、それは数字にも現れています。現在は1300人までスタッフ数が増えておりまして、スタジオ数も全世界で7つになっています。上海で約400人、成都で約500人、3番目に大きなスタジオはベトナムのホーチミンにあって300人を擁しています。西安は100人を超えています。ここまでが、アジア圏のスタジオになりますね。その後、2103年にサンフランシスコのスタジオを設立して、2016年にパリに新たにスタジオを作りました。もともとコンソールのスタジオがあったので、新しくモバイルのスタジオを増設した形です。パリの新しいスタジオは、ノートルダム寺院の目の前にあるんですよ。さらに、今年の2月にアイルランドのブラックシャムロックという会社を買収しました。これが“会社規模”としての成長になりますね。

世界屈指の受託開発会社VirtuosのCEO ジル・ランゴリ氏に聞く 『FFXII ザ ゾディアック エイジ』開発秘話や中国市場にかける思い_07
Virtuos社のプレゼン資料より。

――この2年のあいだにも、ふたつのスタジオを増やしたのですね。

ジル “仕事の成果”としては、2015年から2016年にかけて、売り上げTOP10タイトルの6つのタイトルに関わりました。こちらはアートの供給で、『マッデンNFL 17』、『FIFA 17』、『バトルフィールド 1』、『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』、『ウオッチドッグス2』、『タイタンフォール2』になります。さらに3つ目の視点として、“ゲーム開発能力が発揮された年”を挙げたいと思います。2016年にはたくさんのHD リマスタータイトルを手掛けさせていただきました。『ヘビーレイン-心の軋むとき-』のリマスター版、『バットマン:リターン・トゥ・アーカム』、『アサシン クリード エツィオ コレクション』、『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』PC版ですね。

――パリにスタジオを設けたり、ブラックシャムロックを買収した理由は?

ジル Virtuosのミッションは、ゲームメーカーが大きなタイトルを開発することを手助けすることです。そして、タイトルの内容をより充実させることです。大規模なゲームの開発を進めるにあたって、綿密なコミュニケーションが必要になってきていまして、世界でもっとも使用されている言語は英語なので、英語圏でスタジオを持ちたいという思いがありました。そこでアイルランドのスタジオを買収したという経緯があります。もうひとつは、IPをお持ちの企業で、ゲームの開発部門をお持ちでないところも多い、もしくはお持ちでも数が足りないという現状があります。“よりIPを活かしてゲームを作る”という見地からみて、もっとクリエイティブなサービスを提供すべきという判断からパリのスタジオを建てました。その一例として、ヨーロッパでは有名なボードゲームをアプリ化した『スポットイット』があります。IPの有効活用のお手伝いということですね。

――それは、Virtuosさんがよりクリエイティブな方面に踏み込んだと判断していいのでしょうか?

ジル それに関しては、私は違う認識を持っています。IPを創造していないからといって、必ずしもクリエイティブではないと考えてはいなくて、受託案件であっても、クリエイティビティを発揮する余地は充分にあると思っています。クリエイティブである、クリエイティブではないという白黒はっきりしたものではなくて、グラデーションのように、少なからずクリエイティブはどのような仕事にも必要だと思っています。たまたまクライアント様からのご要望が多いということで、IPをまるごとお預けいただけるように、新たに企画やプランニングを当社のサービスに加えた形です。

――なるほど。前回のインタビューでは、「この10年間で関わったゲームタイトルは300以上、世界のパブリッシャー上位20社中18社と何らかの形で関わりを持っている」とお教えいただきましたが、最新のアップデート情報をお教えいただけないでしょうか。

ジル まずお詫びしなければならないのは、2015年に「関わったゲームタイトルは300以上」というのは、ちょっと間違っておりまして、今年の3月時点で1000タイトルを超えています。その1000件目のタイトルが何だったかというと、ゲリラゲームズの『Horizon Zero Dawn(ホライゾン ゼロ・ドーン)』なんです。

――1000ですか! それはすごい。2015年の時点で任天堂さんとのお付き合いはないとのことでしたが、その後いかがですか?

