ゲーム開発の醍醐味と喜びと

 2016年9月15(木)~18日(日)、千葉県・幕張メッセにて、東京ゲームショウ 2016が開催。会期3日目の9月17日に、“日本ゲーム大賞 アマチュア部門 大賞”の発表授賞式が行われた。

 毎年応募テーマを設定して、幅広く応募作品を募る“アマチュア部門”。まさに、アマチュアにとってのひとつの登竜門といったところだが、“流れる”という募集テーマのもと、今年は応募総数が過去最多の329作品に。きびしい審査を経て、見事大賞に輝いたのは、HAL大阪 Project Trailチームによる『Trail(トレイル)』。暗闇に包まれた世界で、煙の気流を利用して、ステージの形を炙り出しながら進むというアクションパズルゲームだ。プレイヤーは、足元の草に火をつけたり、煙を大量に発生させたり、ときには煙で歯車を回したり……と、性質の異なる煙をうまく利用しながら、出口を目指すことになる。

“日本ゲーム大賞 アマチュア部門 大賞”を受賞したHAL大阪 Project Trailチームに聞く チームワークのよさが受賞の一因【TGS 2016】_03
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▲“日本ゲーム大賞 アマチュア部門 大賞”発表受賞式の模様から。

 週刊ファミ通編集長、林克彦による“受賞理由”は以下の通り。

 「完成度の高さに驚きました。真っ暗なステージに火を灯すことで、周囲のステージ構造を把握させるシステムは、プレイヤーの集中力を高めます。また、煙の流れがプレイヤーを導くガイドにもなっており、独創的かつゲームに欠かせない要素にもなっています。操作性、ほどよいパズル要素、グラフィック等も不満のないレベルにあり、スムーズに、“なるほど”と感心しながらプレイできました。ここに、気持ちをぐっと高めるような驚きやメリハリが盛り込まれれば、熱中してプレイできそうです。今後の活躍にも期待します」

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▲煙の気流を妨げる冷気を発する天敵など、さまざまなアイデアが盛り込まれている点が高く評価された。

 ファミ通.comでは、受賞直後のHAL大阪 Project Trailチームを直撃。チームの6人に話を伺った。チームは、リーダーの吉信宏輝さん(プログラマー)、サブリーダーのイレネ・ヘルセノウイスさん(プランナー)、濱中 謙さん(デザイナー)、中川 迅さん(レベルデザイン)、藤田勝也さん(音楽担当)、林 克弥さん(動画編集担当)で構成されている。※文中は敬称略

――まずは、受賞しての感想をお願いします。

 僕は、一次審査を通すための動画を作ったので、一次審査を通ったことがうれしかったです。佳作だと思っていたので、大賞を受賞したときは驚きました。

藤田 「取れたらいいね」という話はちょっとしていたのですが、取れるとは思っていなかったので、正直うれしいです。

中川 取れるとは思っていませんでした。

濱中 受賞できてうれしいです。ただ、今回のアマチュア部門では、同じ学校の仲のいいチームが3チーム最終審査にエントリーされていたので、みんなで優秀賞を獲得したかったです。

イレネ 開発者としてみると、まだまだ未完成なところもあり、ブラッシュアップしたいところがたくさんあったので、審査員の方が見られたら、「そんなによくできていないのではないか?」と判断されるのではないかと思っていました。本作のコンセプトが評価されたようで、とてもうれしいです。

吉信 チーム全員で、とくにはすごく無理もして作った作品なので、このような高い評価を受けてうれしく思います。

――受賞のポイントはどのへんにあったと思いますか? また、ご自身の立場では、どの点に注力しましたか?

 3人のリーダーが引っ張ってくれたおかげです。自分の立場で言わせていただけば、僕はいろいろなサイトを巡って、「このゲームに絶対に合う!」というBGMを探しました。

藤田 世界観が評価されたんだと思います。真っ暗な世界をゲームにするというのは、通常ではあり得ないので、そのあたりが評価されたのではないかと。僕の立場がら注意したのは、音量に気をつけたことですね。ときに1個1個の音が小さくなったりするので、その点は聴き取りやすいようにしています。

中川 煙の滑らかな動きです! レベルデザインの立場としては、チュートリアルや最初のステージで、初心者の人でもわかりやすく遊べるように、気をつけました。

濱中 世界観に沿ったビジュアルに近づけることができたのが、評価されたのではないかと思っています。僕自身は、テクスチャーや見た目に関わる部分を担当したのですが、たとえばギミックひとつとっても、「この世界観で、このギミックはどういうふうにデザインしたらなじむのか?」といったことを、プログラマーやプランナーといった立場に関係なくみんなで話し合えたので、僕としてはそれがすごく助かっています。そういうチームの仲のよさが、クオリティーアップにつながったのではないかと思います。

