ゲーム試遊とセミナーでアピール

 クラウドゲーム技術を開発・提供するシンラ・テクノロジーが、2014年12月4日(木)、東京都・東新宿のスクウェア・エニックスにて、“第2回クラウドゲーム開発者会議2014 東京”を開催。その模様をリポートしよう。

 イベントは大きく分けて2部構成。会場には、クラウド専用ゲームとして開発された全方向高速シューティングゲーム『スペース・スウィーパー』の試遊台が設置されており、その試遊タイムが前半だ。そして後半は、同ゲームの設計と実装に関する開発者向けセミナーが行われた。

シンラ・テクノロジーがクラウドゲーム開発者向けセミナーを開催_01
▲多くの来場者が、入れ替わりでプレイ。真剣に画面に見入っていた。

 『スペース・スウィーパー』試遊台は数台用意されており、それぞれプレイ環境が微妙に違っていたようだが(のちに解説)、とくに気にせずプレイしてみた。本作は、ドットフィールドのマップを動き回るシューテイングゲーム。画面は強制スクロールではなく、自由にキャラクターを動かして移動する。左スティックで移動、右スティックは攻撃で、傾けた方向に向かって弾を発射。攻撃はレーザービームや爆弾などを選べる。パッと見た印象は古きよきファミコンゲーム……といったカンジだが、クラウド専用ゲームであることを考えると、じつはいろいろ高度なシステムが使われているのかも……。

 と、遊んでいるうちに、試遊タイムが終了し、イベントは後半へ。まずはシンラ・テクノロジーの社長・和田洋一氏が登壇し、開会の挨拶を述べるとともに、「クラウドゲームは非常に可能性が広い新しい分野なのですが、ヘタに絞ると可能性を縮めるし、広げっぱなしだと、いつまでたってもモノにならないので、皆さまと双方向でアイデアを煮詰めていきたいと思っています。今回は3つのモデルを提案し、中身や仕組みを実機に基づいて担当者にレクチャーしてもらいます」と、今回のイベントの主旨を説明した。

シンラ・テクノロジーがクラウドゲーム開発者向けセミナーを開催_02
シンラ・テクノロジーがクラウドゲーム開発者向けセミナーを開催_03
▲広い会場を埋め尽くすほど、多くのゲーム開発者が来場した。
▲左はセミナーを担当したエバンジェリストの中嶋氏。右は社長の和田氏。

まずはクラウドゲームの基本を解説

 和田氏の挨拶に続いて、開発者向けのセミナーがスタートした。テーマは“『スペース・スウィーパー』の設計と実装に関する技術解説”で、講師を務めるのは、同作をプログラミングしたクリエイター、中嶋謙互氏。数々のゲーム開発のほか『オンラインゲームを支える技術』などの著書もあるエキスパートだ。

 最初に語られたのは、“クラウドゲームの用語整理”について。ここではまず、クラウド専用ゲームの概念、メリット、課題などが簡単に説明された。「業界の統一見解ではなく、あくまで自分たちの会話や開発をスムーズにするための整理」と前置きしたうえで、中嶋氏はクラウド専用ゲームを「サーバ上で作られ、一般ユーザーにそのものを配布することができないゲーム」と位置づけ。またメリットとしては、タイトルごとのインストールやアップデートが不要なこと、海賊行為がやりにくい点、開発や運営のコスト低減などを挙げ、これまでにないゲームが作れる可能性を示唆した。一方で課題としては、高速回線が必須な点、遅延、サーバ側のコストの問題などが指摘された。

 続いては、同社の“シンラ・システム”に関して、どこがほかと違うのか? といった部分を中心に説明がなされた。とくに強調されていたのは、リモートレンダリングの技術と、同社ならではの “探求”の方向性だ。“探求”とは、たとえば、これまでにないゲーム作成の模索であったり、開発や移植のコスト低減であったり、経験や工夫の一般化・共有化であったりと、その内容は幅広い。「クラウドでしか作れないゲーム内容とはなんなのか? ちゃんとリスクを取ってコンテンツを作って検証・探求していくという姿勢は、じつはほかの会社は、まったく持っていないのではないかと思います」(中嶋氏)。