ジル もしお付き合いがあったとしても、NDAでお答えできないので……。なんとも言えないです。ただ、“進歩はしています”とだけはお答えしておきます。

――日本メーカーとの関わりについて、2014年は「まだまだ」、2015年は「だいぶうれしい感じになっている」とのことでしたが、現状の手応えはいかがでしょうか?

ジル そんなことをお話しましたか(笑)。進むべき道のりはまだまだ長いので、満足するということはないのですが、著しい成果を挙げていることは確かです。たとえば、スクウェア・エニックスさんとは『ファイナルファンタジーX/X-2 HD リマスター』に続き『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』を手掛けさせていただいたのですが、すばらしいタイトルになったと自負しています。メタクリティックは全世界で87点となりました。日本を代表するようなパブリッシャーさんに信頼していただけているというところで、ある程度の成果は残せたのではないかと思っています。また、日本のゲームメーカーさんの、Virtuosの技術力に対する評価も高いです。

――具体的にはどのような点で?

ジル Virtuosでは“統合型のアート制作”と呼んでいるのですが、クライアントさんが使用するゲームエンジンに直接納品しているんですね。それにより、効率化が図られたり、コストカットがなされるわけです。こういったことに対して、日本のメーカーさんはいい反応を示してくださっています。いまの大規模なゲーム開発に際して、合理的な体制であることが評価していただけているようです。

――各メーカーは、自社のゲームエンジンのノウハウを積極的にVirtuosさんに開示しているとのことですが、日本のメーカーはその点でも理解があるのですね?

ジル そうですね。エンジンの詳細を開示してくださいます。さらに言えば日本のメーカーさんはさまざまなミドルウェアを使用されているのですが、そういったものに対しても情報をご提供いただけています。傾向として、いままでは「アート制作だけしてください」というオーダーの傾向が多かったのですが、最近はクライアントさん側のチームの延長もしくは一員として見てくださるケースが増えていて、より多くのことを任せていただいていますね。

――たとえば?

ジル 私たちとしては、よりスマートに外部開発を依頼していただけるような枠組みをご提案しています。たとえば、従来のアートの受注では、クライアントさん側でエンジンに載せたり、クオリティーを上げて検証するということがありました。納品物のクオリティーが期待を満たさなかった場合は、クライアントさんのほうで直接ブラッシュアップすることもありました。Virtuosにはゲーム開発部門もありまして、そこでさまざまなエンジンを使った経験がありますので、その経験を活かして、アート制作でもエンジンに直接載せて納品するという形を取っているんですね。それをすることによって、クライアント側さんが実装しなくていいというメリットがありますし、最終の出来上がりに対して、お互いがどれだけ足りていないかが明確になります。そのぶん、ワークフローが効率的になるんです。

――多くのメーカーがVirtuosさんの技術力を信頼して、より多くのことをお願いするようになったという状況があるわけですね?

ジル そうですね。毎年日本での成果は30%ずつくらい成長していますので、おっしゃる通り、より多くのことを任せていただいていると言えるでしょう。さらに言えば、Virtuosが提供するサービスはセキュリティー的にもすごく安心で、その点でも高い評価をいただけています。Virtuosの主要なスタジオはすべて国際的なITセキュリティー規格である“ISO27001”を取得しているんです。セキュリティー的にも安心していただけるスタジオになっています。

『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』で目指したもの

――さきほどお話に出た、『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』の開発を手掛けることになった経緯を教えてください。

ジル 当社は、『ファイナルファンタジーX/X-2 HD リマスター』の移植開発を複数プラットフォームにまたがり担当させていただきました。その際の経験を踏まえて、スクウェア・エニックスさん側のプロデューサーである加藤弘彰さんが『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』の開発参加を当社に依頼された、という流れです。おかげさまで『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』は当社が制作に参加したスクウェア・エニックス社タイトル第4作目となりました。『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』ではオリジナル版の開発メンバーを中心に添えた開発体制となり、スクウェア・エニックスさんのビジョンに近いものを作ることができたと考えています。

