開発チームとともに歩み、悩んで、ともに作り上げる物語
プレイステーション4、プレイステーション3、PC用オンラインゲームとして、カプコンが2015年にサービスを開始する予定の『ドラゴンズドグマ オンライン』(以下、『DDO』)。そのシナリオを手掛けるのは、『ファイナルファンタジー』シリーズなどで著名な野島一成氏だという。そこで、野島氏の起用の理由や、本作はどんな物語になるのかなどを、野島氏とプロデューサーの松川美苗氏に直撃した。
※本インタビューは、週刊ファミ通2015年3月5日増刊号に掲載したものに加筆・編集を行った完全版です。
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松川氏の剛腕で野島氏を急遽採用!?
――野島さんと言えば、『ファイナルファンタジー』シリーズなどの印象が強いですが、なぜ毛色の異なる『DDO』のシナリオに起用されたのか、その理由をお聞かせください。
松川 2012年に、『DD』チームは『DD:ダークアリズン』の制作と並行して、『DDO』の開発に向けたネットワークに関する検証を行っていました。2013年になってそれと同時にイベントやシナリオといった、ゲームの核となるさまざまな要素の制作も進めなければならなくなったのですが、それが本当にたいへんで、「これはチームのパワーとアイデアをさらに高めないと!」という事態が発生しまして(苦笑)。そこで、シナリオに関しては、自分がよく知っているスペシャリストの方……野島さんにお任せすることにしたんです。
野島 電話がかかってきて、「仕事やりません?」と、必死な感じでお願いされました(笑)。
松川 勢いで進めてしまったところはありますね(笑)。いまは笑い話にできますが、当時はチーム内からも、「あの野島さんが!?」、「いきなり呼んで大丈夫なの?」など、いろいろな声があがりました。ディレクターの木下はもちろん、そのときにシナリオのプロットを担当していたスタッフも、「そんな大御所と仕事をしたら、どうなるんでしょうか?」と。チームとしては、いろいろなものが引っくり返る可能性があるんじゃないか、という不安を持っていたようです。
――おふたりは『ラストランカー』(2010年にカプコンから発売されたPSP用RPG。野島氏がシナリオを担当)でお仕事をされていました。松川さんとしては安心感があったわけですよね。
松川 そうですね。ふつうなら、『DD』シリーズのようなゲームのシナリオを野島さんにお願いするのは、これまでの実績を鑑みると考えられないことかもしれませんが、私は「頼むならこの人しかいない!」と思いました。そもそもオンラインゲームは、家庭用ゲームよりも、ひとつのコンテンツを終えて、つぎのコンテンツに入るまでの時間が空く可能性が高いんですよね。レベル上げやアイテム集めなども、時間がかかるものですから。そういったところにふつうにシナリオを入れ込むと、薄味になってしまって、“何となく流されてしまう”ことになりかねません。何にも引っかかりを覚えないので、記憶にも思い出にも残らず、感動も生まれない。『DDO』には、ひとクセもふたクセもあるキャラクターと、個性の強い尖ったストーリー展開で人の心を揺さぶれる野島さんが必要でした。
野島 僕は僕で、オンラインゲームだから、いつものテイストのシナリオではなく、オンラインに合わせた形のシナリオにする必要があるかなと考えていました。あるひとつの状況があって、プレイヤーがそこで状況に合わせた行動を取ると、話が進むという感じのものを提案したんです。そうしたら、「いや、違う違う」と。
松川 ディレクターの木下(研人氏)が、「もっとドラマが欲しいっス!」と言い始めて。野島さんのシナリオは、とてもキャラクターを大事にしていらっしゃるので、そこが『DD』シリーズのコンセプトとぴったり合致しているんですよ。オンラインゲームの構造であるとか、細かいことはいいから、とにかく存分に腕を振るってくださいとお願いしました。
野島 そういったお話をされたところで、「来た」と。それは、まさに自分のテリトリーですからね。
