ゲーム業界を35年間見続けてきた襟川氏が、ゲームの過去・現在・未来を語る

 2015年10月23日、東京・秋葉原のTKPガーデンシティPREMIUM秋葉原にて、一般社団法人 デジタルメディア協会(以下、AMD)によるAMDシンポジウム“デジタルエンタテインメントの新潮流”が開催され、最前線のデジタルエンタテインメントに関わる4名が講演を行った。

 本記事では、コーエーテクモホールディングス 代表取締役社長/コーエーテクモゲームス 代表取締役会長 襟川陽一氏が、ゲームの歴史や未来について語った講演“コンテンツサービスの創造と展開”をリポートする。

襟川陽一氏が開発を夢見る、未来のゲームとは? ゲームの歴史や、今後の課題なども語られた講演をリポート【AMDシンポジウム】_01
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▲襟川氏は、1978年に旧コーエーを設立。その後、1980年にPCゲームに携わるようになってから現在にいたるまでの35年間、ゲーム制作の最前線に立ち続けている。

■ゲームの歴史

 最初に襟川氏が紹介したのは、ゲームの歴史。ゲームは、いわゆるアーケードゲームから始まった。とく有名なのは、1978年に発売された『インベーダーゲーム』だ。続いて、PCゲーム。襟川氏が最初に手掛けたのも、PCゲームだった。そして家庭用ゲーム、携帯電話用ゲーム、スマートフォン用ゲームなどが登場。これらのゲームプラットフォームが重なりあって、ゲーム市場は拡大してきた。クラウドゲームやウェアラブル端末も加わり、今後ゲーム市場は、さらにワールドワイドで発展していくと考えられる、と襟川氏は語った。

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■経営方針

 続いて襟川氏は、コーエーテクモホールディングスの経営方針である“IPの創造と展開”を紹介した。これは、成長性と収益性を実現するため、新たなIP(知的財産)を創造するとともに、多方面にIPを展開し、IPを軸とした総合的な発展を目指すというもの。

 コーエーテクモホールディングスは、純粋なオリジナルコンテンツを開発することを第一としつつ、“プラットフォーム展開”や“ジャンル展開”など、さまざまな形でIPを展開している、と襟川氏は実例を交えて語った。

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▲さまざまなハードでIPを展開する“プラットフォーム展開”。
▲『信長の野望』を例に語られた“ジャンル展開”。ひとつのIPを、シミュレーションゲームやカードゲームなど、さまざまなジャンルのゲームにして展開。
▲他社のIPとコラボレーションし、いままでにない新しいおもしろさを追求する“コラボ展開”。
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▲さまざまな業界とメディアミックスやコ・マーケティングを行う“タイアップ展開”。右は、『戦国無双4』と眼鏡市場のコラボレーションメガネ。コーエーテクモゲームス代表取締役社長の鯉沼久史氏も愛用しているという。
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▲広く世界に向けてIPを展開する“グローバル展開”。『ゼルダ無双』は、全世界で100万本出荷を達成し、とくに北米で盛り上がりを見せたとのこと。
▲アジア市場は日本のIPと親和性が高いと考えており、今後も積極的に展開していく、と襟川氏。中国では『真・三國無双7 with 猛将伝』が、PS4タイトルとしてランキングのトップを飾ったという。

■ゲームの未来

 つぎに襟川氏は、ゲーム市場の未来について、“ビジネスモデル”、“開発予算”、“新しいトレンド”の3つの観点から語った。

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◇ビジネスモデル

 35年間、おおむね一貫して成長し続けているゲーム市場。国内では、業務用ゲームや家庭用ゲームの市場は縮小傾向にあるものの、スマートフォン用ゲームが伸びており、総合的に拡大している。欧米では、家庭用ゲームの市場が順調に拡大。アジアではスマートフォン用ゲームが普及している。世界のゲーム市場は、今後も成長の持続が期待される、と襟川氏。

