『ネオアトラス 1469』発売記念! シリーズ生みの親・山口洋一氏インタビュー_01

16年ぶりの最新作に懸ける思いとは

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 スタジオアートディンクより本日(2016年10月27日)発売された、プレイステーション Vita用ソフト『ネオアトラス 1469』。本作は、いまだ世界の全貌を把握している者など誰ひとりとしていない大航海時代を舞台に、自分だけの世界地図を作り上げるシミュレーションゲームだ。
 2000年にプレイステーション2で発売された『ネオアトラスIII』以来、じつに16年ぶりのシリーズ最新作となる本作。今回は、発売を記念してディレクターの山口洋一氏へのインタビューを実施。“アトラス”シリーズの生みの親であり、最新作も手掛けている氏にたっぷりと語ってもらった。

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▲山口洋一氏
『ネオアトラス 1469』ディレクター。1991年にPCで発売されたシリーズ第1作『THE ATLAS』から開発を手掛ける、シリーズの生みの親。

『ネオアトラス 1469』オープニングムービー

――じつに16年ぶりのシリーズ新作となる『ネオアトラス 1469』ですが、開発をスタートしたきっかけは何だったのでしょう?

山口洋一氏(以下、山口) 16年のあいだ何もなかったわけではなく、何度か動きはあったのですが、これまでタイミングがうまく合わなかったんですね。『ネオアトラス』シリーズを作ってきたオリジナルのメンバーたちとも、「新作を作りたいね」といった話はしていました。ですが、私もほかのゲームの開発を抱えていたりもしましたので、なかなかまとまった時間が取れなかったんです。そういった状況だったのですが、たまたま去年(2015年)、「あ、いまならいけるな」というタイミングが訪れました。それと、前作からだいぶ時間が空いているので「そろそろ出さないと」という思いもありました(笑)。

――なるほど(笑)。

山口 プロデューサーの清道(孝行氏)とも「もう出さないとね」とは話していたんです。そういう、いろいろなタイミングが合ってきたので、社内でもコンセンサスを取って「よし、出そう」となったわけです。

――開発チームのメンバーには、山口さん以外にもシリーズを手掛けてこられた方がいらっしゃるんですね。

山口 はい。今回は、そういった面でもタイミングがよくて。オリジナルのスピリットをわかっているメンバーがうまく集まって、作ることができました。「アトラスシリーズとは何か」ということを考えたとき、プレイしてわかる部分と、作ってみてわかる部分とがあるわけですが、それらを説明せずとも理解しているメンバーが揃っているのは、とても助かりましたね。

――対応ハードは当初からPS Vitaに決めていたんですか?

山口 ええ。私としては、今回はタッチパネルに特化させたかったんです。ですので、PS Vitaが最適であろうと考えました。携帯ゲーム機の“どこでも遊べる”という部分も、このゲームに向いていますからね。空いた時間に船を出して、待ち時間にほかのことをしていたりもできますし。タブレット端末にも興味はあって、実際いままでもお話をいただいたりしていたのですが、やはりまずはゲーム機で、と思いまして。

――実際に遊ばせていただいて感じたのですが、タッチパネルでの操作は、まさに『ネオアトラス』のためにあると思えるほど快適でした。ただ、作る側としては、従来とは異なる作りかたが必要になるわけですよね。苦労も多かったのでは?

山口 はい、タッチパネルに特化させるというのは初めての試みですから、それはやはり苦労がありました。タッチパネルで快適に操作できるUI(ユーザーインターフェース)を作り上げるのに、かなり試行錯誤しました。あとはやはり、処理速度の最適化が難題でしたね。今回はUnityという開発環境で制作したのですが、Unityで制作すると動作が重くなりやすいんです。快適に遊べるようになるまでパフォーマンスを引き上げるには、いろいろな工夫が必要でした。たとえばマップの操作ひとつをとっても、マップのフルデータをそのまま動かしていたのでは、とても動作が遅くなってしまいます。ですので、マップをドラッグして動かしている最中はなるべく再計算をせず、離した瞬間にフラクタルの再計算を行って海岸線をきれいに見せたり。また、快適なプレイを実現するためには最適化を行って動作を軽くするわけですが、すべてを軽くするというのは現実的に難しい。そこで、どうしてもという場面ではレスポンスを優先しつつも、グラフィックなど見た目も一定の水準を保つようにする、という調整を行ったのですが、これも非常に苦労した部分ですね。

『ネオアトラス 1469』プレイ紹介ムービー

――今回は『ネオアトラスII』をベースに追加・改良を施した作品とのことですが、具体的にはどんな部分が変わっているのでしょうか?

