『ノーモアヒーローズ』のクリエイターが語る、映画とゲームの”つながり”
2014年6月26日、おなじみ黒川文雄氏による“黒川塾 (十九) ”が、東京・御茶ノ水 デジタルハリウッド大学大学院 駿河台キャンパスにて開催された。
黒川塾とは、“すべてのエンターテインメントの原点を見つめ直し、来るべき未来へのエンターテインメントのあるべき姿をポジティブに考える”というテーマのもと、各界の著名人を招いてトークを行う会。2012年6月に第1回が開かれ、今回で19回目の開催となった。これまで参加をしたゲストには、マンガ家/イラストレーターの寺田克也氏、スクウェア・エニックス取締役会長の和田洋一氏、元内閣総理大臣の菅直人氏など、各界の著名人が名を連ねている。
今回の“黒川塾 (十九) ”でも、“映画”をテーマにゲーム、映画業界の第一線で活躍しているビッグネームがゲスト出演。ゲーム業界からは、『killer7(キラー7)』や『ノーモア★ヒーローズ』 シリーズで知られるグラスホッパー・マニファクチュアのクリエイターである須田剛一氏が登壇。映画からは、『凶悪』『冷たい熱帯魚』などを手がけた日活チーフ プロデューサーの千葉善紀氏、雑誌『映画秘宝』でアートディレクターを手がけているデザイナー/ライターの高橋ヨシキ氏が、ゲームと映画への熱き想いを 語った。
■ロックスター・ゲームスの“映画的”な信念とは
まず話題にあがったゲームが、『レッド・デッド・リデンプション』だ。千葉氏は「泣ける作品」、須田氏は「これをやらないなんて人生損している、メキシコに行ったときは本当に泣いた」、黒川氏は「馬に乗っているだけで楽しい」と一同大絶賛であった。
参加者は、『レッド・デッド・リデンプション』をはじめとしたロックスター・ゲームス製のゲームに、なぜそこまでの没入感があるのかという理由を語った。
高橋氏は、“実際にいる”という実感を得るための細かい積み重ねがあり、動物の動きや、風の感じかた、ライティングへのこだわりなどが、渾然一体となった没入感を生み出しているためだと分析。
須田氏は、ロックスター・ゲームスの信念は“映画”的な演出にあり、たとえば『グランド・セフト・オート』 シリーズの光を見るとハレーションを起こすなどの演出に、映画らしい描画へのこだわりがあると語った。ちなみに、須田氏によると、ロックスター・ゲームスの創始者は、舞台監督の父と女優の母を持っていたこともあり、熱狂的な映画ファンらしい。
また、黒川氏もロックスター・ゲームスのグラフィックにはハリウッド映画のライティングの影響があるのではないかと分析。ハリウッド映画のライティング の規模は、日本映画のそれに比べてはるかに大きく、ライティングの違いはそのまま“奥行きある”トータルの画作りに大きく影響しているそうだ。
■須田剛一氏はグロテスクな描写への情熱も
須田氏は自身のゲームへの独特のグラフィックについても語った。須田氏は「グラフィックの影を強く出すのが好き」とのこと。黒川氏は『killer7(キラー7)』や『ロリポップチェーンソー』などのグラフィックに映画『シン・シティ』の影響を感じると考えていたそうだが、実際のところは、須田氏がもっとも影響を受けたのは永井豪氏によるマンガ『バイオレンスジャック』や『デビルマン』だったそうだ。
また、須田氏は6月10~12日にロサンゼルスで行われていた世界最大のゲーム見本市・E3について、各社の目玉と言えるタイトルが出てきていることをうれしく思うことだけでなく、『Mortal Kombat X』に敵対心を燃やしていたと、意外な心境を吐露。その理由は『モータルコンバット』 シリーズならではの強烈な残虐描写。敵の肋骨を引き抜き、それを眉間に刺すといったグロテスクなシーンを見たユーザーがゲラゲラ笑っているのを目の当たりにした須田氏は、日本に帰ったあと「これからは完璧にグロで行くぞ」と現場に司令を出してドン引きされたそうだ。これに対して高橋氏は「日本にそういうゲームク リエイターがいるのがうれしい」とにっこり(高橋氏もグロ描写が大好き)。
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また、会場では、須田氏の最新作『LET IT DIE(レット イット ダイ)』のトレイラーも公開。黒川氏はこのゲームに対して「日本だと規制がかかかってしまうのでは」と不安を口にしたが、須田氏は「はじめは気にせず行く」と強気であった。
■海外に見る、映画とゲームの“つながり”とは
須田氏は、アメリカで開発されるゲームにある、映画からゲームへ展開する、“ゲーム化への流れ”について語った。須田氏は「たとえばゲーム版『スカーフェイス』 には、映画のエンディングの続きを自分の操作で能動的に体感できるおもしろさがあると説明。アメリカには、映画をゲーム化して、映画でできなかったことをゲームでプレイしてより深く遊ぶことができるという流れがあり、ゲームと映画のクリエイターはゲームに対して、よりリスペクトがある」と主張。 高橋氏もゲーム版『ゴッドファーザー』で“下っ端”として映画の名シーンに参加できることに感動していたそうだ。
須田氏は「海外の若い映画監督にはゲーマーの方がけっこういる。日本でも映画とゲームのつながりが 深いものであってほしい」とコメント。一方、千葉氏も「日本の映画業界でゲームをプレイしている人は少ない。日本でも若い人にゲームをプレイしてほしい」と語った。このコメントからは、映画の技法が取り入れられているロックスター・ゲームスの作品や、あるいは『スカーフェイス』や『ゴッドファーザー』のように、ゲームが映画に、映画がゲームに相互に影響を与えるような環境が、日本にもあってほしいというメッセージが感じ取れた。
今回の“黒川塾(十九)”を取材して何よりもおもしろいと感じたのは、話題がゲームと映画で明確にわかれることなく、同じエンターテインメントという土俵の上でそのふたつが同列に語られていたことだ。『レッド・デッド・リデンプション』には映画のようなグラフィックへのこだわりがあり、『スカーフェイス』には、映画から派生したゲームならではのおもしろさがある。それは、映画、ゲームのどちらのファンでもある、海外の作り手のこだわりがあるからなのだろう。
日本で、このような映画とゲームのつながりから深い作品が生まれてくることはあるだろうか。それは、映画とゲームにかかわる若いクリエイターが、たくさんゲームをプレイしているか否かにかかっているのかもしれない。
(取材・文:編集部/オスカー岡部)