インディーゲームの展開には、非常によい感触を持っている

 2014年3月17日~21日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のセッション、 GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2014が開催。ここでは、開催5日目(3月21日)に行われた“Xbox's Phil Spencer: Fireside Chat”の詳細をお届けしよう。すでにお伝えした通り(→記事はこちら)、マイクロソフトスタジオ担当 コーポレートバイスプレジデントのフィル・スペンサー氏が、Gamasutraの編集長、クリス・グラフト氏の質問に対して答えまくる……という趣旨で行われた本セッション。SteamのことからVRのことまで幅広いテーマが話題になったわけだが、その一部始終をお届けする。

インディーゲームの取り組みや『タイタンフォール』のことなど、フィル・スペンサー氏がXbox Oneを大いに語る【GDC 2014】_01

――Xbox Oneのロンチは支障なく行われましたか?
フィル ロンチ自体はとてもよかったと思っています。ハード、ソフト、ゲームラインアップのいずれを見ても、いまXbox Oneのユーザーでいるのはよいことではないでしょうか。

――Xbox Oneに発売前に、オンライン常時接続の仕様が発売前に変更になりましたね。
フィル 1年前の発表会ではエンターテインメントの要素をメインに紹介しましたが(→記事はこちら)、これは、E3でゲームにフォーカスした発表をすることが決まっていたからです。いま考えると、もっと明確にハードの紹介をすべきだったと思っています。“Xbox Oneのソウルは何か?”ということですね。これらの経験で多くのことを学んだので、今後の成長につなげたいです。フィードバックも大切にして、Xbox Oneを改善していきたいです。

――常時接続のポリシー以外に、GDCの参加者にとって関係深いのは、セリフ・パブリッシングの変更があります。Xbox Oneの発表当時これは入っていませんでしたが、のちにセルフ・パブリッシングが可能になった理由は?
フィル 商品の要素をお披露目するにあたって、一度に紹介できるフィーチャーは限られています。やはりゲームが中心になる。セルフ・パブリッシングは、最初からXbox Oneに組み込まれていました。PCなどに比べ、コンソールは大型タイトルが多く、プロジェクトも莫大な予算がかかることが多いのですが、Xbox Oneではさまざまな規模やビジネスモデルで展開できる、インディーゲームをサポートする準備をしています。

――大型タイトルが中心のXbox Oneで、インディーゲームをサポートすることは、マイクロソフトにとって理にかなっていることなのでしょうか? 価格が10~20ドルのゲームは、どうフィットしますか?
フィル 自社プラットフォームにベストなゲームを持ち込むことこそが成功です。トリプルAタイトルはコンソールに特有のものであり、『タイタンフォール』、『コール オブ デューティ』、『グランド・セフト・オート』などは、非常に需要が大きいです。ハリウッド映画のようなものですね。一方で、小規模なスタジオのゲームはビジネスモデルが異なっており、プラットフォーム、ユーザー、デベロッパーの関係性が異なります。映画と同じく、そちらにも需要がありますし、Xbox Oneでは両方サポートすることができます。

――Xbox 360でにあったXbox Live インディーゲームのカテゴリが、Xbox Oneではなくなるわけですが、今後インディーデベロッパーへのサポートはどのようになっていきますか?
フィル Xbox 360時代は、Xbox Live アーケードのゲームもほとんどが小売志向で、パブリッシャーの資金により開発されました。このモデルが代わり、デベロッパーは違う形で資金を得られるようになりました。我々が資金を提供しなくてもよくなったわけで、これはよいことだと思います。デベロッパーがユーザーとより近い関係が持てますし、ゲームファンはプレイしたいものを選べる。プラットフォーム上で提供されるゲームの背景がどうであろうとユーザーには関係ないわけで、選択肢が増えるのはすばらしいことだと思います。

