またしても先陣を切って攻めるセガ! その真意は!?

 基本プレイ料金無料で、アイテム課金などで収益を得るフリー・トゥ・プレイ(F2P)スタイルは、いまやゲーム業界の主流のひとつとなりつつある。ライトなソーシャルゲームから本格的MMO(多人数同時参加型オンライン)RPGまで、多彩なジャンルで採用されているうえに、家庭用ゲーム機でも成功事例が増えてきているのが現状だ。
 そんな中、セガがニンテンドー3DS向けに、F2Pタイトル『頭文字D パーフェクトシフト ONLINE』(以下、『頭文字D』)をリリースすることが判明。いままで任天堂のゲーム機では、ステージなどを別売するタイプの無料ソフトはあったものの、アイテム課金型(消費アイテム)のF2Pタイトルが配信されるのは初だ(2013年12月19日現在)。

 前例のないスタイルに挑戦する意図、そして今後の見通しは? セガのゲーム開発部門を統括する、取締役CCO・名越稔洋氏に詳しく話を聞いた。

※この記事は、週刊ファミ通2013年12月26日号(12月12日発売)に掲載された記事と同内容のものです。

『頭文字D パーフェクトシフト ONLINE』ニンテンドー3DSでのF2P戦略をセガ・名越稔洋氏が語る!_01
セガ 取締役CCO
名越稔洋氏

どんな結果が出るかはわからないが、切り込んでいくのがセガのスタイル

――今回の発表には驚きました。まず、ニンテンドー3DS向けにF2Pタイトルを出すに至った意図や、経緯を教えてください。

名越稔洋氏(以下、名越) セガでは『サムライ&ドラゴンズ』なども成功していますし、やはりF2Pがいろいろな形で出てくる時代になっていますよね。家庭用ゲーム機でも、ダウンロードで当たり前にゲームを買えるようになっていますし、その延長上にF2Pがあるというのは自然なこと。当たり前の流れの中で生まれた戦略なのかな、と思います。

――ニンテンドー3DSのユーザー層は幅広いですが、比較的低年齢層に強い印象があります。その点で、勝算はいかがですか?

名越 F2Pで成功するためには、基本的には、その端末がたくさん普及していることが条件になります。日本でいちばん普及している端末は携帯電話、スマートフォンですが、そのつぎは、明らかにニンテンドー3DSですよね。マーケットの違いがあることはわかっていますが、逆に言えば、みんながわかっているからこそ、ここまでニンテンドー3DSでF2Pが出なかったということでもある。では試してみたらどうなるのか、ぜひ結果を見てみたいと。クリエイター、プロデューサーとして大きな興味を持っています。

――なるほど。まずはチャレンジしてみよう、ということですね。

名越 もちろん、意外な結果が出る可能性もあると思います。うまくいかないケースも含めて、いろいろな可能性があるでしょう。ニンテンドー3DSというと、小学生から高校生くらいまでのユーザーがたくさんいるイメージがありますが、それがすべてではない。それ以外の、もう少し高い年齢層のマーケットに対しても、ビジネスチャンスはあるのではないかと思っています。まだわかりませんが、そこに切り込んでいくスタイルは、ある種、セガらしい選択かもしれないですね。そう受け止めてもらうと、ゲームファンの方々には理解しやすいかもしれません。

――『ファンタシースターオンライン2』(以下、『PSO2』)も、“切り込んで”成功しましたね。

名越 確かに『PSO2』で、「F2Pのオンラインゲームで受け入れられる土壌は、こんなにあるんだ」と実感しました。今回は『PSO2』とは違う形ですが、根っこはそこですね。

ニンテンドー3DS向けF2Pの“ちょうどいい形”を探していく

――最初のタイトルとなる『頭文字D』には、どんな意図が込められているのでしょうか?

名越 いろいろプランはあったのですが、今回ドライブゲームに決めたのは、気軽に遊びやすく、くり返し遊べるゲームを、というところからです。『頭文字D』は純粋なドライブゲームではないのですが、ゲームらしさ、ユニークさがしっかりしていて、ムキになれるエッセンスもある。そこが、F2Pに向いていると思います。既存のIP(知的財産)を使わずにオリジナルで、とも考えましたが、ドライブゲーム自体、昔よりも数が減ってきているんですよね。遊び慣れていない世代の人には、「ドライブゲームならパス」となってしまうかもしれない。そこで、『頭文字D』という冠が力を発揮してくれると思います。

『頭文字D パーフェクトシフト ONLINE』ニンテンドー3DSでのF2P戦略をセガ・名越稔洋氏が語る!_03

――ゲーム本体は、無料でダウンロードして遊べるのでしょうか?

