萩原さんって……じつは結構、筆が速いんです!
角川ゲームスより、2016年9月29日に発売されたプレイステーション Vita用ソフト『デモンゲイズ2』。発売を記念して、完全無料で今秋配信予定のダウンロードエクストラコンテンツ“柳生斬魔録 コール・オブ・ザ・グリモダール”について、“新たなる邪神”のキャラクターデザインを手掛けた萩原一至氏と、シナリオ・監修を担当したベニー松山氏のスペシャル対談を実施! 魅力を存分に語っていただいた。
■プロフィール
萩原一至氏(写真左。文中は萩原)
マンガ家。1986年、デビュー作品『微熱口紅(びねつるーじゅ)』を発表(集英社 週刊少年ジャンプ)。現在、ウルトラジャンプにて『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』を連載中。『ファイナルファンタジーXI アドゥリンの魔境』の風水士と魔法剣士のキャラクターデザインを手掛けるほか、『LORD of VERMILION III』のハデスのデザインを担当するなど、幅広い分野で活動。
※萩原一至公式ホームページ(PC)
※萩原一至公式ホームページ(スマートフォン)
ベニー松山氏(写真右。文中は松山)
1988年、DRPGの元祖とされる『Wizardry』を題材にした小説『隣り合わせの灰と青春』(Jicc出版局:現・宝島社)を発表。その後、国産オリジナルWizardryのゲームボーイ用ソフト『ウィザードリィ外伝II・古代皇帝の呪い』(アスキー)のシナリオ・ゲームバランスを担当する等、DRPGとはとりわけ縁が深い。スタジオベントスタッフ所属。
――萩原先生と松山さんは長年のお付き合いとうかがっておりますが……。
松山 20年くらいの付き合いですね。
――それは長いですね。出会われたきっかけはなんだったのですか?
松山 きっかけは、集英社スーパーダッシュ文庫さんのノベル、『BASTARD!!―黒い虹』ですね。
萩原 そうでしたっけ? ぜんぜん関係のないところだったような……?
松山 あ、そうだ。集英社の編集者の方が『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』のプレイステーション用ゲームを作りたいと連絡を取ってくれたんだ。それで引き合わされて、まずは『BASTARD!!―黒い虹』を、という話になったんでしたね。
萩原 そうそう。そもそもノベルの話があって、自分で書くって言い出しちゃったんですよ(笑)。でも、マンガを描きながらだから、なかなか進まず、導入部はこうで設定はこうで話はこうで、というメモが溜まっていて……。
松山 シーンごとの細かい部分のメモはすごい量がありましたね。
萩原 マンガを描けるくらいの分量だったんですけど、僕はもともとネームは作らないんですよね。書きながら話を考えてるんですよ、いつも。だから書きながらでいいや、と思ったんですけれども、誰かに代わってもらわないと連載が止まっちゃうから(笑)。そういった流れで、「じゃあ誰かいませんか」という話になり、ベニーさんを紹介してもらったんですよね。
――なるほど。
松山 集英社さんが1991年~1999年に発行していた小説雑誌“ジャンプノベル”で載せよう、という話になって。冒頭の80枚くらいをそこで書きました。で、しばらくそれが止まって、ゲームの話が動きだしたんですよね。
萩原 小説のほうがゲームより先だったのか。
松山 さっき話した通り、きっかけはゲームなんですよ。でもまずはゲームが動くようになるまで時間がかかるので、小説をやろうと。
――そのときに初めてお会いになられたと。
萩原 そうですね。
松山 ゲーム(プレイステーション版『バスタード!! ―虚ろなる神々の器―』)が動き始めるとそっちが忙しくなって小説のほうがしばらく止まり、ゲームを集中して作っていました。いま思い返すと、テキストの多いゲームだったなあ、と(笑)。
萩原 僕は『小説ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春』、『小説ウィザードリィII 風よ。龍に届いているか』を読んでいたので、名前を見て「えっ、ベニー松山ってあの?」って驚いて。
――実際にお会いしたことはなかったけれど、お互いの存在は知っていたわけですね。
松山 『小説ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春』を書いてたころに、ちょうど萩原さんも連載を始められたんですよ。私がネチネチと書いてるものが、絵だと1発で表現できるのはスゴイな、って(笑)。
萩原 僕が逆にノベルをやって思ったのは、絵だと何日も描かなきゃいけない、ページのほんの数行のセリフが、文字だと数十秒で書けるんだということ(笑)。連載を3年やって、数冊の単行本が出て、ひとつのお話の書がまとまってできるという3年がかりの仕事が、文章だとひと月かからないんですよね。
松山 いやいや! 受け取る側にはですね、文章であればこれだけ読んでもらわないと伝わらない。絵だと、それが1発で伝わるんですよ。
