ドリームキャストの魂を受け継いだ新サービス

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▲セガ 社長室 事業プロジェクト推進部 部長 竹崎忠氏。日本国内で発売されたメガドライブ全ソフトを個人所有していると公言するほどのセガファンで、1993年にセガに入社。名物広報として多数メディアに登場している。

 2013年12月17日、セガはPCオンラインゲーム『ファンタシースターオンライン2』や、ネットワーク対応アーケードゲームなど、自社が提供するさまざまなサービスを利用する際に使用する“SEGA ID”を活用した、新しいコミュニティサービスを開始した。その名も『it-tells』。

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 『it-tells』は、セガが提供するゲームをはじめとして、さまざまなエンターテインメントコンテンツのファンどうしが語りえる場所であり、エンターテインメントコンテンツを提供する側と享受する側が語りあえる場所にもなりえる、ネットワーク上の“広聴”と“共創”の空間を提供したいという想いから企画されたという。さらに、サービスのコンセプトはドリームキャストから継承されているとのことだが……。この『it-tells』について、サービスの起案者であるセガの竹崎忠氏にお話しをうかがった。

ハードが無くても、サービスは実現できる。

――まずは、『it-tells』を立ち上げた経緯についてお伺いします。

竹崎忠氏(以下、竹崎) インターネットやゲームを通じて、世の中には、セガのことを語ってくれるファンがいまでもたくさんいらっしゃることがわかっています。僕自身もセガファンですが、同じように「セガのファンだ」という人が集まれる、わかりやすい場所が昨今ありませんでした。もちろん、『ファンタシースターオンライン2』や、『戦国大戦』などのように、各ゲーム単位でコミュニティが存在している事例もありますが、今回の『it-tells』は、さらに自由度と信頼性が両立したセガ全体の公式コミュニティ空間を提供したいという想いから作りはじめました。
 
 この“想い”というのは、セガ最後の家庭用ゲーム機となったドリームキャストのコンセプトから継承されています。ドリームキャストは、1998年に発売し、まだ最高通信速度が33.6Kbpsだったナローバンドの時代に「世界中のすべての人が安価でネットワークにつながる環境を提供し、新しい時代を切り拓く」という、故・大川功さん(当時のセガのオーナー)のビジョンを反映したハードでした。ただ、セガらしいというか、まだ時代が早すぎたといいますか……。ドリームキャストは、ビジネスとしてのバランスがとれず、最終的にセガの“家庭用ゲームハード”ビジネスそのものからの撤退という結末を迎えてしまいました。

――業界のみならず、大きなニュースになりましたね。ドリームキャストは単にゲームハードというより、インフラ機としても優秀なハードでしたね。

竹崎 そうなんです。ちょっと時代が早すぎましたね(笑)。しかし、当時大川さんが思い描いていた「インターネットで世界をつないで dream(夢)をbroadcast(広く伝達)する」というドリームキャストのビジョンは、いま実際に僕たちが生きているこの世界そのもので、ここで改めてセガに出来ることは何かを考えました。ハードはなくなりましたが、ドリームキャストでやりたかったことができなくなったわけではない。いまだからこそできることもある。僕自身その想いを実現させたいという気持ちはずっと持っていまして、今回ようやく『it-tells』というセガ自身のWEBプラットフォームを立ち上げて、そのスタートラインに立てたと思っています。

――当時からのビジョンを継承したサービスなんですね。今度のプラットフォームはハードではなく、WEBコミュニケーションプラットフォームという形になりますが、大きな違いなどは感じますか?

竹崎 デバイスの垣根を越えたサービスが当たり前になっている、いまの時代に対応したプラットフォームの形だと思っています。そんな時代に、我々が新しいハードを作って、そのハードの中にプラットフォームを作るというやり方は、もはやナンセンスだと考えます。そもそも、ハード事業を止めたとしてもネットワークが活きていれば、ドリームキャストで目指したビジョンは実現できるという判断のもと、ハード事業の撤退を選択したわけですしね(笑)。スマートフォン、テレビ、PC、ゲームハードなど、どのデバイスからでもこのプラットフォームを利用できることが大切です。いまの時代なら、この形こそが、大川さんがやりたかった“ネットワーク”で人々をつなぎ、人々とコミュニケーションし、人々にサービス提供をおこなっていくのに最適な形なのかなと考えました。