――シナリオ作成は、いつごろからスタートしたのでしょうか。
松川 2013年の6月くらいに、最初のお話をさせていただきました。
野島 急な話ではありましたが、ちょうど自分の予定が空いていて、タイミング的にすごくよかったんです。また、松川さんからのお誘いなので、カプコンさんが手掛ける結構な規模なタイトルであると同時に、スパンの長いお話なんだろうなと漠然と思っていたのですが……。
松川 その最初のお話のときに、「7月末にはシーズン1のメインシナリオを!」とお伝えしたんですよ。無茶振りですね(笑)。
野島 それはさすがに無理ということで、締切は8月末にしてもらいました。それでも1ヵ月しか変わりませんけど(笑)。
松川 そこまで無理を言ったのには、理由があるんです。我々はオンラインゲームを作るのが初めてだったので、どのくらいのコンテンツ量が必要なのか、プレイ時間がどのように変動するのかという点を試しながら作りたいという考えがありました。そのため、叩き台となる第1稿を、可能な限り早くあげていただく必要があったわけです。無茶なお願いでしたが、スケジュール通りあげてくださって感謝しています。
野島 第1稿でフィックスするのではなく、後から調整するであろうことは明白だったので、それで気負わずに書けたのがよかったのかも(笑)。ただ、調整や修正がどの程度のものになるかは未知数だったので、その点ではドキドキしていましたね。
――作業を進めていく中で、オンラインゲームのシナリオと、パッケージタイトルのシナリオとでは、どういった部分が違うと感じましたか?
野島 あまり急ぐような話はダメなんだな、というのはありました。あと5日で世界が滅びてしまうなど、展開がスピーディーな物語はきびしいですね。あと、イベントとイベントのあいだが時間的にどのくらい空くかがわからないので、シナリオの組み立てが難しい。パッケージタイトルなら、ある程度の予測が立てられるのですが、オンラインだとそうはいかない。
――ユーザーの行動が予測しにくい、ということですね。
野島 そうです。パッケージタイトルでたとえるなら、“最初からユーザーが馬や船や移動手段を持っている状態”。オンラインゲームは自由度が高いぶん、ユーザーがどこに行って何をするかが読みにくい。『DDO』は初期段階からプレイヤーの行動範囲も広いですし。
松川 そうなんですよね。かなり遠方まで自由に行けてしまいます。
野島 グイグイと強く引っ張る形のシナリオであっても、きちんと“間が空くタイミング”を考えて作らないとまずい……ということに気がつくのに、少し時間がかかりましたね。実際にシナリオを実装して遊ばせてもらったときに、「こんなにも間が空くのか」と驚きましたから。
松川 ある程度シナリオを組み込んだ段階で、野島さんにゲームを触っていただいたのですが、「これは、ここまでは行かないなー」などとつぶやきつつ、素早くメモを取ってらっしゃいましたね。そして、ここは調整、あそこには何かしらの導きが必要、といった具合に修正を行っていきました。また、シナリオの間が空き過ぎてしまう部分には、追加でイベントを入れたり。2013年の9月くらいから約1年ほど、追加、修正の連続でした。
――シナリオを提供するだけでなく、がっつりと開発チームの一員になっているんですね。
野島 はい。昔のゲーム作りのやりかたにかなり近いですね。あと、開発チーム全体が試行錯誤している、というのが伝わってきたので、僕自身も焦らずに自然体でいられたというか(笑)。ともに歩んで、悩んで、物を作っている……という感覚で作業を進められています。
松川 毎週、野島さんと木下、そしてチーム内でシナリオまわりを担当しているスタッフの3人で定例会議を行っているんです。その際に、お互いに悩みや不明瞭な部分の確認事項などをリアルタイムに交換していて。やり取りは密に行っています。
野島 そうそう、ふたりとも明らかに疲れた顔をしているときがあって、「ああ、シナリオどころじゃなさそうだな」という空気を感じることもあったなあ(笑)。