2017年4月14日、カドカワ株式会社 浜村弘一ファミ通グループ代表(以下、浜村代表)による講演“ゲーム産業の現状と展望<2017年春季>”が実施された。

 本講演は、毎年春・秋の二度にわたって、業界アナリスト及びマスコミ関係者を対象に行われているもの。今回は、“熱狂人口の最大化 ~目指すのは関心のマネタイズ~”と題して、最新のゲーム業界トピックスを分析しつつ、ハードウェア普及台数やオンラインサービスの登録ID数だけにとらわれないゲーム産業の拡大について語られた。

“熱狂人口”の拡大によって実現するゲームマーケットの最大化とは? カドカワ 浜村弘一取締役の講演“ゲーム産業の現状と展望<2017年春季>”リポート_01
“熱狂人口”の拡大によって実現するゲームマーケットの最大化とは? カドカワ 浜村弘一取締役の講演“ゲーム産業の現状と展望<2017年春季>”リポート_02

Nintendo Switchのスタートダッシュが成功した理由

 2017年3月3日に発売され、3月末までの累計販売台数が52万4371台となったNintendo Switch。海外のゲームショップGameStopでの先行予約が120万台を突破し、発売後も国内外で売り切れが続出している任天堂の最新据え置き型ゲーム機だが、浜村代表は、好調なローンチ状況について、セールスに当たって任天堂が実施した施策からその理由を分析した。

 B to B向けに効果的だったと思われる施策としては、(1)UnityやUnreal Engineなど、各種ゲームエンジンに早くから対応したこと、(2)Nintendo Developer Portalなどの立ち上げなどでインディーゲームに門戸を開いたことをピックアップ。課題であった任天堂以外のソフトラインアップの拡充につながったと分析。

 一方のB to C向けの施策としては、(1)1年間のソフトラインアップについて発売時期を含めて明示したこと、(2)初めての体験をともなう、新機能を搭載したこと、(3)2017年1月13日のプレゼンでは、開発責任者の高橋伸也氏と小泉歓晃氏が登壇するなど、プロモーションにおいて世代交代が印象付けられたことや、わかりやすいメッセージが提示されたことなどを挙げた。加えて、プロモーションではSNSでの拡散を意識しつつ、安心して本体を購入できる環境を整えられたことをスタートダッシュの成功理由とした。

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 2017年4月13日配信のニンテンドーダイレクトでは、キラータイトルと目される『スプラトゥーン2』の発売が2017年7月21日であることが発表され、そのほかのタイトルラインアップも見えてきたNintendo Switchだが、浜村代表によると、その真価が発揮されるのは、2017年秋に予定されているオンラインサービス開始以降とのこと。サービス内容や機能についてはすでに概要が公開されているが、料金体系などについては、今後の発表を待ちたいところだ。

 なお、セミナー終了後の質疑応答では、質問者からNintendo Switch普及の展望について私見を求められた浜村代表は、「Nintendo Switchは据え置き型ゲーム機でありながら、携帯ゲーム機の良いとこ取りをしたハード。一家に1台ではなく、一人1台になるかもしれない」とし、このまま好調が続けば、「前世代で据え置きハード市場の上限となった1000万台を超えるポテンシャルを秘めている」という考えを明らかにした。Nintendo Switchが携帯ゲーム機的な消費のされかたをするのか否かは今後発売されるソフトの性質に依存するところが大きいと思われるが、少なくとも機能面ではそうした未来像を描けるハードと言えるだろう。