名越 そうですね。スペシャルな何かがほしいときに、ポイントを購入していただく形です。ゲーム内のポイントは、普通に遊んでいても貯まっていきますよ。

――時間が惜しい人は、課金すると時間を節約できる、という形ですね。

名越 はい。もちろん無課金でも、しっかり遊べるものになっています。F2Pと言うと、単純なミニゲームを想像する人もいるかもしれませんが、立体視を含めて画面も美しいですし、パッケージソフトと遜色がないレベルにできていると思います。そこはある意味で、ニンテンドー3DSならではと言える部分かもしれません。

――プレイ中も、ネット接続が必須になるのでしょうか?

名越 一部オフラインでも遊べますが、つないで遊ぶのが基本です。これはニンテンドー3DSの使われかたから導き出したスタイルというよりも、「こう遊んでほしい」という、我々からの提案に基づいたコンセプトです。

――前例がないだけに、あらゆる面でチャレンジになりますね。

名越 今回だけでやめるつもりはありませんし、出た結果に対して、改めてどうやっていくかを考えることになりますね。ただ、携帯電話やスマートフォン向けとは違う、“ニンテンドー3DS向けのF2P”のちょうどいい形が、どこかにあると思っています。そこに今回たどりつけるのか、これから挑戦を重ねていことでたどりつくかはわかりませんが、『頭文字D』が、いろいろな道を作る第一歩にはなると思います。

――ということは、今後もニンテンドー3DSでF2Pタイトルをリリースする計画があるのですか?

名越 現時点で言えるのは、まだいろいろ考えていますよ、というくらいです。僕らなりに、「これもニンテンドー3DSのF2Pに合っているんじゃないですか?」という提案は、ほかにもありますから。そこは、来たるべきときにお話しできたら……というくらいにしておいてください(笑)。

F2Pが好きな人もF2Pが嫌いな人もどちらも喜ばせたい

――やはりセガは、F2Pに対してかなり本気で攻めている印象を受けます。

『頭文字D パーフェクトシフト ONLINE』ニンテンドー3DSでのF2P戦略をセガ・名越稔洋氏が語る!_02

名越 ただ勘違いしてほしくないのは、これからセガがF2Pにゲームをシフトさせていくつもりなのかというと、それはノーだということです。昨今スマートフォンでは、F2Pを中心にゲームが広がっていく一方で、本格的なゲームも増えつつあって、両方遊べるようになってきています。もうゲーム専用機はいらない、という人さえいる。だからこそ、逆にゲーム専用機でも、F2Pのゲームも遊べることを証明していかないといけないだろうと。

――ゲーム専用機なら、スマートフォン以上の本格的なゲームが遊べるし、F2Pタイトルも当然遊べる、ということですね。

名越 はい。ゲームの楽しみかたが、パッケージタイトルとF2Pタイトルに二分化されてきているのは事実ですし、ゲームメーカーとしては、そのどちらも盛り上げていかないといけないと思うんですよ。「暇つぶしとして毎日遊ぶのが好き」という人も、業界を支えてくれている立派なゲームファンのひとりであって、「それはゲーマーじゃないよ」と決めつけるのは違うかな、と。逆に、F2Pは嫌いで、「じっくり遊んでコンテンツの隅々まで楽しみたい」という人も、もちろん大事なゲームファンです。その両方を喜ばせることを考えていくのが、ゲームメーカーの正しいありかただろうと思っています。

――その言葉で、安心したゲームファンも多いと思います。

名越 家庭用ゲーム機でF2Pをやるということは、家庭用ゲームのファンが喜んでくれるゲームも負けずに出していく、ということとイコールだと思ってもらえるとうれしいです。そのうえで、自分の趣味趣向や、生活スタイルに合わせて選んでもらえれば、それがベストなのではないかと思います。

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