『妖怪ウォッチ』はクロスメディアプロジェクト8年の積み上げによるもの

 優れたコンピューターエンターテインメントソフトウェア作品を選考し、表彰することを目的に設立された日本ゲーム大賞。今年も、“年間作品部門”の一般投票が受付中だ。ゲーム業界でも、ことに大きな存在感を放つ日本ゲーム大賞の意義とは? ここでは、昨年の日本ゲーム大賞 2014“年間作品部門”にて、見事大賞に輝いたレベルファイブ『妖怪ウォッチ』の日野晃博社長へのインタビューをお届けしよう。

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レベルファイブ・日野晃博氏に聞く 日本ゲーム大賞の意義とは? 『妖怪ウォッチ』はクロスメディアへの取り組みの集大成_04

レベルファイブ
代表取締役社長/CEO
日野晃博氏

――日本ゲーム大賞を受賞しての率直なご感想をお教えください。
日野 すごくうれしかったですね。いつかは取らせていただきたいと思っていた賞なので、喜びもひとしおです。日本ゲーム大賞に関しては、僕自身は開発を行なった『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』(2005年)で受賞させていただいているのですが、当時「いつかは、自分たちが作ったオリジナルIP(知的財産)で受賞したい」と思っていました。

――『妖怪ウォッチ』のどんな点が評価されての受賞になったと思いますか?
日野 やっぱり、国民的な作品になったということに尽きるかなと思っています。『妖怪ウォッチ』に関しては、“いいゲームを作る”という努力はもちろんですが、ゲーム開発以外でも、ほかの分野の人たちを巻き込んでのいろいろな取り組みを考えていたんですね。要するにブームを起こすための仕掛けです。それが、大きなヒットに結びついたという点で、ほかのソフトとはまたひと味違った人気を獲得できたのではないかと思っています。

――“いいゲームを作る”ということに留まらず、それにプラスしていろいろな仕掛けをしたことが、評価されたと?
日野 そうですね。むしろ“いいゲーム”と評価していただけている中にも、妖怪メダルとの連携など、仕掛けがあったからこそ加味されたゲーム性もあったと考えています。

レベルファイブ・日野晃博氏に聞く 日本ゲーム大賞の意義とは? 『妖怪ウォッチ』はクロスメディアへの取り組みの集大成_01

――なるほど。仕掛けがさらにゲームをおもしろくしたということですね?
日野 純粋にゲームとしておもしろいという自信はもちろんあります。『妖怪ウォッチ』は、ゲームとしては“自由に360度どこにでもいける”という、子どもたちに向けてのオープンワールドを作るということが目標としてあって、それがうまく自由度の高いゲーム性につながったと自負しています。一方で、それを支える物語性や世界観作りなどは、たくさんの妖怪たちの設定も含めて、さまざまなジャンルの作り手たちのクリエイティビティが入っているんですね。ゲームクリエイターはもちろんですが、おもちゃだったり、アニメだったり、さまざまなジャンルのクリエイターたちのセンスが入って、ひとつの作品にできあがっているんです。ゲームでありながらも、ひとつのエンターテインメントの仕掛けになっている。メダルと連動したり、ゲーム以外のアイテムを使う仕掛けがあって、子どもたちもそこですごく楽しんでいたりします。

――『妖怪ウォッチ』は、ゲームクリエイターに留まらず、いろいろな業界の方のクリエイティビティが集結した結果、うまくいったのですね。
日野 『妖怪ウォッチ』のブームとしてはそうです。もちろんゲームに関しては、ゲームクリエイターたちが作ったのですが、そこにいろいろな業界の若いセンスが加味されています。

――他業種のクリエイターに、さらにゲームクリエイターが刺激を受けた、なんてことも?
日野 それももちろんあると思います。そしてさらにお伝えしていきたいのですが、『妖怪ウォッチ』は、レベルファイブが7~8年かけて展開してきたクロスメディアプロジェクトの集大成みたいなもので、もし8年前に『妖怪ウォッチ』の企画がそのままあっても、たぶん実現できなかったと思います。長いことかかって作り上げたクロスメディアに対するつながりがあり、僕への信頼があって、皆さんが『妖怪ウォッチ』というビッグプロジェクトに対して最大限のサポートで乗っかってくれているので。

――つまり、『イナズマイレブン』シリーズや『ダンボール戦機』シリーズがあってこそ、『妖怪ウォッチ』の成功はある?
日野 もちろんです。『妖怪ウォッチ』は一夜にして出来上がったわけではなくて、8年間の積み上げによるものなのです。

――日本ゲーム大賞の受賞などを経て、『妖怪ウォッチ』をどんなシリーズに育てていきたいですか?
日野 10年、20年と続くようなずっと愛されるコンテンツにしたいと思っています。

――継続は力なりと?
日野 というわけではないです。継続に魅力を感じているわけではないんです。子どもたちに愛され続けるコンテンツというのは、歴史上いくつかしかなくて、そういうものを作ったというのはすごく素敵なことだと思うんですね。『ドラえもん』に育てられた世代もいれば、『ポケットモンスター』の世代もいます。そういう世代があるなかで、『妖怪ウォッチ』が一時代を築けるようになりたいということです。

