“父と子”のテーマが明確になる描写を心掛けた

『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』の古橋一浩監督に聞く こだわったのは、やはりフロンタル_09
▲写真はBlu-ray版。

 2010年に第1巻『機動戦士ガンダムUC episode 1「ユニコーンの日」』の発売以降、その高いクオリティーが多くのゲームファンをトリコにしてきたアニメ『機動戦士ガンダムUC』がついに完結。2014年6月6日にはバンダイビジュアルより、Blu-ray&DVD『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』が発売された。ここでは、Blu-ray&DVDの発売を記念して、『機動戦士ガンダムUC』シリーズの監督を務める古橋一浩氏にインタビューを敢行。『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』制作にあたってのこだわりポイントなどを聞いた。

※インタビュー中には一部ネタバレが含まれています。『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』未見の方はご注意ください。

■古橋一浩監督
うる星やつら』などの作画監督などを経て、『らんま1/2』より演出を担当するようになる。代表作にテレビアニメ『HUNTER×HUNTER』、『ジパング』、『RD 潜脳調査室』、OVA『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』シリーズなど多数。

――『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』は、どのような形で制作が進められていったのですか?
古橋 『episode 6』と『episode 7』に関しては、ストーリー担当の福井晴敏さんからプロットをお出しいただいて、それを制作サイドで詰めていく……というプロセスを踏みました。完結が近づくにしたがって、福井さんにも、「『機動戦士ガンダムUC』はこうやって終わらせたい!」という確固としたイメージがおありになったようで。福井さんは、全アフレコにも立ち会われて、収録のOK TAKEの選定もされていました。おそらく小説をお書きになった段階で、芝居ができていたのではないかと。ご自身のなかで、映像にしながら書いている部分もあるのかもしれませんね。

――それはすごいですね。制作過程で監督がとくにこだわったのは?
古橋 フル・フロンタルの部分です。

――中盤過ぎの、フロンタルとサイアムの両巨頭会談のシーンなど、フロンタルの描きかたは小説とは少し異なりますね。
古橋 小説だと声だけが、サイアムの居る氷室に響くんです。あそこはどうしても対面させたかった。これは理屈ではなくて、フロンタルとサイアムという『機動戦士ガンダムUC』を代表するふたりを、ひとつの舞台に立たせて、“芝居場”としての絵作りを実現したかった。とはいえ、「いきなり敵のいるところに出現するのも不用心では?」との意見もあったので、いろいろと調整をしました。事前に専用機で潜り込んで、中のシステムを乗っ取ってしまう。だから、いつでも脱出できる……という状態を作ったうえで、実現させたんです。こうすることで交渉の緊張感も出ますし、トップ会談の品格も保たれる。最後の邂逅は、無駄がないようにひとつひとつ組み上げていった感じです。

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――フロンタルに関しては、最後も小説とは変わっていますね。
古橋 アニメ『機動戦士ガンダムUC』 において、フロンタルに一貫性をもたせるための描きかたは何か……ということを考えたら、必然的にああなりました。ある種のカタルシスがなくなってしまうことをどう納得させるかで、「この熱が宇宙を暖めるのでしょ」というセリフがポンと入るわけですが、どんな展開になろうとも、“彼女”と、「もういいのか」と告げに来る“彼”が出てくれば収まってしまう。少しふたりの存在感に頼り過ぎちゃったかな(笑)。フロンタルを好戦的ではない形で終わらせたかったんです。アニメ全編をじっくり見返していただくとわかるのですが、フロンタルは自分からはほとんど攻めていないんですよね。無駄な人死にはフロンタルも嫌がっている。『episode 7』でも、最後まで言葉でバナージを説得しようという姿勢を崩していないですし。

――監督的にも、フロンタルにはひときわ思い入れが深かった感じでしょうか。
古橋 フロンタルに関しては、池田秀一さんが演じるので、池田さんの芝居に見合ったキャラクターにしたいという思いは一貫してありました。

――あと、ハイライトのシーンで“ビギニング”が流れてきたときには、鳥肌が立ちました。
古橋 私もです(笑)。もう生理反応ですね。『episode 7』の作業をしながら、『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙』のサントラを聴いていたときに、“ビギニング”が流れてきて、「これだ!」と思いました。

――福井さんが『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』は、『めぐりあい宇宙』のテーマを引き継ぐものだ……とおっしゃっていましたが、うまくつながるわけですね。
古橋 『機動戦士ガンダムUC』 のテーマ“父と子”はそのまま“受け継がれる”=“オールドタイプからニュータイプ”なんです。

――『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』では、作画が印象的なシーンが多々ありますよね。
古橋 キャラクターの感情を芝居で伝える努力をしています。説明的ではない表現で生々しさを出せたら。言葉を軽んずる……というわけではないのですが、言葉はいくらでも偽れる。言葉がうまければうまいほど、胡散臭くなってしまいますから。“ここぞ”というところで効かせるためにバランスを取りつつ演出しています。たとえば「君に託す」というセリフ。あそこには、いろいろな思いが込められていたりします。

