ゲームの可能性を探るクリエイターが集結

 2015年2月13日より3月22日まで、アンスティチュ・フランセ日本主催のイベント“第4回「デジタル・ショック」”が開催中だ。メイン会場はアンスティチュ・フランセ東京で、デジタルアートからビデオゲーム産業までの幅広い分野における、日本とフランスの協力による新しい創造性の広がりを紹介するという内容だ。

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※日仏のデジタルカルチャーのいまを知る“第4回 デジタル・ショック”が開催 水口哲也氏が参加してのパネルディスカッションにも注目

 ここでは、イベント内のいちプログラムとして2月14日に行われた、パネルディスカッション“新しいゲームデバイス:バーチャル・リアリティーとストーリー・モード”の模様をお届けしよう。登壇者は、ゲームクリエイターの水口哲也氏、同じくクリエイターのケヴィン・ルシュール氏、アーティストのバルタザール・オキシエートル氏の3名。ファミ通でもおなじみのローリング内沢氏司会のもとで、ビデオゲームの新たな表現についてトークが進められた。

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▲左より、ローリング内沢氏、バルタザール・オキシエートル氏、ケヴィン・ルシュール氏、水口哲也氏。

 まずは登壇者の自己紹介から。ケヴィン氏は、ビデオゲームの特性を探るゲームクリエイター集団“ワン・ライフ・リメインズ”所属のクリエイター。コントローラーの位置と役割、プレイヤーとそれを見る観客たちの関係などを研究しているという。ビデオゲームとほかのアート、とくにダンスとの関係についても考えているそうだ。今回のイベントでは、『ダイブ』と『ジェネレーションズ』という2作品を展示。「『ダイブ』はパフォーマーとしてのプレイヤーを考えるゲーム、『ジェネレーションズ』は250年かかる構築のゲーム。私たちは答えを見つけようとしているのではなく、疑問を投げかけようとしている」(ケヴィン氏)と、作品の概要を解説してくれた。

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▲コントローラーの位置と役割について探求しているケヴィン氏。その実例を写真で紹介してくれた。

 水口氏は、ご存じの方も多いと思うが『Rez』や『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』を産みだしたクリエイター。1990年にセガに入社し、ゲーム制作以外にミュージックビデオの作成、ライブ活動なども行っている。『Rez』は「音楽に合わせて線やテクスチャーを変化させることを、やり始めた時代のゲーム」、『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』は「自分的には『Rez』の続編にあたる作品で、Kinectという新しいデバイスで、指揮者のように遊んだらどうなるのかという実験でもあった」(水口氏)と、自作を改めて紹介した。また「自分が行ってきたテーマは“共感覚”。昔のアーティストは1枚の抽象的な絵画で表現していましたが、僕らは“感覚が交差するところにある印象”をデジタルのプラットフォームでどうやって体験に置き換えられるかをやっている」(水口氏)と、作品のテーマについても解説した。

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▲自身の代表作を紹介する水口氏。「共感覚な体験とゲームをどう合わせられるか、試行錯誤して作った」と当時を振り返る。

 バルタザール氏は、元々は映画を学んでいたアーティスト。「学校で映画以外、とくにビデオゲームに興味を持つようになり、リアルタイムという概念を考え始めた」(バルタザール氏)と、自身が歩んできた道を振り返る。「映画は作品に浸れるが、観客ごとに異なる体験は提供できない。観客がもっと異なる方法で参加できないかを考え、ヘッドセットでストーリーを見せる作品を作成した」とのことだ。この手法は観客がよりストーリーに入り込め、「完全にストーリーの主格が変わることに気づき、巨大な可能性があることを感じた」と手応えを語る。そこから、意識不明になった人の脳に入り込んでいく『第5の睡眠』というインスタレーション(場所や空間を作品として体験させること)が生まれたそうだ。『第5の睡眠』はヘッドマウントディスプレイ“Oculus Rift(オキュラス・リフト)”を使用した作品で、このイベントでも展示されている。また水口氏に影響を受けたそうで、「日本のゲーム、とくに『Rez』には影響を受けました」(バルタザール氏)とのことだ。

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▲バルタザール氏の『第5の睡眠』。意識不明の人に入り込み、最終的にはその人を覚醒させるという作品とのこと。