イレネ やっぱり見栄えが評価されたと思います。開発にあたっては、私たちはすごく細かいところまで作るのに力を入れました。草が燃えるところだったり、煙がたなびくところだったり……。キャラクターの動きが滑らかに見えるように、いろいろと工夫することで、プレイヤーが本当にその世界にいるかのような感覚を味わえるように、努力しています。私自身は、3Dのモデルとエフェクトなどを入れて、とにかく見栄えのいい綺麗なゲームを作りたいと思っていました。あと、私もステージを作ったのですが、真っ暗なステージで、プレイヤーを導くのはすごく大変だったので、いかに見せ過ぎないようにしつつ、いかにプレイヤーを迷わせないように出口までたどり着かせるか……。私たちはゲームに慣れているので、遊ぶときに当たり前だと感じられることも、初めてプレイする人にはわからない。そんなことを考慮しながら、調整していきました。

吉信 見た目も評価されたと思うのですが、日本ゲーム大賞のアマチュア部門は、アイデアが大事だと考えていました。“流れる”というテーマだと、ふつうは水を流すとか電流を流すといったことを思い浮かべがちですが、僕たちの作品の場合は、“煙を流す”という、あえて発想しにくいものをモチーフにしたのが、注目していただける要因になったのかなと。それに加えて、煙の道筋を変えて、真っ暗な世界をあぶり出していくというゲーム性が、大きく評価されたのだと思います。プログラマーの見地としては、まずは煙の表現ですね。本作では、煙をキレイに表現するために、ひとつひとつ小さい煙を使っているのですが、それがキレイに見えるように回転をかけたりしています。あとは、煙は数千個出るのですが、それをふつうに計算してしまうとすごく細かくなってしまってゲームにならないので、GPUを駆使して、煙の動きや当たり判定を計算したりしています。

――ちなみに、みなさんが一番お好きなゲームは?

 『スーパーマリオRPG』です。自分で最後までやり通した、初めてのゲームなので。マリオでRPGができるという点が大好きでした。

藤田 僕は『ゴッドイーター』です。最初にリリースされた、いわゆる“無印”が、ものすごく難しくて。それをクリアーしたことで、「つぎもやってみようかな」という感じで、魅力に惹かれていきました。いまでの最新作は継続してプレイしています。

中川 『ポケモン』シリーズです。初めて遊んだゲームが『ポケモン』で、そこからシリーズはずっとプレイしています。キャラクターの種類の多さやバトルシステムのおもしろさなど……魅力は尽きないです。いちばん好きなポケモンは……選べないです(笑)。

濱中 僕は、『.hack//G.U.』シリーズです。あのゲームを遊ぶまでは、僕はゲーム業界を目指そうと考えていたわけではなかったんです。『.hack//G.U.』をプレイして、物語とは世界観、ゲームとしてのおもしろさにのめり込んでしまって……。とにかく世界観なんですけど、「こういうデザインを手掛けてみたい」と思い始めたきっかけが、『.hack//G.U.』だったんです。

イレネ 私は『ゼルダの伝説』シリーズがものすごく好きです。とくに『ゼルダの伝説 時のオカリナ』。私は、パズル要素が好きで、『Trail(トレイル)』にもパズル要素を入れたのですが、『ゼルダの伝説』シリーズは、ものすごく参考にしています。『ゼルダの伝説』シリーズは、アドベンチャーであり、パズル要素が入っているのですが、『ゼルダの伝説』をプレイしたときに感じた楽しさをこのゲームに入れたい」ということをずっと思いながら作り続けてきました。『Trail(トレイル)』に関しては、パズルゲームが苦手な方でも楽しめますし、アクションは得意じゃないという方も、パズル要素が加味されているので、喜んでいただけるのではないかと思っています。

吉信 フリーゲームでも大丈夫ですか? 僕は『ハナノパズル』というゲームが大好きなんです。ものすごくシンプルだけど、いろいろな工夫ができまして。パッと見て、「こんなステージ絶対に解けないよ!」というものでも、「こんなやりかたをしたら解けるのか!」ということになる。ときに論理的に考えたり、ときにヒラメキがあったりと、いろいろと考えさせてくれるところが好きです。

――最後に、今後の目標を教えてください。

 自分自身、これまで欲望や夢といったものはぜんぜんなかったのですが、この受賞をきっかけにして、自分でもやってみたいことを見つけて、目標に向かってがんばっていきたいと思っています。

藤田 自分はプランナーなので、自分のゲームを作りたいです。ゲーム会社に行きたいです。希望はバンダイナムコエンターテインメントさんです。レベルが高いらしいので……。

中川 ゲーム業界に入りたいとは思っています。バンダイナムコエンターテインメントさんとか、サイバーコネクトツーさんとかに行けたらいいなあと。有名なゲームに関わってみたいです。

