1980年7月に初めてガンプラが発売されてから今年で35周年。そして来年は“ガンプラ工場”の俗称で呼ばれることもある、バンダイホビーセンターの稼働から10年を迎える。そんなガンプラ35周年の総決算とも言えるこの企画の第4弾では、ガンプラのパッケージデザインなどを手掛ける、小林幹広氏のインタビューをお届け!!

バンダイホビーセンター徹底取材第4弾! ガンプラ作り手インタビュー デザイン担当編_01
▲バンダイホビーセンターに勤務する、デザイン担当(部署は企画開発チーム)の小林幹広氏。パッケージや取扱説明書などのデザインを始め、ガンプラに付属するデカールやマーキングシールなども手掛ける。

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ポイントは“世界観に浸れるビジュアル”

――この仕事に携わることになった経緯を教えていただけますか?

小林幹広氏(以下、小林) 小学生のころからガンプラは大好きで、当時から“ガンプラはボックスアートで買う”派でしたね。そういう意味では、いまの仕事は当時の経験も踏まえて取り組めている、理想的なものだと思います。

――なるほど。ちなみに、そんな小林さんが好きだったモビルスーツは何でしょう?

小林 アッガイと量産型ザクですね。モビルスーツ自体のデザインも大好きなんですが、いずれも1/100プラモデルのボックスアートに惚れて買った記憶があります。他にボックスアートに惚れて買ったのは、マニアックですが『MSV』シリーズのザク強行偵察型でした。

――小林さんが“カッコいいデザイン”だと思うポイントはどんなところになるのでしょうか?

小林 ひと口で言うと、“世界観に浸れるビジュアル”でしょうか。自分の手掛ける商品に関していえば、好きなガンダム作品の好きなMSの好きなあのシーンやポーズを、目前のボックスアートや完成品写真で「あぁ、これだよね!」と感じ取ってもらうことが理想的だと思います。

――小林さんがデザインを手掛けたガンプラにはどのようなものがありますか?

小林 直近では、『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』の『HG= シャア専用ザクII』や、『RE/100』シリーズのガンダムMk-IIIなどがあります。印象深い過去のアイテムには、MGで最初に担当を任されたサザビーと、HGUCのデンドロビウムなどがあります。大型アイテムは思い出深いですね。また、HGの『ガンダムSEED』シリーズと、カトキハジメさんが全体をプロデュースする『Ver.Ka』シリーズの立ち上げ担当として携われたのは、デザイナーとしての大きな糧となりました。

――ボックスアート自体は、多くのイラストレーターさんが描かれていると思うのですが、小林さんのお仕事はイラストの発注になるのでしょうか?

小林 ボックスアートに関してはイラストの内容を考えることと、パッケージのトータルデザインになります。イラストの内容は、劇中の活躍シーンや商品の付属品、ギミックなどを考慮しながらいくつかの案にまとめ、関係各位の意見も踏まえてイラストを発注しています。あとは、デザイン担当としての重要な業務としては、ほかにも取扱説明書やデカール類のデザインがありますね。いずれにしても、「魅力的でありながらも正しく、わかりやすくお客様に伝える」ということが重要だと思っています。

――なかなか難しそうですね。

小林 「商品として正しくわかりやすい情報を伝えつつ、ビジュアル的なおもしろさや迫力を出す」ということは、場合によっては相容れないこともありますから、そのバランスで悩むことはありますね。

――ほかに、デザイン担当として苦労するポイントには、どんなものがありますか?

小林 印刷物としての発色の確認や商品説明の読みやすさなど、デザイン上で配慮する部分は数多くあるため、細部にまで気を配らなくてはならないことですね。それと同時に、パッケージや取扱説明書のデザイン業務は商品作り全行程の終盤まで携わるところにありますので……いつも発売スケジュールとの戦いです(笑)。そういうシンドさはつねにありますが、デザインが完成したときの達成感は格別ですね。

――なるほど(笑)。ちなみに、パッケージのイラストを発注する際には、何か明確なルールがあるのでしょうか?

小林 イラストレーターさんに自由で大胆なポーズのイラストを描いてもらいたい、という想いもありながら、ディテールやギミックなどの商品仕様を正確に表現するという商品パッケージの大前提を守らなければならない部分もあり、葛藤することもしばしばです。また、パッケージで描かれているモビルスーツのポーズは、商品を組んで動かしたときにもなるべく再現できるよう心がけています。イラストレーターさんとの相互作用で、そこがうまく昇華できたと感じられたときは、とてもうれしい瞬間でもあります。

――ちなみに、小林さんがデザインという仕事をしていくうえで、もっとも影響を受けたモノ、あるいは人物は?

小林 デザイン担当の大先輩である故人の加藤智さんだと思います。加藤智さんが『MSV』シリーズや『ザブングル』シリーズのデザインを手掛けられたこと、そして私がそのパッケージに惚れ込んでプラモを買ったことが、いまの自分を形成しているのだと思います。ガンプラではないですが、後に『1/100ウォーカーギャリア』のデザインを担当させていただけたのは幸運でした。

――続いては直球すぎる質問かもしれませんが……ボックスアートは商品の売り上げにどの程度影響するものなのでしょうか?

小林 正直なところ、ハッキリとした答えを導き出せていません(苦笑)。ボックスアートを含めたパッケージはあくまでもプラモデルのひとつの構成要素であり、お客様が商品を手に取って購入に至るまでには、ほかにもさまざまな想いがあると思うからです。ただ、担当商品の感想を目にした際に「パッケージがカッコよかった」と書かれていたときは、もちろん素直にうれしいですね。

――次も聞きづらい質問なのですが……これまでのお仕事のなかで、いまだから話せる失敗談などはありますか?

小林 入社して間もない時期で、まだデジタル製版が本格化したばかりのころの話なんですが、カラーで出るはずのものの一部が設定ミスでモノクロ印刷されてしまったことですね。

――それは……震えますね(笑)。

小林 結果的に世には出ませんでしたが、肝を冷やしました(苦笑)。

――では、そんな恐ろしい記憶は封じて次の質問を。デザイン担当として「ガンプラのここを見るとおもしろい」という部分はありますか?

小林 すでに多くの人が注目していることかも知れませんが、イラストレーターさんのクレジット表記を見ていただくと、誰がどのイラストを描いているかがわかり、それぞれの個性を感じられて楽しいと思います。また、とてもマニアックな楽しみとしては、部品注文説明部の料金表を見ながら注文パーツの合計料金を計算してみてはいかがでしょう? いままで部品注文の経験がない方でしたら新鮮で楽しめるかもしれません(笑)

――最後になりますが、ガンプラ40周年までにやりたいことがあれば教えてください。

小林 ガンプラ生誕35周年の節目に『REVIVE』したHGのRX78-2ガンダムと『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の『HGシャア専用ザクII』に携われたので……40周年ではもっと好きな量産型ザクかアッガイの最新版に携われるといいなぁ、と思います(笑)。

バンダイホビーセンター公式サイト
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