e-Sportsの普及と『AVA』のさらなる発展を目指して

 オンラインFPS『Alliance of Valiant Arms (以下、AVA)』を運営するゲームオンは、『AVA』トップクランとアスリート対談企画の第4弾を実施した。今回は“e-Sportsと格闘技の普及”をテーマに、格闘技界で奮闘する3人に話を聞く。

 『AVA』のような競技性の高いジャンルは“e-Sports”と呼ばれる。世界的にはプロスポーツのひとつとして市民権を得ているが、日本ではe-Sportsという言葉自体が根付いていない。

 一方の格闘技はというと、“UFC(アメリカの総合格闘技イベント)”が隆盛を誇ってはいるものの、日本では地上波放送が終了し、最盛期に興行の規模は比べて縮小。とはいえ、アマチュア層の競技人口は増加傾向にあり、総合格闘技団体“パンクラス”は3月30日にビッグマッチを行うなど、復活の兆しを見せている。

 両者ともに逆風が吹く中で普及を目指す仲間どうしではあるが、格闘技界の歴史から見たら『AVA』はまだまだ若輩者。先達の話のなかに、e-Sports普及の鍵が隠されているかもしれない(文中では敬称略)。

<<対談出席者>>

『AVA』トップクラン×格闘技界の牽引者スペシャル対談! e-Sports普及の鍵は団体戦の仲間意識にあり!?_01
『AVA』トップクラン×格闘技界の牽引者スペシャル対談! e-Sports普及の鍵は団体戦の仲間意識にあり!?_02
『AVA』トップクラン×格闘技界の牽引者スペシャル対談! e-Sports普及の鍵は団体戦の仲間意識にあり!?_03
増田俊也氏
小説家
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』で大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞を受賞。
もともとは自身も“七帝柔道”の競技者。2013年にされた自伝的青春小説『七帝柔道記』(コミック版がビックコミックオリジナルで連載開始予定)が大きな反響を呼び、現在は『続・七帝柔道記』が月刊秘伝にて好評連載中。
中井祐樹氏との出会いから中井祐樹氏のヒクソン戦までを描いた『VTJ前夜の中井祐樹』も劇画化予定。
中井祐樹氏
格闘技道場パラエストラ代表
日本ブラジリアン柔術連盟会長
“七帝柔道”、“総合格闘技”で活躍し、総合格闘技引退後はパラエストラネットワークを主催。アマチュアからプロまで広く格闘家の育成を行う日本柔術界の父。
中島太一選手
パラエストラ東京所属
『AVA』がスポンサードする2014年3月30日のパンクラス横浜大会で行われるワールドスラムの決勝戦に出場予定。注目の若手格闘家。
『AVA』トップクラン×格闘技界の牽引者スペシャル対談! e-Sports普及の鍵は団体戦の仲間意識にあり!?_04
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MaxJam氏
『AVA』における日本No.1クラン“DeToNator”チームマネージャー
現役時代は自身も日本一の座に輝いている。現在はチームのマネージメント、後進の育成、スポンサー企業との折衝、イベントの主催なども手掛ける。
Darkよっぴー選手
“DeToNator”リーダー
2014年4月26日、27日に開催される国際親善試合に日本代表として参戦。昨年、日本で開催された世界大会では第2位。
井上洋一郎氏
日本における『AVA』の運営責任者
『AVA』のe-Sports化にむけて取り組んでいる。全国各地で『AVA』の大会を開催しているほか、海外との交流も活発に行い、昨年は日本で世界大会を主催。のべ20万人が大会を視聴した。

“七帝柔道”と『AVA』の共通項

『AVA』トップクラン×格闘技界の牽引者スペシャル対談! e-Sports普及の鍵は団体戦の仲間意識にあり!?_09

井上 この対談シリーズは今回で4回目ですけど、これまでとは緊張のタイプが違いますね(笑)。

MaxJam 読んだばかりの本の作者さんが目の前にいらっしゃいますからね。

井上 増田さんの本を読ませていただいたり、中井さんのこれまでの経歴を拝見すると、すごい努力を積み重ねてここまで来たという印象を受けました。“七帝柔道(※1)”は“柔道”という競技性の高いものから派生した寝技中心の競技(武道)で、総合格闘技にも大きな影響を与えていますよね。

(※1 七帝柔道:旧帝大の柔道部で行われている寝技中心の柔道。試合は15人戦という大人数による勝ち抜き戦)

