週末のショッピングモールが世界最大規模の戦場に
全世界で8000万人の会員数を誇るオンラインゲーム『World of Tanks』の世界ナンバーワンチームを決める大会”WARGAMING.NET LEAGUE GRAND FINALS”が、ポーランド・ワルシャワで4月4~6日(現地時間)の3日間にわたり開催された。
大会会場となったのはポーランド最大の都市ワルシャワの中心地にある巨大ショッピングモール。その一角にあるシネコンのほとんどのエリアを3日間貸し切る形で大会は実施された。日本で言うならイオン、ららぽーとといった施設に併設されたシネコンを想像するとわかりやすいかもしれない。
シネコン内のもっとも広いシアター(座席数約800、超ゆったり)がメイン会場となっており、舞台上にはプレイ用のブースがふたつ設置。試合の模様はスクリーン(超大きい)に映し出され、ギャラリーはシートに座って観戦するというスタイルだ。なお、観戦は無料で出入りは自由。たまたまショッピング目的で訪れたような親子連れやカップルの姿も見られた。
シネコンのロビーには、選手のために用意された調整用のPCや試合の様子などを映し出す大きなモニターが設置。奥にはスタジオブースが設営され、MCや解説者、プレイヤーズゲストが試合の合間に次戦に登場するチームの分析や試合の検討などを行っていた。
このスタジオでの解説や試合の映像は6つのリージョン別にリアルタイム配信。基本的には英語での配信だったが、韓国や中国向けには個別に実況専門のスタッフが配置され、まさに全世界のプレイヤーが観戦できる体制を敷いていた。なお、配信のトータル視聴者数は6000万人以上。まさにケタ違いの数字だ。
参加チームは14。ロシア、北米、東南アジアなど、各リージョンのサーバーごとに行われたリーグ戦を勝ち上がってきた12チームと、地元ポーランドの強豪を含む主催者選抜による2チームが集結。ほとんどの選手がプロとして活動しており、この分野では日本が大きく立ち遅れていることを改めて実感させられた。ただ、ユニフォームのデザインから察するに、ポーランド、シンガポールのチームはスポンサーがついていない、いわゆるアマチュアのようだった。それにもかかわらず両チームとも大会の台風の目として活躍。日本にもまだまだ可能性があることを示してくれた。
各チームの紹介VTRや煽りVTRも用意されていた。アメリカのメジャースポーツ風の渋い作りだ。細身のいわゆるオタク然とした優男とグラサン・スキンヘッドのいかつい大男がチームメイトとして並んでいる光景には失礼ながら笑ってしまったが、ほかのプロ競技にはない特性、優位性として捉えるべきだろう。
プレスカンファレンスにはワルシャワ副市長も登壇
大会1日目の試合前に、Wargaming社によりプレスカンファレレンスが開催され、CEOのVictoer Kislyi氏、e-Sports部門担当のMohamed Fadi氏に加え、ワルシャワの副市長のMichal Olszewski氏が登壇した。
Wargaming CEO
Victoer Kislyi氏コメント
我々は、かれこれ15年以上ストラテジーゲームを制作してきました。なかなか大きな成功には恵まれなかったのですが、2008年ごろ、インターネットやPCの環境が劇的に向上し、それとうまく噛み合い、我々は成長することができました。
『World of Tanks』は非常にシンプルなゲームです。操作も簡単だし、直感的にすぐ遊ぶことができます。そのため、いろいろな方のライフスタイルに溶け込むことができました。仕事のあとに1時間だけ遊ぶといったような、カジュアルに遊ぶプレイヤーも非常に多いのです。その結果、世界に8000万人ものプレイヤーが存在するようになりました。
しかし、ただシンプルなだけではなく、RPGのような育成要素や高いアクション性、無数にある戦術や戦略など、遊べば遊ぶほど奥深さを実感できるのも、このゲームの魅力です。
我々は『World of Tanks』をe-Sportsとして発展させていきます。しかし、我々が主張するだけでは、そうはなりません。ゲームとして評価され、まずプレイヤーに盛り上がっていただかなければなりません。
そうしたなかで、プレイヤーたちは自分のテクニックを見せたい、強い相手と戦いたい、大会で勝って栄光をつかみたいといった気持ちが強くなるはずです。そういった欲求を満たせる場を提供することが我々と務めだと思っています。いま現在、e-Sportsに関連するスタッフは40名以上おり、大会の企画や運営を社の事業として行っています。
今回、大会の開催場所を決定するにあたり、世界中を巡りました。そのなかでワルシャワを選んだのは、ワルシャワの人々とひと晩語り合って、熱い心を持ってこのゲームを遊んでいることがわかったからです。
人口に対するプレイヤーの比率は、モスクワがもっとも高い地域となり、国でいうとアイスランドでは全人口の3%がプレイしており、もっとも高いです。町の単位ではワルシャワが非常に高く、世界に対抗できるプレイヤーが誕生する町だと思います。
これから世界のトップチームが最高レベルの戦いをくり広げます。しかし、これは始まりにすぎません。今後この大会はもっと大きくなることでしょう。また、これがきっかけとなり、新しいプレイヤーが世界を目指すようになれば非常にうれしいです。
また、ほかのゲーム会社とも協力し、情報を共有して、我々のゲームだけではなくさまざまなゲームがe-Sportsとして発展していけるよう、努力していきます。
Wargaming eSports Director Europe&North America
Mohamed Fadi氏コメント