 ケヴィン氏も水口氏に影響を受けたそうで、「数年前に見た『Rez』のパフォーマンスが、プレイヤーと観客との関係を考える出発点。『Rez』は映画やアニメだけではなく、抽象芸術から影響を受けている珍しい作品に感じた。我々も同じような方向で探求するのがおもしろいのではないか。どのようなゲームがスペクタクルになるのか、舞台上のパフォーマンスとなりえるのかを考えるようになり、『ダイブ』のプロジェクトが生まれた」と開発秘話を教えてくれた。

 ふたりが影響を受けたことについて水口氏は「嬉しいですね」と感想をコメント。「100年まえの、ワシリー・カンディンスキーのようなアーティストたちは、共感覚的な印象をどう表現に変えるか、当時の手法で行っていた。我々もまったく同じ思想、コンセプトで作品を作っており、僕が影響を受けたことがチェーンのように回り、また影響を受けて……というキャッチボールがすごく楽しい」(水口氏)と、共感覚をテーマに作品を作っていることを語った。また「みんなが“おおっ”と感じるものを探すのが楽しい。ゲームから始まったものが、これからはまったく違ったところへ大きく広がっていく。映画やゲーム、音楽がコネクトし、ひとつにフォームしていく」(水口氏)と予測する。

新たなデバイスでゲームやアートはどう変わる?

 つぎのトークテーマは、“Oculus Rift(オキュラス・リフト)”や“Project Morpheus(プロジェクト モーフィアス)”、タッチパネルなど新しいデバイスの登場により、ビデオゲームやアートが移り変わることについて。

 水口氏は「バーチャルリアリティの歴史を見てみると、90年代の頭に一度波がありました。当時のものは、見た目こそインパクトはあったが、解像度やセンサーの精度が低いため人の興味が持続するレベルではなかった。現在は性能が上がって現実の世界で見るものとほぼ同じ体験ができるようになったため、今回の波はいよいよ本物では、という気がしている。いろいろな方向性に向かっていくと思うし、その流れは確実に感じますね」と、バーチャルリアリティが市民権を得ることを予想した。

 バルタザール氏は「成熟したデバイスである“Oculus Rift(オキュラス・リフト)”を使えば、物語を具現化できると考えたんです」と、“Oculus Rift(オキュラス・リフト)”を選んだ理由を提示。「ただし、難しい点もある。技術的に成熟していても価格はまだ高く、一家に一台あるレベルではないため、まだ大衆には距離がある。ヘッドマウントディスプレイを嫌う人もいるだろう」と問題点を指摘した。

 ケヴィン氏は「私たちが探求しているもののひとつに、コントローラーの開発があります。たとえば、大きさが3メートルのコントローラーを使う格闘ゲームでは、複数人でひとつのアバターをコントロールすることになり、どのような問題が出現するのか。ほかにも、ボール紙で作った壊れやすいコントローラーだとどうなるのか、5秒ごとに使用するコントローラーが切り替わるゲームだとどうなるのか、という実験を行っています」と、コントローラーに関する探求の具体例を紹介。

 またケヴィン氏は水口氏に「バーチャルリアリティのゲームを作成し、より大衆に浸透させようと思う気持ちはありますか?」と質問。水口氏は「やる気はすごくあります。人間、とくに日本人は“ハマって家から出なくなるんじゃないか”とかネガティブなことを考えがちで、時間はかかるかもしれません。でも自分はポジティブなスタイルを考えたい」と、意欲を示す。「人間はバランスを取りたがる生き物だと思います。たとえばバーチャルリアリティで本物のパリの街を歩くような体験をしたら、本当のパリへ行ってその場にあるものに接したくなるのが人間だと思う」(水口氏)と語る。また「時間を忘れてしまうぐらい引力が強いため、何歳以下は遊んではダメとか、プレイは何時間までとか、ルールは必要になるかもしれない」(水口氏)ともコメントした。

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 続いてのお題は、“今後ビデオゲームはバーチャルリアリティの方向へシフトしていくのか”について。