井上 『AVA』はいわゆる“コンピューターゲーム”です。日本では“ホビーとして楽しむもの”というイメージが強いと思いますが、我々は“競技(スポーツ)”としての側面もあることを広めるための活動を続けています。格闘技や武道で言うと、増田さんが“七帝柔道”を小説の題材にしたことで認知は広がったと思いますし、中井さんはブラジリアン柔術の普及に努めていらっしゃいますよね。我々としては、おふたりを同じタイプの活動を続ける先輩のように感じています。そこで、これまでの活動で感じたことやよかったこと、挫折について勉強したいと思い、この対談をセッティングさせていただきました。

中井 もともとゲームにもスポーツにも“楽しむもの”という意味がありますよね。チェスやビリヤード、ダーツもスポーツだと言われますし。映像なんかを見させてもらって、『AVA』というゲームもそれと変わらないんだろうなと思いました。僕は“ファイト”も“スポーツ”のひとつだと思っています。これは僕の頑ななこだわりなんですけど、格闘技の解説をするときに“ゲーム”という言葉をよく使うんですよ。“ゲーム展開”とか。

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MaxJam なるほど。わかりやすいですね。

中井 そしたら、以前、ある格闘技中継の解説をしているときにNGを出されてしまいました。「“ファイト”に見えなくなるから“ゲーム”と言わないでほしい」と。でも、僕のなかではいまも変わらず、“ファイト”は“ゲーム展開を作るもの”なんです。「厳しい局面をこうしのいだらポイントを取れる」みたいに、ゲーム的な側面もあるということも含めて“スポーツ”だと思っています。だから、コンピューターゲームを“e-Sports”ととらえている人のコンセプトはすごくよくわかりますね。僕はインベーダーゲームで挫折したくらいで、ゲームはまったくできないですけど(笑)。

井上 『AVA』のようなジャンルは、コンピューターゲームとはいえ、人間と人間との勝負の場だと思うんです。そういう意味では、実際に体を動かすスポーツと変わりません。10年くらい前は格闘技がすごく流行っていた時代でしたよね。いろんなルールが生まれて、各団体がそれぞれに切磋琢磨していて。テレビメディアが離れてしまってからは、少しネガティブな印象になったというか、情報が一般層に届かなくなったように感じます。

MaxJam テレビのように大きなメディアとのつながりが薄いと、なかなか外の人には伝わらないんですよね。

井上 もちろん内部の人間の努力がいちばん大切ですけどね。ネガティブな印象を持たれたままだと、「ただの遊びなのに、何を本気になってるの?」みたいなことも言われてしまいます。人が真剣になることには、理由が必ずあります。それを伝えるためには、切磋琢磨している人たちを見せる場を作らないといけない。そういう意図があって、我々は大会を重要視しています。そこから企業さんとのつながりもできれば、大会やプレイヤーに協賛してくれる人も出てくるかもしれない。そういう場をどんどん作っていきたいな、と。

中井 格闘技やスポーツと同じような状況ですね。

井上 仮に『AVA』がこの先10年ほど続いたとして、トップを走ってきたプレイヤーが日の目を浴びるような時代を目指して奮闘しているところです。

中井 そのトップ選手というのが、そちらのおふたりですよね。

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MaxJam 私はいまチームのマネージャーという立場で『AVA』と関わらせていただいています。増田さんの『七帝柔道記』には、心に響く言葉がたくさんありました。以前と現在の自分の状況と似ていて、共感できる部分が多かったんです。こうやって目標に向かってがんばれるのは、人と人のつながりがあってこそ。それが根本にないと無理なんですよね。
 子どもたち(チームのメンバー)には少しずつ学んでもらっています。私は大学生の頃にダンスをやっていて、師匠からすごく面倒を見ていただいたいんです。もちろん、ものすごくしごかれました。そういう師弟関係を受け継いで、今度はゲームで何ができるんだろうと、自分なりに模索中です。でも、いまの子たちにそういう気持ちを伝えるのはなかなか難しくて。
 根性論だけでは無理なので、時代に合った教えかたも必要だと悩んでいたときに、ちょうど『七帝柔道記』を読ませていただきました。作中に「この先、柔道で食っていくわけではないのに、なんでこんな一生懸命になってるんだろう」というようなセリフがあって、ハッとしました。私もいまダンスで食っているわけじゃない。今後、ゲームで食っていける保障もない。それでもいまの活動を続ける、続けたいという気持ちを伝えていきたいんです。増田さんの当時の状況も含めて、いまの自分たちと比べるのはおこがましいとは思いますが。

井上 ものすごく読み込んでますね(笑)。

MaxJam 大好きですから。『七帝柔道記』はどういう気持ちで執筆されたんですか? 増田さんの人柄の源を聞いてみたくて。

増田 あれは柔道の本として書いたわけじゃないんですよ。う~ん……、たとえば、映画の『第9地区』はご存知ですか?

