稲船敬二氏が新規タイトルを配信決定 新規ゲームプラットフォームの戦略を聞く

 ヤフーが運営するゲームサイト“Yahoo!ゲーム”。同サイト内で展開している“かんたんゲーム”が装いも新たにリニューアルを果たした。“かんたんゲーム”とは、“完全無料・ログイン不要・インストール不要”を特徴とした、PC、スマートフォン、タブレット端末向けのHTML5専用のゲームプラットフォームだ。同サイトでは、2014年夏のサービス開始以降、これまで約100タイトルを配信。この9月からはユーザーインターフェースを一新し、稲船敬二氏監修による『マイティ No. 9-がんばれ!ベック-』やDLE社提供の『鷹の爪団の神経衰弱』、『パンパカパン工場』などの注目ゲームの配信を開始した。“かんたんゲーム”リニューアルの狙いとは? ここでは、“かんたんゲーム”を担当するヤフー脇康平氏と、同サイトのリニューアルに際してタイトルを提供した稲船敬二氏へのインタビューをお届けする。

※HTML5:HTML(ウェブ上の文書を記述するための専用言語)の5回目の改訂版。従来の技術に比べ、動画や音声、グラフィック描画がより高品質となり、多彩なゲーム表現が可能になっている。

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稲船敬二氏(右)
文中は稲船
comcept
CEO
コンセプター

脇 康平氏(左)
文中は
ヤフー
パーソナルサービスカンパニー 
ゲーム本部 ゲームメディア部 
リーダー/プロジェクトオーナー

ブラウザゲームがもたらす間口の広さが大きな魅力

――脇さんは、どのような経緯で“かんたんゲーム”に関わることになったのですか?

 私自身はもともとゲームメーカーでプロデューサーを務めていたのですが、前々からゲーム業界の裾野をさらに広げたい、という思いがあり、約1年半前にヤフーに入社しました。“かんたんゲーム”自体は昨年夏に立ち上げられていたのですが、私自身はこの春から責任者を担当しています。もともとは、“ヤフーらしい遊びの形を作る”、ということに取り組んでいたのですが、HTML5の持つ大きな可能性に魅力を感じまして。いまはHTML5向けコンテンツに注力しています。

――HTML5のどのような点に魅力を?

 表現としては、すでにネイティブアプリと遜色がないくらいのレベルまで来ていますし、更新性も非常に高く、いちいちダウンロードし直すといった手間もない点です。特筆すべきはマルチデバイス対応であること。いったんHTML5で作っておけば、PCはもちろん、スマートフォンやタブレットでもストレスなく遊べるという点が何より魅力だな、と。

――稲船さんとコラボするに至ったのはどのような経緯だったのですか?

 もともと私は稲船さんのファンだったんです。稲船さんの、“クリエイターとして自由な環境でモノ作りをして勝負していかないといけない”という姿勢に強く共感していたんです。それでヤフーに来てから定期的に情報交換させていただいていました。やはりプラットフォームを作り上げていく過程では良質な作り手のご協力は欠かせないですし、稲船さんのような“背中で見せてくれる方”が、“かんたんゲーム”を魅力溢れる場に成長させていくためには欠かせない存在だと思いました。

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稲船 お話をいただいたのは、1年くらい前でしたね。もともとヤフーに関しては、膨大な会員を抱えているということもあり、ゲームプラットフォームとしての可能性をとても感じていたんです。ただ、端から見ると少し試行錯誤しているという印象がありました。それが、脇さんたちからお話をいただいて、「これは本気だな!」と。そのときは少しタイミングが会わなかったのですが、今回“かんたんゲーム”のリニューアルにあたって、『Mighty No. 9』のコンテンツを配信させていただくことになりました。

――HTML5のブラウザゲームも、チャレンジを後押しした要因のひとつですか?

稲船 そうですね。家庭用ゲーム機があって、ネイティブアプリがあって、というところで言うと、決してコアゲーマー向きというわけではないのですが、大きな可能性が感じられました。何よりも、僕が“ゲームクリエイターとして達成したいこと”を叶えてくれるプラットフォームではないかと期待したんです。

――“夢”ですか?

稲船 はい。低年齢層からものすごく年齢層の高いユーザーまで、世界中の誰もが知っているコンテンツを作ることが僕の目標なんです。いまこれを実現しているのは、任天堂の宮本茂さんだけかもしれませんが……。とはいえ、いまのゲーム市場を考えると、“幅広い層に訴求する”というのはけっこうな難題で、売り上げなどのことを考えると、どうしてもターゲットを絞りこまないといけない。

――つまり、幅広いゲームを作ることを、時代が許容してくれないということですね?

