ゲーム会社との信頼関係が大きな武器

 中国に拠点を構えるVirtuos(バーチャス)社は、その高い開発力などにより、いま世界中のパブリッシャーから大きな注目を集めている開発スタジオだ。おもにゲームの受託制作を行い、この10年間で関わったゲームタイトルは300以上にも及ぶ。世界のパブリッシャー上位20社中18社と何らかの形で関わりを持っているという数字を聞けば、いかに注目を集めているか、おわかりいただけるだろう。Virtuos躍進の大きな推進力となっているのは、同社の創業者にしてCEOのジル・ランゴリ氏だ。

中国最大手の開発会社Virtuos社のCEOが語る「新世代機のさらなる普及のために、日本のメーカーは失敗を恐れないでほしい」【TGS2015】_01

 ランゴリ氏は、もともとはユービーアイソフトに在籍し上海オフィスの設立を担当。2年間ユービーアイソフト上海のオフィスを切り盛りしたあとは、中国でのビジネスにチャンスを見出し、2004年にVirtuosを設立。2015年現在で、世界5拠点にスタッフ1100人を擁するという、一大開発スタジオに成長しているのだ。

 ファミ通.comでは、東京ゲームショウ2015に合わせて来日を果たした、ジル・ランゴリ氏にインタビューをする機会を得た。ファミ通.comでランゴリ氏に取材をするのは、ChinaJoy 2014に合わせてVirtuosを訪問したとき以来1年ぶり(→記事はこちら)。今回は、おもにその後のVirtuosの事業の進捗などを中心に聞いた。

――昨年の夏にお話をうかがったときから1年以上経ちますが、その後のVirtuosの事業展開はいかがですか?
ジル アップデートとしましては、昨年よりもさらに多くのタイトルに関わらせていただいています。とくに誇らしいのは、その中にKONAMIさんの『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』も含まれていることですね。同作ではアートの一部でお手伝いをさせていただいておりまして、世界的に高い評価を得ている作品に携わせていただいたのをうれしく思っています。プレイステーション4版の『ファイナルファンタジーX/X-2 HD リマスター』に関しても、Virtuosが関わっていることをようやくお話できますね。昨年お越しいただいたときは、プレイステーション3版とプレイステーション Vita版をVirtuosが手掛けていることをお話しさせていただきましたが、プレイステーション4版も担当させていただいているんです。

――プレイステーション4版『ファイナルファンタジーX/X-2 HD リマスター』は、昨年12月に中国で行われたソニー・コンピュータエンタテインメントのプレスカンファレンスで発表されましたね。
ジル プレイステーション4版『ファイナルファンタジーX/X-2 HD リマスター』は、発売時は“メタスコア”(海外レビューサイト)にて87点だったのですが、これは中国で開発したゲームとしてはかつてないくらいの高い数字です。さらに言えば、HD版でこの点数は、世界的に見ても最高峰レベルで、非常に誇らしく思っています。

――ゲームメーカーの上位20社中18社がVirtuosさんとお付き合いがあるとのことで、その勢いは継続しているようですね。
ジル お付き合いのないうちの1社は任天堂さんです。この記事を読んで、「Virtuosさんとお付き合いしなければならないな」と思っていただけると非常にうれしいです(笑)。今後、受注先とパブリッシャーなりデベロッパーのお付き合いは、ウイン・ウインのつながりを築いていくにはなくてはならない関係になっていくと思っています。いいゲームを作ることに関しては、よいテクノロジープロバイダー(テクノロジーのソリューションを提供する会社)と、とてもいいコンテンツを提供するパートナーが必要になるのですが、Virtuosとしては、コンテンツの側でお手伝いができる、いいパートナーだと自負しています。

――ゲームの開発規模が拡大しているこのご時世においては、Virtuosのようなノウハウを持った開発会社と組むのが不可欠になる?
ジル ゲームファンがゲームを遊ぶサイクルは、「新しいジェネレーションになったから作るのがたいへんなので、5年待ってください」というわけにはいきません。ファンがゲームを遊ぶサイクルはいっしょです。それなのに、ハードのマシンスペックが上がることによって、現在はより大きなコンテンツが求められているんです。同じスケジュールでハイクオリティーなものをどうやって作っていくのか……となると、それは無理がありますよね。

――たしかに。その無理を補ってくれるのが、Virtuosということですね?
ジル さらにVirtuosがユニークなところは、ミドルウェアに精通しているところですね。有名なゲームエンジンに通じているエンジニアが多いことはもちろんですが、それだけに留まらず各社独自のゲームエンジンにも詳しいスタッフがいて、パブリッシャーなりデベロッパーなりと、いっしょにゲームを作れるんです。

――よく各社が自社の独自エンジンのテクノロジーを提供してくれますね。
ジル 半分以上のプロジェクトで、専用エンジンを提供してもらっていますね。

――それだけの信頼関係があるんですね。
ジル 秘密保持に対して高い信頼性があるという点で、Virtuosは高い評価をいただいています。それが私たちが成功している要因でもあります。

――『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』で小島秀夫監督とお仕事をされたとのことですが、印象的なエピソードなどありましたら……。
ジル 個別の案件については、お客様の詳細に関してお話はしないことにしているのですが、ひとつだけ……。私たちが『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』のお手伝いをすることになったときに、小島監督に私たちのスタジオに来ていただいて、ちょっとしたミニレクチャーをしていただけることになったんですね。そのときに、100人しか入れない部屋に400人以上のスタッフが殺到しまして。会社の中にいいムーブメントを起こしてくださったんです。それだけはお伝えしておきたいです。