MaxJam はい。知っています。

増田 あの作品の何がおもしろいかというと、パワードスーツを着ることによって、自分が非常に強い肉体を持ってエイリアンと戦うじゃないですか。それと同じで、肉体は借り物。僕は当時の4年間でたまたま柔道部を選んだことで筋肉というパワードスーツを身に着けて体を動かしていました。別に吹奏楽部に入ってサックスの技術を身に着けるという流れでもよかったんです。(『AVA』の)動画を拝見しましたけど、これはゲームでも同じこと。

井上 “何かを身に着ける”というファクターが重要だということですか?

『AVA』トップクラン×格闘技界の牽引者スペシャル対談! e-Sports普及の鍵は団体戦の仲間意識にあり!?_12

増田 そうですね。昔、『プロジェクトX』というテレビ番組がありましたよね。人気番組でしたけど、バラバラだった人たちの意識が意思を少しずつひとつになっていく姿に共感したんだと思います。僕も毎回泣きました。極端に言えば、人間はそのために生まれてきたんじゃないかな、くらいに感じます。
 打ち込むものは何だっていいと思うんです。それがたまたま、あの時代に“柔道”を選んだだけで。やっている本人からすると、マイナーとかメジャーとか関係なかったし。
 ひとつのことを続けていくなかで、技術と横のつながりがあって、みんながそれぞれの信条を見つけていく。ゲームも、七帝柔道も、非常に似ていると思うんですよ。
 格闘技を始めるとき、最初はふつうの肉体しか持っていません。スパーリングやウェイトトレーニングをくり返すうちに少しずつ筋肉がついて、イメージと実際の動きの乖離が少なくなっていく。これはたぶんゲームも同じですよね。自分の意思どおりに動けるようになってきたら、そちらの中島選手のようにトップファイターと戦うことで、さらの上のレベルでせめぎ合いをしていく、と。

MaxJam 僕の印象に強く残っているのが、人とのコミュニケーションのシーンです。入院して病院の屋上で竜澤さんと話すとき、ほかの部に対して攻撃的だったのが、相手のことも尊重しようとか、お互いの真意に気づいて発言が変わったというのがとても印象的で。僕がいちばん盛り上がったのはそこだったんです。人間関係、コミュニティー、人とのつながり。僕は「この物語はここがクライマックスだったんだ」と勝手に解釈をしました。
 いまはチームのメンバーたちも一生懸命がむしゃらにやっていますけど、僕の発言の真意に気づくのはまだ先だと思うんです。ただ、いつかフッと気づくときが来るのを心待ちにしています。

増田 あれだけ気分が高揚して盛り上がるのは、団体戦だからだと思いますね。

中井 やっぱり団体戦は気分が違いますよね。先日、あるスクールから「広いレベルの選手たちに経験を積ませたい」と提案されて、5対5の点取り戦(※2)で柔術の団体戦を行ってきました。いやー、忘れかけていたものをまた思い出しましたね。気持ちのなかで燃えるものもあって、選手たちの成長も感じられたりして。これからはいろいろなスクールと定期的にやっていこうと思っているところなんです。

(※2 点取り戦:柔道や柔術の団体戦の一形式。5試合での勝利数を競う)

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周囲の支えと人間関係に気づけるかどうか

井上 団体戦である以上、試合の勝敗を糧に仲間意識を強めていくのも大切ですよね。それは我々がプロデュースしてどうこうできる部分ではありませんから、プレイヤー側に取り組んでもらうきっかけとして、試合は絶対必要だと思っています。なかでも、オフライン大会を企画することで、“人に直接見られる”という意識も持ってもらいたいですね。
 やろうと思えば試合はオンラインで完結できるんですけど、モニターの向こう側でやっているプレイヤーの顔が見えないと、どうしてもマナーが悪くなりがちです。昨年、大会の決勝ラウンドへの出場権をかけて8~12チームをオフラインの会場に集めて、みんなの顔が見える場所で試合をやったところ、だいぶ意識が変わるプレイヤーたちも出てきました。
 ふだんはPCの前でヘッドセットをつけて遠隔地の人と対戦するので、傍から見ると真剣さが伝わらないことが多いんです。だからこそ、がんばっている人たちの支えとなる背景が必要だなと。最近はご家族の理解を得て、お母さんが会場まで応援に駆けつけてくれたりとか、そういうシーンが徐々に芽生えている状況ですね。

中井 ここ最近で状況が大きく動いてきているんですか?

