VR普及に向けて、まさに機は熟した!

 2015年10月23日、東京・秋葉原のTKPガーデンシティPREMIUM秋葉原にて、一般社団法人 デジタルメディア協会(以下、AMD)によるAMDシンポジウム“デジタルエンタテインメントの新潮流”が開催。最前線のデジタルエンタテインメントに関わる4名が講演を行った。

◆講演者
襟川陽一氏(コーエーテクモホールディングス 代表取締役社長)
浜村弘一氏(カドカワ株式会社 取締役 ファミ通グループ代表)
吉田修平氏(ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント)
和田洋一氏(シンラ・テクノロジー・インク プレジデント)

◆コーディネーター
夏野剛氏(慶応義塾大学大学院 特別招聘教授)

 本記事では、ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏による講演“バーチャルリアリティシステム『プレイステーション VR』の展望”の模様をお届けしよう。

SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_01

 ここ数年ゲーム業界で注目を集めているVR(バーチャルリアリティ)。いよいよ2016年にはPlayStation VRの発売が控えているが、吉田氏は講演の冒頭で、VRの魅力を「プレイヤーがゲームの世界に入り込める。これまではプレイヤーはスクリーンの前にいたが、VRではプレイヤーがゲームの世界にすっぽりと入り込めるんです」と、その革新性に言及した。

 とはいえ、VR自体は新しく出てきた概念というわけではない。VRは1960年代から開発が取り組まれ、軍事シミュレーションのトレーニングなどにも活用されていたという。1999年代には映画『バーチャル・ウォーズ』などをきっかけに大きなブームにもなった。とはいえ、当時のコンピュータの性能では力が足りず、シンプルなコンテンツしかできなかった。合わせてコストが高かったこともあり、ビジネスとしては衰退してしまったという。以降は、業務用を中心に、細々と開発が続いている状態だったのだ。

 それがいま、VRが花盛りになりつつあるのはなぜか? その理由を吉田氏は3つ挙げる。それが以下の3つだ。
・スマートフォンの爆発的な普及
・コンピュータ3Dグラフィック性能の飛躍的向上
・リアルタイム3Dグラフィックを使った高品質なインタラクティブエンターテインメント開発ツール、開発者の存在

SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_02

 ちょっと意外な言及だったのが“スマートフォンの爆発的な普及”だが、こちらはスマートフォンのコンポーネントはVRデバイスのそれと親和性が高いところからきたもので、これはサムソンがOculus VRとコラボして展開しているGEAR VRなどを見ればおわかりいただけると通り。スマートフォンの存在が、VR体験の敷居を下げているというわけだ。

 さて、普及に向けての機は熟したとも言えるVR。PlayStation VRを筆頭に、来年に向けてVRデバイスの発売が続々と予定されている。吉田氏は、今後のVRの目指す方向性のキーワードとして“プレゼンス”を挙げる。プレゼンスとは、“没入感を超えた別の世界に自分が存在することを信じてしまう感覚”のこと。まさに、自分がその場に存在するかのような、まさに没入感を超えた世界だ。

 この“プレゼンス”はVRのみで実現可能だが、一方でとても壊れやすいものだ。ちょっとでも世界観に破綻が見られれば、急速に萎えてしまうだろうことは容易に想像がつくことだ。吉田氏は、“プレゼンス”を得るための構成要素として、“風景”、“音”、“トラッキング”、“コントロール”、“快適さ”、“コンテンツ”をピックアップしつつ、「違和感を少しずつ取り除いていくことが大事」(吉田氏)だと説明した。

SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_03
SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_04
SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_05

 と、ここまでVRそのものに対する考察を展開したあとで、吉田氏はSCEが満を持して2016年にリリースするPlayStation VRについて触れる。吉田氏は改めて、PlayStation VRのスペックについて言及したあとで、VRを家庭用ゲーム機のプレイステーション4で展開することのメリットとして、“安価かつ規格が統一のプレイステーション4で体験できるエンターテインメント”と“有機ELディスプレイと120fpsで表現する繊細かつ円滑な映像体験”を挙げた。統一規格のハードに向けてコンテンツを開発することで、開発に向けての敷居が下がるのはご存じの通りだ。

 開発者にやさしいデバイスPlayStation VR。吉田氏はさらに踏み込んで、PlayStation VRのメリットとして、“プレイステーション4開発環境およびサポート体制の優位性”について触れた。具体的な例として挙げられたのが、“ハードウェア仕様との整合性と統一性”、“対応エンジンで作成されたゲームを簡単に移行できる”、“遊びかたのインプットの幅広さ”、“ソーシャルスクリーン機能による新しいプレイスタイル”だ。ちなみに、“ソーシャルスクリーン”とは、VRデバイスとテレビモニターを駆使してのマルチプレイの仕組み。「VRデバイスを遊ぶことで孤立しないように」(吉田氏)との配慮から開発されたもので、たとえば、テレビモニター側からモンスターにモノを投げて、VRデバイス側はモンスターになって投げられたモノを避ける……といったことが可能になるようだ。

SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_06
SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_07
SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_08
SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_09
▲講演では、『サマーレッスン』を試遊した方の「現実に戻ってこれなくなります」という感想を紹介。まさに実感というべきであろう。
▲『Monster Escape』を例に、“ソーシャルスクリーン機能”が紹介された。

 講演では、吉田氏はVRのさらなる可能性について語る。VRにはゲーム以外の分野として、シミュレーターやデザイン・建築、教育・研究、音楽、ライブイベント、バーチャルトラベル、スポーツ、イベント観戦など、幅広い用途が期待できるというのだ。「幅広い用途で、VRの技術と意識することなしにデバイスを使う日が、わりとすぐに来ると思います」と吉田氏は断言する。実際のところSCEに対しては、たくさんの企業から問い合わせがあるようで、「VRの状況を見ながらゲーム以外の分野でも活用を考えていきたい」と吉田氏。

SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_10

 さらに吉田氏は、VRの今後の課題に言及。まず挙げられたのが“品質の高いコンテンツ”。いうまでもなくデバイスの生命線はコンテンツ。吉田氏は「ノウハウ集のシェアやデベロッパーとの情報交換を図ってよいコンテンツを目指したい」とひとこと。たとえば、VRの大きな命題として、モーションシックネス(いわゆるVR酔い)が挙げられるが、モーションシックネスを起こさないようなノウハウを共有していきたいという。

 吉田氏がもうひとつ挙げたのが、“ユーザーコミュニケーション”。言うまでもなくVRは体験してこそその魅力がわかる。吉田氏は、体験機会の創出をしつつ、「偏見を持たない、明るく、ソーシャルなイメージ創りを心がけたい」という。

SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_11
SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_12

 そして最後に吉田氏は、「百見は一体験に如かず」という、VRの魅力を訴求する際におなじみ(?)となったフレーズで講演を締めくくった。PlayStation VRがリリースされる2016年。VRはどのような広がりを見せていくのか――期待が高まる。

SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPlayStation VRの持つ可能性と課題を語る【AMDシンポジウム】_13