“シンラ・システム”が推奨する基本モデル

 ここまでは言わば、クラウドゲームと“シンラ・システム”の基本的な部分。つぎはいよいよ、システムの核心についてだ。中嶋氏によると、クライアントに向けては、3つの基本パターンを提案しようとしているという。まずは“1:1”のモデル。スタンドアローンモデルで、これはいままで市販されていたゲームを、ストリーミングゲームにする作業に向いた仕組みだ。ふたつ目は“1:N”。ゲームのプロセスはひとつだが、それを複数人で共有する。これは画面分割で遊ぶイメージだ。3つ目は“N:N”で、バーチャルMMOと呼ばれるモデル。「いわゆるMMOゲームの作りかたなのですが、ゲームクライアントがサーバ側にあって、映像だけが1対1で送られているというモデルです」(中嶋氏)。この場合はゲームプロセスが複数に分かれているので、何らかの方法でゲームを同期させる必要があるという。それぞれのモデル概念や特徴はフリップで図解されていたので、画面を参照してほしい。中嶋氏は、とくに“N:N”モデルについては、「もっとシステムを簡単にできる方法を、これからいろいろ議論していければと思っています」と課題を語っていた。

シンラ・テクノロジーがクラウドゲーム開発者向けセミナーを開催_04
シンラ・テクノロジーがクラウドゲーム開発者向けセミナーを開催_05
▲モデルによって、ゲームの作りかたもそれぞれ変わってくる。
▲いずれも長所短所はあるので、見極めが重要となってくる。

『スペース・スウィーパー』開発

 セミナーは後半戦に突入し、本日のメインテーマとも言うべき、『スペース・スウィーパー』開発の話題に移った。このタイトルは前述の3モデルのうち、“N:N”、つまりバーチャルMMOの作りかたで作成されているとのこと。フリップではシステム構成に加え、会場に置かれていたデモ機の構成も図解で紹介された。
 じつは4台設置されたデモ機には趣向が凝らされており、それぞれにプレイ環境が異なるものだったとのこと。その内訳は“シンラ・システムなし”(PC自体にゲームをインストール)、“30fps シンラ・システムあり”、“60fps シンラ・システムあり”、“30fps+20ms”(遅延つき)の4パターン。試遊した来場者は、それぞれの環境による画面の違いを確認しながらプレイできたワケだ。

シンラ・テクノロジーがクラウドゲーム開発者向けセミナーを開催_06
シンラ・テクノロジーがクラウドゲーム開発者向けセミナーを開催_07
▲展示されたゲームは、多数:多数のモデルだ。
▲当日は4パターンのプレイ環境が用意された。
シンラ・テクノロジーがクラウドゲーム開発者向けセミナーを開催_08
▲デモ機には、それぞれのプレイ環境が記されていた。

 技術・システム面の話がひと区切りした後、中嶋氏から、シンラ・テクノロジー社の今後の方針について語られた。コンテンツを増やすために考えているアプローチはふたつあるとのことで、「ひとつはものすごく技術のある大きなチームへの直接的な働きかけで、いっしょに作りあげていく形。もうひとつは、前述の3モデルに沿って、速く作ったりテストしたりするパターン。ふたつの方向で考えています」(中嶋氏)。ここでフリップには、ゲーム開発の流れと、開発者用キットの内容が映し出された。スケジュールとしては2015年に“N:N”モデルの制作と実機テスト実現、可能なタイミングでプレビュー版を出したいという。

シンラ・テクノロジーがクラウドゲーム開発者向けセミナーを開催_09
シンラ・テクノロジーがクラウドゲーム開発者向けセミナーを開催_10
▲セミナー終盤は、技術者向けの専門的な内容に。

クラウドゲームの未来に期待

 セミナーは以上で終了となり、締めくくりとして、質疑応答の場が設けられた。来場者はゲーム開発者が中心なだけに、技術的な質問が多い中、クラウドゲームというジャンルのビジネスとしての可能性を問う声が多く見られたのが印象的だった。単純にゲーム開発における興味とともに、市場としての魅力という点についても、業界各方面の大きな注目を集めていることがうかがえる。「今後は海外でも、こうした開発者向けセミナーを実施したいと思っています」と、最後に語った和田氏。ワールドワイドに、クラウドゲームの可能性はさらに広がっていきそうな勢いであり、その先鞭をつけるであろうシンラ・テクノロジーの今後の展開には大いに注目だ。

シンラ・テクノロジーがクラウドゲーム開発者向けセミナーを開催_11
▲開発者向けのキットはどんな内容に?