井上 『AVA』自体は運営開始から6年目で、こういった動きが出てきたのは3年前くらいからですね。

MaxJam どのスポーツでも、魅力的な人がいるから誰もが興味を持つと思うんですよ。ゲームも同じで、何も知らない人にゲームの映像を見せても興味を持ってもらうのは難しくて。やっぱり大事なのは“人”なんです。どんなに素晴らしいことをやっていても、それを伝えられる人間が出てこないと。
 要はスター選手が必要なんですけど、そのスター選手自身も“自分が注目されること”をきちんと理解していないといけません。その選手の行動ひとつで、世間にいいイメージも悪いイメージも与えてしまうわけですから。
 このDarkよっぴーは最初にチームに入ったときと比べると成長していますけど、「チームをこいつに任せていいか」と考えると、まだまだだなと感じますね。

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中井 格闘技もゲームも、ファンは“選手がどういう人間に成長していくか”を見てくださっていると思うんですよ。失敗もするだろうし、挫折もするだろうし。それでも、栄光に向かうために、どれだけの努力をしてきたのか。この中島のように、若手の選手が成長する様を見せるというのが重要なんじゃないかと。そういうことですよね?

MaxJam おっしゃるとおりです。そこに「周りの支えがある」と心から言えるようになったら一人前だと思います。自分ひとりでやっていると思いがちな子も多いですから。人と人とがガチンコでぶつかって、きちんと理解し合える、人と向き合える、口に出してありがとうと言える。そういう精神性も重要なんじゃないかと。
 『七帝柔道記』にも心情的にぶつかり合うシーンがたくさんありましたが、「この関係は大丈夫なのか」と、ドキドキしながら読みました。

井上 アツい人間関係に時代は関係ないですね。

MaxJam ただ、根底に相手への理解があるかどうかが大事だと思います。ちょっといやだと感じたらすぐに離れる人も多いですし。一歩先に進もうとしないというか。「まず一歩踏み込もう」と口で伝えるのはなかなか難しくて、上から目線で押し付ければいいというわけでもありません。ひとりじゃないことを本質的に理解できれば、チームとしてまとまっていくと思うんですよね。

多くの人と対等に戦えて、対等な関係の仲間にもなれる

増田 何となく日本ではコンピューターゲームにネガティブなイメージがあるかもしれないけど、“ゲーム”という言葉にはものすごく広い意味があるじゃないですか。『七帝柔道記』は団体戦がテーマですけど、僕たちは高校時代に勉強という個人戦の“ゲーム”ばっかりやっていたんですよ。マークシートを埋めるゲームですよね。先ほどは“世間からの見られかた、受け取られかた”という話でしたけど、僕は全然ネガティブには感じません。映像を見たとき「5人戦、すげえおもしろそうだな」と思いましたし。

一同 笑

井上 そう言っていただけるのは本当にうれしいです。

増田 僕もやってみたいですよ。いまはこういう年齢になって自分の体では戦えなくなったから、戦いたいんです。ゲームのなかで銃を持って、仲間がやられそうだったら助けに行ったりするわけですよね? そういう連携がすごくおもしろそうで。極論を言うと、格闘技や現実のスポーツだと、肉体的に差があると本気で戦えないじゃないですか。僕なんかは膝が悪いですしね。でも、ゲームなら対等の条件で戦える。これは素晴らしいことだと思いますよ。

MaxJam そう言えば、性別や体格もバラバラの混成チームのスポーツって少ないような気がしますね。

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増田 仲間意識を持てるのはいいことですよね。先日、イラクで捕まったアメリカの女性兵を特殊部隊が助けるっていう映画を見たんですよ。もともとチームで仲間を助けるというシチュエーションや演出が好きで、涙が出るほど感動しちゃって。『AVA』のゲーム画面を見たときにその映画を思い出しました。

井上 仲間で力を合わせて映画のような状況を追体験できるというのは、コンピューターゲームならではかもしれませんね。

増田 自分たち全員が主役になって、いっしょに戦えるわけですもんね。僕は映画を見るときや小説を書くとき、自分の理想を人物に投影するんです。みんなが自分の憧れをキャラクターに投影して、性別も年齢も親も子も関係なく、チームを組んで勝利を目指す。若いときにオンラインゲームがあったらよかったと思いますよ。