――手軽にコミュニケーションが取れる時代にもなりましたね。続いて、『it-tells』という名前やイメージカラーについてお聞きしたいのですが、白地にオレンジなど、ドリームキャストにデザインは似ているように思えます。

竹崎 『it-tells』という名前には、“好きなことについて語り合おう”という意味が込められています。さらに、日本語で音読すると“言ってる”となります。そのままですね(笑)。

 『it-tells』のサービスの方向性が決まったのが、2012年の5月くらいです。当時はまだこのサービスを内輪では“ドリームキャスト2”と呼んでいたくらいで……。デザインについて“セガらしい”イメージをあまり前面に出さないという意味では、ドリームキャストを開発したときのコンセプトをなぞっています。ドリームキャスト自体、セガというやや偏ったイメージを前面に出さず、姿、形を一般向けに変えて、より多くの新しいお客様に触れていただきたいという思惑がありました。そうやって考えた名前が“ドリームキャスト”なのだから、今回のサービス名も“ドリームキャスト2”でいいのかな……とも考えたのですが、すでにドリームキャストのイメージは皆さんの中でにできているので、新しい名前にしました(笑)。イメージカラーの方は、まさにドリームキャストそのものを踏襲しています。

熱い想いを持ったひとが語り合える場所を提供したい

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――たしかに、いい意味でセガらしくない雰囲気があるかもしれません(笑)。コミュニティサイトという側面で、世の中にはたくさんSNSサービスがございますが、『it-tells』の特徴を教えていただけますか?

竹崎 現在、世の中に出回っているコミュニティサービスは、“人と人をつなげる”ことに重点が置かれています。ビジネス的なやり方としては、それが正しい方向性だと思っていますが、我々としては、人が主役ではなく、好きな対象物が主役であって、その対象物をテーマに人が集まる仕組みを作りたかったんです。

 これは、まだ2ch掲示板などが世の中に登場する以前、インターネット黎明期と言われた当時にあった“セガ掲示板”に近いものです。そもそも当時のWEB掲示板は、好きなテーマを語り合うために人が集まるものでした。この“好きなことを語り合うために人が集まる場所”を、現代風にリアレンジして提供したいという狙いが特徴とも言えますね。そのために、ほかのコミュニティサイトにはない仕掛けを用意しています。

――なるほど、とにかく“人を集めるために”というよりは、好きなことをひたすら語り合ってもらう場所を提供したと。

竹崎 ええ。人を集める方法に特化したやり方を否定するわけではありません。たとえば、「いま登録するとゲームのレアアイテムをあげますよ」とか、「友達を紹介してくれたら、コインをプレゼントしますよ」といった手段で、ある程度人を集めることは出来ると思います。しかし『it-tells』は、会員数だけ増やして、それをビジネスにしようと作った場所ではないですし、そういったサービスはすでに世の中にたくさん存在しています。好きなことを語り合うために集まったお客様にとって、居心地がいい空間をつくることが重要ですしね。そのためには、無作為に大量の人を集めることが、必ずしもいい手段とは言えません。

――その分、好きなことを語りたいという熱量のあるユーザーを集めることができる、と。

竹崎 そういうことです。好きなことなら何でもテーマにしていただいて構いません。「セガのファンであること」と同じように、任天堂さんのファンもいれば、マイクロソフトさんのファンもソニーさんのファンもいます。さらに、ソニーさんのファンと言っても、ソニーさんの家電が好きだという人もいらっしゃいます。当然、セガのことが好きな人が集まってくれれば嬉しいですが(笑)、ラーメンやカレーが好きな人も、『ファイナルファンタジー』シリーズのような他社のゲームが好きな人も、いろんなものが好きな人が集まってそれぞれの思いを語っていただければその方が楽しいんじゃないかと思っています。

――セガのテーマのみならず、自由なテーマで語り合える場所にすることで、どういった効果が生まれるのでしょうか?

