5年目に突入した『FFXIV』の現在と未来

『FFXIV』4周年記念・吉田直樹氏インタビュー 次期拡張パッケージの制作開始も宣言!_01
▲プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏(文中は吉田)。

 『FFXIV』は、2017年8月27日にサービス開始から4年を迎えた。ご存じの通り本作は、ふたつの拡張パッケージがリリースされて好評を博し、現在サービス開始以来最高の有効課金プレイヤー数を記録するなどの躍進を続けている。プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏は、そんな節目となる4周年を超え、5年目に突入した現在の『FFXIV』についてどう思い、今後どの方向に進もうと考えているのか……。いわゆる4.Xシリーズと呼ばれるアップデート計画の中身とともに、将来に向けての青写真をお聞きした。

 今回のインタビューは週刊ファミ通8月31日発売号で4ページに渡って掲載されたものだが、吉田氏はさまざまな分野について詳しく語ってくれたため、とてもスペースには収まりきらなかった。ここでは、割愛された部分も含めたインタビューの完全版をお届けしよう。なお本取材はパッチ4.06がリリースされる前(2017年8月2日)に行われたため、すでに発表済みの要素に少なからず言及している。あらかじめご了承願いたい。

あっという間に駆け抜けた“新生後”の4年

──間もなく『FFXIV』は新生して4周年を迎えますが、まずは現在のお気持ちからお聞かせください。

吉田直樹氏(以下、吉田) 新生してからもう4年かぁ……というのが正直なところです。『旧FFXIV』時代から数えると今年で7年目ですが……振り返ると「早かったなぁ」という感想しか出ないですね(笑)。今回の『紅蓮のリベレータ―』が事前の予想以上に好調だったので、(今後の)計画を上方修正しようと考えているところです。さらに、つぎの拡張パッケージ(の骨格を)僕が出さないといけないので、4周年を振り返るというよりも、どちらかといえば大急ぎで2年先を考えなければ……といった感じです(苦笑)。

──吉田さんは現在、本誌コラム“吉田の日々赤裸々。”で『紅蓮のリベレータ―』の企画を立ち上げたときのお話を書かれています。その中で、「パッチ3.1公開前にはすでに『紅蓮のリベレータ―』の作業に入っていた」とありますが、その流れでいうと、つぎの拡張パッケージのリリースに向けた話し合いを現在されているんでしょうか?

吉田 しています。

──いきなり重大発表が(笑)。

吉田 隠してもあまり意味なさそうですし……(笑)。

──どういう場所を旅するのかといった、ざっくりとしたところを話し合われているのですか?

吉田 そうですね……大よその流れは決まった、くらいですね。僕のほうはもう間もなく、オープニングムービーの字コンテ作業に取り掛かるところです。

──ということは、プロットもすでに存在するのですか?

吉田 まだプロットと呼べる段階ではないです。かなりざっくりとした流れだけ。というのも、当初僕が構想していた『FFXIV』全体のシナリオ案から、今回ずいぶんと変更を加えたからです。始めのころは『旧FFXIV』時代から抱えてきた数々のシナリオ要素を“クリアーしなければ“と思っていたのですが、『紅蓮のリベレータ―』の制作を通じて、それよりも“もっとおもしろいものを作る“という方向に切り替わった感じです。皆さんがまったく想像できない方向へ進めたらな……と思っていますが……あと2年お待ちください(笑)。

安定よりもピークを追求する方針に転換

──『紅蓮のリベレータ―』に関して、ここまでの手応えはいかがですか?

吉田 ビジネスサイドのお話をすると、『新生エオルゼア』の発売から4年が経っている作品にも関わらず、有効課金プレイヤー数が現在もっとも多い状況です。これは誇っていいことだろうなと素直に思っています。『蒼天のイシュガルド』は『FFXIV』初の拡張パッケージだったので、それまでMMORPGをプレイしたことがない方たちの期待感がすごく高まりました。

──確かにそうでした。

吉田 一方で今回の『紅蓮のリベレータ―』は、その”最初の拡張パッケージ”というファーストインパクトを経験したうえでのリリースになるので、どうしても皆さんの中で”慣れ”が存在します。今回は新種族の追加もないですし、新ジョブもふたつだけなので、運営という大きな流れの中でのいわゆる”安定期”に入ってくるだろうと思っていました。とかく日本ではピークアウトという単語はあまりよくない表現として使われることが多いですが……そもそも“ピーク”はいわば異常値なので、その後必ず安定期が訪れます。だからこそ、その”安定度のレベルをどこに設定するのか”が、今後の運営ポイントになるだろうと考えていたのです……。しかし実際にはピークアウトどころか、4年経って最高の盛り上がりとなったので、「え? え?」となったのが正直なところでして……。

