“一家に一台プレイステーション”を目指して

 E3 2017の開催を翌週に控えた2017年6月7日に、ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアの盛田厚プレジデントのインタビューが実現。盛田氏に、日本を中心としたプレイステーションビジネスの今後の展望について語ってもらった。(インタビュアー:週刊ファミ通編集長 林克彦)

SIEJA盛田厚プレジデントが語る、プレイステーションの今後の戦略_01
ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア
プレジデント
盛田 厚氏(文中は盛田)

―― まずは、プレイステーションビジネスの今後の方針についてお聞かせください。

盛田 2016年はワールドワイドで非常にいい状況になっておりまして、それは日本もアジアも例外ではありません。我々がやりたいと思っている3つのステップがあるのですが、ひとつ目は、“タイトルが揃っていない”と言われていたことですが、それは2016年のうちに解消できたと思っています。日本向けのタイトルを揃えて、プレイステーション4も、プレイステーション4 Proなどバラエティーに富んだモデルを用意し、価格もお買い求めやすくしました。

―― 確かに、2016年はタイトルが揃いましたね。

盛田 2016年は10万本以上のタイトルが50本近くありましたが、昨年(2015年)比でいうと、ほぼ倍くらい。ようやくソフトが売れるという状況になってきました。これを、プレイステーション2並みに持っていくというのが、我々が考えるセカンドステップです。

―― 具体的な取り組みは?

盛田 直近でいいますと、 “Days of Play”というキャンペーンを本日(2017年6月7日)発表しました。SIEが設立して約1年が経ちますが(編集部注:2016年4月1日に設立)、初めてグローバルで統一した名前を使ったキャンペーンなんです。

―― そうなんですね。

盛田 いままでですと、たとえば日本ではお年玉とか入学前、アメリカではブラックフライデーといったように、各地の慣習に合わせたキャンペーンを実施してきたのですが、いまはインターネットで情報が拾える時代ですから。グローバルで統一のキャンペーンをやってみたら、どれくらい盛り上げられるだろうかということで、E3のタイミングに合わせて、プレイステーションとして期間限定(2017年6月9日(金)~2017年6月18日(日)まで)のキャンペーンをグローバルでやってみるというのが、今回のトライアルです。中身は国ごとに異なるのですが、ひとつの大きなうねりを作ってみたいと思っています。

―― いままではリージョンごとの施策でしたよね。

盛田 これまではそうでしたが、SIEになって、グローバルでの効率化や、我々の強みをいかに発揮できるかというのをずっと議論していきた中で、今回のトライアルが実現しました。

―― 既存のファンの満足度も高いですけど、PS4を買ったばかりの人や、まだそんなにソフトを持っていない人にもいいキャンペーンだという印象を受けました。

盛田 まさにおっしゃっていただいた通りで、PS Storeで日本のファンが好きだと思われる50タイトルを集めてスペシャルディスカウントを実施するのに加えて、店頭では、プレイステーション4本体とDUALSHOCK 4をいっしょにお買い求めいただくと、DUALSHOCK 4が半額になります。いっしょに遊んでいただきたいというのもあって、こういったキャンペーンを企画しました。

―― 日本の市場に関していうと、究極的には“一家に一台プレイステーション”という、プレイステーション2のころのような盛り上がりをプレイステーション4で実現するということだと思いますが、短期間で見ると、(2017年)4月~5月は、(2017年)2月~3月に比べてタイトルが減りましたよね。その期間のプレイステーション4の販売台数や、それにまつわる盛り上がりについては、どのようにご覧になられていましたか?

