ベセスダ・ソフトワークスとDMMゲームズのキーパーソンに聞く
ベセスダ・ソフトワークス(ゼニマックス・メディア・カンパニー)とDMMゲームズが協業を発表。オンラインRPG『エルダー・スクロールズ・オンライン』(『ESO』)のWindows/Mac版を、日本市場に向けて2016年春に配信することを明らかにした。これにより、海外では2014年4月にサービスが開始され、好評を博している『ESO』が、満を持して国内で展開されることになる。
ベセスダ・ソフトワークスが、『ESO』の日本語版を配信するにあたって、パートナーとして選んだのが、ゲーム事業を開始してから4年目となるDMMゲームズ。PCブラウザ用ゲームを主力に急成長を遂げているDMMゲームズだが、北米コンテンツを手掛けるのは今回が初めて。両社の協業にはどのような戦略が秘められているのか、ベセスダ・ソフトワークスの高橋徹氏と、DMMゲームズの片岸憲一氏に聞いた。
DMMゲームズ 代表
片岸憲一氏(左)
ゼニマックス・アジア(ベセスダ・ソフトワークス)
ゼネラルマネージャー
高橋徹氏(右)
“新参者”であることがDMMゲームズを選んだ決め手!?
――東京ゲームショウ2015で両社の提携が発表されて、大きな衝撃を与えましたが、まずは協業のいきさつから教えてください。
高橋 ゼニマックス・アジア(ベセスダ・ソフトワークスを展開する、ゼニマックス・メディアの日本法人)は、これまで家庭用ゲーム機向けソフトのビジネスがメインで、PC向けはあまりやってこなかったんですね。それで、日本で『ESO』を展開するときに、自社でやるべきかどうか悩んだんです。『ESO』はMMORPGだから長期に渡ってサービスをサポートする必要があるし、当社のリソースも鑑みながら検討を続けている段階でした。そんなときに、DMMゲームズさんとお話する機会があったんですね。
片岸 DMMゲームズは、PCブラウザゲームにスポットが向けられがちですが、“PCゲームのプラットフォーム”として、インストール型のゲームにもけっこう力を入れていました。一方で、僕自身がSteamみたいなプラットフォームが大好きで、ローカライズされていない海外のすぐれたタイトルを日本に紹介したいと思っていたんです。そんな中、高橋さんとお話するご縁がありまして。トントン拍子に話し合いが進んでいきました。
――どちらからというわけでもなく、相思相愛で、タイミングがよかったんですね?
高橋 そうですね。『ESO』の日本語へのローカライズ、および日本国内におけるパブリッシングと運営はDMMゲームズさんにお任せすることにしました。
片岸 僕らが北米タイトルを手掛けるのはこれが初めてということもあり、あまりの順調さに僕もちょっとびっくりしました(笑)。DMMゲームズが相当な熱意とスピード感を持って臨んだということはあるかもしれません。高橋さんもいっしょに説得していただいて、今年の前半くらいには話が決まりました。
――DMMゲームズに決めた理由は?
高橋 DMMゲームズさんのブラウザゲームの運営を見ていて、安心してお任せできると判断しました。一方で、少し失礼な言いかたになってしまうかもしれないのですが、DMMゲームズさんがこの業界で“新参者”だったこともプラスだったんです。
――新参者であることがプラスに働いた?
高橋 過去に海外ゲームを手掛けたことがあるメーカーだと、過去の経験などから「こうじゃなくっちゃいけない」とか「ああしてほしい」などと、たぶんいろいろと注文をつけてきたと思うんですね。とはいえ、『エルダー・スクロールズ』シリーズというIP(知的財産)は、北米で非常に高いブランドを確立しているタイトルなので、独自のリクエストをもらっても、すべてに対応することが難しい。運営や課金に関する部分はある程度、国内でアレンジしていただいても構わなかったのですが、ゲーム自体のブランドイメージは守りたかった。DMMゲームズさんなら、その点は安心してお任せできると判断したんです。
片岸 それは僕も初耳でした。意外ですね(笑)。まあ、『ESO』のような超ビッグタイトルに対して、海外タイトルは初めてという我々のような“新参者”がやらせていただくわけで、不安に感じているファンの方も多いようではあります。その点に関しては……。
高橋 大丈夫です!(笑)
片岸 ファンの方をがっかりさせないよう、DMMゲームズとしては誠心誠意、しっかりやろうと思っています。DMMゲームズを設立して、最大のプロジェクトのひとつということもあり、ゲーム事業部の精鋭を集めて、全身全霊を込めて作り上げています。とくに、日本語のローカライズプロデューサーを担当するDMM.comラボ企画営業部の松本卓也は、かつて大手ゲームメーカーに在籍しており、家庭用ゲーム機向けソフトを多く手掛けた経歴がありますので、ご安心いただいていいかと。
高橋 『ESO』の開発を手掛けるゼニマックス・オンライン・スタジオのほうも、日本語版の展開に関しては相当やる気になっていて、全面的にサポートしてくれるようなので、期待していてくださって大丈夫です。
DMMゲームズがさらに飛躍するチャンスに
――ローカライズ作業は順調に進んでいるのですか?