MaxJam 老若男女問わず、いろんな方に知ってもらいたいので、その言葉は本当にうれしいです。

井上 DeToNatorのチームメンバーのなかにはお父さんと一緒に始めたプレイヤーもいるんです。

MaxJam ご両親から「息子がお世話になっています」なんて挨拶されることもありますね。スポンサー企業様から機材を提供してもらうとき、メンバーの実家に送るとご両親がびっくりしてしまうので、きちんとお手紙を添えて。イベントに応援に来てくれたお母さんに「お子さんはこれこれこういう活動をしていて、私たちもいつも助けられています」と報告したら、すごく喜んでもらえましたね。そういうドラマもあったりします。

中井 団体戦だからこそ、おもしろさや仲間との関係性、本当の生き死を体感できるように思います。「団体戦こそが武道、武術だ」と言う人もいるくらいですから。僕が総合格闘技の世界に入ったときに、ちょっと寂しさを感じたんですよ。団体競技じゃないから、個別にトレーニングをして帰るような人もいましたし。これがジムと道場の違いなのかなと。
 ただ、よくよく突き詰めると、個人的な感覚だけでは世界に太刀打ちできないんです。中島は魔裟斗選手のトレーナーだった土居先生という方についてフィジカルトレーニングをやってますしね。そういう意味ではチーム戦なんだと思うようになりました。
 地元の仲間からの支援もありますし、中島も高校時代の友だちがキックのチャンピオンになったりとか、周りにも刺激し合える状況ができあがっています。そういう環境にも感謝してやっていけるかどうかが鍵なんでしょうね。中島はまだ国内トップまで行ってないですけど、十分目指せる位置にいるとは思うので。

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リング(ステージ)上での緊張

中井 若手のふたりが大人しいですね。

一同 笑

Darkよっぴー 感心というか、圧倒されながら聞いてました。柔道の団体戦は1対1のぶつかり合いだと思うんですけど、『AVA』は5人でひとつの試合を行うんですね。なので、ひとりのミスが試合の結果に響くこともあります。ひとりが強くなっても意味がなくて、チームとして成長しないといけない。みんなのモチベーションも大切ですし、目指すものが統一されていないとバラバラになってしまいます。

中島 柔道の団体戦は5人同時に戦うわけじゃないですけど、メンタル的な部分はいっしょだと思います。個人戦と団体戦では戦いかたが違うので。ここは引き分けてもいいとか、そういう駆け引きもあるし。1対1ですけど、戦略が違うんです。

Darkよっぴー 七帝柔道では“抜き役と分け役(※3)”という役割がありました。戦略的に引き分けを狙うというのは、個人の成績よりも総合的に勝つことが目標ということですよね。

(※3 抜き役と分け役:相手を倒しに行く選手を“抜き役”、引き分けを狙いに行く選手を“分け役”と呼ぶ。それぞれが専門のトレーニングを積んでおり、“抜き役”のほうが格上ということはない。相手の抜き役に分け役をぶつけられると有利に進められるので、出場順の読みが重要となる)

井上 『AVA』は若いプレイヤーも多いので、メンタルが影響しやすいんです。1対1の撃ち合いで負けるシーンが2回、3回と続くと、撃ち合いを避けるようになります。そうすると、なかなか前に出られなくなって、ほかのメンバーの動きにも影響するんです。そういうときはリーダーが声を出してフォローするのが大事ですね。「ごめん」と言われた瞬間に「謝るな!」と檄を飛ばしたり。

中井 おぉ……、熱いですね。

井上 コミュニケーションを図ってお互いを鼓舞するチームもありますね。オフラインの大会だからこそ見える人間くさいシーンも見てもらいたいです。いつもオンライン上でやっていることが、大会に出場することでほかの人にも伝播していく。リアルでやっている人を見てもらわないとピンと来ないと思います。

MaxJam 声を出すと大会の臨場感はだいぶ変わります。僕も現役でやっていた頃は、メンバーの緊張をほぐしたり鼓舞するために、いろいろ叫んでいました。もちろん観客には聞こえないように、ですよ。
 せっかく大会に出場しているのに、シュンとしちゃう内気な子も多いんです。こういうメンタル面もしっかり変えていきたいと思っていて、最近は試合前の掛け声は徐々に大きくなっています。これで自信が付いてきたみたいで、これまでテンパッてばかりで余裕がなかった子が、メンバーを心配して自分から声をかけたりしているんですよ。それを見て涙が出ました。勝ち負けも大切ですけど、若い子の成長を見守るのが楽しみになっています。調子に乗ったらガツンとやりますけど。

一同 笑

中島 本当にお父さんみたいですね。Darkよっぴーさんは試合前に緊張するタイプですか?

