最初は、たぶん『ポケモン』と間違えているんだろうと……

 優れたコンピューターエンターテインメントソフトウェア作品を選考し、表彰することを目的に設立された日本ゲーム大賞。今年も、“年間作品部門”の一般投票が受付中だ。ゲーム業界でも、ことに大きな存在感を放つ日本ゲーム大賞の意義とは? ここでは、昨年の日本ゲーム大賞 2014にて、特別賞を受賞したニンテンドー3DS用ソフト『ソリティ馬』を手掛けたゲームフリークの田谷正夫氏へのインタビューをお届けしよう。

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ゲームフリーク・田谷正夫氏に聞く 『ソリティ馬』で日本ゲーム大賞・特別賞を受賞して歴史に名前を残せたような気がして光栄_04

ゲームフリーク
開発部 プログラマー
田谷正夫氏

――特別賞を受賞したときのご感想をお教えください。
田谷 最初に「日本ゲーム大賞のお知らせが来ていますよ」って聞いたときは、「たぶん『ポケモン』と間違えているんだろう?」と思ったというのが正直なところで、何かの間違いだろう……と、にわかには信じられませんでした(笑)。それが「どうやら本当らしい」ということで、日増しにドキドキしてきまして(笑)。最初は驚き以外の何ものでもなく、だんだんじわじわとうれしい気持ちが沸き上がってきましたね。そして、何か粗相があったら、下手をしたら受賞が取り消されてしまうんじゃないか……と思って、ビクビクしていました(笑)。

――あはは、なんとも微笑ましい。『ソリティ馬』に関しては、けっこういろいろな賞を受賞されていますよね? もっとどんと構えていてもいいような気が……。
田谷 遊んでいただいたユーザーさんや、ゲーム業界の目利きの方にも評価していただけて、いろいろな賞をいただいたのですが、日本ゲーム大賞ともなりますと、よりいっそう関係者も多そうだし規模も大きそうだぞと……。やっぱり緊張しました。

――特別賞を受賞されて、変化したことはありましたか?
田谷 クリエイターの知り合いとか、ライターさんとか、ゲーム業界のいろいろな方々から「おめでとう!」という連絡やメールをいただきました。ほかの賞をいただいたときは、そういうことはなかったですね。

――ああ……影響力が違うということかもしれませんね。
田谷 あと、「これはすごいな!」と思ったのは、日本ゲーム大賞の特別賞を受賞してから半年後くらいに、ゲーム雑誌ではない一般誌にも取り上げていただく機会があったのですが、近所のスーパーで買い物をしていると、おばさんから「ゲームを作っていらっしゃるんですね」って話しかけられたんですよ。それで、「すごいですね」と言われて、「ありがとうございます」というやりとりをして……。

――なんと! それは目に見えてわかりやすい効果ですね。
田谷 あと、『ソリティ馬』は弊社の“ギア”という制度を使って作った2作めのゲームだったんです。が、自社パブリッシングという意味では初めてのタイトルで、ここまでの賞をいただけたということでは、けっこう大きな成果だろうということで、立ち上げメンバーに臨時ボーナスが出ました。そのときは、「やってよかったなあ!」って(笑)。

――そういう意味では、初めての自社パブリッシングということで、失敗が許されない中で、プレッシャーも高かったのではないですか?
田谷 もちろん、「お客様に喜んでもらえなければどうしようもない」という意味でのプレッシャーはあったのですが、「“ギア”だから」、「自社パブリッシング第一弾だから」ということはあまり意識していないつもりでした。それがいざ特別賞を受賞してみると、すごくほっとした感じが後からやってきて、「ああ、けっこうプレッシャーを感じていたんだな」と身に沁みました。