我々の役割は世界中のプレイヤーに強豪たちと戦える場所を提供することだと思っています。また、一般の方にもe-Sportsや選手たちに興味を持ってもらうことも目標のひとつです。
技術の進歩により、たとえばこの会場のすぐ外でもスマートフォンで配信を見ることができます。世界はどんどん変わっていきますので、我々もそれとともに成長していきます。
我々は2011年から各地域で大会を始めましたが、選手たちからは、もっと大会を増やしてほしい、強いチームと戦いたいという要望が出てきました。
その要望に応えるため、2012年から国際大会を開き、賞金を出すようにしました。このときは30000人以上ものプレイヤーが参加し、同時にプロを目指しているプレイヤーがどのくらい存在するのか、確認することもできました。
2013年からは800万ドルを投資し、さらなる発展を目指しました。新たな企画がいくつも立ち上がり、この“WARGAMING.NET LEAGUE”も誕生したのです。
我々の大会がここまで成長できたひとつの要因として、“フリートゥウイン”の考えかたがあると思います。「強くなるためにお金はいらない」というコンセプトを貫き、誰もが同じ条件で戦えることを大切にしてきました。
2014年は“GRAND FINALS”が開催される記念すべき年となりました。我々はこの年に前年から25%アップした1000万ドルをe-Sports分野に投資し、新しいコンテンツを生み出し、さまざまな方に理解されるよう努めていきます。
また、新たに“パートナーシッププログラム”を立ち上げます。世界中の優れたプレイヤーをサポートし、また彼らと協力することで、新たなマップやツールなどを作り出していきます。お互いの意識を共有することで、さらなる高みを目指すことができるはずです。たくさんの協力企業やプレイヤーが集まってくれることを期待しています。
今回の大会や発表は、2014年に起こることの始まりにすぎません。新しい試みをたくさん用意していますので、ご期待ください。
ワルシャワ副市長
Michal Olszewski氏コメント
いまこの場でスピーチピできることをとても光栄に思っています。じつは私もこのゲームのプレイヤーでもあります。オフィスの同僚で小隊を組み、楽しんでいます。まだ1000試合ほどしか経験していませんが、とてもすばらしいゲームだと思います。ちなみに、同僚からのメールで知ったのですが、私はとても弱いようなので、今後も腕を磨いていきたいです(笑)。
ワルシャワを開催地として選んでいただき、とても感謝しています。私たちも、e-Sportsはとても重要なものとして捉えており、こうしたイベントの存在を世界中にアピールする手助けができることをうれしく思います。
私の戦車は開始5秒で破壊されてしまうことが多いですが(笑)、選手のみなさんにはがんばっていただきたいです。
ここまで大規模なイベントとなると、自治体の理解が不可欠になってくることは容易に想像できる。また、副市長のコメントからは、ゲーム自体への深い理解とスポーツイベントに近い認識を持っていることがうかがえた。日本を振り返ってみると、こうした場において自治体関係者が登壇したことは、少なくとも記者の記憶にはない。規模や文化の違いから単純に比較するのは意味のないことかもしれないが、どちらの状況がいちゲームファンとしてうれしいかと言えば、ワルシャワに軍配を上げざるを得ない。
地元ポーランドチームと伏兵シンガポールチームが躍進!
ここでは試合で印象に残ったチームを振り返ってみる。1日目は予備戦が行われ、2日目以降の本戦に進む2チームを決定。地元ポーランドのチーム“Leming train”はこの予備戦からの登場となったが、地元の声援に後押しされてか、つぎつぎに勝ち進む。3日間を通していちばんの大逆転勝利もポーランドチームが演出し、会場の盛り上がりも最高潮。割れんばかりの大喝采を浴びていた。
本戦でも1回戦を突破したものの、ロシアの強豪であり優勝候補の“NAVI”の前にあえなく敗退。敗者復活戦でも破れ、志半ばで散ってしまったが、大会の盛り上がりへの貢献度はナンバーワンと言ってもいいだろう。
東南アジア代表の“PvP Superfriends”はゲーム内はもちろん、ゲーム外のパフォーマンス(バットマンのコスプレをして試合に臨むらしい)でも注目を集めるチーム。CEOのVictoer氏も注目すべきチームのひとつに挙げていた。
本戦から登場し、1回戦で“NAVI”に討ち取られてしまったが、敗者復活戦にまわると怒涛の快進撃。あと1歩及ばず決勝進出とはならなかったものの、アマチュアチームにして4位は立派のひと言。今後もアジアをリードする存在として、試合にコスプレにと奮闘してくれることだろう。
決勝戦は同じロシアのチームどうしの激突。圧倒的な実績から優勝候補の最右翼とされていた“NAVI”と、EUサーバーから代表権を勝ち取り、本戦で“NAVI”をも撃破して無敗で決勝に歩を進めた“Virnus Pro”との試合となった(敗者復活戦があり、2敗したら脱落というルール)。
決勝戦は最大7試合での戦い。引き分けでも試合数が消化され、お互いの勝ち数を上回る可能性が消えた時点で決着となる。このルールにおいては先行することが大切だが、まんまと1本目を取った“NAVI”がそれ以降、引き分けを保険とした立ち回りに終始する堅実な戦いを続け、思惑通りか、4連続引き分け。6戦目は得意マップなのか、相手の焦りに乗じてなのか、一気呵成に襲い掛かり、見事勝利。ワールドチャンピオンの座をつかみとった。
なお、Victoer氏とFadi氏、“NAVI”のチームリーダーには個別にコメントを頂戴した。こちらは別記事にまとめるので、ぜひ一読いただきたい。