片岸 はい。『エルダー・スクロールズ』シリーズのローカライズに携わったチームを紹介していただきまして、いま絶賛ローカライズ中です。『エルダー・スクロールズ』の世界観にはお詳しいので、そこは安心してお任せしています。ただ、とにかく量が膨大らしく。僕も海外タイトルのローカライズに関わるのはこれが初めてなので、前例を知らなかったのですが、詳しい者に言わせると「これはとてつもなく膨大です」と(笑)。
高橋 その通りです。ふつうに考えるととんでもない量なのですが、僕は最近『Fallout 4(フォールアウト4)』の作業をやっているから少し麻痺しているかもしれません(笑)。
――(笑)。
高橋 ただ、いちばんたいへんになるのは、リリース後の細かい修正だったり、アップデートだったりするかもしれません。あとは、コミュニティーまわりのサポートだったり。
――運営の難しさといったところですね?
片岸 そうですね。さらに言えば、ブラウザゲームに比べると、インストール型のものは余計に手間暇がかかりますからね。そこはしっかりやっていきたいと思っています。
高橋 あとは、ローカライズ作業もさることながら、テクニカルな面でいちばんやっかいになってくるのが、DMMさんのアカウントを『ESO』に組み込むところですよね。
片岸 自社のアカウントを他社さんのシステムに組み込むのは、DMMゲームズにとっても初めてのことなので、ドキドキしています(笑)。さらに言えば、『ESO』の配信を契機に、PCゲーム向けプラットフォームとしてのDMMゲームズのシステムをさらに充実したものにしていきたいと思っています。それは、インストール用のプラットフォームを用意したり、幅広い課金モデルに対応したり……といったことであるわけですが、さまざまなタイプのゲームを販売できるプラットフォームにしていきたいです。今回の『ESO』の配信は、DMMゲームズのプラットフォームが、今後さらに大きくなるチャンスをいただいたのだと思っています。
――ちなみに今回PC版が発表されましたが、家庭用ゲーム機の日本語版の展開は予定していますか?
高橋 『ESO』は海外ではプレイステーション4版とXbox One版が展開されていることはご存じの通りですが、国内向けので日本語版のプランはまだ検討中です。
――いずれにせよ、両社にとって『ESO』の配信は大きなチャレンジということですね?
高橋 いま日本で成功しているMMORPGは、スクウェア・エニックスさんの『ファイナルファンタジーXIV』を筆頭に、しっかりとしたIPがついた限られたタイトルになってしまうのですが、『ESO』で欧米発MMORPGのよさを知っていただきたいというのはあります。開発のゼニマックス・オンライン・スタジオにはベテランのクリエイターが多く、長いあいだ日本進出を期していたので、今回のチャンスを喜んでいるようです。
片岸 とにかく純粋に『ESO』を楽しんでいただきたいです。いまのご時世はフリー・トゥ・プレイが全盛で、ゲームシステムや課金がそちらに寄ってしまっています。『ESO』では、パッケージ販売(ダウンロード版あり)+選択制の有料プレミアム会員という販売形態なのですが、売り切りのよさってすごくあると思うので、その圧倒的なボリュームとクオリティーをぜひ楽しんでいただきたいです。
高橋 フリー・トゥ・プレイだと、どうしてもお金を出せば勝ててしまうという傾向になりがちですよね。個人的にはそうではないものがゲームではないのかなと思っています。
片岸 時間とか、情熱とか。『ESO』は、そんな時間と情熱をかけるに値するゲームです。
▼『エルダー・スクロールズ・オンライン』とは?
1994年に1作目が発売されるや、ファンから絶大な支持を受けたファンタジーRPG『エルダー・スクロールズ』シリーズ。本作は、その初のオンラインタイトルだ。プレイヤーはタムリエル大陸の謎を解き明かすべく冒険に身を投じることになる。シリーズの特徴とも言える、自由なキャラクターメイキングは健在で、クエストや探索、大規模なPvPバトルへの参戦など、とにかく幅広いゲームプレイが堪能できる。
国内展開にあたっては、DMMゲームズよりWindows版とMac版が国内独占配信。販売価格は未定(パッケージ版、ダウンロード版とも)。月額課金型の有料プレミアム会員サービス“ESO Plus”に対応しており、追加ダウンロードコンテンツパックなどの提供を予定。さらに、豪華アイテムが同梱されて海外で好評だった“Imperial Edition”同様に、国内でも独自の限定版の発売を予定しており、「日本オリジナルの特典内容を企画中」(片岸氏)との気になる発言も。2016年春配信予定となっている。