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――なるほど。受賞してプレッシャーを感じていたことを実感したのですね。ところで、『ソリティ馬』のどんな点が評価されての受賞につながったと思いますか?
田谷 そもそも『ソリティア』と競馬を組み合わせるということを誰もやらなかったので、それをやったことが斬新だったのかなと。あとは、いわゆる“中毒性”。『ソリティア』がもともと持っている中毒性と、競馬のレース、育成が生産をくり返すことでもたらされる中毒性が二重構造になっているのが新しい体験だったんじゃないかなと思います。

――その二重構造の中毒性も、さらにマッチングがよかったということですかね?
田谷 うーん。そこはどうでしょう。それがベストなやりかただったのかと言われれば、わからないです。もっとよい組み合わせというものがあったのかもしれないし、もっとよい仕上げかたもあったのかもしれないです。いずれにせよ、荒削りなゲームだとは思っていますけど、その変な熱量みたいなものや開発者の意気込みが伝わっているのではないかと。荒削りなんだけど、すごく新しいし、なんか無茶をやっている感じとか。価格は500円だから、そんな荒削りなところも目をつぶってもらえるかな……とか。ユーザーの方からは、比較的愛されているのかな……という感じもすごく受けています。

――インディーゲーム的でありつつも……といったところでしょうか。
田谷 はい。そんな気もしますね。インディーゲームっぽいというのは、けっこういろいろなところで言われた記憶があります。

――『ソリティ馬』がリリースされたのは2013年ですよね? ちょうどインディーが潮流になり始めたころですね。
田谷 自分としては、そこを意識してはいなかったんですけど、何のブランド力もないゲームなので、「おとなしくしていたらどうしようもない」というのはありましたね。「誰からも文句がこないように、表現をマイルドにする」といったことは極力やらないようにしたんです。一部の方には嫌われても仕方ないけど、一部の方にはとにかく強烈に突き刺さるように作らないと、もうつぎはないという気持はありました。

――なるほど。それは意外ですね。強烈に突き刺さるとのことですが、たとえばどのような点が?
田谷 本当に細かなことですよ。開発中は日々いろいろなことを判断していたわけですが、「ここではどうする?」となったときに、「無難な方向を取るのは、別にこのゲームでやらなくてもいいじゃん」という方向性で、いろいろなことを判断していったという。たとえば、わかりやすい例をご紹介しますと、『ソリティ馬』の最初の段階では、「なぜ『ソリティア』がうまくできたら競走馬をうまく走らせることができるのか?」という説明がなされていなかったんですよ。その説明を何かつけないといけないということになって、何となく思いついたのが、始めに馬に蹴られて死んで、そして神様が出てきて、スーパーパワーみたいなものが発動するという筋立てだったんです。ちょっとメチャクチャですよね(笑)。社内でも「蹴られて死ぬ、というのはネガティブだから、イメージ的にどうだろう?」ということも言われたのですが、そこをマイルドにしたらインパクトがなくなってしまう。さらに言えば、「あるとき『ソリティア』を遊んでいたら急に超能力が閃いた」みたいな展開にしたら、それこそ絵的にもおもしろくないし、インパクトも弱い。「そこはやっぱり蹴られて死ぬシーンにしよう!」ということで、蹴られて死ぬシーンをものすごく力を入れて作ったんです。『ソリティア馬』のすべてのプレイヤーさんが1回しか見ないはずなんですけどね(笑)。けっこう力を入れました。

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――(笑)。それはまさにこだわりですね。せっかくの機会ですので、『ソリティ馬』の今後の展開などを教えてください。続編の要望はけっこう多いのではないかと思いますが……。
田谷 そうですね。「続編を作ってほしい」という声は、ちらほら聞いたりします。いまはスマートフォン版をリリースしておりまして、その運営に力を入れている状況です。「『2』を作るとしたらこんな感じなんだろうな」というのは、何となくではありますが、イメージはあります。ただ、いまは本当にスマートフォン版の人手が足りていなくて、そちらに注力している状況なんです。

