西氏なりの“堀ゲー”に対する答え

 2016年7月9日~10日、京都市勧業館みやこめっせにてインディーゲームの祭典BitSummit 4thが開催。2日目に行われたメインステージで、西健一氏による新作『ルナたん 〜巨人ルナと地底探検〜』が発表された。同作は、テレビ向けクラウドゲームサービス“ひかりTVゲーム”などでおなじみのNTTぷららが初のパブリッシャーを務めるスマートフォン向けネイティブアプリ。BitSummit 4thの運営にも参画しているピグミースタジオが開発を担当しているという縁もあり、会場での発表と相成った。会場で、Route24 取締役の西健一氏と、NTTぷらら サービス本部 ビジネス戦略部 吉原研氏にお話をうかがう機会を得た。

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『ルナたん 〜巨人ルナと地底探検〜』は西健一氏が世界観にこだわり抜いて作った1作【BitSummit 4th】_01
▲Route24 取締役の西健一氏(左)と、NTTぷらら サービス本部 ビジネス戦略部 吉原研氏(右)。意外なことに、BitSummitには初参加という西氏。「本作は、精神的にはインディーゲーム」とのこと。

 ことの発端にあるのは、“ひかりTVゲーム”のさらなる訴求。「“ひかりTVゲーム”というセットトップボックスの世界だけに閉じていると、なかなか新しいお客様との接点が作れないということが課題としてありました。それで、スマートフォンアプリなどからお客様を“ひかりTVゲーム”に誘導したいという気持ちがあったんです」と、吉原氏。その開発者として、白羽の矢が立ったのが西健一氏。その選択には、“ひかりTVゲーム”のユーザー層が考慮されている。「昨今のゲームは過激な暴力表現のあるものも少なくありませんが、“ひかりTVゲーム”のお客様はファミリー層が中心です。であるならば、幅広いユーザー層に訴求できるクリエイターということで、『moon』などでおなじみの西さんにお願いすることにしました」(吉原氏)という。

 というわけで、NTTぷららから西氏のところに話が降りてきた。ただし当初は「ファミリー向けを」といったオーダーもなく、ほぼフリーハンドで任されていたようだ。そこで西氏が出したアイデアが、“穴を掘って資材を集めていくサンドボックス型のゲーム”。それに対して、「もう少しカジュアルで気軽に遊べるものを」とのNTTぷららからの要望に応える形で、当初の素案をもとに、いまの形に落とし込まれていったらしい。

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▲古代人の末裔である“ヨナ”。

 気になるゲーム内容をざっくりと説明してもらったところ、古代人の末裔である“ヨナ”が、地下を掘り進めていって、資材をゲット。地上の“タウン”を拡充していくといったもの。キモとなるのは、地上にデンと居座る謎の巨人“ルナ”で、巨人が魔法をセットすることで、固い岩を壊してくれたり、アイテムを取りやすくしてくれるのだという。「そんなに奇をてらったものではなくて、“堀りゲー”っていろいろあると思うのですが、僕なりの回答が本作です」と西氏。

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▲謎の巨人“ルナ”

 もともと“ひかりTVゲーム”の訴求を目的とした本作だけに、当然のこと、“ひかりTVゲーム”との連携要素が設けられている。本作は、地下の“探索”と地上の“タウン”から構成されているのだが、ひかりTVゲーム版では、地上の“タウン”を閲覧可能になっているのだ。拡充した地上の“タウン”では、動物などを配置することも可能になるようで、「スマホで動物がちょこちょこ動いているのはかわいいですが、テレビで見るほうがもっとかわいいですよ」(西氏)とのことだ。とはいえ、ひかりTVゲーム版でできるには、“タウン”の閲覧のみで、地下の“探索”はできない。ゲーム性として、ひかりTVゲーム版だけで成り立つようにはなっていないという。「どちらがファーストかというと、スマートフォンですね。“ひかりTVゲーム”で遊ぶと、収穫量が多くなるといったように、若干プレイに有利になっています」と西氏。

 実際のところ、本作開発の発端が“ひかりTVゲーム”訴求であることを考えると、必ずしも本作だけで収益をあげるビジネスモデルである必要はないようにも思われるのだが、率直に質問をぶつけてみると、「そんなことはありません!」と西氏はきっぱり。「本作はいわゆる、広告予算で作っているわけではありません。スマホ単体で成り立つように、こだわって作っているんです」(西氏)とのこと。ちなみに本作は、基本プレイ料金無料で提供され、「もっと遊びたい」という方のためにスタミナでの課金が予定されているとのことだ。

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 さて、説明を後回しにしてしまったが、本作でもっともこだわったのが“世界観”。最初に西氏が提出したコンセプトは、「とあるエネルギーの使い過ぎにより、古代文明が滅んでしまうんですね。それで文明が地下に埋まってしまうのですが、その文明を“再生”するというものなんです」というもの。そのアイデアに対して、『moon』のときの“仲間”である、キャラクターデザイナーの倉島一幸氏と、作曲家の安達昌宣氏が参加。世界観に肉付けしていったという。「古代文明といっても、いろいろありますが、とにかくオリジナリティーのあるものにしようと思っていました。絵本とかも出したいと思っているのですが、絵本で読んでもおもしろくなるような世界を作りたいなと」。そのこだわりが端的にあらわれているのが巨人の“ルナ”で、なんと30パターンくらい考えたという。

 ビジュアル部分に関しては、NTTぷららからの駄目だしも多かったようで、西氏も「けっこうきびしかったです」と率直にひと言。それに対しては、NTTぷららの吉原氏も「“ひかりTV”はコアサービスとして映像があり、そのほかにもさまざまなエンターテインメントサービスを展開しています。IP(知的財産)展開に対する意欲がベースにありますので、ゆくゆくはゲームから派生して、さらにビジネスを広げたいと思っています。現時点では、まだ具体的にご紹介できる案件はありませんが、このようなIPへのこだわり、NTTぷらら側の思いを、本作では汲んでいただいています」とのことだ。

 これだけ世界観にこだわりを持っていると、本作のテーマなども気になるところだが、「“テーマは、これです”みたいなことを言ってしまうと、凝り固まってしまうので、あまり言うつもりはないのですが、プレイして作り手の想いは感じてほしいですね」(西氏)とのことだ。プレイしてもらえれば、わかるということだろう。

 最後に、本作に対する想いをおふたりに聞いてみた。

西氏 「きっちり丁寧に作っていますので、楽しさは保証します。ディープに遊べる作りになっている反面、あまり深く考えずに、気軽に楽しめるようになっているんですね。ご家族で遊んでも楽しい1作なので、ぜひ老若男女幅広い方に遊んでいただきたいなと思っています」

吉原氏 「NTTぷららとしては、初のパブリッシングタイトルなので、“いいものを作りたい”という思いが強いです。西ディレクターはもの作りに対する思い入れが強いですし、開発会社のピグミースタジオさんも、本作に深い思い入れを持って取り組んでくださっていることは実感しています。いいものができることを固く信じています」

 iOS、Android向け『ルナたん 〜巨人ルナと地底探検〜』は、9月配信予定だ。

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