――昨年お話をうかがったときは、日本メーカーへの取り組みに関しては「まだまだ十分ではない」とのことでしたが、1年経ったいまはいかがですか?
ジル おかげさまで、新しいところともお仕事をさせていただいています。KONAMIさんはすでにお話していますが、スクウェア・エニックスさんとは良好な関係を築いていますし、『ファイナルファンタジーXIV』の開発でのお手伝いも継続しています。それに加えてソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアさんともようやくお仕事ができるようになりまして、先日発表されたばかりの『GRAVITY DAZE 2/重力的眩暈完結編:上層への帰還の果て、彼女の内宇宙に収斂した選択』のアートに若干関わらせていただいているんです。

――ああ、そうだったんですね。
ジル あとは、ユークスさんが開発を担当する『WWE 2K』シリーズにも一部関わっています。そのほかのメーカーさんに関しても、いまはお話しできませんが、やらせていただいています。

――それを言葉にすると、昨年は「まだまだ」でしたけど、今年は……?
ジル 難しいことをおっしゃいますね(笑)。まあ、端的に言葉で表現すると「だいぶうれしい感じになっています(笑)」。ただ、付け加えるとすると、新しい世代のコンソールが、日本でもうちょっと売れてほしいです。そうしないと、もっとすぐれたタイトルが日本から出てこない。新世代機への世代交代という意味では、日本は他国に比べると若干遅れています。この遅れさえなければ、もっと新しいタイトルが出てきて、もっと新しい展開が生まれて、もっといろいろなところとコラボレーションができるのに……。そこが悔やまれます。日本のコンソールやモバイルも含めて、海外に出ていくことを考えている開発会社であれば、私たちと組んでくれればきっとおもしろいことになるかなとは思っています。

中国最大手の開発会社Virtuos社のCEOが語る「新世代機のさらなる普及のために、日本のメーカーは失敗を恐れないでほしい」【TGS2015】_03

――いま日本では、スマートフォン向けコンテンツが強いですが、今後Virtuosさんが日本のメーカーに積極的にアプローチしたいと思ったら、それはスマートフォンアプリの領域に?
ジル いま、Virtuosがスマートフォンアプリに注力していることは間違いないですね。一例を挙げさせていただくと、Virtuosには7ラインありまして、そのうちの3ラインがコンソールで、4ラインがモバイルなんです。もちろん、個々の規模はコンソールのほうがぜんぜん大きいのですが、ライン数はモバイルのほうが多い。いかにVirtuosがモバイルに注力しているか、わかっていただけるのではないかと。

――日本のモバイルメーカーさんともお話を?
ジル まだ、具体的な話はないのですが、中国では、今度中国で2番めに大きいゲーム会社の網易(ネットイース)さんと組んで、近々大型タイトルをローンチする予定があります。

――それでは、今後取り組んでいきたいことを教えてください。東京ゲームショウでもVRも花盛りだったりするわけですが……。
ジル VRに関しては、クライアントさんからご要望があるので、現時点でも若干関わっています。ただし、これはあくまで個人的な意見ですが、VRが普及するには、もう少し時間がかかると思っています。VRは機器が出回ってこそなので、5年、10年というタームでどうなるのかな……という感じですね。

――なるほど。Virtuosさんが本気で取り組むには、まだ少し先ということですね?
ジル 当社の“今後の取り組み”ということではふたつ考えています。ひとつは、モバイル向けゲームの共同開発を、日本のゲームメーカーさんといっしょにやっていきたいということです。「モバイル市場でワールドワイドに展開していきたい」という日本のゲーム会社がいたら、いっしょにお仕事をすることによって、日本のすぐれたコンテンツをワールドワイドに上手に持っていけるのではないかと。それがひとつの目標です。

――やはり、モバイル領域は重点課題ですか。
ジル もうひとつは、社内体制に関することになるのですが、いま私たちはMCTというシステムを構築しようとしているところなんです。

――MCTですか?
ジル マルチサイクルチーム(MCT)ですね。お客様と戦略的に長いお付き合いをしていこうという発想から生まれたアイデアなのですが、毎年同じチームメンバーが同じタイトルに携わることによって、ゲームエンジンなりテクノロジーなり、コンテンツなりに関して、お客様と同じレベルのノウハウが蓄積されていく。それによってお手伝いできる領域が、もっともっと広がっていくのではないかと思っているんです。「1年目はここまでしかできなかったけれど、2年目はこのノウハウをもとに、もっと大きくしていきましょう」ということができる。お客様へのお手伝いをさらに拡大できるようなサイクルにしていけるチーム作りを心がけています。

――なるほど。それも継続して仕事ができるというクライアントとの信頼関係があってこそですね。そろそろインタビュー時間も終わりのようなので、最後に日本のゲーム会社に向けてエールなどをお願いできますでしょうか?
ジル 失敗を恐れずに、リスクを取ることにチャレンジしてほしいです。そのために私たちは存在します。中国であろうが、アメリカであろうが、ヨーロッパであろうが、どの地域でも高いリスクを取ることによって、プレイステーション4というプラットフォームで展開して現実化させてきました。日本もぜひそうあってほしいです。プレイステーション4はとても美しいプラットフォームです。そんなプレイステーション4をいっしょに盛り上げていける環境を、日本のゲームメーカーでも捉えてほしいです。

中国最大手の開発会社Virtuos社のCEOが語る「新世代機のさらなる普及のために、日本のメーカーは失敗を恐れないでほしい」【TGS2015】_02
▲ジル・ランゴリ氏(中央)を挟んで。Virtuos日本展開のキーパーソンとも言うべき、日本人クリエイターの橋口浩之氏(左)と中川亮氏(右)。

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