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スマホゲームアプリのトピックス

 続いては、スマホゲームアプリ市場の動向についての分析。2015年度と2016年度の接触時間ポイントの順位を比較すると、『ポケモンGO』が上位に姿を見せた以外は、『LINE:ディズニーツムツム』、『パズル&ドラゴンズ』、『モンスターストライク』が相変わらずの強さを維持している。直近のトピックスとしては、『Fate/Grand Order』や『遊戯王 デュエルリンクス』といった、アニメ・マンガIPを題材としたタイトルの健闘がますます目立つようになってきたという。また、ユーザー向けのキャンペーンとしては、ボーナスくじ付きの“モンストカウントダウン’16-‘17キャンペーン”や1000万円のカタログキャンペーンや海外旅行などが当たる“「グランブルーファンタジー」3周年大感謝祭”など、直接的に現金や豪華賞品をプレゼントするものが多くなり、実際にタイトルの売り上げ回復にも絶大な効果を発揮。マーケティング手法に変化が見られたことが語られた。

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▲サイゲームスの『Shadowverse(シャドウバース)』など、人気タイトルのゲーミング大会が大々的に行われるなど、スマホゲームのeスポーツ化が進んだことも2016年のトピックスといえるだろう。

 2016年の12月15日にiOS版の配信がスタートした『スーパーマリオ ラン』は、2017年1月31日に行われた任天堂の決算発表によるとダウンロード数が7800万、課金率は5%以上とのこと。同じくiOS・Android向けに2017年2月2日に配信が開始された『ファイアーエムブレム ヒーローズ』もセールスランキングの上位をキープする好調ぶりだ。任天堂IPスマホゲームの展開について浜村代表は、据置型ゲーム機と携帯ゲーム機によって構成されていた従来の任天堂ゲーム市場を拡大させる効果があると予想。『ポケモンGO』の爆発的ヒットが『ポケットモンスター サン・ムーン』のセールスにつながったように、任天堂IPスマホゲームのヒットが今後はNintendo Switchなど、家庭用ゲーム機のソフトIPセールスにも繋がっていく相互送客をもたらすであろうことを解説した。

PS4とXboxのトピックス

 2016年度のプレイステーション4は、本体の価格改定と新型機の登場で2015年度の実績を大幅に更新。平時・ピーク時ともに前年実績を上回る推移をみせた。とくに『ファイナルファンタジーXV』の発売時には、週販10万台を突破する過去最高を記録。普及のペースは、プレイステーション3を上回る成長軌道となっている。2017年7月29日には『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』の発売が控えており、さらに販売台数を伸ばすことは間違いなさそうだ。浜村代表は、「国内のゲーム市場規模は2007年のピーク以降、約10年にわたって減少を続けてきたが、2016年度にようやく下げ止まった」と解説。

 ただし、国内の家庭用ゲーム機市場はピーク時の半分ほどになっており、また、海外のゲーム機市場に目を移すと、北米・欧州でPS4とXboxともに、前年比のほぼ横ばいか、微減。全体のトレンドとしては、ピークアウトの時期に入っているとした。

 ホットなトピックスとしては、PS4 Proの発売と、Xbox Scorpioのスペック発表があるが、浜村代表の話の中で印象的だったのは、両プラットフォームが提示しているゲームソフト開発のポリシーについてだ。PS4 Proを展開するソニー・インタラクティブエンタテインメントは、基本的には標準的な普及モデルであるPS4準拠でゲーム制作を行うとしているが、一方のマイクロソフトは、Xbox One準拠にするとはしていない。Xbox Scorpioは、発表されているスペックをもとにプロモーションを展開されることが予想されるが、PS4 Proとは異なるアプローチとなるので動向に注目が集まる。

VR・ARの動向について

 浜村代表は、“VR元年”といわれた2016年に続く、2017年のVRの動向をどのように見ているのか? 今回のセミナーでは、“過剰な期待を越えて、着実な成長と普及へ”というサブタイトルで、直近の動向について語られた。とくに印象的だったのは、VR機器は今後着実に普及していくが、今後はVRコンテンツ市場の急成長が期待できるという点と、VR機器が一般家庭に広く普及する前段階として、アミューズメント施設向けのVR施設が増えつつあるという点だ。