──(笑)。

吉田 安定期に入っていたとしても、これまで通り全力での開発は続くわけですし、その流れこそが長期サービスの本来の姿です。ところが実際はそうならなかった。いままでの実績ですら、『旧FFXIV』を引き継いだときには想像もできなかったことなのに、それでも“もっと上を目指していいのかな?”と覚悟の方向を軌道修正することにしました。マーケティング、開発、PRの各部門の連携の成果が、目に見える形として出て来たのだと思います。とにかくうれしい予想外だったので、4.Xシリーズに向けて、もっと目標を高く設定して突っ走っても大丈夫だろう……というのがいまの感想です。これまで支えてくださった世界中の光の戦士たちとともに、また上を目指したいと思います。

──一方で反省点があるとすれば、どのあたりでしょう?

吉田 ディレクターの視点で開発サイドを見た場合、皆さんの目に見えにくい部分でミスがあったと感じています。僕自身も相当チェックを重ねたとはいえ、メディアツアーと並行しながら最終の修正反映バージョンを再確認するくらい過密な状況でしたので……。イテレーション(調査やテストの反復)のサイクルをもう1回行っていれば、もっとカンペキに近づけたはず。このあたりはセクションによってマチマチなのですが、もっと早く取り掛かれたはずのもの、逆に想定より遅れてこうなってしまったもの、思い込みや擦り合わせ不足によって生じたもの、開発慣れから来る油断など、致命的になるギリギリで回避したものも多かったので、かなりの綱渡りになってしまいました。つぎに向かってまた、反省点は多かったです。

──たとえば、どの部分がよりカンペキにできたとお思いですか?

吉田 うーん……リセのエピソードは、もっと磨き上げられたのではないかと、この点は少し悔いが残ります。総掛かりで手は入れたのですが、あと一手打ちたかったのが正直なところです。ただし、これはどんなゲーム開発にもつきものの発売後にやってくる後悔です。スタッフも僕も、いつもと同様に今回も全精力を出し切ったと思いますので、その点で不満があるわけではないです。とくに開発スタッフは僕の容赦のない修正依頼に、最後まで粘り続けてくれましたので、本当に感謝しています。

──今回はリセの性格付けをあえて抑え目にして、今後のアップデートで本領発揮になるのかなと思っていました。

吉田 『紅蓮のリベレータ―』でリセを描き切るために、パッチ3.4と3.5のシナリオを用意したつもりだったので、もう少しいきたかったなあ、と。

──リセに関しては、ラールガーズリーチで旅装からドレスに着替える際に“意外とシンプルな展開だな”と思ったくらいで、全体としては違和感を覚えませんでした。

吉田 そこにつながるまでの経緯を手前のストーリーで語ってはいるものの、ゲーム体験としてもう一段強く踏み込みたかったという感じです。僕も開発チームも貪欲なので(笑)。

『FFXIV』4周年記念・吉田直樹氏インタビュー 次期拡張パッケージの制作開始も宣言!_02
▲アラミゴ解放への決意の証として、冒険の途中でリセは祖国の民族衣装に着替えるのだ。

──ほかにはいかがですか?

吉田 数百万アクセス規模で事前にbotテスト(機械的に高負荷状態を作って試験すること)を行っていたのに、開幕から3時間でコンテンツファインダーサーバーがダウンしてしまいました。信じられないほどの高負荷が発生したのは事実ですが、それでもコンテンツファインダーサーバーのダウンだけは避けるつもりでいたので、痛恨のミスでした。その後のあらゆる計画が狂ってしまって、プレイヤーの皆さんにもたいへんご迷惑をおかけしましたが、我々にとってもめちゃくちゃ痛かったです。コンテンツファインダーが詰まったことで、あらゆるインスタンスコンテンツが使えなくなり、結果的に多くのプレイヤーがフィールドコンテンツであるF.A.T.E.に殺到。「せっかくなので新ジョブを遊ぼう」ということで侍と赤魔道士を育て始めた方々が、レベル50向けのF.A.T.E.が発生する北ザナラーンへと流入しました。その結果、「いきなり新ジョブを触る予定ではなかった」という方も新ジョブに触れ、そのままおもしろいからと赤魔道士と侍に流れてしまうことになりました。ここに一部タンクの方たちも含まれていたのが、後のマッチングに影響を及ぼすことになります。