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Darkよっぴー 昔はガチガチになってましたけど、最近は緊張しなくなりました。何度も大舞台をこなすうちに慣れてきました。

中井 中島はいつも緊張してるよね。試合前になると「緊張してきたー!」って大声を出してるし(笑)。

Darkよっぴー こっちは5対5ですからね。1対1の試合だと緊張すると思います。

中島 やっぱりいっしょに戦う仲間がいると心強いですよね。

MaxJam うちにも上がり症のメンバーがいますけど、最初に比べると緊張はしなくなっているように見えますね。選手によってテンションの高めかたはいろいろあるじゃないですか。ガチガチになるわけではなく、ほどよく気分が張り詰めるぶんにはいいと思います。

増田 こっちの場合は「打撃をくらったらどうなるんだろう」とか、そういうことを考える人はいるでしょうね。(中島選手は)そういうことはある?

中島 いやぁ……やられることはまったく考えないですね。

MaxJam おおー! かっこいい!

中島 めちゃくちゃ緊張はしますけど、リングに上がると不安はなくなるんです。上がるまでは独り言がめっちゃ増えます(笑)。

井上 周りから声をかけられても耳に入らない感じですか?

中島 そういうタイプとは少し違くて、逆に声をかけてほしいですね。目立ちたがりなんですよ。人に注目されるの大好きなので、観客が多ければ多いほど力が出ます。

MaxJam そういう気質やファンサービス精神は重要ですよね。こればかりは向き不向きがありますけど。

中島 アマチュアのころは客席がガラガラの会場で戦うんですよ。全然やる気が出ませんでした。

中井 あっ、出なかった?

中島 出ませんでしたねー。「客いねーじゃん」みたいな(笑)。

Darkよっぴー 僕はそんなに目立ちたがりなタイプじゃなくて、この対談企画みたいに人前に出るのも最初は苦手だったんですよ。人前でプレイしても調子が出ないし。でも、自分たちの試合を見に来てくれる人がたくさんいて、徐々に「僕たち自身が魅力的になって、いい試合を見せなきゃ」と思うようになりました。最近は、僕たちを目指してもらえるように、「パフォーマンスでも魅せたい」という気持ちも徐々に芽生えてきました。

中島 見られるのはまだ快感ではないですか?(笑)

Darkよっぴー まだそこには達してないですねー。いずれなれたらいいと思うんですけど。

中島 もうちょっとですよ。自分は昔から目立ちたがりで、もう快感すぎて「もっと見てくれ!」って思いますもん。

中井 Darkよっぴーさんは日本一のチームに所属してるんだよ。スポーツ選手としてのランクは彼のほうが上なんだからさぁ……。

中島 すみません! 調子に乗りました(笑)。

競技一本だけでは食べていけない現状を打破するために

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井上 たしかに、ゲームのプレイヤーは全体的にシャイな傾向があります。「やるからはトップを目指したい」という人も増えているんですけど、マスクで顔を隠す人も多いんですよ。
 アピールする場(大会)を用意している側からすると、少し寂しいですね。せっかく一生懸命やっているんだから、堂々と胸を張れる環境を作りたいです。そのために、もっと認知を広げて、『AVA』の大会やプレイヤーを見た子どもから大人までが「いいものだね」と思ってもらえる雰囲気作りに取り組んでいます。

MaxJam たとえば、企業側がプレイヤーサポートしたくなる環境を作れば、高い意識や責任感が生まれるかもしれませんしね。

井上 パンクラスさんから“伝説のすた丼屋”さんを紹介していただきました(※4)が、そのきっかけが中島選手でした。こちらのDeToNatorの場合はスポンサー企業との交渉はマネージャーのMaxJamさんがやっていますが、どうして自分から企業相手に飛び込んでいこう(※5)と思ったんですか? 周りの先輩たちもそうやってきたからとか、そういう感じなのでしょうか?