――Xbox One向けのゲームを開発したい場合のタイムテーブルは?
フィル 昨年のgamescomで発表しましたが、申し込みをして開発キットを受け取るという流れになります。現在は、申し込んでいただいた何千人の方たちがきちんとしたサポートを受けられるようにしているので、時間がかかっていますが、対応が追いついてきたところです。いま、すばらしいゲームが数多く開発中です。もちろん、販売に向けてのサポートもプログラムにしっかりと入っていますよ。

――インディーゲームに関しては、プレイステーション4が先行しているとの印象もあります。
フィル ソニーはよい仕事をしていると思います。昨年のE3のプレゼンはとてもよかったし、ブースでもタイトルがお披露目されていましたね。我々の場合は、プランを発表するタイミングがプレイステーション4とは違ったということです。ソニーは先行して展開することにしたわけで、私たちは自分たちの進行状況について、とてもよい感触を持っています。デベロッパーからもポジティブな意見を聞いていますよ。

――Xbox Oneでは、アップデートや価格、ディスカウントのやりかたなども変わっていきますか?
フィル デベロッパーとゲームファンの関係を密接にする努力は、ソーシャルフィールド、プラットフォーム、フィードバック、分析などを通して行っており、デベロッパーが知りたい情報を提供しています。クリエイターとゲームファンの関係は、もっとも密接な状態にあると思います。我々はこれができるように、今後もサポートしていきますよ。

――アップデートの期間などに関してはどうですか?
フィル Xbox 360のフリー・トゥ・プレイゲームを経験して、『World of Tanks』や『マインクラフト』で、どうすれば成功できるのかを学びました。『マインクラフト』は非常に頻繁なアップデートサイクルを持っていて、学ぶことは多かったです。Xbox Oneでは、これを活かしてデベロッパーがやりやすい形にしています。

――Xbox 360版を配信するにあたって、『World of Tanks』や『マインクラフト』のデベロッパーには、少し懸念があったと聞きました。
フィル 両社とも、PCゲームを大成功させ一大フランチャイズに育て上げました。彼らから見ると、我々コンソールビジネスの人間が「PCゲームデベロッパーをきちんと理解できるのか?」という懸念があったようです。そういう意味では、信用を勝ち取らないといけなかったんです。最終的には彼らのフランチャイズをどう扱い、顧客をどう扱うかというところを判断されました。その後に、アップデートサイクルや価格などを詰めていきました。彼らがこちらに全面的に信頼してくれたのは、マーケティングでした。それまでほとんどやっていなかったことですからね。「コンソールで培った筋力を活かして成功させてほしい」と言われましたね。
 もっとも重要だったのは、このビジネスモデルがうまくいくかでした。結果として、Xbox Liveのパワーのおかげで、両方とも大きな成功を収めています。

――有料アルファ版を提供するといったビジネスモデルは、Xbox Oneでもありえますか?
フィル 従来は、パブリッシャーがデベロッパーに資金を提供して、パブリッシャーが市場展開などを行う形でした。デベロッパーがゲームを世に出すには、このプロセスが必要でした。いまはそれが変わり、パブリッシャーは大規模なゲームに注力し、小規模なゲームはデベロッパーが自己資金で出せるようになっています。もちろん、小規模なゲームでも従来の形を取るケースはありますし、私たちもそれをやっています。
 有料アルファ版やKickStarterは、デベロッパーが開発中に酸素(資金)を得る手段です。ゲームファンが積極的に自分のほしいゲームに投資し、デベロッパーはコミュニティーの意見を取り入れてゲームを出すことができれば、成功です。