──ラウバーンを起点とするイベントバトルのトラブルが発端だと思っていました。

吉田 いいえ、当時告知でも出していたのですが、トラブルはイベントバトルではなく、コンテンツファインダーサーバーでした。『FFXIV』はコンテンツファインダーサーバーによって生かされているという事実を、我々の中でも再認識する出来事でした。何よりも、イベントバトルが悪いという印象を皆さんに与えてしまったのが痛手です。僕たちは、大勢のプレイヤーがある程度の時間差をもってバトルに挑めるよう計算に基づいて設計しています。だからこそ、開始ポイントを初動ではなくあの位置(カストルム・オリエンスの南)に置いたわけです。ところがコンテンツファインダーサーバーがダウンし、ダンジョンにも行けず、死者の宮殿にも行けず、完全なる進行の“詰まり”が発生したことで、全プレイヤーの進捗が止まってしまいました。これにより、当初順次突破するはずだったプレイヤーのみなさんが、一気にラウバーンからバトル申請するため、さらにコンテンツファインダーサーバーの高負荷を招くこととなりました。

──トラブルが解消された後も、そこで詰まったプレイヤーが塊となってその後のイベントバトルに流れていったわけですよね。

吉田 エマージェンシー(緊急時の体制)で常時監視しながらインスタンスの数をリアルタイムでコントロールさせていただきました。とにかくコンテンツファインダーサーバーが再度ダウンすれば、事態はもっとひどいことになってしまうため、イベントバトルに同時突入できるプレイヤー数を細かく変えつつ一進一退といった感じでした。ただ、序盤のふたつのイベントバトルさえ抜けてしまえば、もう詰まることはほとんどなかったはずです。今後も、序盤のお話を盛り上げるために、インスタンスバトルは絶対に必要だと思っています。“ゲーム序盤にイベントバトルを配置したのが悪い”というフィードバックをたくさんいただきましたが、そういう印象を与えてしまったこと自体、今後に対してよくないことでしたので、今後はさらに慎重に取り組むつもりです。

──私の周囲では、確かにラウバーンのところで詰まった人も多かったのですが、その後のアジムステップでくり広げられる終節の合戦を体験したことで、最終的に“イベントバトルは今回もよかった”と満足した人が目立った印象です。

吉田 クエストインスタンスバトルはかなり開発のレベルが上がっていて、まるでスタンドアローンのRPGかのように、自然に動くよう作られています。だからこそ、序盤を盛り上げるために、クオリティーの高いイベントバトルが必要です。担当スタッフたちは何度もイテレーションを重ね、クオリティーを上げるために必死にがんばってきたことを僕は知っています。今回はコンテンツファインダーサーバーのトラブルにより、初期の段階でイベントバトルの評判を落としてしまったので、プレイヤーの皆さんに対してと同時に、担当者たちにも申し訳ないですね……。ただ全体としては、序盤のイベントバトルさえ抜けてしまえば、直近の問題を忘れてしまうほど楽しんでもらえたようなので、そこはホッとしています。

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▲アジムステップの覇権を巡って多くの部族が激戦をくり広げる、終節の合戦。『紅蓮のリベレータ―』を代表する名場面のひとつだ。

──じつは私もイベントバトルになかなか突入できなくてラウバーンにくり返し話かけましたが、もはやお祭りと言いますか、こういうのも含めてオンラインゲームなんじゃないかなあと。

吉田 うーん、ありがたい感想ですが、それに甘えるわけにはいかないです……(苦笑)。とんでもない混雑のせいで欧米側のワールドもパンクの連続でしたので、大型パッチや拡張パッケージリリース時は、海外スタッフとの連携をいま以上に緊密にしなければとも思っているところです。『蒼天のイシュガルド』の当時は負荷の管理がものすごくきれいに進んだこともあり、今回に油断があったことは否定できません。何があろうがなかろうが、緊急事態という意識をつねに持って状況を監視する必要がある……このことを痛感させられました。皆さんの見えないところで、事故寸前の大きなミスも連発したため、開幕から2週間くらいは、怒りまくりの毎日でした。お客様にお出しする情報をひとつ取っても、手落ちがすごく多かったので……。『蒼天のイシュガルド』であれだけうまくできたからこそ、僕も含めて油断や慢心があったのだと思います。いま、このあたりはすべてのワークフローを変え、担当者が変わってもリスクにならないようすべて書面化し、新たに緊急用の連絡パイプラインも構築し直しました。2ヵ月経って、ようやく少し落ち着いた感じです。

──有効課金プレイヤー数が過去最大というのは、新規プレイヤーが増えたのでしょうか? それとも『紅蓮のリベレーター』で復帰した人が多かったのでしょうか?