(※4 『AVA』、パンクラス、伝説のすた丼屋の関係:“伝説のすた丼屋”を展開する株式会社アントワークスは総合格闘団体“パンクラス”の公式スポンサー。『AVA』側とパンクラス選手との対談企画が縁となり、“伝説のすた丼屋”とのコラボキャンペーンを実施したことがある)

(※5 中島選手と“伝説のすた丼屋”の関係:中島選手は、以前“伝説のすた丼屋”を展開するアントワークスへアプローチしたことがある。れがきっかけでパンクラスを紹介し、コラボレーションの橋渡しとなった)

中島 周りには俺みたいに自分でやっている人はいないですね。先輩方にもいないと思います。いまの日本では格闘技一本だとなかなか食べていけないんですよ。となると、スポンサーが必要ですよね。最初は企業さんのほうから声をかけてもらうのがかっこいいと思っていましたけど、待ってるだけでは絶対にお声なんてかかりませんから。

中島 誰かに教えてもらったわけではなくて、自分からスポンサーを取りに行こうと思い立ったんです。それで資料を作って片っ端から電話しまくって。

Darkよっぴー すごいバイタリティーですね。

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中島 もちろん、電話ですぐ断られることのほうが多いですよ。いまは格闘技の試合のテレビ放送が少ないから、あまりメリットがないんですよね。それでも少しでも興味を持ってくれたところには、すぐに資料を送りました。資料ではあまり上手にメリットを提示できなかったかもしれませんけど、“伝説のすた丼屋”さんは「こういうふうにアプローチしてくる若者はいない」と、気持ちを買ってくれたみたいです。それは本当にうれしいですね。

井上 意気込みが伝わる人がいてくれたんですね。

中井 そこからパンクラスさんとすた丼さんに接点ができて、その縁で『AVA』さんともこういう場を設けてもらっています。何がきっかけになるか、わからないものですよね。

MaxJam こういった活動を続けていて、疑問に思うことがあるんです。先ほどから何度か“コンピューターゲームのイメージをどうにかしたい、変えていきたい”という話題が出ていますけど、ゲームを作っている大人たちのなかに、そういう意識がある人は少ないような気がします。大人たちが行動を起こしていないのに、責任を投げ出しているような気がしちゃって。

井上 中島選手は特殊なパターンで、自分から行動を起こせる若者はそれほど多くないですからね。それがいいか悪いかは別として。

MaxJam 子どもたちにゲームをさせて「イメージアップしろ」なんて、都合がよすぎると思うんですよ。それは回りの大人たちが考えなければいけないことで。それこそ、選手たちがゲームでしっかり生きていけるモデルを作っていきたい。大人たちには「自分たちが大好きな市場を盛り上げるために、みんなでネガティブなものを排除する努力をしましょうよ」と伝えていきたいです。
 今後は、少しでも理解していただける人を見つけたら心の扉をノックして、ちょっとでも開いたら足を挟んでいきます(笑)。

“絆”というキーワードが日本を強くする

中井 話せば話すほど、格闘技の状況と似ているように感じますね。やはり問題視されることも多々あります。ただ単純に、格闘技や柔道が暴力的だからよくないとか、そういう話ではなくて。むしろ、柔道も格闘技も、エンターテイメントであり、自己実現の手段であり、教育でもあると思うんです。いろいろな人の技術やスピリットを勉強していく場ですからね。それを周囲の人に伝える責任を、若い現役の選手に押し付けるだけではいけない。

MaxJam 私たちは同じポジションなのかもしれませんね。年齢的にも近いですし。

中井 そうですね。

MaxJam 僕にも師匠がいて、中井さんにも増田さんのような方がいて、想いは脈々とつながっている。こういう伝統みたいなものはしっかり伝えていきたいなと思います。

中井 柔道が問題と言われることもありますけど、“柔道”は本当に素晴らしいんですよ、本当に。柔道に問題があるわけじゃないんです。そうだ、15人対15人のゲームを作ってくださいよ(笑)。

中井 15人対15人って、やっぱり異常(特殊)ですよね。(一戦に)どのくらいかかりましたっけ?

