東京ゲームショウはProject Morpheusを体験するチャンス
2014年9月2日から4日まで、神奈川県・横浜にあるパシフィコ横浜にて開催される日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”(コンピューター エンターテイメントデベロッパーズカンファレンス)。業界の第一線で活躍するゲームデベロッパーが一堂に集まる本カンファレンスの初日となる2日、ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏による“VR ~Project Morpheusで体感する未来~”と題された特別講演が行われた。本稿では、その内容をお届けしよう。
なぜいまVRなのか
SCEは、GDC 2014(アメリカ・サンフランシスコで開催されるゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)でバーチャルリアリティシステム“Project Morpheus”(プロジェクト・モーフィアス)を発表。それに先駆け、Oculus VR社はVR HMD“Oculus Rift”を発表しており、この夏には開発用キット“Oculus Rift DK2”を世界に向けてリリースした。なぜいま、VRシステムが登場し始めたかというと、世界で爆発的普及を見せているスマートフォンと密接な関係があるという。爆発的規模で拡大するスマートフォン市場の拡大により、各社の競争は激しくなり、スマホの性能は急速に高性能化。生産台数は右肩上がりのため、コストは低下。VRシステムは、スマホに使用されているキーデバイスを流用できるため、高性能且つコストが下がったことが追い風となり、VRシステムの(一般的に購入可能な)製品化が実現可能になったとのこと。
没入感を超える体験
そんなVRシステムの魅力は“没入感を超えた体験(Sense of Prsence)”。VRでは別の世界に自分が存在しているかのように錯覚してしまうため、たとえば、何かが飛んでくるとのけ反るなど、思わず身体が反応してしまう。そういった没入感を超えた体験こそがVRシステムでしか実現できないものだと吉田氏は語る。
ただ、この没入感を超える体験は、少しの違和感によって破壊されるため、保つことが難しいという。ポイントとなるのは“視覚”、“サウンド”、“トラッキング”、“操作”、“使いやすさ”、“コンテンツ”。このあたりは、GDC 2014のリポートとも重複する部分なので、【こちら 】を参照されたし。
コンテンツを制作する際の注意点
続いて吉田氏は、Project Morpheus開発過程で判明したVR向けコンテンツを制作する際の注意点をあげた。
まず重要なのは、従来のゲームデザインとVR向けのコンテンツの作りかたは大きく異なるため、別モノとして企画する必要があるということ。VRコンテンツはテーマパークのアトラクションを企画するようなイメージで、イチからデザインすることが望ましいという。フレームレートは60FPS以上。60FPS以下だと、違和感を感じさせてしまい、シミュレーター酔いにもつながる。これはVRシステムにマイナスのイメージを持たれてしまうため、絶対にやってはいけないことだ。吉田氏は「60FPSでなければ発売するべきではない」とキッパリ。また、現実でも乗り物酔いしてしまうような動きや、急な加速など体が感じない違和感を感じる動きは禁物だと述べた。また、VR世界のオブジェクトのスケールを現実に合わせることが違和感を感じさせない点で重要であることや、VR体験者はその世界をゆっくり楽しむ傾向にあるため、歩く速度も現実と同じくらいの(通常のゲームでは2倍くらいに調整されることが多い)スピードがいいことなどをアドバイスした。
VRのゲーム以外の可能性
VRシステムの用途はゲームにとどまらない。VRシステムは、軍事トレーニングや外科手術などのシミュレーター分野で発展・活用されてきた歴史があり、今後もそれは変わらないはずだ。今後、利用が考えられる分野ひとつは、デザインや建築分野。内装やレイアウトをVRな世界で確認できれば、家やマンション、家具選びなどに大いに参考になりそうだ。また今後、VR世界で博物館や美術館などが再現できたり、バーチャルトラベルなどといったことが実現できれば、いままで以上にさまざまな体験が可能になる。「これから生まれてくる子どもたちは、我々の何百倍もの経験ができるようになると思います」(吉田氏)。また、コミュニケーション分野でもVRなら、相手(アバターなど)の存在感を感じながら、やり取りできる。9月1日に行われたSCEJA Press Conference 2014で発表された、『サマーレッスン』(バンダイナムコゲームスの『鉄拳』プロジェクトのディレクター、原田勝弘氏が手掛けるProject Morpheusコンテンツ)は、登場する女の子の家庭教師になれるというコンテンツらしいが、「存在感がすごくて、女の子とのやり取りにはすごく緊張しました(笑)」(吉田氏)と告白。なお、『サマーレッスン』は、東京ゲームショウに出展予定とのことだ。さらに、【こちらの記事】 のように、映画やマンガの世界に入り込めるといったコンテンツも魅力的だ。
普及の課題
技術的な課題としては、トラッキング精度やデバイスそのものの大きさや重さ、装着感など、改善はされている部分はあるものの、まだまだ改善の余地があるところも多いとのこと。
ビジネス面では、ユーザーに魅力的に思ってもらえる価格、ゲーム以外の分野の新しいパートナーとの取り組みなどが挙げられた(実際にProject Morpheus発表後は、ゲーム業界以外の企業からの問い合わせも複数あったとのこと)。だが、もっとも重要な課題は品質の高いコンテンツを揃えられるかということ。吉田氏は、そのためにはノウハウを集め、それをデベロッパーとシェアして、よりよいコンテンツに一歩ずつ近づけていくことが重要だと述べた。
最後に吉田氏は、「とにかくVRは体験してみないとそのよさがわからない」と強調し、VRは“百聞は一見に如かず”ではなく、「多くの人に“百見は一体験に如かず”と感じていただけるよう、Project Morpheusの開発をがんばっていきたい」と抱負を述べて、今回の講演を締めくくった。