――『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』の開発にあたって、とくに注力したポイントをお教えください。

ジル スクウェア・エニックスさんからご要望をいただいたポイントは、3つあります。ひとつは“オリジナル版に忠実なゲームプレイを提供する”ということ。プレイステーション2版を遊んだ方も、プレイステーション4版をプレイされて、「ああ、『ファイナルファンタジーXII』はこんなプレイ体験だったんだ」と思っていただけるようなプレイ体験にすることです。ユーザーの皆さんの心に響く作品に仕上げるために、世界観やゲームプレイ、カットシーンやエフェクトなどに細心の注意を払ってプレイステーション4に移植しました。たとえばですが、召喚獣ゼロムスの爪のカラーアニメーションはプレイステーション2のハードウェアに依存する技術でした。詳細は割愛しますが、パレットシフトという少し古い技法が使われており、ゲームデータとしてパレット、そして高解像度のフルカラーキャラクターテクスチャを用意する必要がありました。HD化したキャラクターテクスチャによる高品質化とプレイステーション2の世代の技法の再現を合わせて行うという少々難易度の高い作業ではありましたが、現世代コンソール上でこの演出を再現することに成功しました。

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ジル ふたつ目が、グラフィックの高品質化。オリジナル版をプレイされた方も、近年はHDグラフィックに慣れてきていらっしゃるので、絵はオリジナルといっしょだと物足りなくお感じになるだろうということから、グラフィックは高品質化を行いました。そして、3つ目が、UX(ユーザーエクスペリエンス)の改良です。『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』についてお話を聞いたときに、すぐにどれだけ幅広いユーザーが本作をプレイするかを理解し、同時に現在のゲームプレイのスタイルに合わせたものを提供しなければいけないと考えました。したがって、UIの改善、ロード時間の短縮を通じた、流れるようなゲームプレイを実現するためにスクウェア・エニックスさんが想定していた改良の重要性を理解し、それらをゲームに反映するよう注力しました。

――なかでもとくにたいへんだったポイントなどありますか?

ジル そうですね。“たいへん”とは少し違うかもしれませんが、開発チームがもっとも時間をかけたのがロード時間の短縮です。開発チームはこの成果にはとても満足しています。本作では、HDアセットの使用にともなって、オリジナル版と比較して十倍以上の大きさになるさまざまなデータをロードする必要がありますが、スクウェア・エニックスさんとは開発の早い段階から、「本作のロード時間はスーパーファミコンのようにロード画面がいらない程度の時間であるべきだ」と話し合っていました。私たちしては、プレイステーション4の能力があればこれは実現可能な目標であると思えました。その目標を実現するために、私たちはプレイステーション4の大容量のシステムメモリを活かしロード時間の短縮のためにリソースを事前に読み込む仕組みを開発しました。具体的にはプレイ中に隣接するマップやキャラクターの情報が事前に読み込まれており、実際にマップ移動した際の体感ロード時間は短縮されるという仕組みになっています。

――『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』では、高画質化だけではなく現世代の映像表現も導入されているとのことですが、具体的にはどのような手法を活用したのでしょうか?