――いまでも相当築いているかと思うのですが……。
日野 まあ、一時代とは10年以上のことだと思います。

――10年続くことによって、普遍性が証明されるみたいな?
日野 そうですね。普遍的に愛されるコンテンツでありたいですね。ただし、中身はほかのコンテンツと違って、どんどん変えていく予定です。いまは、同じものをずっと「楽しい」と思ってくれるような時代ではないので、時代に合わせた変化をしながら、つねにいちばん最先端のセンスを持っていられるような作品でありたいと思っています。もちろん、最初に原作者が作ったものを引き継いで、20年、30年と続けていく作品もありますが、いまから始まる『妖怪ウォッチ』というコンテンツでは、なかなか難しい。そのため適度な変化をさせながら、歩んでいこうかなと思っています。僕自身が原作者なので、いろいろ自由にできる部分もありますし、ゲームやアニメ、映画などすべてにおいて、時代に合わせた変化を少しずつ遂げさせながら、10年選手、20年選手、30年選手にしていきたいです。だから、10年後ジバニャンの立ち位置には、別の妖怪がいるかもしれませんよ。

――『妖怪ウォッチ3』では、舞台がUSAになっていたりするのも、ひとつの大きな変化と言えますしね。
日野 そうですね。

――今回は、『モンスターハンター4』とのダブル受賞になりましたね。
日野 『モンスターハンター』シリーズは偉大な存在なので、大賞をいっしょに取らせていただくことで、まるで肩を並べたような光栄な感じはありました。

――登壇するときに、カプコンの辻本さんと握手をされていたのが印象的でした。
日野 ふつうに仲がいいんです(笑)。僕もとにかく『モンスターハンター』シリーズはすごいと思っています。最初に『モンスターハンター』がリリースされたとき、僕はそのおもしろさがよくわからなかったんです。でも、作り手の皆さんには、“新しいゲーム性である”ということに対するものすごく強い信念とポリシーがあって、そこにお客さんがいるということを信じて突き進んだ。それが評価されたんだと思います。僕もあとで遊ぶと、たしかにすごいポリシーというか、新しいゲーム性がしっかりと感じられたんです。『モンスターハンター』の可能性を信じて、それを日本一のソフトに育てる凄さというのは、尊敬に値すると思うんですよね。その時代に合った新しいものを作って、いちばんになったタイトルなので、『モンスターハンター』も、開発チームの皆さんも尊敬しています。

――あと、日本ゲーム大賞にあわせて、経済産業大臣賞も受賞されましたね。
日野 そうですね。そんな格式高い賞を僕がいただいていいのか心配になりましたが……(笑)。『妖怪ウォッチ』では、過激なことをして苦情をいただくくらいなんです。

――苦情ですか!?
日野 内容が過激ですからね。たとえば、“子どもたちがどうやって学校をサボるか考える”とか、“深夜にエッチな番組を見る”とか(笑)。いろいろと禁断のストーリーも展開していて、人気はあるのですが、苦情もいただくという。

――それはまた大胆ですね(笑)。
日野 世の中に対して、どういうものがいいのかというのは、僕の中にちゃんとしたポリシーはあるのですが、よくないことに過剰に蓋をして子どもに見せないようにして過保護に育てるというコンテンツ作りはおもしろ味がないと思っているんです。『妖怪ウォッチ』はけっこう冒険した内容になっているので、それを評価していただけたのであれば、それはうれしいです。

レベルファイブ・日野晃博氏に聞く 日本ゲーム大賞の意義とは? 『妖怪ウォッチ』はクロスメディアへの取り組みの集大成_03

――改めての質問となりますが、日本ゲーム大賞の意義はどのようなものがあると思いますか?
日野 クリエイターとしては、きちんと自分の作品が評価されて、賞をもらえるというのはたいへんうれしいことです。クリエイターはみんな褒めてもらうことが大好きなので(笑)。

――(笑)。では、日本ゲーム大賞の課題などありましたら、お教えください。
日野 僕が賞をいただくときにいつも思うのは、本質的な評価をきちんとしていただいて、もらうべき人がもらわないと、賞の格が落ちていってしまうということです。その部分の厳重な評価というのは、しっかりとされるべきではないかと。どういう基準で評価をするのかということは、すごく大事にしていかないといけないことだと思います。ちなみに、じつは僕も日本ゲーム大賞の選考委員を任せてもらっていた時期がありまして、選考のやりとりは知っているので、いい加減に決まる賞ではないことは知っていますが。

――あら、そうでしたか。けっこう激しい議論が戦わされる?
日野 それはもう。僕は、選考委員を途中で辞退させてもらったのですが、その理由は、仕事でゲームを作らないといけない時間が長くなって、選考された作品をすべて充分に遊ぶ時間が取れなくなってしまった時期があったからなんです。全部のゲームをきちんと遊ぶ時間が取れないなかで、「このゲームはいいっぽい」みたいな感じで評価をしたくなかったので。

――いま、日本ゲーム大賞 2015の一般投票が受付中ですが、投票を考えているユーザーにひと言お願いします。
日野 よく選考理由で、「審査員が満場一致で」というのがあるのですが、それよりももっとうれしいのは、「ユーザーの皆さんからの投票がいちばん多かった」と言われることです。ゲームクリエイターは、自分たちが作品を届けたいと思っているお客さんに喜んでいただけるのが、いちばんうれしいものです。ぜひとも好きな作品に投票してみてください。


レベルファイブ・日野晃博氏に聞く 日本ゲーム大賞の意義とは? 『妖怪ウォッチ』はクロスメディアへの取り組みの集大成_02

【受賞作はこちら!】
『妖怪ウォッチ』
発売日:2013年7月11日
発売元:レベルファイブ
ハード:ニンテンドー3DS

 妖怪を見ることのできる"妖怪ウォッチ"を手に入れた主人公のケータ が、至る所に出没する妖怪と友だちなり、彼らと協力して、町の人々の悩みを解決していくRPG。アニメやコミック、おもちゃなどとのクロスメディア展開なども話題を呼んだ。