――スマートフォン版の運営もたいへんそうですね。
田谷 そうなんです。ちなみに、スマートフォン版に関しては、ユーザーが育成したウマどうしで対戦できる機能“ドリームレース”を実装したばかりなんです。ウオッカやオルフェーヴル、ダイワスカーレット、ディープインパクト、ナリタブライアンといった実在馬も登場するので、競馬ファンにも喜んでいただけるのではないかと。

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――ちなみに、“ギア”に対する手応えはいかがですか?
田谷 企画を立ち上げて、「これを作りたいんだ」という熱量だけで開発させてくれるという制度は、ありがたいと思いますね。自分としては、新しいゲームを作りたかったので。実際に『ソリティ馬』を作ってみて、ここまで評価していただけるものを作れたので、まずはほっとしていますし、“ギア”の初期プロジェクトとしての役割は果たしたのかなと思っています。実感するのは、やっぱり一から作るのってものすごくたいへんです。シリーズモノだといままでのノウハウがそのまま通用するのですが、一から作るとそれがまったくない。これは当たり前の話なんですが……。本当にたいへんというのが正直な感想です。これを今後も続けていくというのは、会社として本当にたいへんだろうなあというのは感じています。

――自由に作れるからこそ、負担も大きいということですね。逆に作ってみて、たいへんさが改めてわかったと?
田谷 はい。

――ちなみに、『ソリティ馬』以降で、“ギア”の制度で審査が通ったタイトルって?
田谷 今年の7月に海外でセガさんから発売される『TEMBO THE BADASS ELEPHANT』ですね。

――ああ、あれってやっぱり“ギア”なんですか?
田谷 そうなんです。あれもおもしろいと思いますよ。2Dの横スクロールアクションで、対応プラットフォームがプレイステーション4とXbox OneとSteamということを考えると、インディーのゲームスタジオさんが開発してリリースする感じに近いのかなと。あれも同じフロアで開発していて、たまに遊ばせてもらったりするのですが、触るたびに動きがよくなっていて、けっこういい感じですよ。

――それでは、改めての質問になりますが、日本ゲーム大賞にはどんな意義があると思いますか?
田谷 大上段に構えて“意義”なんていうと、なんか偉そうになってしまうのですが、ビデオゲームってほかの娯楽メディアと比べてやっぱり歴史が浅いですよね。そういう意味では、こういう催しを続けて歴史を積み重ねていただいているのは、同じ業界にいる人間としてはすごくうれしいし、ありがたいです。後から「ああ、確かにあの時代はこのタイトルがヒットしたよね」といったことを振り返ることができるのは、それだけで大きな意義があると思います。今回、特別賞をいただけたことで、『ソリティ馬』も歴史に名前を残せたような気がして、光栄に思っています。

――タイトルがあって、それを積み重ねることによって、さらに歴史も積み重なっていくということですね?
田谷 そうですね。日本ゲーム大賞は、ファンの方からの投票もあるし、年に一度のお祭りみたいな感覚で、いっしょに盛り上がっていく感じ。ゲーム産業は、まさにファンあっての業界だと思います。

――最後に、日本ゲーム大賞に投票を考えているユーザーの皆さんにひと言お願いします。
田谷 ゲーム開発者は、応援していただいている方に支えられてこそだと思っています。自分のお気に入りのゲームに投票して、「どれが賞を取るんだろう?」というのを注目して見守る……みたいな体験を、できれば多くの方に味わっていただきたいですね。


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【受賞作はこちら!】
『ソリティ馬』
配信日:2013年7月31日
メーカー:ゲームフリーク
ハード:ニンテンドー3DS

 トランプの定番ゲーム『ソリティア』と競馬が融合した新機軸の競馬ゲーム。簡単操作ながらもやり込み要素満載で、幅広い層に人気を集めている。ただいま、iOSおよびAndroidでも配信中だ。スマートフォン版ならではの対戦機能が追加されているのが特徴だ。