現在配信中なのは英語版だが、日本語化予定もアリ
Camouflajのステルスアクションゲーム『Republique』を紹介する。
本作はiOS版(iPhone/iPad/iPod touchでiOS7以上に対応)がApp Storeで配信中で、価格は500円。PCとMac版も開発予定となっている。
『Republique』は、“スマートフォン/タブレットでAAA(質や予算が最上級)のステルスゲームを作る”という意志をもって作られた作品だ。
コンソール(家庭用ゲーム機)並みのディープな世界観やグラフィックを持つ一方で、タッチコントロールでの簡単な操作でプレイが可能。しかも『XCOM:Enemy Unknown』(iOS版がいい出来だった)のような移植作ではなく、完全新規のオリジナルIPだ。
もちろん、買い切りのゲームアプリとしては異例の開発費がかかるわけだが、本作ではそこをクラウドファンディングでクリアー。波瀾万丈のその経緯については去年お伝えしているので、そちらの記事を読んでほしい。
先日、クラウドファンディング成功から1年半以上の開発を経て、ついにエピソード1にあたる“Exordium ”がリリースされたわけだが、早速遊んでみたところ、確かにコンソールのコアゲームの良さとタッチデバイスの手軽さが見事にミックスされた、新たな可能性を感じる仕上がりになっていた。
というわけで通常はリリース後のアプリについては姉妹媒体のファミ通Appにお任せしているが、本誌でガッツリ書いてみようと思った次第だ。
ちなみに、現状配信されているのは英語版(英語字幕の表示は可能)。Camouflajを率いるライアン・ペイトン氏にメールで問い合わせたところ、過去にインタビューなどで話していた日本語ローカライズ計画は2014年内に実施予定で、ゲーム本編だけでなく、サブテキストの電子書籍“The Republique Manifesto”の日本語化まで含めて検討中とのこと。日本で待ち望む声が盛り上がればローカライズ計画もスムーズに行くそうなので、気になった人は是非周囲に広めてみちゃってほしい。
主人公は非力な女の子。だからこそ可能になった“間接ステルス”
さて本作は、物陰に隠れて敵の視線を交わしながら進んでいくステルスゲームだ。『メタルギア ソリッド』でも『スプリンターセル』でも『ヒットマン』でも『デウスエクス』でもいいが(ちなみにライアン・ペイトン氏は元小島プロダクション所属)、まぁ普通はコントローラー(PCならマウス&キーボード)を使って、移動・カメラ・アクションの操作を絶え間なく行い、敵の動きを見計らって物陰から物陰へと進んでいくのが基本だ。
しかし、タッチデバイスはこういったこまめなリアルタイム操作との食い合せがよろしくない。そこで本作では、タッチコントロールに合わせた“ワンタッチステルス”と呼ぶ新たなスタイルを編み出し、ステルスゲームとタッチデバイスのギャップを埋めている。
主人公Hopeは非力な女の子で、“共和国”(Republique)の体制側に捕らわれた彼女をネットワーク越しに助け、脱出させるのがプレイヤーの目的だ。
実はこのコンセプトが、“ワンタッチステルス”のコアだ。まず、戦闘能力がないということで、戦うアクションは基本的に排除。そしてプレイヤーは監視カメラを通じてHopeを見ているだけなので、移動も進むべき場所をタッチして彼女に指示を出すだけ。
さらに、Hopeは低い遮蔽物の近くでは自動的にしゃがむし、敵に見つかりそうな時は隠れたまま動ける限りは自動的に移動するようになっていて、煩雑な操作が起こらないようになっている。
また、カメラは移動と切り離されているし、監視カメラが写す方向をスワイプで操作できるものの、カメラ自体の位置が移動しないので、こちらもシンプル。
基本的に、ハッキング画面で進みたい方向の監視カメラに切り替え→マップの構造や敵の周回ルートなどを把握→敵に見つからないように気をつけつつ、Hopeに指示を出して進ませる……という流れの“間接的ステルスゲーム”なのだ。
