ファンタジーの世界にどっぷり

プロデューサーは『蒼天のイシュガルド』をどこから始めるのか?──『FFXIV』吉田直樹氏インタビュー@フランス_01

 2015年5月18日から20日にかけて、フランス西部の都市ナントで、『ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド』(以下、『蒼天のイシュガルド』)のヨーロッパメディアツアーが催された。これはヨーロッパを中心にメディアが招かれ、新ジョブを含めた全バトルジョブLv60、アイテムレベル170の状態でフィールド探索や新インスタンスダンジョンなどを試遊するという発表会。同時に6月23日のグローバルリリースに向けて、各メディアが吉田直樹プロデューサー兼ディレクターへのインタビューを行ったのだ。

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 今回のメディアツアーの舞台となった城のある町は、山の天気のように天候が時間単位、分単位で変化していた。ところがインタビューの時間は直前の雨が止み、きれいに晴れ上がったため、庭に出て城をバックに話を伺うことにした。風は涼しく、木々が葉ずれの音を立てる夕方。以下は、小鳥がさえずるなかでのやりとりだ。

プロデューサーは『蒼天のイシュガルド』をどこから始めるのか?──『FFXIV』吉田直樹氏インタビュー@フランス_03

──今回、メディアツアーが城で行われた意味や意義は?

吉田直樹氏(以下、吉田) 『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)はグローバルで展開しているので、各国のPRチームが半年に一度程度集まって日本やアメリカでグローバルマーケティングサミットを開き、向こう1年のあいだに「どうやってそれぞれの国で『FFXIV』をPRしていくか」というような作戦を練る会議を開きます。世界を一周して各国のメディアの皆さんに集まっていただき、我々がプレゼンテーションをするというメディアツアー自体はいままでも何度となくやっていますが、今回は初めて拡張パッケージがリリースされるということで、どの地域も趣向を凝らしたアイデアを持ち寄ってきました。そのなかで、イギリス、フランス、ドイツ、北欧が連合して、「いままでのように各国を回るメディアツアーもいいけど、『蒼天のイシュガルド』の雰囲気がゴシックファンタジーでもあるので、ぜひ城を借りきって、メディアの皆さまにしっかりPRをしたい」という案が出てきました。

──お城が候補に上がるのが、ヨーロッパならではですね。

吉田 数時間ではなく、泊りがけで『蒼天のイシュガルド』のプレゼンテーションを聞いていただき、新しい映像を見て、実際に拡張パッケージの内容をプレイして、インタビューをして、いっしょにランチもディナーも摂って、ある意味、中世ファンタジーの世界にどっぷり浸かっていただきながら『蒼天のイシュガルド』のいいところを見ていただこうという企画ですね。

──浸りました。なんというか規模感がものすごいです。

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吉田 僕を含め日本のスタッフも初めて聞いたときは、「いったい予算がいくらかかるんだよ!?」という反応でしたが、各国を転戦して試遊できる場所を確保して貸切にして……と試算した場合と比べたとき、今回の試みのほうがじつは予算的にかなり合理的なことがわかりました。「それなら1回やってみよう」となったのが経緯です。じつはフランスには、ちょっとした田舎町にいまでもたくさんお城があるのですが、所有者の皆さんはお城の維持費を考えて、ホテルとして使っていたり、イベントスペースとして貸し出していたりというケースが多いみたいです。ですので、予算的にも、無理なく想定していたPR予算内に当てはまりました(笑)。

──ヨーロッパメディアの皆さんの反応は?

吉田 「すごいな!」という感じで、やってよかったと思っています。日本だとあまり知られていませんが、グローバルに打ち出していくような海外のAAAタイトルは、ホテルを借り切って装飾をして、メディアさんを招いてPRする、というイベントがそうめずらしくありません。今回のように日本のタイトルとして、しかも趣向を凝らした形でPRイベントが行えたのは、グローバルなPR手法の中でも新しい試みができたのではないかと思っています。

──ヨーロッパの方でもお城には慣れていないんですかね(笑)。

吉田 メディアの方もゲームに関わっている方たちなので、わざわざお城に泊りがけで行くよりは、それぞれ好きなゲームをやっている時間のほうが長いタイプの方たちだと思います。どこを切り取ってもファンタジーの世界なので、今回は仕事であることと同時に、一個人としても楽しんでらっしゃる方が多かったようにお見受けしましたので、本当によかったです。帰りぎわまで皆さまに楽しんでいただけていたので。

──皆さん、ゲームに触るのが半分で、半分は写真を撮ったり庭で遊んだりしていましたよね(笑)。

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▲海外メディアの取材の様子。日本のメディア以上に、インタビュアーのゲームに対する知識や理解がまちまちで、幅広い質問が寄せられる。吉田氏はこの期間で数十本のインタビューに応じていた。

大量のコンテンツ、どこから始める?