山口 まず、『ネオアトラスII』では世界の形が“球状の世界”か、“平らで端が滝になっている世界”の2種しかなかったんです。その前の作品では4種あったのですが、『II』で減っていたんですね。それを今回は、4種に戻しました。球状の世界か、平らで端が滝になっている世界かに加えて、それぞれにレアな世界観が加わる分岐があります。球状の世界ならば巨人が世界を支えている、平らな世界ではゾウ・カメ・ヘビが支えているといった具合です。もちろん、こうした分岐に関係するエピソードクエストも追加されています。それ以外にも追加のエピソードクエストはありますし、既存のものも、ほとんどを加筆修正しています。登場するキャラクターは同じですが、それぞれをより掘り下げる演出を加えていたり、シナリオを書き直したり。『ネオアトラスII』では淡泊に描かれていた部分も、かなり物語がわかりやすくなっています。

清道孝行氏 あとは、チュートリアルなどを見ると、初心者も入りやすいように、かなり意識して作っているなという感じはありますね。

――あ、それは私も感じました。ゲームでやれることを序盤に遊びながら覚えていくことになるのですが、説明が丁寧で、迷うことなくゲームの世界に入っていけました。

山口 そこも、かなり意識したポイントですね。やはり昔のゲームをそのまま出してしまうと、遊びづらく感じてしまうのではないかと思うんです。それは、初心者の方だけではなくて、昔『ネオアトラス』シリーズで遊んでいた方でも。「昔はおもしろかったんだけどなぁ」となってしまう。そういう風にはしたくなかったんですね。昔おもしろかったゲームは、脳内補完されて現在でもいいイメージで覚えていると思うのですが、その補完されたイメージを上回るような作品にするよう心がけていました。

――なるほど。あと、シリーズを遊んだことのない人に知ってもらいたいのは、『ネオアトラス』シリーズって、システムだけを聞くとストイックなシミュレーションのように思いがちですが、実際はそんなことないですよね。セリフ回しやアイテムの名称なんか、わりとコミカルなものが多かったりしますし。ああいったコミカルな部分は、山口さんの好みだったりするのですか?

山口 ええ(笑)。ごちゃごちゃした感じといいますか、おもちゃ箱をひっくり返したような感じの、なんでもアリなゲームにしたかったんです。『ネオアトラス』の舞台となる時代もまさにそんな状態で、大航海時代というのは伝説や神話が信じられていた時代から、科学の時代へと変わっていく時期ですから。シリーズを作り始めたころに、この時代に書かれた地図を見たのですが、海岸線の形とかがいい加減なんですよね。アフリカも適当だけれど、アジアはもっと適当に書いてあって、オーストラリアなんか書いてもいなかったり(笑)。半分想像で書かれていたわけです。さらに、海には巨大なクラーケンみたいな怪物がいるといったことも、大真面目に書かれている。こういうごちゃごちゃ感をゲームにしたい、というのがシリーズを生み出したきっかけだったんです。そういう意味では、“アトラス”シリーズは歴史ゲームではないんです。歴史シミュレーションゲームのひとつと思われがちなのですが、史実だけではなくて、神話やファンタジーから科学まで、いっしょくたになって入っているゲームなので。ときに“カオス”と言われることもありますが(笑)、それがシリーズの持ち味でもありますからね。

――なるほど。では最後に、16年間待っていた『ネオアトラス』シリーズのファンに向けてメッセージをお願いします。

山口 本当に長いあいだ、お待たせしました。『THE ATLAS』の時代から続くシリーズになるわけですが、基本的なシステムや、ゲーム制作のスピリットはまったく変わっておりません。それに加えて、新しく始める方にも楽しめるように、UIなどゲームの仕組みを改良しているといったものになっております。ですので、新作を待っていてくださったファンの方も、まったく違和感なく入っていけます。そして、初めて遊ばれる方も、「ヘンなゲームだけどおもしろいな」と感じていただけると思いますので、ぜひ手に取っていただければと。今回、『ネオアトラス』シリーズのリブート(再始動)になるわけですが、ここからまた新たにシリーズを展開していければと思っていますので、ご期待ください。


ネオアトラス 1469
メーカー スタジオアートディンク
対応機種 PSVPlayStation Vita
発売日 2016年10月27日発売
価格 6800円[税抜](7344円[税込])
ジャンル シミュレーション
備考 ダウンロード版は6297円[税抜](6800円[税込])
企画・開発:アートディンク、ディレクター:山口洋一(アートディンク)