盛田 我々のビジネスは、ハードウェアだけでは成り立ちません。どんなタイトルが発売されるかによってハードの販売台数も左右されまので、そういう意味では、タイトルが出る月と出ない月では、セルスルーの数字が変わってくるという前提で考えています。ただ、昔は年末商戦が勝負で、そこに向けて勝負をかけていましたが、いまはインターネットの普及もあって、それなりに平均化されてきました。そういう意味でいくと、比較的タイトルが発売されない時期でも、盛り上がりが作れるのではないかと。そういうことも考えて、“Days of Play”のような施策を考えました。

―― 確かに、年度末のタイトルの余熱が保たれている中で、こういった施策があるのはいいですね。

盛田 日本でソフトが売れる状況になってきたというのもありますが、日本のタイトルが海外でも売れるような環境になってきたのも大きいですね。『ペルソナ5』や『NieR:Automata( ニーア オートマタ)』、『仁王』といった日本のタイトルが海外で受け入れられて、しっかりと売れているというのは、我々にとってもうれしいです。

―― それはうれしいですよね。そしてもうひとつ、プレイステーション VRの国内での販売取扱店舗の大幅拡大が発表されました。いよいよプレイステーション VRが潤沢に揃う準備が整ったと思うのですが、これまで買えなかった人が購入できて、プレイステーション VRを新しく体験する人が増えることに対する期待についてお聞かせください。

盛田 昨年(2016年)プレイステーション VRを発売するタイミングで、VR熱が非常に高まっており、VR全体が盛り上がっていました。そんななかで「買ってみようか」と思われた方が多かったと思うのですが、我々としては、まずは体験していただき、納得したら買っていただき、買っていただいたら楽しんでいただくということを地道に取り組んできました。しかし、我々が当初思った以上に需要があり、足りない状況になってしまったのは申し訳ないと思っておりますが、ようやく生産体制を増強し、徐々にではありますが供給不足も解消していくと思います。とはいえ、体験してから買っていただくということは変えずに続けていきたいと考えていますので、取扱店舗数や体験できる場所を増やして、多くの方に体験していただきたいと思っています。

―― ちょうどこのタイミングで、バンダイナムコエンターテインメントさんの『サマーレッスン:アリソン・スノウ七日間の庭』や、御社からも『Farpoint』、『Starblood Arena』など、注目タイトルが揃いますよね。これらの注目タイトルが揃うタイミングに合わせて供給も整えようという計画だったのでしょうか?

盛田 タイトルの編成はもちろん議論していましたが、生産の増強はできるだけ速くやらないといけないと考えておりましたので、その両方がうまく重なったのが今回のタイミングでした。

―― なるほど。(2017年)6月のタイミングでプレイステーション VRの取扱店舗が大幅に増え、それにともない供給も増えると思うのですが、今後もこの体制が続くと考えてよろしいでしょうか?

盛田 需要の問題なので、お客様の需要を確実に読むというのは難しいのですが、我々の中では、今回の生産の増強により、出荷した途端になくなってしまうという問題は徐々に解消できると考えて計画しております。

―― わかりました。あと、国内の市場でいくと、いよいよ来月(2017年7月)には『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』が発売されます。改めて、『ドラゴンクエストXI』への期待をお聞かせください。

盛田 日本のユーザーが望んでいるタイトルをいかに供給できるかというのを目指していく中で、『ドラゴンクエスト』はもっとも重要なタイトルのひとつですし、誰でも名前は知っていますよね。ゲームファンならシリーズ作品のどれかは遊んでいるのではないかと思います。そんなタイトルのナンバリング作品が久しぶりに発売されますので、個人的な期待も大きいですが(笑)、ハードをけん引してくれるという意味でも期待しています。それもあって、今回は『ドラゴンクエストXI』限定モデルのプレイステーション4を用意させていただきました。海外ではゴールド、シルバーモデルのプレイステーション4を発表しましたが、日本では『ドラゴンクエストXI』を重視しておりますので、日本においては、こちらの限定モデルを選択しました。それくらい大きなタイトルです。

―― ゴールドとシルバーのプレイステーション4ですが、今後日本で発売される可能性は?

盛田 いろいろな可能性があると思いますので、今後も検討はしていきたいと思います。ただ、日本は『ドラゴンクエストXI』限定モデルがありますので、いまはこちらですね。

―― なるほど。プレイステーションとしての『ドラゴンクエストXI』の宣伝施策は?

盛田 我々のプロモーションチームがいろいろな施策を考えておりますので、力を入れてプロモートしたいと思います。

―― ちなみに、『ドラゴンクエストXI』はニンテンドー3DS版も発売されますが、こちらについてはどのように考えておりますか?