――それは、Xbox Oneでもできますか?
フィル KickStarterで資金を集める場合、必ずしもそのゲームのプラットフォームがはっきりと書いてあるわけではありません。Xbox Liveのコミュニティーの声を聞くことも可能です。『Project Spark』のような例もあり、コンテンツを楽しむ相手といっしょにゲームを作るのはすばらしいことです。これについては、はっきりとした計画を持っているわけではありませんが、可能です。
 重要なのは、ユーザーにそのゲームがどういう状態にあるのかを明確に伝えることです。未完成なのか、完成しているのかをはっきりとさせるべきです。Xbox 360版『マインクラフト』を例にとると、同作はさまざまなアップデートを経た結果、未完成だったロンチ時とは大きく異なるものになっています。プレイヤーが何を求めているかが反映された結果ですね。

インディーゲームの取り組みや『タイタンフォール』のことなど、フィル・スペンサー氏がXbox Oneを大いに語る【GDC 2014】_02

――マイクロソフト全体の戦略の中では、従来の大型ゲームと規模の小さなゲームはどうフィットしていくのですか?
フィル Xbox 360では、ブロックバスターにフォーカスしてきましたが、ファーストパーティーとしては、サードパーティーがやらないけれど、プラットフォームに必要なタイトル(たとえばKinectを使ったタイトルなど)にも、かなりの時間と資金を投入してきました。今後もこういったことはあると思います。たとえば、『Killer Instinct』は『Ryse: Son of Rome』や『アサシンクリード』などに比べると規模の小さいタイトルですが、人気はあります。ただ、我々がボートフォリオに対していろいろなゲームを揃える時代は終わったと思っています。ID@Xboxプログラムがこれに取って代わります。デベロッパーがゲームユーザーといっしょに作るゲームは、ファーストパーティーがやるよりも、格段にペースが早いです。

――今後インディーゲームが増えることが想定されますが、ユーザーはたくさんあるゲームの中から、自分のほしいものをどうやって見つけるのですか? デベロッパーは、どうやってファンの心を掴めばいいのでしょうか?
フィル ほかのマーケットプレースの様子を見て参考にしていますが、完璧にやっているところはなさそうです。もちろん、彼らは賢い会社であり、長い経験もあるわけですが……。力となるのはソーシャルだと思います。自分がプレイしたいゲームに対して友だちがどう評価しているかを知りたがるものです。これは、ゲームだけではなくて、音楽でも同じです。つまり、同じような趣味嗜好の友だちがどう評価しているかをわかるようにすることがキーだと思います。
 もちろん、『タイタンフォール』のようなE3でも大絶賛を集めたゲームと、インディーゲームとでは見つけかたが異なるでしょうが……。

――いまお話に出た、『タイタンフォール』の手応えはいかがですか?
フィル 新しいスタジオからリリースされる初のゲームが新しいプラットフォームから出る。これほどのプレッシャーはないでしょう。そんな中、これだけの成功を収めていることに対して、彼らを誇りに思うし、賞賛の気持ちでいっぱいです。
 『タイタンフォール』は エレクトロニック・アーツとリスポーンのゲームなので、正確な数字は把握していませんが、ハードウェアの売上はソフトに沿っているところが多いので、ある程度はわかります。ロンチ後の1週間、Xbox Liveの動きはこれまででもっとも活発でした。すぐれたフランチャイズがまた生まれたんです。新しいフランチャイズは業界にとって、とても大事なことであり、これがXbox Oneのロンチのタイミングで起きたことは、とてもラッキーなことでした。とにかく、何百万という人が楽しんでくれているのがすばらしいです。

――これまで、より少数のトリプルAタイトルに、より多くのリソースをつぎ込んでくることが多かったように思いますが、インディーゲームデベロッパーも、その隙間で売上を上げているようですね。
フィル 隙間とは思いません。我々は、パブリッシャーとして多くのトリプルAタイトルを出してきましたが、インディーゲームも大きな存在感を放ってきました。