萩原 本当によく思うのは、ライトノベルってマンガのネームみたいですよね。僕、ネームは文字なんです。字コンテなんですよ。ライトノベルはもっとも集約されたカタチのマンガなのかなと。あれをもとに気の利いたアニメ会社がアニメを作るのがいちばんいいカタチだと思うんですよね。でも、自分のマンパワーをどう使おうって考えたときに、3日かけて数ページのマンガを描くより、文字を書いていたほうがいろいろな表現ができるなと。
松山 お互い違う風に憧れていったんですね(笑)。
萩原 本当に思いますよ。だって文字で書かないと、あのマンガは完結できませんよ。
松山 すごいことを言い出したぞ(笑)。
萩原 マンガの原稿だと完結するのは無理なんですよ。編集の人は「マンガじゃなくて文字でやりたいと言いだした」と嫌がっていましたけどね。でも自分で絵を描くならいいじゃないですか。挿絵も自分で描くからラノベをやらせてほしいって。
――それは新しいですね。文字も挿絵も自分でやる、というのは。
萩原 あと、挿絵が本編と重複するのって、おいしくないと思うんですよね。だって絵だけを見るのだったら、マンガのほうがいいじゃないですか。挿絵って文字を読む手助けにはなっていなくて……。飾りですよね一種の。その挿絵がなければそのシーンを説明することができない、そういうものじゃないので。だったら、ぜんぜん関係のないことをやったほうがいいと思うんですよ。キャラクターのデータがあったり、美術設定が入っていたり、キャラクター同士が関係のない会話をしてもいいんじゃないかと。いっそ巻末の最後に全部まとめればいいんじゃないかって思うくらいなんですよ。ただまあ、人の小説に挿絵を描くのはおもしろいですよ。自分の考えていないものを描くわけですから。
――そんな20年来のお付き合いから、今回『デモンゲイズ2』でまたごいっしょになられたと。
松山 『デモンゲイズ』1作目のときに、「ダンジョンRPGは文学だ!」とか言いながら、ゲームのおもしろさをPRさせていただいて。2作目を作ることになって、追加コンテンツはゲーム本編に関係のないストーリーを展開しようということで、依頼を角川ゲームスさんより頂戴して、それならばイラストも違ったほうがいいだろうと思いまして……。
――松山さんから萩原先生にお願いされたのですか?
松山 いろいろな人を紹介してもらったんですが、当てはまる人とめぐり合わなかったんですよね。それで角川ゲームスさんに「萩原さんはどうですか」と打診したんですよ。そうしたら「ふたつ返事で、ぜひ!!」と(笑)。あと、萩原さんって……じつは結構、筆が速いんです! 実際、絵を描くときはすぐに描いてくださるんですよ。むしろ、ネームで時間をかけている人なんです。
萩原 絵は終わりがありますからね。伸び代があって成長要素があったとしても、ここまでしかできないってことはわかっているので。でも話っていうのも、ツボにハマって正解に命中したってわかると、あとはどうやってくっつけても付属パーツみたいなものなので、全体量を割り算していちばん肝心なところが見えたら、いちばんもっともらしいつながるような書きかたをする、もしくはつながる部分をあえて空けて、読者に想像させるという技術になってくると思います。だから、書くことが決まっていれば話も絵も、すぐ書けますよ。ただ、ひとつのマンガを長く描いていて、答えの見つからないところに入り込むと、そこにすごく時間がかかるんです。とくに僕みたいに、描きながら話を考えてるとマズい。このページを半日かけて描き上げることはできるけど、ここを描いてしまったらもう戻れなくなる。
松山 そこに答えがあるのかどうかの確信が持てるか、ですよね。
萩原 ネームの改変ができなくなる。改変するにしても正解がわかっているんじゃなくて、「こっちのほうが正解なのでは?」と憶測でやるわけで。そんなこんなで、お題をいただけたらすぐ描けるんですよね。
松山 今回はイラストのイメージをお伝えしていましたからね。『BASTARD!!―黒い虹』も、挿絵のあがってくるスピードは早かったですもん。「このレベルの絵がもう仕上がったの!?」と驚きました。あのときのスピードがわかっていたので、バッチリだろうと思ったんですよね。
――『デモンゲイズ』で……というよりも、松山さんがシナリオを書くから萩原先生に……ということですね。
萩原 そんな感じですよね。角川ゲームスと聞いて、「あれ、じつは角川から仕事をもらうのは初めて?」と思いました(笑)。
――そのときには“柳生斬魔録 -コール・オブ・ザ・グリモダール-”というタイトルも決まっていたのですか?
萩原 そのときは決まっていませんでした。ダウンロードエクストラコンテンツ、ということだけ聞いていて。……っていうか、このタイトルってつい最近決まったよね(笑)。
松山 ついこのあいだ決めました(笑)。副題が最後の最後まで決まらなくて。
――“柳生斬魔録”とありますが、和のイメージになるのですか?
松山 エクスペリエンス(『デモンゲイズ』、『デモンゲイズ2』開発会社)さんのファンタジー世界は、ときどき異世界……というより、我々の世界から向こうの世界に行く人がいるという設定もあるので、それを活かした話にしています。時間軸自体もちょっとズレがあったほうがおもしろいだろうと。そもそもプロジェクト名が“PROJECT CODE-KENGOU-”でしたからね(笑)。
――萩原先生は“新たなる邪神”のキャラクターデザインを手掛けられたということですが……。
萩原 はい。あれは、中ボスなの? ラスボスなの?
