忘れろよ、早く忘れるんだ……(思い当たる節で吐血)
The Elsewhere Companyの一人称視点アドベンチャーゲーム『apartment: a separated place』を紹介する。本作は海外で今春にPC/Mac/Linuxで配信予定。公式サイトでは14.99ドルで予約が行われている(発売時にSteamでのダウンロードキーとDRMなしのプログラムが入手可能)。
本日記者が取材した、アメリカのカリフォルニア州サンフランシスコで行われたインディーゲームイベント“Playcrafting SFO”で、一見目立たない質素な展示ながら体験した人が口々に賞賛していたのが本作。
「4年付き合った彼女と別れたコミックアーティストの男が、元カノの思い出の詰まったアパートの一室で記憶と向き合い、内面世界へと潜っていく」という、海外インディーゲームに散見される「苦い経験」をインタラクティブストーリーとして仕上げたタイプのタイトルで、設定自体は普遍的なものだけに、これがまぁ思い当たるフシがある人にはウルトラ苦い悶絶モノの内容だった。
序盤をプレイした感じではゲームは大きく分けて2フェーズで構成されていて、まずプレイヤーは住居と仕事場を兼ねた現実のアパートからスタートする。部屋を歩き回り、特定のオブジェクトをクリックすると主人公の独白がテキストでオーバーレイ表示され、そのモノに関連してどんな思い出があったのか語られるのだが、「このクッションはまだ彼女の匂いがする……」とか、「そう、このテキストは彼女と出会った大学の講義で使ってたやつだ……」とか、さっぱり吹っ切ることができずに失恋こじらせコース直行のセリフがド直球の全力投球で投げ込まれる。
そう、人によっては笑うだろうレベルで痛い。でも失恋直後の心境なんか、多かれ少なかれ他人にしてみりゃ間抜けで痛いものだ。でもそれが自分に近い友達だったら「しょうがねぇな」、「バカだなぁお前」って言いながら慰めたくなってくるもの。本作でプレイヤーは、悶々とする男の視点と内心を体験しながら、妙なシンパシーをこの男に抱いていくという二重に折り重なった体験をするのだ。
思い出アイテムの中のさらに一部は、独白が終わるとコミックのコマに変わる。コミックアーティストである主人公は、自身の辛さを創作に昇華させられる存在でもあるのだ。そしてコミックのコマが一定数揃うと現実フェーズは終わりで、仕事部屋に戻るとコミック形式で元カノとの一連のストーリーが再度示される。
もうひとつのフェーズはそれまでの現実とは異なる、その部屋にこもった思念の内的世界とでも言うべき超現実的な世界で展開される。こちらでは歩みを進めていくにつれて、よりディープな想いが空間に浮かぶテキストで示されていく。ゲームならではのインタラクティブ性を活用し、グラフィカルに文章を伝えるというのは、本作で力の入っている部分のひとつだ。
このように、物語は現実の部屋フェーズと内的世界のフェーズを行き交いながら進んでいく。今回のデモでは体験しきれなかったのだが、ゲーム本編ではこのコミックアーティストの男ニックの部屋・物語を中心にしつつ、未亡人や不倫中の人、グラついている新婚夫婦といったアパートの他の部屋の住人の部屋・物語にも発展していくとのこと。
単なるテキストの置き換えでは済まない、タイポグラフィやグラフィカルなテキスト要素の比重が大きいゲームであるためローカライズは簡単ではないと思うが、渋く沁みるいいゲームなので、海外インディーゲームをローカライズするパブリッシャーには取り扱いを検討してみてほしいところ。