 ファミ通調べで、PS VRは、2017年3月26日時点で10.2万台を販売しているが、市場ではまだまだ品薄状態が続いている。そんなPS VRを使用したアミューズメント施設向けのVRマシンとして注目を集めているのが、2017年夏に発売予定の“VR センス”だ。コーエーテクモウェーブが開発中のVR センスだが、映像のほか、ゲームの動きに合わせたシート可動や香り、風を出す多角的な機能でVR体験ができる筐体になることが発表されている。また、海外ではクラウドファンディング支援で着弾や打撃を体験できるVR向けの着衣ベスト“Hardlight”の開発が進んでいたり、リアル脱出ゲームとVR技術を融合させたアトラクションが登場予定だ。

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▲Kickstarterの紹介ページに掲載されているHardlightの画像。

 累計販売台数がすでに500万台を突破したSamsungの“Gear VR”を始め、モバイルVR向けの普及は急ピッチで進んでいるが、家庭用のミドルクラス~ハイエンドなVRマシンの普及はまだまだこれから。モバイル向けVRのほか、身近なアミューズメント施設で、気軽にハイエンドなVRコンテンツを体験する機会が増えることが、今後の普及のカギとなりそうだ。

浜村代表が語るゲームの“熱狂人口”とは?

 今回のセミナーの最後に浜村代表がもっとも大きなテーマとして語ったのは、ゲーム産業における“熱狂人口の最大化”についてだ。“熱狂人口”とは、ハードやソフトの販売数といった既存のゲーム産業の指標を内包しつつ、そこに副次的な“ゲームIPの盛り上がり”を加えたマーケット概念となる。

 たとえば、世界的な盛り上がりをみせるeスポーツだが、「eスポーツグローバルマーケットレポート2016」(カドカワ/SuperData Research)の推計によると、2016年の市場規模は、全世界で8.92億ドルに達する見込みだという。世界的な動向と合わせて日本国内でも賞金制のeスポーツ大会が増えているが、こうした新たな動きは既存のゲーム市場だけを追っていても見えてこない。ちなみに、eスポーツの展開には、スター選手やスポンサー企業だけでなく、“その種目の熱狂的なファンではあるが、熟達したプレイヤーではない”という層までが、産業に関わってくる点にも注目すべきだろう。

 こうした動きはeスポーツのみに起こっているわけではない。たとえば任天堂は、スマートフォン用ゲームを展開することで従来の任天堂ファン以外にもIPを拡大。さらにamiiboを始めとするゲーム連動グッズやUSJのアトラクション展開を通じ、非ゲームファンを巻き込もうとしている。そのほかのゲームプラットフォームでも状況は同じで、eスポーツやコラボカフェ、コラボ脱出ゲームなどを幅広く実施。前述のeスポーツで例に挙げたような、非プレイヤー層を含む“熱狂人口”の開拓に積極的だ。

 浜村代表は、こうした傾向をゲーム産業におけるマーケットの考えかたの変化であると指摘。既存の枠にとらわれないアプローチを行うことで熱狂人口が拡大し、ゲーム産業の最大化につながっていく将来像を語り、今回の講演を締めくくった。


 メーカー各社がゲームのプロモーションとして、コラボカフェ企画を実施したり、他ジャンルIPや行政と組んだ施策を行うことは、ここ10年ほどのあいだにすっかり定着し、珍しいことではなくなった。加えて、現在ではゲームのeスポーツ化やゲーム実況、SNSなどを通じたコミュニティの形成などが積極的に進められている。こうした施策は、“濃いプレイヤー向け”と考えがちだが、じつはそのプレイヤーの周辺にいる非ゲームユーザーを自然と巻き込むことが多い。ネットを通じた情報拡散が当たり前の現在では、その傾向はますます強くなっていると言える。我々メディアがゲーム産業を正確に見渡す上では、そうした“熱狂人口”を意識する視点の重要性がさらに高まりそうだ。