ジル キャラクター、背景ともに、“鉄”、“革”、“皮膚”などの材質の違いをわかりやすくするために、近年の描画技術を活用するよう、スクウェア・エニックスさんからアドバイスをいただきました。そのために当社では、アーティストがキャラクターや背景オブジェクトに対してマテリアル(材質)設定や属性を設定できるツールを開発しました。また、特定の背景オブジェクトに光が当たったときの見えかたも設定できるようにしており、岩のゴツゴツ感や、絨毯は繊維のディテールまで表現できるようになりました。材質の表現の一環として、本作ではキューブ環境マップを光源的に取り扱うImage Based Lighting(IBL)を実装しました。IBL実装に必要なツールも開発しており、ゲーム中のオブジェクトは直接光だけでなく間接光の影響も受けています。そのほか、さまざまな技術を駆使して、プレイステーション2のオリジナルのアートの方向性を変えないように心掛けつつ安定してさらに美しいビジュアルを実現しています。本作では、オリジナル版のスタッフだった、高橋亮太郎さん(株式会社CGStyle)に、アートディレクターとして参画していただいています。高橋さんとは、お伝えした現世代の表現方法をひとつずつ詳細に話し合ったとともに、目の表現で、ご意見をいただきました。“目で表現する”という言葉がありますが、その点は、オリジナル版よりもプレイステーション4版のほうが、より豊かになっていることが、見ていただけると思います。

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――“目で表現する”というのは、どのような方法論を用いているのですか? テクノロジーで表現している? それともセンスの力で表現するのですか?

ジル 両方のコンビネーションですね。テクノロジーとセンスの融合です。カットごとに、目に正しいハイライトが入るように、より生き生きと見えるようなシステムを作りました。

――移植にあたっては、いまの最先端のテクノロジーが惜しげもなく投入されている感じですね。

ジル そうですね。いろいろな技術を使用しているのですが、少しだけ技術を紹介しますと、アンチエイリアスにはMSAA 4xを、背景やキャラクターの存在感の表現を改良するために重要な陰影表現にはHBAOを採用しました。これらを含むさまざまなビジュアルの改良は、結果的にプレイステーション4のGPUに負荷をかけることになりましたが、プレイステーション4の性能を生かす最適化に注力した結果最終的には安定したパフォーマンスを維持できました。

――『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』が完成したときに、スクウェア・エニックスさんの反応はどんな感じでしたか?

ジル 『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』が世界各国のイベントで展示された際には、ユーザーの皆さんから好意的なお声をいただいたと聞いていますし、発売後もそれは変わっていないと感じています。スクウェア・エニックスさんはつねによりよいものを目指していらっしゃるので、ユーザーの皆様からの好意的な評価とともにさまざまなアドバイスをいただきました。我々としては今回の『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』は、HDリマスターのあるべき姿を表していると思います。スクウェア・エニックスさんが設定したゴールを達成することによって、新たに遊んでいただける方に楽しんでいただくと同時にオリジナル版をプレイした方に対して“オリジナルがさらによりよくなった”と思っていただけるものを開発できたと思っています。

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“中国独自IP”の『Monkey King Hero is Back The Game(仮題)』の開発にも参加

――そして、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、“中国独自IP”として取り組む『Monkey King Hero is Back The Game(仮題)』の開発にも関わっていらっしゃると聞きました。

ジル 中国のコンソール市場がさらに拡大するために、中国のゲームファンの心に響くようなすばらしいIPを使って、かつSIEさんにとって重要なプロジェクトに参加できて、すごくうれしいし、光栄なことだと思っています。設定されている高いハードルから、SIEさんがいかに『Monkey King Hero is Back The Game(仮題)』に注力しているかがおわかりいただけるかと思うのですが、Virtuosとしては、メインの開発元であるヘキサドライブさんにアートのアセットを提供するという形で参加させていただいています。

――どのような経緯で『Monkey King Hero is Back The Game(仮題)』に関わることになったのですか?