増田 1時間30分か2時間くらいかな。

MaxJam 体力的にも精神力的にも、すごいですよね。初めて15人対15人でやる柔道があると知ったときは、本当にびっくりしました。

中井 15人対15人という人数も絶妙なんですよ。映画1本くらいですからね。

増田 理論上はどこからでも逆転できるわけだから。14人抜かれても、大将が全部勝てばいいですからね。

中井 最後まで気が抜けないんですよね。

井上 勝つために役割分担(抜き役と分け役)をして、自分の職務を全うしたら、あとは仲間を信じるのみ。

増田 それが団体戦の妙ですよ。最近は東大が秋入学とか受験システムの改革を行っていますけど、たとえばセンター試験も5人のチーム戦にして、合計点で合否が決まったらおもしろいですよね。

一同 笑

『AVA』トップクラン×格闘技界の牽引者スペシャル対談! e-Sports普及の鍵は団体戦の仲間意識にあり!?_20

MaxJam メンバー集めに必死になりますよね。

増田 自分だけがよくてもだめだから、優秀な人はクラスメイトに勉強を教えたりしてね。連帯感は強くなるだろうし、高校生たちも盛り上がると思いますよ。

井上 交流が活発になるのはいいですよね。“団体”という言葉がひとつのキーなのかもしれません。総合格闘技でもコンピューターゲームでも1対1のシーンは多いですけど、団体戦のほうがコミュニティーが大きくなりやすいですし。

中井 “絆”って昨今のキーワードのひとつですよね。団体戦は日本人に向いているのかもしれません。個人戦が悪いというわけじゃないですけど、団体のほうが力が出る民族なのかもな、と。

MaxJam 海外と日本では観客の盛り上がりかたも全然違いますよね。たぶん恥ずかしいんでしょうけど、日本人は前に出るのが苦手というか。海外のゲームシーンは尋常じゃないくらい盛り上がっているんです。「観に来たからには楽しむぞ!」と、観客が自分から「ウワァァァー!」ってなりますからね。日本の観客は周りを気にしながら拍手をしたりとか、そういう人が多い気がします。

中井 “UFC”みたいですね。

MaxJam その盛り上がりかたを観客に求めても意味がないですよね。やっぱり心からすごい試合をしたり、盛り上がりやすい状況を作らないと。それをするためには、人間味を出してプレイヤーのファンになってもらうところからスタートしないといけないのかな、と。

中島 海外では選手のファンもいたりするんですか?

MaxJam すごいですよ! トッププレイヤーにもなると、空港に出迎えのファンが並んでいたりしますから。日本だとそれがないんです。

井上 世界のトッププレイヤーが来日したとしても、空港まではなかなか行かないですね。

MaxJam これが現状なんです。プレイヤーのファンになることが恥ずかしいというか、浸透していない。

井上 人目を気にする性質もあるかもしれません。

中島 格闘技でも同じような状況ですね。パンクラスの試合会場でも、自分を応援しに来てくれた人は騒ぎますけど、ふつうに来てる人は騒いだりしないですし。

MaxJam 僕はすぐ盛り上がってすぐ泣いちゃうんですけど、全員がそうではないですから。人の心を動かすには、やっぱり一生懸命やるしかないと思うんですよ。選手たちには自分の内面を相手にぶつけようとする気持ちをつねに持っていてほしくて。

中井 しっかりと自分を持った魅力的な人物こそが、トップに上り詰められるんだと思いますよ。

井上 今回は、選手の人間的な魅力や団体戦の絆など、いろいろな共通項のお話を聞くことができました。増田さんからは「誰でも仲間意識を強く持てるゲームだ」というお褒めの言葉をいただいて、本当にありがたいです。
 我々も“多くの人が関わる団体競技”だという意識を持って、選手だけでなくサポートスタッフも育成して、盛り上げていきたいと思います。
 この先、市場がどれくらい広がっていくか見えないところがあって、暗闇の中を進んでいるような状態です。ひとつの時代を築いて、さらに前に進んでいる格闘技の世界をお手本にしてやっていきたいと、改めて感じました。本日はありがとうございました。

『AVA』トップクラン×格闘技界の牽引者スペシャル対談! e-Sports普及の鍵は団体戦の仲間意識にあり!?_21
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今回の対談で登場いただいた中島太一選手が出場する“PANCRASE257”が、2014年3月30日(日)に横浜体育館で開催。詳しくは公式サイトへ。
“PANCRASE257”公式サイト

【これまでのアスリート対談企画】

トップアスリート対談企画(1)
『AVA』トッププレイヤー×ボクシング世界チャンピオン スペシャル対談! プロの在りかたとは?

トップアスリート対談企画(2)
『AVA』トップクラン×パンクラス王者 スペシャル対談! 3人の戦士から“戦う”ことの意義を学ぶ!

トップアスリート対談企画(3)
『AVA』トップクラン×国際派スイマー スペシャル対談! 見る者を引きつける魅力的なアスリートとは?