ちなみに、Hopeが発見されて捕まってしまった場合は、攻撃されて死亡……というわけではなく、エリアごとにある留置場に連れて行かれるだけ(だからレーティングも12歳以上でしかない)。失敗したら単に再度プランを練ってやり直せばいいという、ステルスに特化したシンプルな作りになっている。
まだ全体からすると序盤ということもあってか、ゲームプレイの内容も指定された場所に隠れて行くというものがほとんどだが、中盤以降、若干のパズル要素や、マップのギミックを利用すると格段に進みやすくなる場所(ハッキングでドアをロックして兵士を閉め出し、再解除される前にとっとと通り抜ける)もあったので、エピソード2以降はその辺りの充実にも期待したい。
監視社会の裏をかき、ディストピア世界の希望(Hope)を救え
ゲームシステムについては以上の通り、ステルスゲームの要素をタッチコントロールに最適化して組み直し、シンプルにそのエッセンス(敵の動きを読んで隠れて進む)を楽しめるようにしているのが特徴。
一方でその世界観は、いたる所に監視カメラが設置された全体主義国家に対し、その監視カメラを逆用して反逆するというコンセプトからもわかるように、ジョージ・オーウェルの小説「1984年」などのディストピアものに影響を受けた、ゴリゴリのハードコアなもの。
プレイヤーが終始覗き見で世界に接し続けるしかないというのもなかなかキているが、世界の陰鬱さを増幅するとともに、世界には没入できるがHopeとは絶妙な距離感がありハラハラさせられるという、ストーリーテリング面で面白い効果を生んでいる。
本作にはコレクション要素として実在の書籍が出てくるのだが、こういった細かい部分も世界観の一部としてしっかり扱われており、拾得後にインベントリで選択すると、その書籍がいかに体制側にとってよろしくないかというコメントを聞くことができる(書籍のひとつ「チャタレイ夫人の恋人」では、日本での発禁についても触れられている)。
ライティングなどを含めたグラフィック面の作りこみもスゴいし、世界観を補完するために電子書籍「Republique Manifesto」なるサブテキストまで用意されているほど、世界構築には力が入っている。スマートフォン/タブレットゲーム“なのに”ここまで凝っているというよりも、むしろ逆、こういった世界と物語を持つゲームを、コンソールやPCゲームに馴染みがない人にも体験してもらうためにゲームシステム側の工夫をしているのが本作なのだ。
「スマートフォンとかタブレットのゲームなんて、どうせカジュアルゲーかソーシャルゲームばっかだろ?」と思っているような人にこそ、ぜひチェックしてみてほしいところだ(スマートフォンタイトルにもハードな世界や描写を持つタイトルがあるのは重々承知の諸兄も多いと思うが)。
物足りない部分もなくはないが、それでも大いなる一歩
もちろん、先ほどエピソード2以降でのギミックに富んだシーンを待望したように、物足りない部分や不満点もいくつかはある。
特に、何度捕まろうとも近所の留置場に連れて行かれるだけで済むというのは、リトライのハードルを下げるなど、そういう設計になっている理由のいくつかを察しつつも、世界構築が凝っているだけに、そこだけご都合主義に感じられてしまう。
兵士の感覚がやたらと鈍いのもそうだ。まぁ、間接的ステルスである以上、これも仕方ない話なのだが……。
ちなみにエピソード1のボリュームは、普通に初見プレイして試行錯誤もしつつ2~3時間程度でクリアーできる(開発チームによるタイムアタックは20分を切っている)。エピソード5までが予定されており、まとめて購入できるシーズンパスの価格は現在1500円。
これを高いと感じる人もいるかもしれないが、David Hayter氏(『メタルギア ソリッド』シリーズのスネークなど)ほか、一流の声優陣を使ったフルボイスの3Dアクションなんだから、それなりにするのは当たり前の話。まぁまずはエピソード1を遊んでみてはいかがだろうか。(文:ミル☆吉村)