 水口氏は「その兆候はけっこう出ている」と語る。「たとえば現実世界の位置情報と関連したゲームはたくさん出ていますよね。自分がその場所に行って何かを得るとか、人と繋がるとか。ヘッドマウントディスプレイのように視界をふさぐものだけではなく、マイクロソフトのホロレンズのように、ARと現実をセットにしてとらえるものなど、今後10年、20年でいろいろなことが行われるのでは。ゲームから出てきたものが拡散して広がり、人の気持ちが繋がるとか、より幸せな方向へ進んでいくのではないでしょうか」と未来を予想した。

 ケヴィン氏は「興味はあるが、我々はより触れられるゲーム経験を探求しているので、正反対の場所にいると思います。どちらがいいのかを判断するのは難しい」と語る。「バーチャルリアリティはさまざまな可能性にあふれているため、迷ってはいけない。疑問提起を行い、特異な体験を想像することで、新しい技術や機能、有益性、存在理由を考えるべきです」(ケヴィン氏)とも語った。

 バルタザール氏は「先を予想するのは難しいことです。私はバーチャルリアリティの研究に集中していますが、それは刺激的だからです。全体的なエネルギーの一部となって、どこかへ向かっている。それを探索している感じです。ただ、より浸透し、日常の一部になっていく予感はしています」とコメント。

 さらに水口氏は「人間は欲求の鏡。たとえばここにいる誰もが“戦争は嫌だ”と思っていても、戦争はなくならず、ゲームや映画のヒットチャートには戦争ものがあったりします。ある研究者は、こういうものがガス抜きとして作用し、暴力的にならずにいられるという。ネガティブなものを避け、プラスなものだけを経験したところで、人間が本当によくなるかはまだわかりませんからね。インターネットもCGも、元々は軍事技術からの転用です。選択肢が広がることに意味がある」と語ってくれた。

 最後のトークテーマは、未来のクリエイターへ向けてのアドバイス。どのような気持ちで、何を伝えたくて作品を作っているのかがテーマになった。

 バルタザール氏は「私はまだアドバイスするには若すぎると思います(笑)。それでも言えることは、好奇心を持っているのであれば、その方向へ突き進むべき、ということ。日本の方々は、とても極端なことができる人たちだと思うので、恐れずに極限を超えて進んでほしい」とエールを送る。

 水口氏は「さまざまな方向で体験や経験を重ねることは大切。僕は以前に決めていた“50歳になったらサーフィンをやろう”という決意を思い出して、49歳になった最近に体験してみたんです。でも泳げないので、打ち上げられたトドみたいになっちゃって(笑)。経験としては、その1回で終わってもよかったんですが、悔しかったのでまずトレーニングして25メートル泳げるようになったんです。そのときは思わずガッツポーズして叫ぶぐらい興奮して。それで海に出ることも怖くなくなり、ボードにまたがることができたんです。その瞬間、まわりの景色がキラキラと綺麗に光って、夕焼けの雲がとても綺麗で。未体験の時は“サーファーとか楽しいのかな”と思っていたんですが、実際に体験するとこのような景色が入って来た。それだけのことなんですけれど、経験や体験って素晴らしいことだと思うんですよ。体験することで、新しいインスピレーションが生まれることの連続なんですよね。つねに感動し続けることは大事です」と、貴重な体験談を語ってくれた。

 ケヴィン氏は「水口さんのお話は素晴らしい! その体験はビデオゲームと同じことで、見ていただけでは、プレイして何を体験できるのかわかりません。一歩踏み出して、何かを感じなければならない。私たちは、いままでになかったゲームを遊びたかったから、新しい領域を実験しようと思い、ゲームを作るようになったのです。そうして、予期できぬ、ゲームでしかできない経験をプレイヤーに与えたいと考えています。また、ゲームのイメージも変えていきたいですね。“ゲームは複雑、難しい”と敬遠している人がゲームを遊ぶように変えていきたい。ゲームはおもしろい、大人でも楽しめるということを伝えたい。やりたいことは、まだまだたくさんあります」と、意気込みを語ってくれた。

 こうして、約2時間にも及ぶトークセッションは盛況のうちに幕を閉じた。これからのゲームと、ゲームを取り巻く環境がどのように変わっていくのか。時間があればぜひとも会場へ足を運び、展示されている作品を通じてそのヒントをつかんでいただきたい。