盛田 『ドラゴンクエスト』というIP(知的財産)がいかに露出され、拡大していくかというのは、我々にとっても非常に重要なことですので、各プラットフォームが『ドラゴンクエスト』をプロモーションし、『ドラゴンクエスト』が盛り上がっていくのは大事なことだと思います。我々としては、プレイステーション4で楽しむ『ドラゴンクエストXI』の高画質の体験がどれだけすばらしいかを、いかに訴求し、理解していただけるかに注力します。

―― 『ドラゴンクエストXI』に限った話ではありませんが、プレイステーション4だからこそ実現できる高画質なグラフィックやオンライン体験などの魅力を伝えることが、先ほどのセカンドステップにもつながっていきますよね。

盛田 まさにその通りです。我々がセカンドステップを目指すには、いろいろなタイトルが発売されることも重要ですが、ソニーのテクノロジーだからこそできる体験や、ソニーグループだからこそできるコンテンツの体験というのを提供していきたいです。プレイステーション VRの中では、『傷物語』ですとか、昨年(2016年)に実現したL'Arc~en~CielのプロモーションビデオのVRバージョンなど、ソニーグループ全体で盛り上げてやっていきたいと考えています。トータルのエンタテインメントの力による、プレイステーションの楽しさを訴求していきたい。それができれば、ゲームの楽しさに加えて、すべてのエンタテインメントはプレイステーションで楽しめる、まさに“一家に一台プレイステーション”につながっていきますので。

―― プレイステーション2のころに、ゲームもできてDVDも見られるというのが爆発的ヒットにつながったと思うのですが、それと同じ感じですよね。

盛田 そうですね。そのようになればと考えております。

―― ちなみにいまはE3 2017直前の時期で、これからプレイステーションフォーマットのタイトルが多数発表されると思いますが、その先を見ると、日本では例年通りですと9月に“PlayStation Press Conference”があり、さらに東京ゲームショウ 2017が控えています。下期に向けての取り組みについてもお聞かせください。

盛田 我々が狙っていたゲームファンの方にはプレイステーション4をお買い求めいただき、タイトルもそれなりに発表し、発売できたと考えております。最初のステップは完了したと思いますが、つぎのステップに向かう、“ゲームファンの層を広げる”という活動は続けていきたいです。また、昨年(2016年)は“PlayStation祭”を通じて、プレイする楽しさ、観る楽しさというのを訴求しましたが、今年(2017年)も東京ゲームショウの後に全国主要都市を回って、みんなでゲームを遊ぶ楽しさをプロモートしていきたいと思います。

―― e-Sportsへの取り組みも積極的に行っていきますか?

盛田 はい。我々が行っているPlayStation祭は、e-Sportsにつながるものだと思っています。たとえば東京ゲームショウのタイミングで各地域の代表者が集まる全国大会を実施するなど、PlayStation祭というものを、誰でも参加できて、さらに全国の参加者が目標にできるような大会にしていきたいですね。

―― 大学対抗戦もそうですが、なるべく間口を大きくして、より多くのユーザーに参加してもらえるような取り組みをしていきたい、と。

盛田 そこは真剣に取り組みたいです。いろいろな地域で大会が開催されるようになり、それをまとめる形でPlayStation祭を開催できるようになればいいですね。

―― わかりました。最後に、プレイステーションおよびプレイステーションフォーマットを広げるために、盛田さんが重点を置いているキーワードをお聞かせください。

盛田 ふたつあって、ひとつはゲームファンの拡大なので、端的にいうと“すべてのゲームはプレイステーションに集まる”ですね。つぎは、“すべてのエンタテインメントはプレイステーションに集まる”。ゲームを遊ぶ人はもちろん、ゲームで遊ばない人も、たとえばYouTubeやビデオサービスを楽しむといったように、すべての人がプレイステーションで楽しめる状態を作っていきたいと思います。私は、ゲームがエンタテインメントのいちばんの進化系だと思っているので、すべての人をゲームにつなげるための“みんなのプレイステーション活動”だと思っています。すべてのエンタテインメントが集まったその先にはゲームがあり、家族みんながゲームで楽しめる。そこを目指していきたいです。