――ロンチパリティ(ほかのプラットフォームと同時にXbox Oneで発売するという条項)は、近い将来変わると思いますか? これは、デベロッパーにとっての懸念事項のひとつですが……。
フィル それは認識しています。とはいえ、プラットフォーム側としてはベストゲームがXbox Oneで出てほしいですし、出していただく以上はデベロッパーをきちんとサポートしたいと思っています。この件に関しては、インディーゲームデベロッパーと引き続き、話し合いを進めていくつもりでいます。GDCでもお話していますが、どんなポリシーを希望しているか知りたいです。プラットフォーム側として守らなくてはならないところもあり、デベロッパー側もビジネスとして成立しなければ生き残れない。パートナーとは1対1の会話を続けています。
 ふたつのプラットフォームで同時には開発できないので、ひとつを選ばなくてはならず、それによって一定の期間に別のプラットフォームでは出せなくなり、ビジネスとしては成功できないという懸念は理解しています。

――デベロッパーからは、どんなフィードバックをもらっていますか?
フィル ロンチパリティの件は話題になります。ID@Xboxプログラムのチームは、高い評価をもらっています。私はいま、GDCに来たり、SXSW 2014に行って、『The Hushtag Game』をやったりして刺激をもらっていますが(ソーシャル性がすばらしいゲームですね!)、おおむねはE3の準備に時間を費やしています。GDCで聞いたデベロッパーの意見は、参考にさせてもらいます。GDCは活気溢れる重要なイベントであり続けると思います。ここで語られるテクノロジーやゲームには大いに刺激されますね。

――今年のGDCでは、Steam Machineが話題を集めましたね。
フィル  Valveはすごい会社だと思います。お隣の会社であり、友人もたくさんいます(両社とも本社はシアトル)。Valveは、ここ10年ほどPCゲーミングのバックボーンとなってきました。もちろん、マイクロソフトはWindowsの会社として彼らの貢献に感謝しています。我々以上にPCゲーミングにフォーカスしてきた会社です。
 マイクロソフト社内では、WindowsとPCゲーミングに新たにフォーカスをするようになりました。GDCでもDirect X12のデモを行なっています。Valveと競争するという意味ではなく、自社プラットフォームにきちんとした投資をする必要があると思っており、最高のゲーミングが提供できるように努力したいです。この夏に、もっと話ができるようになると思います。
 Steamのやっていることは理屈に合っています。アカウントを増やし、ストアフロントを強化することで、顧客が多くのコンテンツを購入しています。ゲームを売るならほかに何が売れるか、どんなコンテンツを用意するかを考えています。詳しくは知りませんが、音楽、ビデオなどさまざまなコンテンツが可能です。非常にスマートなやりかただと思います。
 ソニーや任天堂からも多くを学ばせてもらいました。同じフィールドで競争するのはよいことだと思います。

――VR(バーチャルリアリティ)も、GDCでは話題になりました。
フィル  VRはクールなテクノロジーですね。我々には、マイクロソフトリサーチという研究機関があり、Kinectや音声システムDrivatorなどを世に送り出してきました。つぎにどんなテクノロジーが来るかという情報を得るために、とても重要な機関です。まだ、Oculus RiftもProject Morpheusも詳しくは検証していませんが、ゲームにVRを使う用途はいろいろあると思います。60インチのプラズマテレビが置けないような狭いところで装着してゲームを遊べば、バーチャルでプラズマテレビと同等の経験ができるでしょう。没入感を大切にしたゲームであれば、非常によい経験を提供できるのではないでしょうか。タッチスクリーンでゲームを遊ぶ人もいれば、このようなゴーグルをかけての体験を楽しむ人もいる。実際にはこの中間に多くのものが入るわけで、実用という意味ではまだはっきりしませんが、興味深いです。
 GDCはこのようなテクノロジーの発表にふさわしい場所であり、ソニーがここで“Project Morpheus”を発表した決断は正しいと思います。デベロッパーのコミュニティーから多くのフィードバックをもらえるでしょう。

インディーゲームの取り組みや『タイタンフォール』のことなど、フィル・スペンサー氏がXbox Oneを大いに語る【GDC 2014】_03

(取材・文 編集部/F)