濱中 いままで僕は、目的というか、何かやりたいというのをあまり意識せずに、ひたすら授業をがんばっていて、「自分のやりたいことを決めていかないといけない」という視点で日本ゲーム大賞の制作に臨んだんですね。そんな中で「エフェクトが楽しいな」と思い始めたんです。いまエフェクトを勉強し始めていて、最終的にはエフェクトで就職したいなと思っています。どこかの会社というよりは、いっしょに働ける人たちの雰囲気というか、「こんな人といっしょに働けるんだ」という会社に入りたいです。いざ作るとなると、集団作業になるので、作っている人たちも楽しくないと、たぶんいい作品ができないのではないかと思っているので、雰囲気がいいところに行きたいですね。

イレネ 私は、日本のゲーム会社で働きたくて、メキシコから来たのですが、日本のゲーム会社に就職したいと思っています。自分が楽しいと思えるゲームを作りたいです。とはいえ、自分のためにゲームを作ると、プレイヤーの気持ちを見失いがちになってしまうので、気をつけていきたいなと。プレイヤーさんとのつながりを保ちつつ、新しい世界を作るのはすごくいい気持ちです。

吉信 僕は、高校生のころから趣味でゲームを作り始めまして、この会社に入学してプログラムの勉強をしているのですが、今回のチーム制作を通して、「チーム制作はたいへんだけど、みんなで作業をするのは楽しい」と実感しました。そんな経験を踏まえて、プロの現場にプログラマーとして入って、先輩方と楽しくチームで作業をしながらプログラミングを楽しんでいきたいです。

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▲前列左から、濱中 謙さん、イレネ・ヘルセノウイスさん、吉信宏輝さん。後列左から、藤田勝也さん、中川 迅さん、林 克弥さん。

チームで開発することの喜びとは?

 ほとんどのメンバーが、「取れるとは思っていなかった」という“日本ゲーム大賞 アマチュア部門 大賞”。チームで制作して大賞を受賞するという出来事は、皆さんの将来にとって何かの大きなきっかけになったことは間違いないようだ。取材して印象的だったのは、リーダーの吉信宏輝さんを中心とした、HAL大阪 Project Trailチームのチークワークのよさ。“チームワーク”というのは、団体作業ならではの醍醐味といったところだが、“団体”ということで言うと、受賞式のときにCESA 人材育成部会副部会長の馬場保仁氏から、気になる発言があった。以下に引用すると……。

“日本ゲーム大賞 アマチュア部門 大賞”を受賞したHAL大阪 Project Trailチームに聞く チームワークのよさが受賞の一因【TGS 2016】_02
▲CESA 人材育成部会副部会長の馬場保仁氏。

 「今年のアマチュア部門は、個人の方のエントリーが多かったです。
 そのこと自体は、素晴らしいことですが、個人作品はどこまでいっても、個人の才能と努力によるものです。
 ゲーム業界をこれからもっと盛り上げていくためにも、専門学校だからこそ経験できる“チーム制作”つまりは、団体でのエントリーが増えて欲しいと思っています。そのためにも、学校関係の皆様、先生方の奮起を期待したいと思います」

 実際のところ、アマチュア部門は、応募総数329作品中個人からの応募は67作品で、優秀賞5作品中、個人の作品は4作に上る。昨今の開発状況などを鑑みるに、個人のほうが自身のクリエイティビティーを発揮した作家性溢れる作品を作りやすい傾向があるのは確か。一方で、市場に出るゲームはチームでの開発が必須になり……と、アマチュアの段階からチーム制作に慣れておいたほうが、有意義との見かたもできる。馬場氏の発言はCESAの“人材育成部会”という立場から、その点に対する提言だと思われる。

 ちょうどいい機会だったので、大賞を受賞したHAL大阪 Project Trailチームに“団体”でゲームを作ることの意義を聞いてみると、吉信さんから「チームで制作をしていて楽しいのは、何か新しいものができたときに、みんなが喜んでくれることですね。たとえば、僕が煙をどうやってキレイに表現しようかと考えていて、“こんなのどう?”という感じで見せると、みんなから“おお、すごくきれい!”とか言ってもらえるんです。そういうときはすごくうれしいですね」いった意見が聞かれた。

 もちろん、チームで行動するにあたってはたいへんな点もたくさんあるだろう。個性的なメンバーが揃えば、衝突したりすることも容易に想像されるところではあるが……。それに対しては濱中氏が「ケンカはなかったのですが、ひとりひとり個性が立っていうので、やはり摩擦はありましたね」と前置きしつつ、個別に話し合ったり、それぞれの立場を理解しあうことで、摩擦を減らしていったという。「飲み会の機会は多かったですね。やっぱりメンバーと仲よくなるのはとても大事だと思うので」(濱中さん)とのことで、あえて言うと“いまどきの若者が”、いわゆる“飲みにケーション”で交流を深めるというのは少し意外だったが、それも、チームワークということを前提にしたうえでの、危機管理ということなのだろう。

 なにはともあれ、この業界の発展のためにも、今後もアマチュアの方たちがゲーム開発に取り組んでくれることを期待したい。