今年もUnite 2016 Tokyoは熱気に溢れていた

 2016年4月4日~5日、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社は、Unity開発者や学生を対象とした大規模カンファレンス“Unite 2016 Tokyo”を、東京・ヒルトン東京お台場にて開催。会場では、プロのエンジニアからUnityビギナーの内容のものまで、Unityに関する講演やワークショップがじつに30以上も開催されている。とくに今年は、“VR元年”と言われるなか、VR/ARコンテンツに関連した講演やワークショップなどが数多く予定されている。

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▲基調講演の会場には、朝早くから多くの聴衆が集まった。
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▲開場と同時に整理券の配布が終了したという、PlayStation VR(以下、PS VR)やRift(Oculus)など、VR関連の体験コーナーも。
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▲Unityを使って制作されたゲームも出展。インディータイトルが多く、いかに広く普及しているかが実感できる。

 ここからは、初日に行われた基調講演から、ソニー・インタラクティブエンターテインメント ワールドワイドスタジオ・プレジデントの吉田修平氏の講演や、マーザ・アニメーションプラネットとユニティ・テクノロジーズ・ジャパンが共同開発した映像作品『THE GIFT』などを紹介する。

 ちなみに、今回の基調講演はソーシャルVRアプリ“cluster”で視聴することもできた。Unityで開発されたこの“cluster”では、テキストチャットや拍手、笑うといったエモーションジェスチャーを取ることが可能だ。

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▲“cluster”は展示スペースで体験することも可能だった。

認知度も普及度も飛ぶ鳥を落とす勢いのUnity

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▲大前広樹氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)

 今回の基調講演は、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前広樹氏が進行を務めた。大前氏は、「Unityは“開発者の味方”で、3つの信念のもとに発展してきた」と語る。その3つとは、“誰でも作れる世界にする(Democratize Development)”、“難しい問題を解決する(Solve Hard Problems)”、“成功をお手伝いする(Enable Success)”。その信念のもと、2015年3月にリリースしたのがUnity 5.0だ。その後バージョンアップを続け、2015年12月にUnity 5.3をリリースしている。ここで、Unity 5.0と今後リリース予定のUnity 5.4の比較動画が流された。5.0でも十分なクオリティーかと思いきや、5.4では、さらに奥行きが感じられるグラフィックに進化している。

Unity 5.0 vs Unity 5.4 - Graphics Improvements

 また、Unityは、VR/ARの黎明期から主要プラットフォームに最適化された組み込みサポートを提供しており、『Lucky's Tale』(Rift)や『RoboRaid』(Microsoft HoloLens)といったタイトルをすでに発表している。
 大前氏は2016年のUnityのテーマとして、“Quality”を上げた。それを実現させるため、安定版のUnity 5.3.4を継続してリリースしつつ、最新版となるUnity 5.4のベータ版をすべての人に公開するのだという。

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ゲームエンジンUnityがバージョン5.4のパブリックベータ版を公開。発表会ではVR内でのエディター機能もチョイ見せ【GDC 2016】

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 さらにアピールを続けるのは“Localization”について。“Localization”には多くの要素が必要で、なかでもラーニング・コンテンツ、エディター、コミュニティが重要だと大前氏は言う。Unityもローカライズを進めていて、日本語Unity Editorはバージョン5.4.xから実験的に搭載される。
 コミュニティでは、代表的なものとして“Unity道場”(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのスタッフから、Unityの新機能や使いかたを学べる)や“Unityキャラバン”(各地のUnityイベント開催者が、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのスタッフに対し、出張公演や運営の協力を依頼できるシステム)があるが、現在把握しているだけでも289にも及ぶコミュニティイベントがあるという。そのひとつに、高校生向けの“Unityインターハイ”があり、2016年も開催が決定した。

 Unityと教育の関係についての説明もあった。もちろん、Unityはゲーム開発に使われるだけではなく、さまざまな分野で応用される。日本国内でも、Unityを使っている教育機関は500を超えるというが、その課題として、Unityを教える側の問題を指摘した。というのも、そもそも教育者側にUnityを使いこなせる人が少ないうえに、Unityを使っている生徒は、逆に先生側よりもスキルが高いことが多いのだという。そのねじれ現象を解消するため、教育関係者向けに、国内初の認定試験を5月に開催。6月からは、渋谷dots.にて毎月認定試験を開催し、全国でも2017年から順次開催することになったと発表された。

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全プラットフォーム……そのなかにVRも

 続いては、プラットフォームについての説明へと移行。Unityでは、さまざまな新しいプラットフォームに対応していき、Microsoft HoloLensに続き、2月にアメリカで開催されたVision Summit 2016では、Google CardboardやSteam VRへのサポートも発表された。VR以外のプラットフォームも含めた一覧を見て大前氏は、「これ、スゴイですよね」と笑った。開発者にはすばらしいコンテンツを作ってもらい、どのプラットフォームで展開するかは後で考えてもいい……“真のマルチプラットフォーム”と言えるこの状況が、冒頭に述べた“成功をお手伝いする”というUnityの信念というわけだ。

