こだわり満載の表現
2014年4月18日に秋葉原UDXシアターにて、オートディスク主催による“The day of 3ds Max”が公開された。
3ds Maxはゲームだけでなく、映像や建築業界などで活用されている高機能3DCG制作ソフトウェアだ。今回行われた “The day of 3ds Max”では、先日発表されたばかりの、“Autodesk 3ds Max 2015”(→関連記事はこちら)を紹介。さらに、フロム・ソフトウェアの担当者による、『DARK SOULS II(ダークソウルII)』の3ds Maxの制作事例を報告する講演などが行われた。ここでは、その講演の模様をリポートしよう。
■汚れの処理がよりリアルに
まず、3ds Maxの制作事例として紹介されたのが、『DARK SOULS II(ダークソウルII)』における“汚れ”の処理。グラフィックをリアルに描こうと思ったら、汚れをいかにそれらしく表現するかは、不可欠のポイントと言える。当然『DARK SOULS II(ダークソウルII)』でもその点には多いに注力している。同作の“汚れ”の表現の仕方は、1.汚れ落ちの向き、2.汚れのムラ、3.汚れ落ちの速度、の3つにこだわっているとのことだ。以下に、個々の事例を見ていこう。
1.汚れ落ちの向きの例として紹介されたのが、ゲーム中でキャラクターが毒の沼にハマるシーン。毒の沼に入ったキャラクターは当然全身汚れまみれになるが、この汚れは上からゆっくりと落ちるようになっている。この処理を示すのが、以下の画像だ。毒の沼にハマってすぐは全身が汚れにまみれた状態になっているが、この汚れは上からゆっくりと落ちるようになっている。
2.汚れのムラへのこだわりは、鎧の表現を例に紹介された。ディテールにこだわって制作された鎧だが、汚れた場合は当然ムラができる。溝の部分の汚れは落ちずに残るのだ。
3.汚れ落ちの速度については、金属は汚れがすべり落ちやすく、布のような汚れが付着しやすい材質は、汚れがすべり落ちるまでに少し時間がかかる……という物理法則をきっちりと再現したものだ。
いずれもさりげない表現で、ゲームを遊んでいると見逃しがちだ。だが、そうしたちょっとした表現がリアルさを確固としたものにする。3ds Maxならば、そうしたリアルもしっかりと実現できるというわけだ。今度『DARK SOULS II(ダークソウルII)』をプレイするときは、汚れの表現に気をつけてみると、さらに楽しめるのでは?
■自動化や微調整など、便利な機能を活用
講演では、『DARK SOULS II(ダークソウルII)』におけるマップ制作事例も紹介された。マップを作るさいに重宝しているのが、 “自動化機能”、”拡張機能”、”調整機能”とのこと。
“自動化機能”は、くり返し作業をする際に自動化をすることで、ヒューマンエラーを軽減し、一連の操作を簡略化することができるそうだ。データの呼び出しを管理することでファイル操作のミスをなくし、表示モデルを編集した後に配置データを更新するといった操作も簡易に行えるとのこと。
“拡張機能”は、枯れ葉などのテクスチャの配置や、土を交えた表現などをすることなどにより、より複雑な絵を描くことを可能にするテクノロジー。草など“板”のようになっているグラフィックのシャープさを軽減し、より自然に見えるようにもできるそうだ。
“調整機能”は、グラフィックの角度、ランダムに配置されるオブジェクトの数の変更、オブジェクトのリネームを簡単に行うことができる。3次元的にグラフィックを引き延ばすことや、グラフィックの基点を細かく設定することも可能であり、グラフィックの微調整においてとても役立つもののようだ。
■光の処理もより自由に
『DARK SOULS II(ダークソウルII)』では、光の表現も3ds Maxで行なわれている。3ds Maxではライトの切り替えが自由にできることが利点であり、光の表現の配置を簡単に切り替えることが可能だ。さらに、陰影そのものも前作よりも丹念に描き込まれており、金属や布などの素材の質感によって、光の反射具合も変えるといったこともできる。
■プロモーション映像にもこだわる
さて、今回『DARK SOULS II(ダークソウルII)』のプロモーションムービーは、約1ヵ月で制作されている。なかなかにタイトなスケジュールだが、ゲームのRPのためにも、よりよいプロモーションムービーを作りたいということで、短期間での制作を実現すべく、制作フローの改善やゲーム中のカットシーンの活用、社外でのモーションキャプチャーの撮影など、さまざまな工夫が施されたそうだ。
プロモーションムービーでは、ゲーム中のカットシーンを挿入しても違和感がないように、ライトや質感を調整することで前後のシーンとなじむようにする工夫がされている。炎のゆがみ、雨が着水する瞬間、水の中の飛沫の表現まで合わせて対応しており、短い期間の制作とは思えない、妥協のなさが伝わる映像となっていた。以下、その動画をお届けしよう。
■3ds Maxの利点はココにあり
これまでもフロム・ソフトウェアでは、ゲーム開発において3ds Maxを活用していたという。その理由のひとつが、高い安定性を誇ることだそうだ。ハードな動きのシーンの作業にも3ds Max はスムーズに対応したと、開発においてとくに役立ったことを振り返っていた。
さらに、プラグインに幅広い選択肢があり、各種調整に適した機能や拡張性があることも3ds Maxの利点とのこと。『DARK SOULS II(ダークソウルII)』では企画段階から開発まで、度重なる調整がくり返されたのだが、その過酷な調整作業にも3ds Maxは柔軟に対応することができたそうだ。
担当者の方は、「プレイステーション4などの次世代機のゲーム開発においても、3ds Maxは重要な役割を担っていくツールとなるものであり、今後も3ds Maxの進化に期待している」と講演を締めくくった。
今回の『DARK SOULS II(ダークソウルII)』開発事例において伝わってきたのは、3ds Maxはハイクオリティの映像表現を可能にするだけでなく、作業をより効率化させ、プロの3Dゲームの開発現場に快適な開発環境をもたらしてくれるということだ。ゲームをプレイする際にも、以上に紹介したような細かい映像表現にぜひ注目してほしい。3ds Maxの高機能と、制作スタッフによる職人芸が感じられるはずだ。
(取材・文 ライター/ヒナタカ)