ナラティブデザインとは
2015年3月2日~6日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のカンファレンス、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2015が開催されている。
今回注目したセッションは、“ナラティブデザインのデザイン”という、この数年で急激に耳にするようになったゲームの“ナラティブデザイン”について語るものだ。
ナラティブとは、作り手が用意したストーリーと対になる概念で、ゲームをプレイすることによってプレイヤーが個人的に得るゲーム体験=プレイヤーの物語を指す。
たとえば洋館を探索するゲームで、次の部屋に進むためにクランクを見つけ、指定の場所にハメて回す行為はストーリーの一環だが、その途中で思いも寄らない敵に追われ、心の底から驚いた物語はナラティブとなる。
セッションのスピーカーはジュリー・オーネマン。20年以上、ゲーム製作に携わるゲームデザイナーで、プロデューサー兼ゲームデザイナーとして携わった作品だけでも、『Manhunt 2』(2007年)や『Pusher』(2002年)などがある。
セッションは手書き風のスライドと、ジュリーの軽妙な語りで進行。
以下はその持ち味を活かすため、彼の語りを連ねる形で進めよう。
「ナラティブなゲームデザインをするときのアプローチについて今日は話したいと思います」。
「最初に、ふたつの定義について」。
「ゲームには物語と虚構が混在します。物語は、誰かに起きた何かについてあらかじめ書かれたもの」。
「一方の虚構は、プレイヤーにそれがあたかも真実であるとふるまうようお願いしていることに関わるもの」。
「したがってプレーヤーは、誰かについて書かれた何かを真実として自分で追体験するため、物語を伝え始めると基本的に混乱します」。
「その混乱はいろいろ語ろうとするから起こるのであって、私としてはゲームストーリーの背景も要らない、世界観の説明も要らない、ゲームプレイの内容の説明も要らないと思うんです」。
「ですが、それでは敵のヒットポイントやキャラクターの状態がプレイヤーに伝えられません。それはいままでどのように行われていたか、例を挙げて見てみましょう」。
「初期のゲームでは、自分や相手の状態を知る必要があったため、簡単な問題解決の方法として、ゲーム内でそのまま数値を表示していました」。
「中期。『ハーフライフ』では、最低限の数値をゴーグルに映しているような形でAR的に表示しています。またそのおかげでSF的なイメージを押し出すことができました。ここではお約束事として弾残数も表示されていますが、本当はそんなことどうでもいいですよね」。
「後期。プレイヤーを本当にゲームに没入させたいのであれば何をすればいいでしょうか。『ICO』では、数値情報を表示しないという結論に至りました。『ICO』の製作チームと話したと仮定してみてください。キャラクターが壁から落ちれば死んでしまうというのは理解できるし、最初から点数などを表示しないことにより、普通のゲームのダイナミクスとはまったく違うものを提供しているとわかるはずです」。