ラスト1週間でほぼ半額を集める驚異的な追い上げ

[海外ゲームニュース]元小島プロダクションのライアン・ペイトンと、1万人の出資者が起こした奇跡_01

 小島プロダクションや、『Halo 4』を開発している343 Industriesなどに在籍したライアン・ペイトン氏の新プロジェクト『Republique』が、クラウドファンディングサイトKickStarterで、目標となる50万ドルの出資をほぼ確実なものにした。残り6時間となる日本時間の2012年5月12日午前1時時点で約50万8000ドルの出資希望が集まっており、このままゴールを迎えれば出資が確定される。

 一般の人が出資を行うクラウドファンディングサイトのKickStarterで募集が開始されたのは4月10日。KickStarterでは当初設定した金額を合計で超えないとプロジェクトがキャンセルされ、出資は行われないのだが、ライアンと彼の会社Camouflaj、そして共同開発を行なっている会社Loganが設定したのは、iOS向けゲームにも関わらず、50万ドルという高いハードルだった。
 スマートフォンになかったAAA(最上級)のステルスゲームを作るという意欲で開発されている本作は、ライアンたち自身の出資により開発が続けられてきたが、そこからさらに製品版の完成にこぎつけるまでには、やはりそれだけの金額が必要だったのだという。

 初日の出だしは悪くなく、約3万6000ドルを集めたが、翌日には半分以下に転落し、12日にようやく5万ドルを超える程度。その後も芳しくない状態が続き、実際の出資にこぎつけるのは誰の目にも厳しいように思えた。
 事態が少し変わりだしたのは4月27日。従来のiOS版にくわえて、PC版とMAC版の開発を行うことを発表する。一日に集めた出資額が2万2000ドルに回復。その後また低空飛行を続けることになるが、このあとのムーブメントにPC版とMAC版の存在は欠かせなかっただろう。
 そして5月3日、“OPERATION KEEP HOPE ALIVE”を発表し、各ソーシャルネットワーク用のアイコンや壁紙を配布。翌日には声優陣としてデビッド・ヘイターとジェニファー・ヘイルの参加を発表して畳み掛ける。
 デビッド・ヘイターと言えば『メタルギア ソリッド』シリーズでソリッド・スネークやオールド・スネークやネイキッド・スネークを演じてきた英語版のスネーク役者。ジェニファー・ヘイルの経歴もスゴい。彼女はナオミ・ハンターでエマ・エメリッヒで『メトロイド』のサムス・アランで『マスエフェクト』の女シェパードで『キングダム ハーツ バース バイ スリープ』ではシンデレラで、『テイルズ オブ』シリーズにだって出ている、アメリカ吹き替え界の女王みたいなもの。このふたりの参戦は、スネーク風に言えば「待たせたな」ってなもんだ。そして、この2日で8万ドル以上の出資を集めることに成功する。

 だが、それでも50万ドルまでの道のりの約半分。残りは1週間しかないのに。そして、ここから壮絶な逆転劇が始まった。欧米メディアの有志が片っ端から記事を書きまくり(まぁ本誌記者も、編集長にばれないよう、あんまり関係ない記事に紛れ込ませたりしたけど)、それ以上にファンが、ソーシャルネットワークや各フォーラムに「このゲームは絶対スゲェことになるからお前らの力を貸してくれ!」と爆撃しまくる。

 中でも、この3日間の伸びは本当に驚異的だった。Kicktraqというサイトで本プロジェクトの出資額と出資者数の軌跡が見られるので、ぜひ見てみてほしい。
 でも、それでも本当にギリギリだった。なんせコメント欄はほんの10数時間前まで「俺はPC版で我慢するけど、アップル製品持ってないんだよね。やっぱAndroid版がないとだめなんじゃないか……」、「うむ、俺もそう思う。ヤツらはゲームエンジンにUnityを使ってるから移植はそれほど難しくないと思うが」と議論が始まったり(個人的には、移植作業よりも十分なテストをする人員が足りないと思う)、「出資額をいま倍にしたぞ! 今月はキツいけど何とかする!」と無理をする人が出てきたり、「今の勢いは毎時何ドルだから、このままだと行けるぞ!」と計算する人が出てきたり、本当に全員でアタフタしていたのだ。

 さて、これは正直言ってベストなやり方じゃない。KickStarterでお金を払う人はあくまでお客じゃなくて出資者ではあるが、ファンに生活を削ることを検討させたり、自分の時間を使って宣伝させないで済むのならそのほうがいい。
 だが同時に、「Keep Hope Alive」を合言葉に、1万人もの人の心を動かしたという事実は大きい。ある海外メディアの編集者はこう語っている。「俺はKickStarterでプロジェクトをバックアップしたことなんかほとんどねぇよ。俺はライアンを信じてるからサポートしてんだ」。後者については本誌記者も同意である。
 多くの人の心を動かせば、たまに奇跡が起き、不可能は可能になる。これだから記者業はやめられない。さぁライアン、今日はしこたまパーティーしたら、明日からみんながびっくりするようなゲームを作ってくれ!

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