竹崎 じつは昨年秋にSEGA IDをお持ちのお客様に向けてアンケートをとりまして、とくに見返りも用意していないのにもかかわらず、2万人以上の方に答えていただけたんです。アンケートで多く寄せられた意見で、「ゲームをする仲間を探したい」、「気の合う仲間を探したい」というお声をたくさんいただきました。ゲームを通じて『ファンタシースターオンライン2』をプレイしている仲間を探すことはできるかもしれませんが、プレイヤーの属性までは、しばらく遊んだりコミュニケーションを図ったり、ある程度時間をかけないと判別できないんですね。アンケートに答えていただいたお客様が求めている「気が合う仲間を探したい」というニーズに応えるには、たとえば、ドライブが好き、アイドルが好きというような、より詳細な属性で簡単に仲間を見つけることができる仕組みが必要だと思ったんです。

――『ファンタシースターオンライン2』が好きだという共通点がベースにあるからこそ、ベースとなる属性が補填され、さらに詳細な属性を持ったプレイヤー同士がマッチングできるわけですね。

竹崎 そうです。『ファンタシースターオンライン2』をプレイしながら、AKB48について語り合える仲間といっしょに遊びたい。さらに、AKB48のメンバーのなかで推しメンがいっしょだという仲間とプレイできたら、より楽しくプレイできますよね。『it-tells』は、そういった仲間を探すための手段に利用していただけます。そのために、自分のプロフィールを登録する際には、“趣味”の項目を大量に選択できるようにしています。

――なるほど、それで趣味の項目が充実していたんですね。ショッピングサイトなどでは、趣味を選択した分だけダイレクトメールが届くことがありますけど(笑)。宣伝目的ではなく、趣味が近い仲間を探すためのものなんですね。

竹崎 はい。……あ、それちゃんと言っておかないとですね(笑)。たくさん趣味を選択したほうが仲間を見つけやすいというだけで、商売目的のダイレクトメールがガンガン送られてくるということはないです!(笑)。仲間探しのお手伝いシステムだと思ってください。

『it-tells』独自のシステム“スコア”と“バッジ”

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――システムについてお伺いします。“スコア”システムがとくに肝になると思うんですが、具体的にはどういったものなのでしょうか?

竹崎 ネットの特性上、匿名性に重点を置いてしまえば「正体がバレなければ何を書いても許される」と勘違いされてしまい、かと言って匿名性をなくしてしまうと、好きなことを好きなだけ語るには気が引けてしまうと思います。『it-tells』は、匿名性を担保して、リアルな人格ではなくネット上の人格で好きなことを語り合える場にしたかったこともあり、練に練って考えたシステムが“スコア”なんです。

 スコアは、簡潔に言えば“その人の信頼度ポイント”です。この人は、自分の好きなものについてどれだけ語っているのか、どれだけいろんな人と豊かにコミュニケーションしているかなど、『it-tells』内にて、どれだけ信頼されている人なのかを、さまざまな要素から集計し、スコアで表しています。スコアの存在により、特定のコミュニティ内でなにかに対して厳しい意見を書き込んでいたとしても、その意見を書き込んだ人のスコアを見ることで、ある程度“どんな人”なのかを判断することができ、書き込みも“荒らし目的の意見”なのか、“意図のある意見”なのか解るようになります。

――広告目的の業者による書き込みかどうかを見分けることもできますね(笑)。

竹崎 ですね(笑)。たとえば、業者さんがよくやる方法で、可愛い女の子のプロフィール画像を使って、ターゲットとなる人に好まれそうなプロフィールを書いて無作為に友達申請を送っている場合がありますが、スコアを見れば一目瞭然です。せっかく好きなことを語り合える場が出来ても、商業目的の人が入り込んで来て、場を台無しにされてしまったら困りますからね。

――なるほど。匿名性を保ちながらも、書き込んだ人がどんな傾向にあるのか判断できるのは面白いですね。スコアをあげるモチベーションも生まれそうです(笑)。

竹崎 はい。ちなみに、サービスに入っていただいた時点では0点からスタートします。そして、初日にどれだけ頑張っていただいたとしても、翌日に80点とか100点にはなりません。長くサービスを使っていただいたうえで、「この人がどんな人なのか?」という評価をスコアで表していますので、サービス登録翌日に2点だとしても、落ち込まないでいただきたいです(笑)。

――スコアが信頼の証だとすると、“バッジ”は実績みたいなものと判断していいんでしょうか?

竹崎 はい。バッジは、コミュニティにおける活動の累積によるご褒美と受け取ってください。ベータ版では9種類のバッジを用意していまして、みんなから“そうだね!”をもらった数など、9つの評価項目の一定累積ごとにバッジが送られる仕組みになっています。さらに、バッジ自体にゲームっぽい仕掛けを盛り込みたいと思いまして、それぞれのバッジにレベルを設けてみました。現段階ではレベルが100くらいまで上がることを想定しています。これもスコアと同じように、その人の判断材料にできると思います。

――スコアとバッジで、その人が『it-tells』をどう利用しているのかが解るんですね。ちなみに、いまお話しに出てきました“そうだね!”は、現在多くのコミュニティサイトで見ることができる“いいね!”ボタンのようなものですか?