稲船 でも、僕としては狙いたいし、“かんたんゲーム”はそれを実現してくれるプラットフォームではないかと期待しています。それくらい敷居が低いプラットフォームなんです。
脇 Yahoo! JAPANの会員数の多さと、“かんたんゲーム”の敷居の低さは、大きな魅力だと自負しています。現に、“かんたんゲーム”では、いままであまりゲームを触っていないような方に楽しんでいただいています。とくに30~40代の女性や40~50代の男性などに遊んでいただけるというのが大きな特徴です。

稲船 そういう意味では、“ゲームとは認識せずに楽しんでいる人たち”が遊んでいるゲームにもチャレンジするのは、すごく有意義なことだと思うんです。幅広い層に向けて、初めはシンプルなコンテンツから始まって、徐々にゲームの可能性を広げていけるんじゃないかと。しかも、そのチャレンジが、頻繁にできる。家庭用ゲーム機だったら、ともすれば結果が出るまでに3~4年かかるわけですが、ブラウザゲームなら、極端な話1~2ヵ月で結果が見えてくる。それだけたくさんチャレンジできるんです。つまり失敗できる(笑)。

 いまのクリエイターさんと話をすると、「企画自体はおもしろいと評価してもらえるけれど、けっきょくはビジネス優先になってしまって作れない」ということをよく聞きます。ゲームとはいえ、ビジネスですからそれも当然なのですが、遊びの枠を広げよう、という動きは少し減って来ているのかな、と。いま盛り上がっているネイティブアプリ市場も、開発費が高騰してリスクも上がってきていますから、なかなか自由にゲームが作れない。そんな状況に風穴を開け、挑戦的なゲーム作りにチャレンジできる場を、このプラットフォームで提供できれば、と思っています。

“かんたんゲーム向けに今後も続々と提供予定

――今回配信開始した『マイティ No. 9 -がんばれ!ベック-』はどのようなコンセプトで?

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←稲船氏が“かんたんゲーム”に投入する『マイティ No. 9 -がんばれ!ベック-』。かわいいキャラクターも幅広いユーザーを見込んでのこと。

稲船 間口を広げつつも、コアゲーマーにも満足してもらえるようなゲームに仕上げています。基本はシンプルなのですが、途中からどんどん難しくなっていくんです。敵の倒しかたによっては、点数がぜんぜん変わるという要素をこっそり入れていたりします。ある意味で、試験的な意味合いの濃いゲームです。

――今後、“かんたんゲーム”プラットフォームでのタイトル展開はどのように?

稲船 続々とリリースしていく予定です。“かんたんゲーム”では、『Mighty No. 9』のIP(知的財産)の訴求も裏テーマにしています。最初のリニューアルの段階でも新しく10タイトル配信するのですが、気軽にできることは全部手を出していこうかなと。年内に20~30タイトルはいきたいですね。

――20~30タイトルもですか?

稲船 はい。本屋さんに例えると、ネイティブアプリがベストセラー小説を買ってじっくり家で読む行為だとしたら、HTML5のブラウザゲームって、雑誌の立ち読みに近いんですよね。ああだこうだと内容を確認できる。気に入れば買うし、気に入らなくても情報は得られるんです。で、Yahoo! JAPANはとても大きな本屋さんなんです(笑)。何でも揃っている本屋さんに行って、「こんな雑誌あったんだ!」というのが、ブラウザゲームの利点。やっぱり魅力的な雑誌を並べたいですよね。

――最後に、今後の“かんたんゲーム”での目標を教えてください。

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 今回、稲船さんのようなインパクトのある方に“かんたんゲーム”に参入していただけたのですが、ぜひ多くのクリエイターさんに注目していただきたいです。また、今後もユーザーの皆さんに楽しんでいただけるような仕掛けをいろいろ準備していきたいと思っていますので、ぜひ期待していてください。

稲船 HTML5は、一見簡単そうなのですが、作りかたによっては奥深くできる。今後はさらにゲームのおもしろさを味わってもらえるようなコンテンツを作っていきたいです。“かんたんゲーム”はプラットフォームとしても最適で、Yahoo! JAPANを閲覧する人たちが、1日に1回はゲームを触ってもらえるようなコンテンツを目指したいと思っています。

“かんたんゲーム”9月配信開始タイトル

 ヤフーでは、“かんたんゲーム”展開にあたり、さまざまな企業との協業を積極的に展開。9月より、“秘密結社 鷹の爪”でおなじみのDLE社によるゲームなど、バラエティーに富んだタイトルが多数ラインアップされている。参加パブリッシャーやタイトルは、今後も追加予定とのことだ。

・『マイティ No. 9 -がんばれ!ベック-』
・『鷹の爪団の神経衰弱』
・『パンパカパン工場』
・『貝社員のあるあるあるよね 間違い探し
・『つめつめ ねば~る君
・『隠された魔泡玉の遺跡』     ほか

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『鷹の爪団の神経衰弱』

 “秘密結社 鷹の爪”とのコラボ作。おなじみ吉田くんといっしょに、世間から隠れている、親父たちを見つけ出していくという神経衰弱ゲーム。

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『パンパカパン工場』

 DLEと静岡放送が展開中のアニメ『パンパカパンツ』をモチーフにしたオリジナル作。パンパカくんといっしょにいろいろなパンを焼こう。

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『つめつめ ねば~る君』

 “ねば~る君”を納豆パックに詰めて、制限時間内にいくつ出荷できるかを競う。納豆をモチーフにした茨城県非公認マスコット“ねば~る君”を起用!