――なるほど。印象的なシーンとしては、最後にカーディアスが、どこかに行ってしまおうとするバナージを引き止める場面とかがあります。
古橋 『機動戦士ガンダムUC』における“父と子”というテーマが、明確になったシーンではありますね。あそこは絵コンテだと立っているだけだったのですが、(高橋)久美子さん(『機動戦士ガンダムUC』のキャラクターデザイン担当)が抱きかかえてくれる絵にしてくれたので、テーマがよりはっきりしましたね。そのあとで、バナージがミネバにキャッチされるシーンへと続くのですが、『episode 5』にも同種のシーンがあるんです。『episode 5』では、片手でのキャッチだったのですが、最後はもっと明確にさせようということで、両手でのキャッチになっています。

――よく見ると、細部の描写に至るまで発見があるということですね。手と言えば、ネオジオングとユニコーンガンダムとのバトルシーンも印象的でした。ユニコーンガンダムが徒手空拳で戦っていて、個人的には大好きなシーンです。
古橋 プロデューサーの小形尚弘さんも、お気に入りのシーンです。「そこがいちばん好きだ」とおっしゃっていました。アクション的にもトリになるシーンなので、もっとも頼りになる作画さんにお願いしたんです。ビーム・サーベルの戦いや新しい武器に頼らずに正面からぶつかるイメージが欲しかったんです。万全の体制でイメージ以上の仕上がりになり、悔いはない! と思ったのですが……。コンテは1年前に描いたのに、TVシリーズ『ガンダムビルドファイターズ』の肉弾戦が先に世に出たので、印象が弱くなってしまったのが残念ですね。フロンタル側は受け流す体制なので熱いバトルになりようがなく、カタルシスが足りないのはテーマ上、やむを得ないのですけども。“大人のガンダム”はホントに難しい。

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――いずれにせよ、『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』では、作画のクオリティーが際立っていますよね。
古橋 キャラクターは、(制作期間の)1年を使って、きちんと仕上げられたかな……と思っています。今回、恩田(尚之)さん(『機動戦士Zガンダム』劇場版三部作の作画監督などを担当)にも参加していただきました。地球の“カフカスの森”のシーンは全部恩田さんの担当なのですが、絵が実写みたいですよね。立体感があるし。おじさんおばさんもすごいリアル(笑)。まさに劇場版のアニメみたいでした。

――モビルスーツの動きも気持ちよかったです。
古橋 手描きメカは作画のオーソリティーの方々に支えられています。でもプラモ造形が念頭にあるデザインなので、フルアーマー・ユニコーンガンダムとかバンシィ・ノルンのアームド・アーマーXCを背負った状態は手描きの限界を試すレベルの大変さでした。原画も修正もですが、動画は難儀極まりないでしょう。線の多さも去ることながら、立体が捉え難くて、プラモを見ないと1枚も描けないくらいです。フィルムを見ると手描きでの中割は不可能なのが解ると思います。こういった複雑なデザインのメカは、今後は3DCGが主体になって、手描きは止め絵くらいになるでしょう。そのときに動きの感じがどうなるか。『機動戦士ガンダムUC』の作画に寄せた2コマ、3コマ打ちで原図ポジションを目に残していくモーションを量産できるようになればよいのですが。

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――3DCGでも中抜き(コマ単位の動画減らし)はできるのですか?
古橋 モビルスーツは2コマ打ちベース、砲身は3コマ打ちで撮影しています。ユニコーンガンダムの角の開きは大胆に中抜きしていますね。ポイントを外してしまうとカクカクに動きが荒くなるので、通常よりも多いラフ原画を描いてタイミングを計り、ポーズ、フォルムにデフォルメを入れて快感を伴う躍動感を持続させる必要があります。まあ、近道はないんです。3DCGも。

――そういった意味では、『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』は脳汁が出まくりかもしれません。
古橋 それは、5年近くかけて培った“スキル”なので、何とか継続・発展させていきたいです。

――『機動戦士ガンダムUC episode 7「虹の彼方に」』では、古橋監督が培ったスキルが随所に活かされているということですね。では、最後に改めて本作の見どころなどを……。
古橋 “見どころ”と言われるといつも困るんです。先入観は目を曇らすものだと考えますので。見かたに関しては、“まっさらな状態見てほしい”ですね。ご自身の理想の形を持ってこられると、何を作ってもダメになってしまうので。とくに『機動戦士ガンダム』となれば、期待値は相当なものがあるかと思いますが、見る方はできるだけハードルを下げてご覧いただけたらうれしいです。

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(取材・文 編集部/F)