ジル 満を持しての“中国独自IP”ということで、当然のことSIEさんにとっても大注力するプロジェクトなわけですが、アクションゲームに強みを持ったヘキサドライブさんと、中国にスタジオを持つVirtuosを組み合わせることによって、効果的な座組を組めると、SIEさんに考えていただけたようです。そこからこのプロジェクトは始まりました。

――中国ゲーム業界が総力を挙げて取り組む『Monkey King Hero is Back The Game(仮題)』に、Virtuosさんが参加するのは必然の流れと言えるような気はします。

ジル おっしゃる通りかもしれません。このプロジェクトに参加できて光栄です。

――『Monkey King Hero is Back The Game(仮題)』の開発で、注力しているポイントなどありましたら、お教えください。

ジル もちろん、開発元であるヘキサドライブさんのアートディレクター様の指示に従って作業をさせていただいていますし、元の映画に忠実にフォローする形でお仕事をさせていただいています。ただ、中国のIPですから、中国の会社としては思い入れがあります。中国発IP作品『Monkey King』を現地ユーザーとしての立場からもとらえることができますので、そこに尽力させていただけると考えております。

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『Monkey King Hero is Back The Game(仮題)』

――そのほか、SIEさんとの取り組みなどあったりされますか?

ジル 中国発の『Monkey King Hero is Back The Game(仮題)』に関しては、アート面でお手伝いをさせていただいていますが、SIEさんの中国におけるプレイステーション4の展開には、当社としてもかなり期待をしています。“China Hero Project”などを見ても、SIEさんの本気度がうかがえます。欧米や日本のお客様が多い当社のクライアントですが、一方で、中国のお客様がかなり増えてきました。モバイルやPCに加えてプレイステーション4に対する中国からの発注が増えてくるものと期待をしています。これまで欧米発のプレイステーション4向けソフトウェアで尽力してきましたが、これからは中国発でお手伝いをさせていただくことを非常に楽しみにしています。今後のSIEさんの中国での展開に、積極的にお手伝いをさせていただきたいと考えています。

――2015年にお話を伺ったときは、“マルチサイクルチーム(MCT)”に取り組んでいるとおっしゃっていました。とても興味深い取り組みだと思ったのですが、その進捗をお教えください。

ジル はい。“MCT”は、プロジェクトごとに同じチームメンバーが同じタイトルに携わることによって、ゲームエンジンやテクノロジー、コンテンツのノウハウが、クライアントさんと同じレベルで蓄積されていくというものです。現状、アート制作の仕事は、半分以上が“MCT”で構成されています。さきほどお話した“統合型のアート制作”と“MCT”は、クルマの両輪のようなもので、Virtuosの重要な方針と言えます。

――『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』も、“MCT”の成果によるもの?

ジル そうですね。“MCT”はもともとアート制作のみを対象としていたのですが、『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』は『ファイナルファンタジーX/X-2 HD リマスター』のスタッフが継続して関わっているので、“MCT”の拡大プロジェクトと言えるかもしれません。“MCT”がもっとも機能しているのは、『ファイナルファンタジーXIV』でして、すでに6年以上も同じチームがいっしょに仕事をしています。『ファイナルファンタジーXIV』に関しては、スクウェア・エニックスさん側の指定のツールに納品できるようなシステムを構築しているので、相当効率アップしているプロジェクトだと言えますね。

――ちなみに、2015年のお話では、モバイルに注力しており、7ライン中3ラインがコンソールで、4ラインがモバイルとのことでしたが、その戦略に変更はない感じでしょうか?

ジル モバイルの市場は飽和状態になっていて、じつは案件数としては減っているというのが現状です。逆に、コンソール市場のほうが勢いづいている感じです。とくに、Nintendo Switchの成功が大きいのではないかと思っています。

――最後に……。これも2015年のインタビューで、日本のメーカーに対して「失敗を恐れずに、リスクを取ることにチャレンジしてほしい」と発言していらっしゃいましたが、この2年で状況は変わりましたでしょうか?

ジル プレイステーション4の好調に加えて、Nintendo Switchという新しいハードがさらに日本のメーカー様の活気を後押ししていると思います。これを“商機”と捉えていただいて、日本ならではゲーム性の追求を続けていただきたいと考えています。これからも日本のゲームの誇りに持って、たくさんのIPやアイデアで世界を席巻していただきたいです。そのために当社は手となり足となりお手伝いをさせていただきたいと考えています。