吉田 どちらもです。日本のファンフェンスティバルが終わったあたりから、全リージョンでいままでに見たことのない勢いで復帰が始まりました。とくに北米は見たことのない数字でした。欧州も、2016年10月の新規データセンターのオープン以降、つねに右肩上がりでプレイヤー数が伸びています。『紅蓮のリベレータ―』のリリースに際して、ワールドをひとつ追加することで間に合うかな、という計算だったのですが、結果的にはぜんぜん足りませんでしたね……。予備で用意しておいたふたつ目のワールドに助けられました。

──ヨーロッパはそんなに増えたんですか。

吉田 ヨーロッパは、ドイツ・フランクフルトでのファンフェスティバルが閉幕して以降、新規プレイヤーと復帰者の増加曲線が目に見えて急角度になりました。とくにデータセンターが北米と共用だった時代に、通信の遅延が理由でゲームをお休みした方が、続々と戻られてきています。欧州データセンターがオープンして快適に遊べるようになったことで、そうした復帰者の方々が定着して遊んでくれるているところが大きいです。

──一方で、国内についてはいかがですか?

吉田 日本はやはり日本のファンフェス直後から、一気に温度感が上がりました。また、赤魔道士と侍というわかりやすい新ジョブが入るところも目を引いた点だと思います。復帰される方が一気に増え始めました。また新規の方については、『紅蓮のリベレータ―』のPRを新規の方向けに舵を切ったことに加え、(テレビドラマ『FFXIV 光のお父さん』を代表とする)メディアミックスがうまくハマった点も大きかったと思います。海外と同様に日本でも復帰者がかなり多いですが、それ以上に新規の方が増えています。今回は日米欧ともに、復帰を呼び掛けるよりも、新規の方を多く迎え入れるほうにPRの方向性を置いたので、その効果も非常に手応えを感じました。

──確かに最近、若葉の形をしたビギナーアイコンをつけているプレイヤーを多く見かけますが、そうした人たちはストーリーショットカットアイテムやジョブレベルブーストアイテムを使っているのでしょうか?

吉田 そういう方は少ないです。若葉マークは、総プレイ時間が一定を超えるか、パッチ3.56のメインクエスト“宿命の果て”をクリアーしない限り消えないので、たくさん見かけるのではないかなと。おそらく、新規の方がものすごい勢いで遊んでいる様子を見て“冒険録を使ったのでは”と感じたのではないでしょうか。若葉マークがついているあいだはコンテンツファインダーのマッチングが優先されるので、レベル上げなどがスムーズに行えるのも理由のひとつでしょう。

“14時間生放送”に出演したTERUさんとの出会い

──先日、『光のお父さん』の主題歌を歌う人気ロックバンドGLAYのTERUさんが、吉田さんと会食したとツイッターに投稿されていました。差し支えなければ、どのようなお話をされたのかお聞かせください。

吉田 『光のお父さん』のBlu-ray BOXの特典に、監督を務められた野口さん(野口照夫氏。現実パート監督)と山本さん(山本清史氏。エオルゼアパート監督)と僕の3人で、ドラマの全7話を観ながら語らうコメンタリー動画が入ります。それを収録した当日に、現場の近くでマイディーさんとTERUさんの対談がたまたま行われていまして。マイディーさんと僕は何度かお会いしているし、おふた方とも(『光のお父さん』制作の発起人である)ぴぃさんが絡んでいるので、ぴぃさん経由で「せっかくなのでお食事しませんか?」と声をお掛けしました。

──すると先方は何と?

吉田 ぜひぜひという感じだったので、そのまま中華料理店で「初めまして」とご挨拶させていただきました。

──TERUさんが声優として『FFXIV』に出演されたり、あるいは蛮神討滅戦のBGMを手掛けられたりする可能性はありますか?

吉田 何も考えていないです。そのあたり、『FFXIV』はあまり商売が上手ではないなと思いますが……(苦笑)