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▲吉田修平氏(ソニー・インタラクティブエンターテインメント ワールドワイドスタジオ プレジデント)

 2016年は“VR元年”と呼ばれているなか、やはり大注目なのはPS VRだろう。大前氏はここで「PlayStation VRの生みの親」として、ソニー・インタラクティブ・エンターテインメント ワールドワイドスタジオ プレジデントの吉田修平氏を紹介した。

 大きな拍手で迎えられた吉田氏は「生みの親というより、開発チームのチアリーダーです」と自己紹介し、先のGDCで発表したPS VRのスペックなどをおさらい的に紹介した。発売が当初の予定より遅れ、10月になったことについては、「十分な台数を用意するため、そしていいコンテンツを揃えるため」とした。スペックや仕様等の詳細は下記関連記事を参照してほしい。

【関連記事】
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▲吉田氏がとくに注目してほしいと発言したのがディスプレイ解像度。スペック表に“1920×RGB×1080”とある通り、非常に美しい映像を提供することができる。

 VRの関係者のあいだでしばしば使われる言葉が、“プレゼンス(Sense of Presence)”。この“別の世界に自分がいると錯覚してしまう感覚”は、VRでのみ可能な感覚なのだそうだ。このプレゼンスは非常に気持ちいいものだが、ちょっとした違和感などですぐに壊れてしまうという。錯覚している感覚が急に覚め、現実へと戻されてしまうので、プレゼンスを得るためにはさまざまな要素をキチンと作り込む必要があり、それができないと気持ちいい感覚を得ることはできないそうだ。
 そのために、PS VRがハードウェアとして取り組んできたこと。それは、家庭用ゲーム機であるプレイステーション4と接続して使うことから、機械に詳しくない人でもすぐに使えるようにすること。これは非常に重要視して作ってきたという。また、前後の重さを均等にすることでバランスを取ったり、ディスプレイ部分を前方に引き出すことができるので、頭からセットを外さずに、水を飲んだり、スマホをいじったりということも容易にできる設計となっている。

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▲「ディスプレイ部分は大きく作っているので、私のようにメガネをかけていても問題ありません」と吉田氏。
▲自分が違う場所にいると錯覚させる感覚では、視覚同様、音も重要な要素だ。

 PS VRは、ひとりで楽しむだけではなく、家族や友だちもいっしょに楽しんでほしいという思いが込められている。それは“SOCIAL SCREEN”というもので、PS VRで見る画面とテレビに映る映像が同じMIRRORING MODEと、PS VRを装着した人とそうではない人がまったく異なる映像を見るSEPARATE MODEの2種類が用意されている。
 また、吉田氏によると、GDCでの発表のなかでも、とくに日本のユーザーから反響が高かったのが“Cinematic mode”だったそうだ。

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 “VR元年”の今年、多くのVR機器が発売されることになるが、PS VRは家庭用ゲーム機のプレイステーション4で体験できることに大きな意義があるという。比較的安価で、規格が統一されていること。多くのデベロッパーが同じ開発環境であるため、サポート体制に優位性があるとした。とはいえ、重要なものはコンテンツということで、ここでソフトラインアップの映像が流された。

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 Unityで作られたタイトルは発表されている以外にもまだまだあると吉田氏。また「VRは新しいメディアなので、ゲームに限らず、さまざまなジャンルで使われていく」とした。そんな期待大のVRだが、課題として高品質のコンテンツを揃えることや体験機会を設けることを上げた。VRの持つ魅力によって、いままで「百聞は一見に如かず」だったことが、VR普及後は「百見は一体験に如かず」になるという。「早くそうした世の中になるようにがんばります」と吉田氏は締めた。

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『THE GIFT』の全編プレミア上映を実施

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▲前田雅尚氏(マーザ・アニメーションプラネット)

 今回の基調講演でもうひとつ注目されたのが、短編映像作品『THE GIFT』の全編上映だ。GDC 2016で発表された『THE GIFT』は、マーザ・アニメーションプラネットとユニティ・テクノロジーズ・ジャパンが共同開発したもので、全編Unityでレンダリングされた最新のグラフィック表現となんとも柔らかな動きや表情を見せるキャラクターが魅力的な映像作品だ。

 『THE GIFT』の制作過程については、ハリウッドストーリー開発の手法を採用し、30人以上のデザイナーによる完全分業制作で行われたそうだ。登壇した前田雅尚氏(マーザ・アニメーションプラネット CEO)は、『THE GIFT』をUnitベースで行った映像へのアプローチであり、未来的映像制作のための実証実験と位置づけた。ハードウェアの進化により、CG映像制作のリアルタイム化は今後急速に進み、『THE GIFT』のような映像のほかにも、ゲームやVRなど、幅広いマルチプラットフォームでの開発がより重要となっていく言えるだろう。

“THE GIFT” (created using “MARZA Movie Pipeline for Unity”)

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