──どこを切り取っても、というのはゲームも同様で、どこに触れても新しくて、吉田さんがちょっと後悔しているというぐらいの膨大な量のコンテンツに今回は圧倒されました。このコンテンツの物量を、趣味のプレイヤーとしての吉田さんは、リリース後、どういう順に回されるかがお伺いしたいです。

吉田 僕はもともとハードコアゲーマー気質ですが、いまは残念ながらレアモンスターのリポップに張り付いているような時間はさすがになく、限られた時間でどう効率よくプレイするかを優先して考えてしまいます。プレイする時間がタップリあるときの想定と、いまの状況では少し変わるのですが……それでも僕は自分のメインジョブである黒魔道士で、ストレートにメインシナリオをじっくりやるつもりです。レベル50から60にかけてレベリングするうえでも、クエストに従っていくと1ジョブ目が順調に成長していきます。新生のときと同じように、今回もメインストーリーに沿ったコンテンツやシステム導線を意識して設計したので、メインストーリーに沿うことで新エリア各地域の特色が把握できたり、エーテライトが開放されたりとスムーズに進みます。フライングマウントに乗るためのキーになっているアイテムの入手や順番もそこに紐づいていますし、まずはじっくりメインストーリーですね。

──既存のジョブをレベル50から60にするような想定なんですね。新ジョブがどこかで手に入ると思うのですが、それらをレベル30から60に向かって進めるのはちょっと違う?

吉田 いえいえ、MMORPGですので、好きなように遊んでください(笑)。ですから、新ジョブから遊んだって全然かまわないです。パッチ2.55までメインシナリオを終わらせていれば、キャンプ・ドラゴンヘッドのオルシュファンのあたりから『蒼天のイシュガルド』のクエストがスタートし、「フォルタン家の許しが出たので、大審門をくぐろう」ということになり、皆さんはイシュガルドへ向かうことになります。

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──やっぱりオルシュファンが最初なんですね。

吉田 イシュガルドにたどり着いてメインクエストの導入が一段落すると、街中に新しいクエストが現れます。この時点で3つの新ジョブギルドはどれも開いていますので、自由に新ジョブへとジョブチェンジできるようになります。「メインのストーリーはさて置いて、とにかくいち早く新ジョブを成長させたい」という方は、とりあえずジョブクエストをスタートさせて、それぞれの新ジョブをお楽しみください。

──そのままレベリングもできると。

吉田 新ジョブはレベル30からスタートしますので、ジョブチェンジしてすぐにイシュガルド側で活動するにはレベルが足りません。一度『新生エオルゼア』側のコンテンツでレベル30から50に上げることになります。50になったら新ジョブでイシュガルドに舞い戻り、メインクエストを進めていく。メインクエストが完了するころには、新ジョブがレベル60になっているはずです。

──以前、レベリングの設計で、つぎのレベルに上がるための経験値のうち、6割ぐらいをメインシナリオやサブシナリオで得て、討伐手帳で何割を、F.A.T.E.で何割をというようなお話をいただいたのですが、そのバランスは『蒼天のイシュガルド』でも変わらない?

吉田 新生の時はレベル42くらいまでは、クエストの報酬で得られる経験値だけで、レベルが上がるようになっており、それ以降はダンジョンやF.A.T.E.などの経験値も含めてレベルを上げていただきました。今回も流れは変わりません。基本的にはメインシナリオを進めていくことで経験値が入りますが、それだけでは不足が出るので、その道中でF.A.T.E.に挑んだり、ダンジョンで強い装備を得るのと並行して経験値を稼いだり、探索手帳の隠されたポイントを探したり。そしてレベルが上がったら次のメインクエストを進める、という流れです。2ジョブ目以降にはアーマリーボーナスが付き、レベル上げが楽になります。ひとつのジョブを早々に60にしたほうが、ほかのジョブの経験値も上がりやすくなるので、やはりまずどれかをメインジョブと定めてレベル60にするのが当面の目標ですね。

──アーマリーボーナスをすっかり忘れていました。なるほど。

吉田 メインクエストは一度クリアすると再び現れないので、その報酬にある経験値をどのジョブに回すのか。当然、メインクエストを追いかけつつ、脇で発生しているF.A.T.Eに立ち寄ったりしても経験値は増えていきますし、初めてマップに踏み込んだときのディスカバリーの経験値も当然ひとつめのジョブに入りやすくなります。

──そのへんを自然にプレイして開いていったり、やっていたりすると、レベル50のジョブが60にかなり近づくというわけですね。

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フィールドはいきなり分岐。ダンジョンは飛ばさずに!