松山 このタイミングでは、どちらもラスボス級……ということで(笑)。
萩原 あとは、販促用の応援イラストを描かせていただきました。
松山 あれもよかったです!
――萩原先生が好きなように書かれたのですか?
萩原 何通りか、こちらからラフを出して。ラフが決まったらあとは描くって感じでしたね。
松山 じつは実装データまで描いてもらっているんですよ。
――えっ!?
松山 ですので、ゲーム中、フィルターなしの萩原さんの生絵が動くわけです。
萩原 イラストのレイヤーが分かれていて。関節で切られているので、マリオネットみたいに動くんですよ。そういう仕様で入稿するというのも、おもしろかったですね。構造上は21ヵ所、自由に動くんでしたっけ?
松山 ぜひ遊んでいただいて、萩原さんのデザインをご覧ください! そうじゃないと「本当にもったいないぜ!」となります(笑)。
――なるほど。しかし、本当にいろいろな縁でつながったプロジェクトだったのですね。
松山 長らく止まっていた『BASTARD!!―黒い虹』も、いま完結に向けていろいろ話が進んでおりまして……。
萩原 1巻と2巻には間違えた絵があるので、そこはちゃんと直しておきたいなぁ(笑)。
松山 “柳生斬魔録 -コール・オブ・ザ・グリモダール-”で再び出会った縁をきっかけに、いい報告ができるようにしたいですね。
――いまさらの質問ですが、萩原先生はゲームをよく遊ばれるのですか?
萩原 ダンジョンRPGで言えば、『ウィザードリィ』のころからかなりやっています。かなりしゃぶり尽しましたね。MMORPGも、MOのゲームもやっていますし、ちょっと前は『ディアブロIII』を。やりすぎて50キャラクターくらい育てましたね。
松山 おかしい。やり過ぎだから(笑)。
萩原 あの世界で新しい経験を積むことが、仕事に活きるんだから!(笑)。
一同 (笑)。
萩原 ゲームはおもしろいですよね。ゲームを仕事にしていたら、ゲームをこんなに楽しめていないと思いますが(笑)。
松山 『デモンゲイズ2』は完成バージョンもやっていただかないと。前作の『デモンゲイズ』はやり込んでいましたよね?
萩原 ずっとアイテムを集め続けていますね。まだエンディングまではいっていないのですが、あえて終わりにしないようにしていて。いちばんおいしいところをずっと味わっている状態です。『デモンゲイズ2』も開発中のものを触らせていただいたのですが、すごく快適なんですよ。あの手のゲームは遊んでいてイライラするところってあるじゃないですか。それがすべて取り除かれていて。
――なるほど。改めてとなりますが、“柳生斬魔録 -コール・オブ・ザ・グリモダール-”の見どころをお教えください。
松山 シナリオ的には、『デモンゲイズ』でこういうことがあったら、今後ももっと広がるのでは? という話から進めています。そこでさらに、新旧のデモンがぶつかり合うと、初めての人も楽しめるだろうし、前作を知っている人はより楽しめると。最初から驚くような仕掛けを入れていますので、楽しんでいただけると思います。そして「こんなヤツが!」と、萩原さんデザインのキャラクターを見て驚いてもらいたいですね。
萩原 『デモンゲイズ2』から始めて、1作目を遊ぶ、ってのもいいかもね。
――“柳生斬魔録”というタイトルは、シナリオに深く関わるのですか?
松山 関わりますね。ビジュアルはすでに公開されていますが、「柳生の女剣士って何!?」、「柳生に女剣士なんているの!?」という話でして。じつは、エクスペリエンスさんから発売された『新釈・剣の街の異邦人』の限定版についている私の小説の中に、ちょっとヒントがあります。気になる方はぜひそちらも合わせてご覧ください。
――では最後に『デモンゲイズ2』ファン、そして“柳生斬魔録 -コール・オブ・ザ・グリモダール-”を楽しみにされている方へメッセージをお願いします。
松山 先ほども申し上げましたが、前作をやっている人もやっていない人も、どちらも楽しめる内容となっています。『デモンゲイズ2』本編クリアーは折り返し地点です。最後まで完走しないともったいないですので、ぜひ“柳生斬魔録 -コール・オブ・ザ・グリモダール-”を楽しんでください。なんといっても無料ですから。
萩原 『デモンゲイズ』は1作目も遊んでいますが、最近では珍しい、環境のいいゲームなんですよね。『デモンゲイズ2』はキャラクターの魅力がより増していますし。やり込んでよし、女の子ゲーとして遊んでもよしというゲームですので、ぜひ“柳生斬魔録 -コール・オブ・ザ・グリモダール-”も遊んでください。そして、僕のデザインしたキャラクターと戦ってください。