竹崎 これについては声を大にして言いたいのですが(笑)。“そうだね!”は、我々が2012年夏に決めた表現でして、決してFacebookの新サービス(※1)をヒントに作ったわけじゃありませんよ!(笑)。
※1:先日、Facebook社が「いいね!」に代わる新たなボタン「そうだね(Sympathize)」を開発中というニュースが流れる。実際に導入されるかどうかは不明。

――それはもっと言ったほうがいいと思います(笑)。

竹崎 誤解しないでくださいね(笑)。でも、方向性は同じです。悲しい出来事や不幸なことに、「いいね!」なんて言えない場合、代わりにどんなボタンを設置するべきかを随分と悩みました。それこそ、ホワイトボートいっぱいになるほどのいろんなワードを考えましたが、最終的に「共感を伝えるときに押せるボタンを作ろう」ということになりました。それが“そうだね!”だったんです。悩んだ挙句に生み出された「そうだね!」ですが、Facebookも「そうだね!」を選択したのなら、自分たちが考えていたことは方向性として正しかったんだろうというところに、いまは落ち着きました(笑)。

 ちなみに『it-tells』を社内でテストしていた際、「そうだね!って上から目線だよね」と指摘されたこともあるんですが、そういった意図はありません(笑)。「そうだね!」は決して上から目線ではなく、純粋な「共感」を表したものなので、皆さんもだれかの発言に共感を覚えたら、気軽に「そうだね!」を押していただきたいですね。

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まずはどんなコミュニティがあるのか探してみて欲しい

――コミュニティはユーザーが育んでいくものでもありますが、サービススタート時は運営側である程度用意しておく必要があると思われます。現時点で注目していただきたいコミュニティなどはありますか?

竹崎 あります。セガのコンテンツ系はもちろん、懐かしのアーケードゲームのコラムや某有名怪獣絵師さんのPhotoshop講座があったり、占いもあったり、某雑誌の読者投稿コーナーを運用していた方が運用する参加型コミュニティがあったりなど、バライティ豊かなコミュニティをご用意しています。まずは、自分が気になる言葉からコミュニティを検索していただいて、どんなコミュニティが存在しているかをチェックしていただければと思います。検索窓にキーワードを入れずに検索すれば、すべてのコミュニティが出てきて便利です(笑)。

――コミュニティはSEGA IDを持っていなくても読むことはできるんですか?

竹崎 可能です。閲覧するだけならSEGA IDで『it-tells』に登録する必要はありません。ただし、自分のページを作って人をフォローしたり、自分でコミュニティを作ったり、コミュニティに書き込んだりするためにはSEGA IDによる登録が必要です。ひととおり見ていただいて、「自分が語りたいコミュニティがないぞ!」という人は、ぜひご自身でコミュニティを立ち上げていただきたいです。熱い気持ちを持ってコミュニティを立ち上げれば、きっと同じような仲間が見つけられると思います。

――気軽に楽しむことができるんですね。それでは最後に、読者の皆さんにメッセージをいただけますか?

竹崎 僕は1993年にセガに入社したんですけど、そのきっかけは、大好きなメガドライブをより多くの人に知ってもらおうという熱い想いがあったからなんです。想い入れが強すぎて、メガドライブの販売価格や、オススメのゲームなどを自分でまとめて、自主出版本のような物を制作して周囲に配っていました(笑)。自分が好きなメガドライブを知ってもらうためにいろんな努力を重ねましたが、自分個人でできることには限界がありました。そして、最終的に行き着いた結論がセガに入って広報になることだったんです。皆さんには、当時の僕のように好きなものを周囲に向けて発信する手段として『it-tells』を使っていただければと思います。ぜひ、『it-tells』で好きなことに対して好きなだけ熱い想いを書き込んでください。僕らは舞台を作っただけです。どんな楽しい場所ができるのかどうかはそこに参加する皆さんにかかっています。

――ここから第二の竹崎さんが生まれるかもしれないですね。『it-tells』がどう発展していくのか、楽しみにしています! ありがとうございました。

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