吉田 それから今回のフィールドで『新生エオルゼア』と少し違うところに、ひとつのエリアがひとつのレベル帯に対応しているということが挙げられます。

──ここのエリアはレベル52想定、ここは54想定、という感じですね。

吉田 これまで『新生エオルゼア』側のフィールドでは、わりとストーリーの進行に合わせて、そのエリアの一部だけを使ってすぐつぎのエリアへ向かい、いずれストーリーが進むとそのエリアの違う場所へ戻ってくる……という感じだったと思いますが、今回はそのエリアのすべてを攻略してつぎのお話、つぎのフィールドへ、という作りになっているので、ひとつひとつのフィールドを攻略していくのが基本となります。

──今回、試遊で公開されていたクルザス西部高地とアバラシア雲海は、どのぐらいのタイミングで探検できるようになるんですか?

吉田 まずクルザス西部高地は、レベル50でイシュガルドに到達して、最初の大きなメインクエストで行く場所になります。アバラシア雲海は少し特殊で、ひとつのローディングゾーンではありますが、大きく上層部分と下層部分に分かれた、完全にふたつのエリアがある状態になっていて、上層は完全に高レベル帯用です。下層部分はクルザス西部高地と同様にレベル50で行くことになります。つまりメインクエストの序盤をクルザス西部高地から始めるか、アバラシア雲海から始めるかは、プレイヤーが選択できるようになっているのです。

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▲アバラシア雲海を広い視点で一望。モニター越しでも広さが伝わるだろうか。
▲クルザス西部高地の北端。近づくとスケール感に圧倒される。

──今回はすぐに体験できるエリアだったわけですね。いきなり分岐するのは、どんな理由からでしょう?

吉田 たくさんの方がイシュガルドに集まることになりますので……序盤は分散していただきたい、と(笑)。両方にメインクエストが発生していますが、どちらから始めていただいても、やがて合流します。しかし、今回のPRイベントでこのふたつのエリアをプレイエリアに選んだのは、序盤だからというのが理由ではなく、じつはネタバレ防止のため。『蒼天のイシュガルド』では辺境地域に行くと、ドラゴンの支配領域、つまり人間の手が入っていない場所が多く、人間はほとんど出てこなくなります。しかし、クエストは発生するわけで「何からクエストをもらうんだ?」というのが見えてしまうこともあり、やむなく、と。

──なるほど。それで行けたエリアにもクエスト発生地点がなかったんですね。ですが、ダスクヴィジルのようなダンジョンの入り口らしきものはいくつか発見できました(笑)。同時に発表されたダンジョン紹介のトレーラーでは8つが確認できましたが、あれらはメインクエストを進めていく流れのうえで開放されていくのでしょうか。シナリオの進行に関係ないものは?

吉田 そういうものもありますよ。今回はシナリオに完全に絡んでいるダンジョンは4つですね。

──残りはカルン埋没寺院のように、サブクエストとして登場すると。

吉田 はい。しかし新生時のカルンは、レベリングにも必要ではなかったのでスキップできましたが、今回のダンジョンはクリアした方がレベルの上がりとしては自然にしてあります。初回クリアボーナスもあるので、新たな地域で発見したダンジョンは、必ず1回はクリアしていったほうが、装備的にも経験値的にも美味しいと思います。

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▲左が既出のグブラ幻想図書館。右が今回の試遊で明かされた山道を上り詰めるインスタンスダンジョン“ソーム・アル”だ。どちらも中ボスがチラリ。見覚えのある雰囲気だ。

──ドロップアイテムもありますしね。

吉田 各ダンジョンにロール別の新装備が用意されているので、ミラージュプリズム目的も含めて着替えつつ進めていただいたほうが、よりサクサク楽しめると思います。ん、ファミ通さん、屋内に戻りましょう。

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※写真はイメージです。

 インタビューに夢中になっていた記者は気づかなかったが、空はいまにも降り出しそうな色。庭に出ていたスタッフともども全員で、駆け足で建物に入った途端、本格的な降りに。吉田氏の決断の速さ、周囲への促しかたなど、日ごろの様子が見て取れる一幕だった。