 そんな中で、ゲームのビジネスモデルは、携帯電話やスマートフォンの普及を境に、大きく変わりつつある。デジタルビジネスは、従来のパッケージビジネスとは違う形で発展。遊びかたによって自由に課金を選択できるようになった。このデジタルビジネスのありかたは、ゲームのシステムそのものにも影響を与えている。

 エレクトロニック・アーツは、昨年、デジタルビジネスの売上が全体のうちの50%を超えたとのこと。コーエーテクモホールディングスにおいては、昨年30%弱だったが、今年は30%を超える見込みだという。襟川氏は、デジタルビジネス化が世界的に増えていくと予想されると語った。

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◇開発予算

 開発費の高騰は、コーエーテクモホールディングスでも取り組んでいる問題のひとつだと語る襟川氏。これまで、スマートフォン用ゲームは家庭用ゲームよりも開発費が低い傾向にあったが、近年はスマートフォンの性能向上にともない、開発費や運営費が上がってきている、と述べた。

 長年コーエーテクモホールディングスでは、ゲームエンジンのような基礎技術開発に力を注いでおり、開発の効率化やコストダウンに努めてきたという。今後も、ゲームユーザーのニーズに応え、開発コストを抑えるために尽力していくとのことだ。

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◇新しいトレンド

 襟川氏は、ゲーム業界のトレンドとして、“ゲーム実況”、“スマホとゲーム機の融合”、“ヘッドマウントディスプレイ”、“クラウドゲーミング”、“ツクール系”を挙げた。

 ツクール系は、『マインクラフト』や『スーパーマリオメーカー』などの、ユーザーがみずからの手でコンテンツを作る、ユーザー参加型のエンターテインメントのことを指し、現在、世界各地で流行している。コーエーテクモゲームスも、ユーザーが自分なりの三国志を作れる『三国志ツクール』のリリースを近々予定している。

 なお、その他のトレンドについては、AMDシンポジウムにて、ほかの講演者が詳しく語っている。ぜひ下記のリンクから講演リポートをチェックしてほしい。
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■シブサワ・コウとして

 ここまで、ゲーム業界の現状や今後を解説してきた襟川氏だが、つぎに、クリエイター シブサワ・コウとして取り組みたいことを語った。

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 襟川氏は、クラウドサーバーを何台もつなげ、スーパーコンピュータなみの処理能力を生み出してゲームを制作したいと夢見ているという。その処理能力と、家庭用ゲーム機やスマートフォンの性能を融合させたゲームを作りたい――それは、『大航海時代』を例に語るならば、自然世界の物理シミュレーションはクラウドサーバーが担当し、プレイヤーの冒険部分は、端末であるゲーム機が担当する、という形。いままでにない雄大さ、表現力を持ったゲームになるのではないか、と襟川氏は構想を語った。

 その夢に加え、襟川氏は、ここ2~3年で取り組みたいという目標を3つ挙げた。

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◇歴史シミュレーションゲームの継続
30周年を迎えた『三國志』シリーズなどを、引き続き作っていく意欲を見せる襟川氏。なお、『三國志』シリーズの最新作『三國志13』は2015年12月10日発売予定。

◇シニア向けエンターテイメント
50~60代のシニア層向けを満足させる、日本の文化に根ざした、社会性のあるコンテンツを作りたいとのこと。

◇斬新なゲームシステム
襟川氏は、“家庭用ゲームで、システムのおもしろさで勝負ができる、斬新でサプライズ感のあるタイトルを生み出したい”と力強く語る。その取り組みのひとつが『仁王』。特徴のあるゲームシステムのアクションRPGで、日本の歴史や文化を発信するという意味も込めて、力を入れて開発しているとのことだ。

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 最後に襟川氏は、コーエーテクモゲームスの最新タイトルをまとめた映像を、IPの創造と展開の具体例として紹介。充実のラインアップを示し、講演を締めくくった。

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▲個性豊かなIPが、多彩な形で展開されていることが、ムービー内で端的に示されていた。